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第25話:感動の再会?

 司からの熱い視線とは別種のジトッとした視線を感じ舞が振り返る。ノーフとホタルがうろんげな目で舞の方をじっと眺めていた。2人の目は言っていた。さんざん不味いと言っておいて舞が作った豆腐と同じ味とはどういうことだ、と。


(違うよ。私の作った豆腐はこんなに不味くないよ。どういうこと、司!)


 舞が慌てて司の胸をぺしぺしと叩く。威力の全くないそれを司は甘んじて受けながら舞が作った他の料理へと箸をつけそしてうんうんと何度もうなずいていた。


「姉ちゃん、俺、父さんに知らせてくる!」


 完全に目の前の不可思議な豆腐のことを姉と認識したような言葉を残し司が急いで梯子を上っていき、舞たちの視界からその姿が消える。出入り口から「父さーん、父さーん」と言う司の声が聞こえてきていた。もうしばらくすれば父親もここにやってくるだろうことは明白だった。


「舞、気づいてもらえて良かったですね」

「きっかけは予想外だったがな。あれだけ自分で不味いって言っておいて」

「違うよ! 私が作った豆腐もお店に出したことあるし。お得意さんも美味しいって言ってくれたんだから」

「人の優しさとはすばらしいものですね」

「だから……」


 生温い目で見られ、それに抗議しようとした舞の言葉が止まる。出入り口に司に連れられた父親が姿を現していた。司に急かされるようにして父親が梯子を下り、そして舞の目の前に立った。すでに起きていたのか豆腐を作るときのいつもの黒いTシャツを着た父親の懐かしいまなざしに舞が見とれる中、父親が何も料理されていない壁豆腐へと手を伸ばしそしてそれを食べた。じっくりと味わうようにかみしめていた父親だったが、やはり司と同じように涙を流し始める。


「舞の味だ。あの子が初めて作ってくれた豆腐の味だ」


 その言葉に舞も思い出す。確かにそう言われてみれば小学生の時に初めて豆腐作りに挑戦して失敗してしまった時の味に似ているような気がすると。自分自身で最初に食べて失敗だとわかっていたのに、父親と司が美味しいと言って全部食べてくれた舞にとって心が温かくなる思い出だった。


「本当に舞なのか?」

(そうだよ、お父さん)


 うなずこうにも舞の体は動かなかった。だから舞はじっと父親のことを見つめていた。豆腐なので目はないのに2人はしっかりと目と目が合っていることを確信していた。


「舞!」

「姉ちゃん」

(お父さん、司。気づいてくれてありがとう)


 舞の豆腐ボディを地面に膝をついた父親が抱きしめ、2人を覆うようにして司もギュッと抱きしめる。豆腐ボディからはとめどなく液体が流れており2人の服が濡れていくが誰も気にしていなかった。父親も司もそして舞も泣いていた。感動の家族の再会に服が濡れるなんてことは些細なことだった。


「条件を満たしました。変身スキルが解放されます」


 いつもとは違う機械のようなホタルの声が響き、舞の体が薄い光に包まれていく。ノーフはホタルに起こった変化を忌々し気にしながら光に包まれていく舞を見守った。涙を流しながら感動の再会に浸っている3人はその変化に気づいていなかった。光に包まれた舞の四角い豆腐ボディがゆっくりと縦に伸び形を変えていく。それはしだいに枝分かれし柔らかな曲線を描いていった。そして光が収まりその変化も終息を迎えた。


「ごめんね、お父さん、司。先に死んじゃってごめんなさい!」

「舞!」「姉ちゃん!」

「えっ?」


 父親と司の驚きの声に舞が涙を止めた。目が合った父親の瞳の中には全身真っ白な少女の姿が映っており、舞は自然に自分の手でぺたぺたと顔を触る。そして下を向き自分の体を見た。そこには色こそは真っ白であるものの舞が人間だったころと寸分変わらぬ体が見て取れた。


「いっ」

「「いっ?」」

「いやー!!」


 舞の魔法の手による強烈なストレートが父親と司を吹き飛ばし2人がゴロゴロと地面を転がっていく。舞は変身することで昔と同じ顔形を得ることが出来た。しかし服まで再現されるはずもなく一糸まとわぬ生まれたままの姿だったのだ。さすがに家族とは言え堂々と見せて平気でいられるほど舞の神経は図太くなかった。

 必死に手で色々な部分を隠しながら舞が地面に転がっている父親と司を見つける。


「あっ、お父さん、司! 誰がこんなことを!」

「お前だ、馬鹿者」


 ふわりと舞にぶかぶかの服がかけられる。少し温かさの残ったそれはノーフの普段着ていた服だった。舞が振り返り上半身裸のノーフを見て少し顔を赤くする。成人男性の上半身だけとはいえ裸は舞には少々刺激的過ぎた。とっさに舞が目線を逸らした先にはホタルがいた。その無表情さはいつもと同じようだったが舞はなぜか違和感を覚えた。


「あれっ、ホタルはどうかしたの?」

「ああ、今あいつは奴に操られているようだな」

「操られているなんてひどいなぁ。ちょっと体を借りているだけじゃん」


 ホタルの顔が楽し気に笑う。無表情なホタルとは似ても似つかないその表情に舞は見覚えがあった。つい先日このダンジョンを作る前に映像として流れてきた神と名乗る少年にそっくりだった。


「まさか神様?」

「だーいせーかーい! あっ、ちなみに体を借りているだけだからこの子をどんなに痛めつけても僕に被害は一切ないよ。一応言っておくけど」


 その言葉にゆらゆらと背後に炎をまとわせていたノーフが舌打ちし、そしてその炎が消え去る。それを見てホタルがにやりとしたいやらしい笑みを浮かべた。


「そうそう。仲間は大事にしないとね。時間もないから簡単にいうけど君たちそれぞれに特別な賞品を用意したんだ。こんなに早く家族に正体がバレるとは思ってなかったし面白かったからそのおまけだね。じゃあしっかりポイントを貯めて僕を楽しませてよ。君の眷族の繁栄を楽しみにしてるよ、そして人類がどこまで抵抗できるかも」


 そこまで言うとホタルの瞳から光が抜け、崩れ落ちるようにしてホタルが地面へと倒れこんだ。そして光の粒子が天へと向かって昇っていく。


「ホタル!」

「逃がすか!」


 舞がホタルへと駆け寄りぐったりとした体を抱き上げ、ノーフが光の粒に向かって紅蓮の炎を放つ。辺りの天井全てが焼豆腐を通り越して炭豆腐になるようなその炎の中で光の粒は何も変わらずただそこにあった。


「無駄だって。君の望みを叶えたいならポイントを貯めることだね」

「くそっ!」


 ノーフがぎりっと歯ぎしりしながら炎を止める。部屋を照らしていた炎が消え、ダンジョン特有の薄暗闇の中、出入り口から差し込む台所の光と光の粒子がキラキラと光っていた。


「んっ、んん」

「あっ、ホタル。大丈夫!?」

「舞、ですか?」

「うん」


 舞の膝の上で目を開けたホタルが舞のことに気付き少し驚いた顔をする。若干苦しそうではあるものの目を覚ましたことに舞は安堵していた。


「あっ、ごめんね。体借りちゃった」

「神ですか」

「うん、多分もう借りないと思うけどね。まっ、君も自分の人生を楽しんでよ。じゃ、僕はもう行くよ。新作のゲームをしないといけないんだ」


 3人が無言で光の粒子が昇っていくのを何もできずに見送る。そしてそのすべてが消え去ろうとしたその時1つの光の粒かくるりと円を描いた。


「あっ、そうそう。君の変身1か月に3分だけだから気を付けてね。ラーメン作るのに便利だよね」

「えっ、そういうのは早く言ってよ!」

「あはははは。じゃーねー」


 光の粒が天井へと消えていき神の気配がダンジョンから消えた。それとほぼ同時に舞の姿が光に包まれそして元の四角い豆腐ボディへと変わってしまう。父親と司は舞のストレートパンチによって気絶したままだ。舞が魔法の手を地面につきがっくりと肩を落とす。


「相変わらず性格が悪いな。絶対に3分ギリギリになるように言ったな、奴は」

「そうですね。しかも女性の体を乗っ取ったのにあの程度の謝罪しかしないとはあの犯罪者は牢に入るべきです」


 神への悪口を話しだしたノーフとホタルをよそに、舞はしばらくショックから抜け出せず、その柔らかな豆腐ボディは固まってしまったかのように微動だにしなかった。

イイハナシダナー

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海の日記念の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
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少しでも気になった方は読んでみてください。
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