第11話 スタークのコーヒー
テーブルの上には二つカップ、その中には勿論コーヒーだ。
周は一つを手に取って頂くことにした。
スカーレットは本当に香りを楽しむだけのつもりらしい。コーヒーには手を付けずに周の横に座って寛いでいる。
「美味しいですね、これ」
「それも老人の嗜みの一つです」
周が感想を述べると、スタークは滞りなく答えた。
「私が仕込んだのよ」
スカーレットも満足そうに頷く。
どうやら自信があったようだ。
「ああ、スカーレットちゃんは凄いですねえ、こんなに小さいのに」
周はその思いをくみ取り、そこにほろ苦いビターチョコような悪意を少し混ぜて大げさに撫でてやることにした。
「撫でるなら、敬意を込めて撫でなさい」
周の突然の行動に、スカーレットは頭を振りその手を跳ね除けることで応える。
「スタークさん。この猫、躾がなってないですよ」
「私が主人!ねえ、スターク?」
反射的にスカーレットは、振り返ってスタークを見た。
「勿論です」
ゆっくりと頷くスターク。
「ほらね」
そうして求めていた回答を得て、スカーレットはふふんと鼻を鳴らした。
しかし、
「知ってる。揶揄っただけだ」
という周の返事に、
「ふざけるんじゃないわよ」
とスカーレットは我慢ならずに、周の上に圧し掛かった。
「コーヒーが零れるだろうが。ちょっとしたユーモアだ」
周は後ろに倒れながらも、コーヒーの安全を確保。
それから一気に残り少ない中身を飲み干して、十分にコーヒーを楽しんだ後テーブルに置き、カップを退避させる。
「落としたら目つぶしの刑だったのに、残念ね」
「刑が重すぎる」
「お気に入りの食器との出会いはそのぐらい少ないのよ」
「ならなんでこんな事をした?」
「あんたがそれを言う?」
「俺にしか言えないだろ」
「私のも、ちょっとした冗談よ」
「ならお相子だ。そろそろ退いてくれ。はしたないぞ」
「気を付けなさいよ、あんた。スタークだから私にこんな暴言を吐いても許されるけど、他の子が居たら、酷い事になるかもしれないからね」
スカーレットが忠告しながら身体の上から退いたのを見計らって、周は起き上がり肘を膝に置いて手を組み、その上に顎を乗せて言う。
「わかった。そういうなら、じゃれ合うのはこの辺にしておこう」
「そうね、じゃあ、スターク」
定位置に戻り、スカーレットは命令を出す。
「では、何からお見せしますか?スカーレット様」
スタークは全てを言い終わる前に察知して反応した。
「新しく作った区画を。あの何も手を加えていないフロアね」
「承知しました」
そうしてコーヒーの香りだけ残して、説明会が始まる。




