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第31話:豆腐を作ろう

 翌日、ノーフと佐藤による話し合いの結果、政府の判断次第ではあるものの豆腐ダンジョン側としては1階層を試験的に貸し出す用意があるということで結論を見た。もちろん入ることが出来るのは厳正な審査が行われた者だけであり、情報漏洩対策の徹底を前提としてはいるが。


 そんなこともあり舞たちは自動的に2階層へと自分たちの畑を移していた。もちろん司や絵麻も同様である。にーさん達が一通り育ったことでポイントが入り2階層の地面の畑化と疑似太陽も設置することが出来ていた。ぎりぎり一番安いマメスターシリーズに手が届くポイントだったため舞がかなり苦悩したのだが結局は畑を選択していた。

 2階層では品種を変えダイズ36号、愛称サブローたちを育てることにし、とりあえず午前中で種植えを終えて今は昼食である。


「お父さん、大豆が出来たんだけどどう思う。私は豆腐に向いてるんじゃないかなって思うんだけど」

「見せてみろ」


 少し遅れて昼食へとやってきた父親の修に舞が作ったダイズ23号を見せる。ダンジョンの不思議現象により既に乾燥した大豆の状態だ。修が真剣な目で見つめるのを一同が注目して見ていた。その中にはもちろん絵麻もいる。


 当初、家族との関係性を隠そうとしていた舞たちだったが舞が司を呼び捨てにしたことで絵麻に疑問を持たれ、その言い訳として修に作られた豆腐だから家族だという謎理論を展開した結果、なぜか納得されてしまったためもう絵麻の前で隠すのをやめていた。逆に隠そうとすると不自然になってしまうからだ。

 この予想外すぎる展開にいろいろと考えて動いていたノーフが密かに肩を落としていたことは本人以外知らない。

 まあそれは置いておいて……


「おそらく問題ないだろう。一度作ってみるか?」

「うん」


 修の言葉に舞が嬉しそうに体をプルプルと揺らす。生まれ変わって初めての豆腐作りだ。しかも自らが育てたに-さん達を使ってのものである。舞が喜ばないはずがなかった。そんな舞を微笑ましそうに見つめながら修が付け加える。


「ただし最初は手作り豆腐だぞ」

「あっ、そっか。家の機械で作るとばっかり考えてた。失敗作が大量にできても困るしそうするね。ありがとうお父さん」

「出来たら食べさせてくれ」

「うん」


 父と娘の心温まる会話である。

 知らない人が見れば豆腐を作るという豆腐に向かって中年男性が真剣にアドバイスするという何とも不可思議な光景なのであるがここにいる誰もがそれを不思議とは思っていなかった。部外者であるはずの絵麻までもそうなのであるからもはや絵麻はいろんな意味で末期と言えるかもしれない。





 昼食後、おやつの時間まで畑で働いた舞は、豆腐作りに興味があるというホタルと絵麻と一緒に台所で豆腐作りは始めようとしていた。それぞれの手にはダイズ23号が300グラムずつ舞によって用意されている。


「では手作り豆腐を作りたいと思います」

「わーわー」

「よろしくお願いね、舞ちゃん」


 普通にお願いした絵麻へと棒読みの歓声をあげていたホタルが近寄り首を横へと振る。


「絵麻、違います。こういう時ははやし立てるのが作法です」

「えっ、そうなの? えっと、じゃあ……わー」

「そうです。わー」


 真顔でホタルに指摘された絵麻が戸惑いながらも歓声をあげ拍手をする。そしてホタルもそれに続いて再び棒読みの歓声をあげた。ホタルが完全に絵麻をからかっていることに舞は気づいていたが、気づかない方が幸せなこともあるよねとスルーする。そんなことより今は豆腐作りの方が重要だった。


「まず初めに大豆をきれいに洗います。ここはしっかりともう大丈夫かなと思っても洗ってね。ここで手を抜くと味に雑味が出るから。本当は虫食いや傷んだ大豆を取り除くんだけど今回は大丈夫だよ」

「「はい」」


 舞の真剣な様子を察した2人が少しばつの悪そうな顔をしながら舞の言う通りに大豆を洗っていく。2人の目にはきれいに見えていた大豆だったが、洗い始めると舞の言った通り水が濁っていくことに気づいた。その水が洗っても透明になるまでじゃぶじゃぶと大豆を洗っていく。


「舞、どうでしょうか?」


 透き通った水に沈んでいる大豆を舞が確認し、うんうんとうなずいた。


「2人とも大丈夫だよ。次は水に漬けて水分を浸透させるんだけど、ちょっと試しても良い?」

「何するつもりなの?」

「えっと、せっかく3人いるから水の種類を変えてみようかなって思って。家で豆腐作りに使っている地下水と水道水、あとはダンジョンのため池で採れた水で作ってみようかなって思うんだけど?」

「舞の好きにして良いですよ」

「私も」

「ありがとう」


 洗い終わった大豆たちを舞がそれぞれの水の入った容器へと舞が入れていく。見た目はどれも透明で一見すると何も変わっていないように見えた。容器に「ダ」「チ」「ス」とそれぞれの区別がつくようにメモが貼りつけられる。


「水で味が変わるものなのですか?」

「うん、豆腐の80%は水だからね。美味しい豆腐を作るためには美味しい水が必須なんだ。日本はほとんど軟水なんだけど、ヨーロッパとかは硬水だから豆腐を普通に作ると固くなって美味しくなくなっちゃうんだよ」

「あっ、それはちょっと聞いたことがあるかも」


 わいわいと話し合いながらホタルと絵麻が水に沈んだ大豆を見つめる。2人をよそに舞は話しながらもてきぱきと片付けに入っていた。そんな舞の様子に絵麻が気付く。


「あれっ、舞ちゃん片づけちゃうの?」

「うん。今は春だからこの状態で半日ぐらい放置するし」

「「半日も!」」

「うん」


 同時に驚いたリアクションをする2人に舞が笑いながら答える。


「今は春だから半日ぐらいだけど季節や品種によって全然違うんだけどね。ダイズ23号で豆腐を作ったことは無いからわからないけど多分そのくらいだと思うよ」

「豆腐って結構な手間が掛かってるんだね」

「壁から取ればすぐなのですが」

「壁豆腐とかはちょっと特殊だから。じゃあ畑の世話に戻ろう」


 舞に促されて2人も畑へと戻った。1階層は貸し出す予定ではあるがそれまで何もしないと言うのももったいないと言うことでダイズ89号、愛称ヤスが蒔かれていた。

 このヤスはノーフによって品種改良された大豆の中でも変わりもので、実は生るのだがとても小さく豆腐に使えるようなものでは無い。ではなぜそれを作るのかといえば土壌の改良のためである。


 大豆を畑で作るときは数年ごとに作ると言うことが鉄則だ。実際窒素などの肥料はあまり多いと逆に生育不良を起こしてしまうくらいなので気にしなくても大丈夫なのだが、連続で作ると連作障害を起こしてしまうのだ。

 その連作障害を防止するためにと開発されたのがダイズ89号なのである。別に他の野菜を育てれば問題は無かったのだが、暇だったので大豆自身で解決できる品種をとノーフが作ってしまったものだった。


 ヤスはその性質上、収穫と言うよりは土壌改良が主の目的であるため世話も最低限で良く、植えて適度に水やりさえすれば勝手に成長すると言う特性も持っていた。非常に便利な鉄砲玉……じゃなくて大豆である。


 そんな土壌改良中の1階層を通過し2階層へと3人が戻るとゴロゴロと大きな岩を2つ引き連れて司がランニングをしていた。


「あっ、お帰り」

「うん。司もお疲れさま。ゴロンとコロンもお疲れ」


 舞の言葉に反応するように2つの大岩が動きを止める。舞の言葉に司と絵麻が少し苦笑いしているが本人はいたって普通にしていた。


「一応俺たちの畑周りをぐるぐる回ってそこらへんはある程度固めといた」

「ありがとう。じゃあ次は私がゴロンとコロンと散歩してくるよ。とりあえず今日はサブローたちの世話も一段落したし。じゃあ行くよ、コロン、ゴロン」

「待ってください、舞。コロリンも一緒に行くそうです」

「じゃあホタルも行こっか」

「はい」


 大岩を連れて舞とホタルが結構な速度で移動していく。その後をごろごろと音を立てながらぴったりと3つの大岩がついて行っていた。踏みつぶされないか心配になる光景だ。


「えっとダンジョンの罠のただの岩だよね」

「言わないであげてください」


 残された絵麻の言葉に司が答える。そう言えば姉ちゃんは自分の持っているお気に入りの物に名前を付ける癖があったな、などと懐かしく思い出しながら。

重要な問題だと思わせておいてさらっと終わる詐欺

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海の日記念の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

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