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第23話:思わぬ再会

 ノーフとホタルが犯人と思わしき金髪の男を捕まえていたそのころ2階層で寝ていろと言われた舞だったが横になってはいたものの眠ることが出来ずペタペタと体を動かしていた。

 犯人を恨む気持ちはある、しかしもしそれが弟の司だったら、でもそんなことを司がするはずがないという無限ループが舞が眠ることを防いでいた。


「舞、起きていますか?」

「うん」


 ホタルの声に舞が起き上がる。犯人が捕まったのかなと思いながら立ち上がった舞は小首をかしげながらちょっと不思議そうにしているホタルの姿に自身も体を傾げる。


「あれっ、犯人が捕まったんじゃないの?」

「ええ。金髪の若い男でした。しかし……ちょっと来てください」

「う、うん」


 いつもははっきりと物事を言うホタルが言葉を濁したことに違和感を覚えながらも舞は少し足取り軽くホタルの後へとついていく。家族に髪を金髪に染めるような者はいない。豆腐屋は清潔感が命だ。だから父親も弟も黒髪で髪は短く切っていた。もしお父さんが金髪だったらと想像し、舞は少し笑いがこぼれそうになるほどの余裕が出ていた。


 舞が1階層の出入り口付近へと向かう。遠目にノーフに両手を掴まれながらうなだれている金髪の男がいた。実際に畑を荒らしたと言う男を見て怒りが湧いてくるのかなと思っていた舞だったが実際に湧いてきたのは少しの恐怖心だった。

 舞自身ああいった髪を染める不良のような人種とはかかわりの薄い生活を送っていた。舞の住むこの町では学生が髪を染めることイコール不良という等式が成り立つくらいの田舎である。実際その数も多くないため目にするような機会もほとんどないのだ。


 怖いけどノーフが捕まえているし、ホタルもいるから大丈夫だよね。そう思いながら舞が男へと近づいていく。だんだんとその顔が舞にもはっきりとわかったきた。

 それは見覚えのある顔だった。髪は金髪に染まってしまっているが15年一緒に過ごしてきたのだ。見間違えるはずがなかった。


(司!)


 そう認識した途端に舞の足が自然と早くなる。近づく舞の方を見た司が目を見開いてぎょっと驚いている。その顔は舞の記憶にある驚いた時の司のリアクションと全く一緒だった。そのことがより一層舞にその男が司だということを印象づける。舞の走る速度がさらに上がった。そして数メートル手前で思いっきりジャンプしそのまま司の元へと……


(豆腐キーック!!)

「うわぁああ!!」

「おいっ!」


 舞の豆腐ボディが司の顔面へと突き刺さった。もちろん絹ごし豆腐ボディなので舞の体が変形するだけで大したダメージは与えられていない。しかしその勢いは司を横倒しにするには十分なものだった。ノーフは舞の突然の行動に驚きつつもしっかりと巻き添えを食わないように回避している。

 地面に横倒しになった司の胸の上に舞が立つ。舞の体から流れ出る液体が司の胸を濡らしていた。


(どうして、不良なんかに、なってるの! 豆腐みたいに、清く正しく、生きるよう、言ってたでしょ!)


 バチン、バチン、バチン、バチン。

 舞の想いに合わせるかのように魔法の手が司の頬を張っていく。最初は抵抗しようとした司だったが度重なる舞のビンタに次第に無抵抗になっていた。もはやバチン、バチンという音とともに司の首が左右に振られるだけだ。

 それを驚きながら見ていたホタルとノーフだったが、司の頬がどんどんと赤く腫れあがっていくのを見て正気を取り戻した。


「お、おい。それ以上はまずいぞ」

「落ち着いてください、……」

(司が悪い子になっちゃったんだからそれを正すのは母親代わりの私しかいないんだから!)


 ノーフに掴まれ引き離されたた舞がプランプランと体を揺らす。その体からはぼたぼたと液体が流れ出ていた。このままでは水分が抜けすぎて豆腐独特の滑らかな触感かなくなりぼそぼそになってしまうのではないかと思うほどだ。

 舞は泣いていた。なぜ、どうして、と言う思いが頭の中でぐるぐると回っていた。しかしそれ以上に司を真人間に戻さなくてはと言う使命感が涙を流させながらも舞を突き動かしていた。


 魔法の手を掴みながらホタルが少し首をかしげてノーフへと近づいていく。司を拘束する者は誰もいなくなったが既に動く気力もないようでそのまま地面に横たわったままだった。頬を赤く腫らし、その両目から涙を流しながらもそれでも司は3人を見つめている。


「返せよぉ……ぬか床返してくれよ」

(ぬか床?)


 司の思わぬ言葉に舞を突き動かしていた熱が冷えてくる。ぬか床と言えばダンジョンが通じるときに床下収納と一緒に落ちてきたものである。中に入っていたキュウリは既に食べてしまったので今漬けられている物は何もなかったが、ぬか床が腐らないように舞は毎日欠かさずかき混ぜていた。


「姉ちゃんのぬか床、返せよ……」

(司!)


 思わぬ言葉に一度は止まっていた舞の涙が再び溢れ出しその豆腐ボディからぼたぼたと水分が流れ落ちていった。

 舞は疑問に思っていた。ぬか床は非常にデリケートで手入れせずに放っておけば表面にカビが発生してしまい下手をすればぬか床全てがダメになってしまうのだ。それなのに落ちてきたぬか床は舞が手入れできなくなって半年経過しているはずなのに舞が手入れしていた時と同じようにちゃんと手入れされていた。


 その疑問が司の言葉で氷解したのだ。ぬか床を手入れし続けてくれていたのは司だった。舞が司にぬか床の手入れの方法を教えたことはなかった。それなのに司はしっかりと舞の形見としてぬか床を守り続けてくれていたのだ。そしてそれを取り返すために危険とわかっているダンジョンに忍び込んで、見つからないいら立ちを大豆畑に向けてしまうほど大切に思ってくれていた。

 それは外見は変わってしまっていても司の優しい心根が変わっていないと舞に確信させた。


(ごめんね、司。お姉ちゃん、司のこと誤解してたよー)

「あっ、おい!」


 ノーフの拘束を絶妙に体をひねって抜け出した舞がそのまま倒れている司へと飛び込んでいこうとする。しかしそれは空中でしっかりと舞の体をキャッチしたホタルによって防がれた。


「先にぬか床を取りに行きましょう。……ノーフも行きますよ」

「んっ、あぁ。わかった」


 有無を言わさぬ雰囲気をまとったホタルのただならぬ様子に舞が押し黙って動きを止め、ノーフも少し司のことを気にしながらもホタルの後をついていった。そしてぬか床のある2階層の料理部屋へと3人がたどり着いた。


「舞……ここなら大丈夫なようですね」

「えっ、何が?」


 呼びかけられた後に続いた言葉に意味が分からず舞が体を揺らす。ホタルはゆっくりと地面に降り、そして舞を床へと下ろした。


「落ち着いて聞いてください、舞。どうやら舞のことは家族には伝えられないようです」

「えっ!」


 ホタルの言葉に舞が動揺する。そんな舞を気まずげにしながらホタルは言葉をつづけた。


「先ほど彼の前で舞の名前を呼ぼうとしましたが出来ませんでした。何より舞は上で一言も発していません。本当は話していたんじゃないですか?」

「えっ、嘘。だって私、ちゃんと司と話して……」


 舞がノーフとホタルへと視線を向ける。しかし舞が期待した反応はなく、2人は首を横に振るだけだった。舞が呆然自失とするなかノーフが憎々し気な表情で天を睨む。


「あいつのせいか」

「はい。こんなことが出来るのは神だけです」

「手紙とかの他の方法は……」

「そんなことが出来ると思いますか? あなたの方が神の理不尽さを重々承知しているでしょう、ノーフ」


 ノーフがぎりっと歯を食いしばる。その表情はいまだかつてないほど厳しく、眼光だけで辺りが燃え尽きるのではないかと言うほどの暗い炎がその瞳には宿っていた。

シリアスさんか満を持しての登場です。

果たしていつまでもつのか注目です。

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海の日記念の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

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少しでも気になった方は読んでみてください。
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