第28話:絵麻の恋愛相談
「あっ、お帰り。買い出しありがとう。絵麻さんもお帰りなさい」
「な、なんで舞ちゃんが台所にいるの!? それにホタルちゃんやノーフさんまで」
「えっ? 普通に台所を貸してもらっただけですよ」
とりあえず食事でも食べて心を落ち着ければどうにかなるかと回らない頭で考えていた絵麻だったが、連れられて行った東風豆腐店の台所には舞がホタルに抱え上げられながら料理を作っており、ノーフがまるで主であるかのように椅子に座っていた。
「お腹が減ってそうだから連れてきたけどいいよね」
「うん。大歓迎だよ。あれっ、でも絵麻さんってお昼を食べてくるって言って出て行ったって聞きましたけど?」
「えっと、お弁当とお財布をダンジョンに忘れちゃって……」
「あぁ、そうだったんですね。ちょっと待ってくださいね、もうすぐ出来上がりますから」
司が持ってきたエコバッグから材料を取り出した舞がトントンと包丁の音を立てながら料理を続けていく。実際に舞が料理する姿を見るのは絵麻にとって初めてだったがかなり慣れていると言うことはわかった。立派なお嫁さん、そんな言葉が絵麻の頭を駆け巡りぶんぶんと頭を振ってそれを飛ばす。
「ちょ、ちょっと私のお弁当も持ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい」
床下収納へと入り絵麻はダンジョンへと消えて行った。鼻歌を歌いながら料理を続ける舞を残して。
(えっ、どうして舞ちゃんが料理を……。いや作っているのは知っていたけど、あのあとなのに平気なの? 全然気にしている感じもなかったし、さらに鼻歌まで歌ってたし。もしかして初めてじゃないとか? えっ?)
少し落ち着いたはずの絵麻の思考が再び混乱しはじめる。ダンジョン内で置いて行ったかばんからお弁当箱を取り出し、ここで食べちゃ駄目かなと現実逃避するが、さすがにそれが不自然すぎることは絵麻も承知していた。
(どうしよう、覚悟も決まってないのに。一緒にご飯を食べるなんて難易度が高すぎるよ)
絵麻がまとまらない思考に悪戦苦闘しながらうだうだとする。そんな絵麻の肩へと手がかかった。
「うひゃう!」
「どうしましたか? もう出来るそうですよ」
「はぁー、ホタルちゃんか」
おもちゃの蛙のように飛び上がった絵麻が肩を叩いたのがホタルだとわかりほっと胸をなで下ろす。ここで来ていたのが舞やノーフであったのなら絵麻がどんなリアクションをしていたかは想像に難くない。
安堵した表情の絵麻を眺めつつ、ホタルが首を傾げる。
「何かお悩みですか?」
「うっ」
「悩みがあるようなら聞きますが」
図星を突かれた絵麻がわかりやすくギクリと表情を変えた。そしてそう尋ねてきたホタルの顔を見る。いつも通りの無表情ではあるが、天使という外見といつも落ち着いているという印象のあった絵麻は、ポツリポツリと自らの悩みを話し始めた。
「つまり恋愛相談がしたいと」
「いやっ、そういうわけじゃ……そうなのかな?」
色々と自分の中の葛藤などのことを意を決して話したつもりだった絵麻だったが、ホタルにあっさりとまとめられて何というかもにょっとした顔をしていた。しかし言われてみると確かにそのような気がしないでもなかった。ホタルが表情を全く変えないこともそれを後押しする。
「私は残念ながらそう言った経験はありませんので相談に乗ることは出来ませんが、舞ならなんとかなるのでは?」
「舞ちゃんかー。うん、そうだね、そうしてみる。ありがとう、ホタルちゃん」
「いえ。それでは早く食事に行きましょう。せっかくのご飯が冷めてしまいます」
ホタルの後をついていく絵麻は知らない。真摯に相談に乗っているように見せて、ホタルが思ったよりも長かった絵麻の話に食事の方へと気をとられていたことなど。そのために問題を全て舞へと放り投げたことなど。
食事を終え、ダンジョンへと戻ってきた舞たちはいつも通り畑仕事に精を出していた。実際舞たちが管理しているのは自分たちの畑一区画だけであり、他の畑についてはノーフが異様な速さと正確さで作業を行っているのだ。絵麻にとっては異性であるノーフがいないということは都合が良かった。
自分の区画の一通りの世話を終え、絵麻が舞の近くへとやってくる。そして深呼吸をして舞に話しかけた。
「えっと舞ちゃん。聞きたいことがあるんだけど?」
「なんですか?」
畑の世話をしていた舞が絵麻を見上げる。絵麻は舞の隣に腰をおろし視線を合わせて話し始める。
「えっと、ホタルちゃんから舞ちゃんがノーフさんに無理やり、あの……食べさせられたって聞いたんだけど本当?」
「あー、はい。そうですね」
ちょっとくらい反論をされるかと考えていた絵麻は拍子抜けする。舞の様子が全く気にしていないようだったので聞いても問題は無いとは考えていたのだが、ここまであっけらかんと言われるとは思っていなかったのだ。
「えっと舞ちゃん的には問題ないの?」
「うーん、無理やりって言うのはちょっと嫌ですけど、私の望みでもありますし、ノーフの気持ちもわかりますから」
「そうなんだ……」
「口いっぱいに詰め込まれるんで苦しいんですけどね。ちょっと苦いし」
「苦いんだ……」
舞の率直な言葉に絵麻が顔を真っ赤にさせる。しかしノーフの一方的な思いだけでなく舞も望んでいると言うことという事実を知れたことで絵麻が少し安心する。両想いであれば問題はないよね、そんな思いが絵麻に浮かんだ。
「絵麻さんも食べますか?」
「いやいやいやいや、大丈夫」
絵麻がぶんぶんと首を振ってそう答える。想っている相手を他の相手に紹介するなんてもしかしてドライな関係なのかとちょっと考えを修正しながら。
初めての相手は経験豊富な方が良いとは雑誌で読んだことがあったが、さすがに知り合いの相手ではレベルが高すぎると絵麻は赤くなりながら考えていた。
「ダンジョンのためにも必要なので仕方ないとわかっているんですけどね」
「えっ、そんな感じなの?」
舞の言葉に絵麻の考えが今までと一変する。もしかして舞はノーフの欲望を暴走させないためにも自ら体を張ってそれを防いでいるのではないかと。ホタルへと手を伸ばそうとするノーフを必死の形相で守る舞。そんな想像が絵麻の中で広がる。怯える舞を乱暴に嬲っていくノーフ、悲鳴を上げながら悶える舞。
そこまで考えて絵麻がカッと目を開いた。そして立ち上がり遠くにいるノーフを睨みつけるように見た。
「ちょっとノーフさんに文句言ってくる!」
「えっ、どうしたんですか、絵麻さん?」
「そう言うことは両者の合意があって、想いあっているからこそすべきなんじゃないかなって思うんだ。一方的な欲望だけでしていいもんじゃないと思うから」
「大丈夫ですって。ホタルも手伝ってくれますし」
「ホタルちゃんも……なの?」
絵麻が途端に勢いを失う。絵麻の中の常識がガラガラと崩れていく音を絵麻は聞いていた。
「だめ、私にはレベルが高すぎる。絵麻ちゃんもホタルちゃんも私とは比べ物にならないほどの経験をしていたんだ」
「?」
地面に手をつき、がっくりと肩を落とす絵麻の様子を見ながら意味の全く分からない舞はおろおろとし続けるのだった。
すれ違う想い(迫真)




