第19話:アイテム作成機能
何とか瞳に光を取り戻した絵麻がのろのろとダンジョンから出ていくのを同じく復活した舞が見送る。同じ豆腐屋の娘として共感するところの多かった2人だが、同じような目にあったということもあり親近感以上のものを舞は感じていた。ダンジョンから出る直前、絵麻が舞の方をちらっと振り返り小さく手を振る。それに舞は魔法の手を大きく振って体を揺らしながら応えた。絵麻が小さく笑みを浮かべるのが舞にはかろうじて見えていた。
いつの間にやら時間も18時近くになっていたためノーフとホタルと一緒に舞は2階層の料理部屋へと帰ることにした。
そしていつも通り豆腐料理を開始する。そんな舞に向けてノーフが今回の話し合いの内容について簡単に説明をしていた。
「ふーん、ギフトね。というかアイテムを作るなんて機能があったんだ?」
「はい、舞にはあまり必要がないと思いましたので特に説明しませんでしたが」
「基本的に人を招き入れるための餌だからな。お前には必要ないだろう」
難しい契約などの話については舞にはへーそうなんだーといった程度のことしかわからなかったが、とりあえずノーフが良い感じに折衝してくれているようなので安心していた。それよりも舞の興味を引いたのはその中で出てきたダンジョンの機能のことだ。
ダンジョンと言えば宝箱があるということは舞も知識としてはあったが、まさかダンジョンマスターが選んで設置しているとは思っていなかった。弟の司のためにファンタジー系の小説を書こうとして読んだ作品の中にそういったものがあったなぁ、人間の想像力ってすごいんだなぁと妙なところで感心していた。
「へー。でもすごいよね。何もないところから物が作りだせるってことだよね。さすが神様だね」
「ちっ」
「舞、これはあくまでダンジョンのシステムがすごいのであって神がすごいわけではありません」
「う、うん。ええっとごめんね。あっ、ほら料理も出来たし食べよう!」
舞が何も考えもなしにぼそりと言った言葉によってノーフとホタルの周囲の空気が氷点下まで下がる。自分の失言に気づいた舞は慌てて料理へと話題を移した。本当に嫌われてるなぁと内心思いながら。
いつもよりもペースの早い夕食を3人が終え、ダンジョンコアを取り出した舞の両側にノーフとホタルが顔を並べ覗き込んでいる。そして舞がダンジョンコアへと触れるといつも通り半透明のディスプレイが浮かび上がった。アイテム作成の画面だ。
「これはまた、多そうだな」
「そうですね、ボイント次第ではありますがかなりの範囲のものを作成できるようですから」
「……」
画面いっぱいに広がった作成可能な物品を見ながらノーフが感嘆の言葉を漏らす。そんなノーフへ補足説明をホタルがしていたがこの画面を開いた張本人である舞は2人のやり取りが聞こえないほどに画面へと視線を吸い込まれていた。しばらくの間、画面上に表示されているよくわからない品名に首をひねっていた2人が何も反応を示さずにじっと画面を眺めている舞の様子にようやく気付いた。
「どうしたん……」
「すごい!」
「どうしたんですか、舞?」
「これを見てよ!」
舞が指し示したのは表示されたディスプレイの一部分、先ほどまで2人が見ていて何のことかわからずに首をひねっていたところだ。舞に言われるがままそこを見た2人だったがやはり何なのかわからなかった。
「『マメスター』ですか。それはなんですか、舞?」
「ふっふー。よくぞ聞いてくれました。これは豆腐機械専門の老舗、遠藤工業が誇る傑作のマメスターシリーズだよ。しかも最新型。私の家もマメスターシリーズで揃えているんだけど10年前くらいに買い替えたから3世代くらい前なの。最新型だとタッチパネルで豆乳の濃度を測れたり、加熱と撹拌機能がバージョンアップしていて均一な加熱が……」
「待て待て待て、つまり豆腐を作る機械ってことだな」
「そうだけど違うよ。マメスターシリーズはお好みの豆乳も作れるし、こっちの『マメスター・ユーバー君』を使えば料亭で食べるような湯葉だって作れちゃうお得な……」
「湯葉とは美味しいのですか?」
「ちょっとお前は黙ってろ!」
収拾がつかなくなりそうになったところでノーフが舞とホタルの口をふさぐ。もごもごと口を動かして不服そうにしている2人にノーフが深いため息を吐きながら疲れたように肩を落とした。しばらくして2人が落ち着き、ノーフがそっと2人の口から手を離す。
「とりあえずすごい機械だと言うのは理解したから話を続けるぞ。今画面に表示されている物は俺の見覚えのないものばかりなんだが、もしかしてこれは……」
「うん。豆腐関係の機械だよ。こっちの『あげーる』は食品機械のエムニが作ってる油揚げとかを作るための小型フライヤーだし、他のもお父さんが読んでる全国豆腐新聞の広告とかで見たことがあるから」
「ずいぶんと狭いターゲット層の新聞ですね」
「業界新聞なんだよ。豆腐関係の記事が載っててね、それが月に2回送られてくるんだ。ちょっと値段は高いけどいろんなことが書いてあって面白いよ」
楽しそうに話す舞とは裏腹にノーフが頭痛を堪えるように目を閉じ、顔を歪めながらこめかみを揉む。
「色々と突っ込みたいところだがまあいい。さっさと目的の物を探すぞ」
「あっ、うん」
ノーフに言われちょっと舞が残念そうにしながら会話を切り上げ、画面をタッチして動かしていく。しばらく豆腐関係の機械や道具が続いた後、普通の品へと切り替わったところで舞が気づいた。
「あれっ、ポイントが急に高くなったね」
「むっ、そうなのか?」
「うん、さっきまでの豆腐関係の物と比べると10倍くらいポイントが違うと思う」
「もしかすると種族の繁栄に関係する物は安いポイントで交換できるのかもしれませんね」
「そうだな」
ホタルのそんな予想を聞きつつ、舞はそのまま画面を操作していく。しばらくの間画面を動かし続けていた舞だったが一向に目的のスクロールまで辿り着けなかった。結構な速さで画面を動かしてそれを目で追っていたため舞の集中力がだんだんと切れ始める。
「うぅ、検索機能が欲しい」
「ありますよ」
ホタルのその言葉に舞とノーフの視線が集中する。自分に視線が集中したことの意味がよくわからずホタルが小さく首を傾げた。
「なぜ今頃言う?」
「先に作れるものの一覧を確認するのかと。違ったようですね、すみません」
「別に良いよ。じゃあ検索しちゃおう」
非難がましい目を向けるノーフとは対照的に舞はすぐに気を取り直して検索場所をタッチし、現れたキーボードを使って『スクロール』と入力し決定ボタンを押す。待機中の円を丸い点が一回りし、そして画面表示がスクロールの一覧へと切り替わった。
「へー、いろんなのがあるんだね」
「「……」」
感心しながら画面に表示されたスクロールを眺めている舞の横でその画面を見つめながらノーフとホタルは表示されたスキルとそれに必要なポイント数を見ていた。しばらくの間2人とも無言でそれを眺め、どちらからともなくお互いの顔を見合わせた。
ノーフは苦笑し、ホタルはほんのわずかに表情を緩めた。
「舞らしいですね」
「そうだな」
「んっ、何が?」
1人だけ意味のわからなかった舞が2人に聞くが、2人は笑うだけでそれに答えることは無かった。むきになった舞がプルプルと震えながら抗議するのを2人が温かく見守る。
その背後で表示され続けている画面には『料理』などの生活的なスキルが低いポイントで、そして『剣術』などの戦いに役に立ちそうなスキルがそれとは比べ物にならないほどの高いポイントで表示されていた。
Q.文才のスキルは交換出来ませんか?
A.努力と根性で身につけてください。
………ですよねー。