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第22話:犯人確保!

 ノーフによる軽いお仕置きが終わり、3人で荒らされてしまった畑を整えていく。念入りに荒らされているのでこのまま育てるのはいかにダンジョンと言えど無理と言うノーフの判断により舞とホタルの畑のにーさんたちは全て処分されることになった。

 舞とホタルが悲しそうににーさんたちを引っこ抜いていき、その後の荒れた畑をノーフが整えていく。2ヘクタールの畑は3人の常人には考えられないほど速い働きによって2時間程度で整えられてしまった。


「でも何でこんなことをしたんだろう?」


 絵麻が来るまであまり時間もなく、にーさんたちがいなくなってしまったショックもあって料理する気力があまりわかなかった舞が切り出した豆腐に醤油をかけただけの手抜き料理をホタルとノーフに出しながら言う。2人も舞の心情が理解できているので文句は言わなかった。若干残念そうな色は出していたが。


「おそらくレベルアップのためだろうな」

「レベルアップってあのレベルアップ?」

「お前が言わんとしているレベルアップがどのようなものかは知らんが身体能力などが向上するレベルアップのことだ」

「ダンジョンの出現によって世界は変わったのですよ、舞。神によってステータスやレベルと言う概念がもたらされ、ダンジョンの生物を倒すことでそれを上げることが出来るようになったのです」

「へー」


 舞が驚きの声を上げる。もちろん舞が生きている間にそんなファンタジーな様子は全くなかった。身体能力にしても検査などで測ることが出来たとしてもそれをステータスやレベルと言ったもので表すなんて言うのは小説や漫画の中でのことだったはずだ。何となく司が好きそうだなと舞がチラッと天井を見上げながら思った。そして違和感に気付く。


「あれっ、でもこのダンジョンって私たち以外に生き物っていないよね」

「お前を生き物に含めるかどうか悩むところだがな。だからこそ八つ当たりで畑を荒らしたんじゃないかっていうのが俺の予想だ」

「レベルを上げステータスを上げることで様々な面で優位になるでしょうからね。昨日監視を緩めてもらったのは失敗だったかもしれません」

「豆腐は生きてるよ。足だって早いし」


 ちょっとふてくされながら言った舞の言葉の意味が分からずにノーフとホタルが頭を悩ませる中、そんなことは気にせずに舞は続ける。


「でもどうしよう。絵麻さんに言って警備を戻してもらう?」

「そうですね。ずっと上から見られているのは気持ちの良いものではありませんが仕方がないかもしれません」

「俺はその意見には反対だ。畑を荒らされることは無くなるかもしれんが、今回荒らされたケジメは絶対に取らせる」

「ノーフ!」

「わかっている。捕まえて俺と佐藤で説教するだけだ。あとは上の奴らに任せるさ」


 そう言ってノーフがニヤリと笑う。確かにノーフの気持ちも舞にはわかっていた。丹精込めて作ったにーさんたちを踏み荒らされて悔しい気持ちがあるのは舞も同じだった。暴力も振るわないと言っているし、ただの説教なら大丈夫かもと心の中で折り合いをつける。


「絶対だからね」

「わかっている」

「神に誓いますか?」

「あいつに誓うのだけは死んでもごめんだ!」

「奇遇ですね。私もです」


 ノーフとホタルががっしりと握手するのを見ながら舞は考えていた。侵入者は誰なのかを。

 もちろんこのダンジョンの入り口があるのは舞の家の中であるから普通であれば家族以外に侵入してくるようなことは考えられない。昨日は監視の局員もいなかったため実質的に父親か弟の司ということになる。しかし父親がダンジョンに降りてきて畑を踏み荒らすと言うイメージは全くできなかったし、弟の司にしてもファンタジーなどの小説が好きなことを除けば暴力的なことからは縁遠かった。だから違うはず、そう信じたかった。


「違うよね、司」


 あの日、走り去っていった背中を思い出しながら舞はそっと天井を見上げ呟いた。


 3人は絵麻には別の品種へと植え替えることにしたと伝え、一から畑を作り直すことにした。絵麻の畑からは既に芽が出て成長を始めていたので、てんてこ舞いになっている絵麻を手助けしながら自分たちの畑にもダイズ23号を植え、にーさん2世として育てることにした。

 舞がお昼に豆腐料理を絵麻にごちそうしたり、絵麻が持ってきてくれた惣菜を分けてもらったりしながらつつがなくその日の仕事は終わり、3人でよろよろの絵麻を見送る。絵麻の姿が地上へと消え、そしてダンジョンの出入り口を監視する人は誰もいなくなった。3人が顔を見合わせコクリとうなずく。


「飯を食ったら基本的に俺とこいつで見張りをする。お前は何があるかわからんから下で寝ておけ」

「うん、でもノーフとホタルは寝なくても大丈夫なの?」

「舞、私たちは人ではありません。睡眠など数日取らなくとも全く問題はありません」

「あれっ、でも昨日まで一緒に寝ていたよね」

「「……」」

「えっ、あれっ? なんで黙るの?」


 混乱する舞に2人は何も答えない。800年にもわたる孤独な農夫生活のせいで規則正しい生活が身についてしまっていて寝なくても大丈夫という事を忘れていたり、そもそも舞とノーフが寝ているんだからと特に理由もなく一緒に眠っていたというようなことはあるはずもなかった。

 若干2人の視線が舞から気まずげに逸らされているがそんなことあるはずもなかった。沈黙が続く中、くぅっと小さくお腹が鳴る音が聞こえた。


「舞、お腹が空きました」

「あっ、うん。ちょっと待って今作るから」

「よろしくお願いします」


 2階層へと続く穴へと小走りで進んでいく舞をノーフとホタルが見送る。


「99の秘儀の1つ。お腹鳴らしがなければ危ないところでした」

「嘘つけ! いや助かったことは助かったが絶対に嘘だろ」

「もちろんです。何を言っているのですか、ノーフ?」

「こいつ、いっぺん本気で締めてやろうか!」


 わいわいとそんなやり取りをしながら2人も舞の後を追って2階層へと歩き始めるのだった。





 その日の深夜―――

 既に1階層は薄暗くなっており、出入り口から見えていた舞の家の台所の明かりも消えて数時間が経過していた。

 ノーフとホタルの2人は見つからないようにじっと身を潜めていた。実際昨日の今日のことであるし犯人がやってこないことも織り込み済みだった。だからこそ2人とも適度に気を抜きながら待ち続けていた。


「まだだめですか?」

「だめだ。と言うか何回目だ、お前?」

「32回目です」

「いや、回数を聞きたかったわけじゃねえんだが……はぁ、もういいぞ。勝手にしろ」


 ホタルが微妙に表情を緩めながらお弁当箱を広げる。そこには舞が2人の夜食として用意しておいた豆腐料理が詰められていた。お弁当箱は落下罠から取れたものでホタルのものはお弁当箱と言うよりはお重と言った大きさの四角い箱だったが。

 ホタルが何から食べようかと迷いながらそれを口に含もうと手を伸ばしたその時、出入り口の辺りで光が揺れた。


「おいっ、来たみたいだ」

「ほーへふへ」

「お前なぁ……」

「ほは、へほはははなひ」

「微妙に意味が通じるのがさらにむかつくな」


 ホタルに指摘されたとおりにノーフが出入り口へと視線を戻す。入り口の辺りからゆらゆらと一筋の光がダンジョン内を照らしていた。とは言えまだ中には入っていない。ノーフが固唾を飲んで見守る。そしてホタルはもぐもぐ食べていた豆腐を飲んだ。

 しばらくの間光が照らされ、そして1つの人影がするすると梯子を降りてダンジョンへと入ってくる。ノーフとホタルはまだ動かない。金髪で目つきの悪い若い男だが外見だけで昨日のことをその男がやったとは断定できないからだ。じっと男の行動を観察する。


 男は辺りを何かを探し求めるようにライトで照らしながら歩き回っていた。たまに悪態をつきながら必死の形相で。3時間ほどそれを続けた男だったが肩を落としそのまま出入り口の方へと向かって行く。

 昨日の犯人とは違ったのかと2人が考え始めたその時、男の視線が固定された。その先にあるのは絵麻が育てている大豆畑だ。男がずんずんとそこへ近づいていく。そして男の足が絵麻の大豆へと踏み下ろされる瞬間、ノーフとホタルが天井から降ってきて男の片手ずつ持ち、後ろへ引っ張って止めた。

 突然上から現れた2人に男が驚き、そして暴れ始める。


「なんだよ、お前ら。離せ、離しやがれ!」

「貴様が畑荒らしの犯人だな」

「状況証拠はそろっています。靴も昨日の足跡と同じです。ほぼ間違いないでしょう」


 男の顔が一瞬ひるみ、しかしすぐにその顔は真っ赤に染まっていった。そして駄々っ子のように思いっきり体を暴れさせ逃げようとする。しかしノーフとホタルの拘束がその程度で外れるはずもなかった。


「くそっ、離せよ。お前らこそ返せよ」

「何を言っているんだこいつは?」

「さあ?」


 男を拘束しながら疑問符を浮かべる2人に男が言葉を続ける。


「ぬか床を返しやがれ!!」

犯人はすべてぬか床のせいだと意味不明の供述をしており……

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海の日記念の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
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少しでも気になった方は読んでみてください。
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