第3話:使い魔選択
落ち込みそうな気持ちを豆腐メンタルと唱えて和らげていると次第に舞の気持ちも落ち着いてくる。ショックはショックだったが死んだはずなのに再び父親の姿を見ることが出来たのだ。幸運だったと思おうと考えを改めたのだ。
「うん、きっと良かったんだよ。ただ死んじゃうよりは」
魔法の言葉ありがとう、と思いつつ舞は画面へと向き直った。状況説明に関してはこれ以上聞くべきことが思いつかなかった舞は残された使い魔選択の表示を押す。
「うわぁ」
舞が思わず声を上げた。画面にずらずらと選択可能な使い魔の一覧が表示されたからだ。しかも画面に表示されている物だけでも20ほど種類があるのにスクロールさせるとさらにその5倍は選択できるようだった。その中には舞でも知っているような妖怪や精霊などの名前から聞いたことのないものまであり舞には何を選択したら良いのかわからなかった。
「ええっと種類が多すぎて選べないんですけど、天使さんのおすすめとかありますか?」
『ありません。ただし自分の眷属を増やす助けになりそうな使い魔を選択すると良いでしょう』
「はぁ、眷属を増やす助けですか……。豆腐の眷属って何なんでしょうね?」
『前例がないため不明です』
「ですよねぇ」
天使のつれない返事にも慣れてきた舞は眷属について考え始める。
(豆腐の主原料は大豆だよね。だから眷属は大豆? でもにがりも使うし。それに油揚げとか厚揚げとかの加工品も眷属と言えるかもしれない。でも増やすって考えるとやっぱり大豆なのかなぁ。とすると畑とかを作る手助けを出来そうな使い魔がいいよね)
そんなことを考えながら舞が画面を目で追っていく。そしてあるところでその動きが止まった。
・サラマンダー
・シルフ
・ウィンディーネ
・ノーフ
・フラウ
・ウィル・オー・ウィプス
・シェイド
(うーん、確かウィンディーネが水の精霊でノームが土の精霊だったよね。両方は選べないからどっちか。ウィンディーネなら水まきが楽になりそうだし、ノームなら畑を耕すのが楽になりそうだよね)
舞が必死に頭を働かせる。熱を持ちすぎて湯豆腐にならないか心配になるほどに。
(土はそこにあるんだしやっぱり水の方が大事? でも畑を耕すって大変だしなぁ。トラクターとかを入れるわけにもいかないだろうし。)
たっぷりと10分以上自問自答していた舞だったが悩みぬいた末についに決断を下した。
「よしっ、ノームにする。えいっ!」
舞が勢いに任せて画面をタッチする。するとその半透明の画面から光が飛び出し舞の目の前の地面へと落ちると複雑な魔法陣を形作っていく。そして最後の外周の円を描き終えた光が消えると同時に魔法陣自体が赤い光を放ち、はるか上空までその光の柱を立ち上げた。
あまりの眩しさに思わず舞が目を閉じる。その直後にドーンという大きな音を立てて何かが出現し、その風が舞の体を通り抜けていった。
舞が恐る恐る目を開けていく。そこに立っていたのは舞の想像していた三角帽をかぶりひげを生やした小人のおじいさんではなく、180センチを超えていそうな長身の男だった。ぴったりとした黒服を着ているため、やせ形ではあるが適度に筋肉がついていることがわかり、顔立ちは整っているがその三角眼とつりあがった眉がきつそうな印象を与えていた。濃紺の髪を無造作になびかせその頭の上には2本の角が……
「角?」
疑問の声をあげた舞を探すようにキョロキョロと男が周囲を見回す。そして舞とばっちり目が合った。
「おい、そこの白いの。ここはどこだ?」
「えっ、私?」
「そうだ。ここにはお前しかおらんだろうが」
「私も良くわからないんだよね。連れてこられただけだし」
「ちっ、使えん奴だ」
男のあまりの物言いにさすがの舞も頭にきたが、確かに突然ここへ連れてこられたときに自分も混乱したのだから仕方がないかとなんとか自分を納得させた。
しかし舞にはこの男がどうしてもノームだとは思えなかった。一応ファンタジーを書こうと決意してそれに関連しそうなことは調べたのだ。老人とか女の子とかいろいろあったが総じて小人のイメージだった。こんなに長身でしかも頭に角が生えているノームなど見たことも聞いたこともなかった。
「あのー、あなたってノームですか?」
「はぁ!?」
舞の言葉に男がいら立ちを隠さず近寄ってくると舞の豆腐ボディの頭をバンバンと何度も叩く。豆腐ボディは弾力がありその程度で崩れることはなかったが視界が揺れてしまい舞は気持ちが悪くなってしまった。
「なぜ俺が低俗なノームなんぞと一緒にされねばならんのだ。お前の目は節穴……そもそもお前の目はどこにあるのだ?」
「うー、気持ち悪い。吐きそう」
「おいっ、どうやって何を吐くつもりだ!?」
男が慌てて舞から離れていく。視界の揺れが止まったことで何とか乙女の尊厳を維持することに成功した舞は男を改めて観察する。男の言葉の通りやはり舞にもノームには見えなかった。
「天使さーん。なんか違うのが来ちゃったみたいですけど」
「なにっ、天使だと!?」
男が気色ばんで周囲を警戒するように視線を左右に揺らす横で舞はその様子をただ不思議そうに見ていた。
『間違っていません』
「えー、でも私はノームを選んだはずですよ。この男の人も自分は違うって言ってますし」
「天使、どこだ。どこにいる!? この神の手下めが!」
必死に天使を探す男の姿を眺めつつ、どちらかと言うと悪魔っぽいよなー、天使が嫌いみたいだしと舞は他人事のように思っていた。
『間違っていません。あなたが選んだのはノーフです』
「ノーフ? ノーフってあの農夫? ノームじゃないの?」
『ノーフです』
「農夫……」
農夫と言われた改めて舞は男を見る。農夫らしい雰囲気は垣間見えない。見えない天使を警戒し探し続ける姿はなんというか滑稽だった。
「すみませーん。あなた農夫ですか?」
「誰が農夫だ!」
「えっと違うみたいですよ」
即行で否定された舞が困惑しながら天使へと尋ねる。
『この男は神に反逆し、その罰として神の畑で800年ほど農夫をしているそうです。立派な農夫です』
「うわぁ、800年も農夫をしているんだ。じゃあ農夫だよね」
「ぐぬぬ、違うぞ。俺は望んで農夫をしているわけではない!」
『ちなみに最近では有機農法など当たり前で水耕栽培や品種改良にも手を出し始めたそうです』
「うわっ、本格的!」
「違う! それはあの……なんだ。そう、ただの暇つぶしだ」
慌てて取り繕うように話す男のことを舞はもしかしたこういうのをツンデレって言うのかなと興味深げに見守るのだった。
ブクマいただきました。ありがとうございます。
今後は基本1日1話ペースで、何か区切りがあれば数話投稿する形にします。
よろしくお願いいたします。