表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/38

第11話:ダンジョン突入者たち

突入した人の視点です。ちょっと説明回っぽいかも。

 警察署に東風(ひがしかぜ)豆腐店の店主からダンジョンらしきものが家の中に出来たという電話が入ったのは午前11時23分。そこから県道23号立花地区ダンジョン、通称カマキリダンジョンの出入り口を警備していた俺たちに電話連絡が入ったのがその30分後だった。

 その時俺たちの中で数奇な運命を感じなかったものはいないだろう。今では世界中に広がったダンジョンと呼ばれる謎の空間。その最初の発見例は俺たちが警備していたカマキリダンジョンであり、そして同時にそこは最初の犠牲者が出てしまったダンジョンでもあった。


 その犠牲者の名前は東風 舞。今回の通報者でもある東風豆腐店の店主の娘だ。


 彼女のことは捜査資料や報道でしか知らないが、店主についてはここを警備する全員が知っている。彼はその事故で娘を亡くしてから毎日、毎日作った豆腐をダンジョンに供え続けていた。雨の日も風の日も変わらず献花台へと豆腐を供え、そして30分ほど静かに祈っては帰っていく。ダンジョンの出現とともに変わりゆく世界で彼の変わらぬその姿はとても悲しくそして尊いものに見えた。


 しかしこの半年の間に世界中でダンジョンが発見されはじめ、マスコミによる彼や彼の家族への執拗な取材攻勢がやっと落ち着きを見せてきたと思った途端にこの報告だ。言葉は悪いが本当についてないとしか言いようがない。

 突入班の班長として彼に会うことになるが、彼がこのことをどう思っているのか。彼が変わってしまうのではないかそれが少し心配だった。


 周囲の避難誘導が問題なく行われる中、俺たち突入班は彼に発見時の状況を聞いた。どうやら調理場で厚揚げ豆腐を揚げている最中に異音に気づいて台所へ向かいダンジョンを発見したということだった。言葉少なではあったが淡々と状況を話していく彼は変わっていないように見えた。

 彼の話によれば台所の床下収納のあった場所が入り口になっており、その下に光に照らされた広大な土地が見渡す限り広がりそこに天使の姿をした少女と角の生えた男、そして生き物なのかわからない四角い白い物体があったということだった。

 ダンジョンが現れる前であればイタズラだと一笑にふすところだが彼が冗談を言うとも思えないし、何より俺たちもダンジョンの非常識さを十分すぎるほど知っていた。だから彼の言うことはすべて正しいのだろう。

 感謝を伝え部屋を去ろうとした俺たちだったが、その直前に彼から声を掛けられた。


「もし相手が話し合おうとしてきたら攻撃はしないでほしい」


 その言葉に俺たちは驚いた。場所は違うとはいえ同じダンジョンなのだ。彼にとっては娘の仇のような存在のはず。世界中でも被害が続出しており、ダンジョンの殲滅、破壊を声高に唱える政党が議席を増やすこのご時世だ。彼の考えが俺たちには理解できなかった。

 そして彼自身にも明確に理由があってのことではなかった。理由を聞かれ彼自身考え込みながらも彼は


「懐かしい匂いがした」


 とだけ答えたのだった。





 ダンジョン突入用標準装備、通称D装備を身に着け、豆腐店の住居部分にある台所の床下収納を覗く。そこには聞いた通りの風景が広がっていた。だだっ広い何もない土の大地が見渡す限り広がり、地下だというのに太陽のような光が差している。唯一違うのはそこにいるのが天使の姿をした少女だけと言う事だろう。天使と目が合ったが特に何のリアクションもなくただこちらを見ているだけだった。


 顔を引っ込め現状を共有し、作戦に変更はないことを確認して降下準備を開始する。作戦はいたってシンプル。ダンジョン内部の把握と脅威度の測定、そして早期の離脱だ。

 内部の把握については今回はもう諦めている。いくらなんでも広すぎる。漏れなく調査しようとすれば数日は必要だろう。なので今回の主目的は脅威度の測定が主となる。


 ダンジョンには人類への脅威度に従ってランクがつけられている。そのランクはAからEまでの5段階。とはいえそのほとんどはBからDランクに属しているのだが。おおよその目安で言うと


Bランク:大変危険。ダンジョンから積極的に生物が出てくる。その生物は人類に害をなす

Cランク:危険。ダンジョンからたまに生物が出てくる。その生物は人類に害をなす

Dランク:やや危険。ダンジョンから生物は出てこないが、中に入ると攻撃される


 あくまで一例だし細かい定義はあるがおおよそこのような理解になっている。ちなみにカマキリダンジョンはCランク指定だ。実際に警備している身としてはこれでCランクなのかと首を傾げたくなるのだが他はもっとすごいと言うことだろう。


 Aランクダンジョンは日本にはないが映像で確認する限り手のつけようがないというのが正直な感想だ。空爆などで被害地域の拡大だけは抑えているようだが、一掃したと思ってもダンジョン内から次々と出てくるためいたちごっこになっているようだ。


 さらに希少なのがEランクダンジョンだ。これは今のところ世界で2か所しか見つかっていない。脅威度0。ダンジョンを支配するというダンジョンマスターとの話し合いが成り立ち、人類との共生を目指していくという稀有な存在だ。こちらを見れば襲い掛かってくるカマキリたちのことを考えるとそんな存在がいるとは眉唾物ではあるのだが確かに存在しているらしい。まあ完全に信頼されているわけではなく経過観察と言ったところだろう。


 今回の俺たちの働きがその脅威度を決める一因になる。たとえその結果俺たちが帰ってこれなくなったとしても早期に脅威度を測りそれに対応できるようにすることで被害は減らせるはずだ。


 ロープを垂らしダンジョンへと突入する。出入り口からはこんな危険な任務に立候補した馬鹿だが信頼できる仲間がフォローしてくれている。しかしフォローの必要を全く感じさせないほどダンジョンには動きは無かった。ただ天使の少女がこちらをじっと見続けているだけだ。


 周囲の警戒を仲間へ任せ、なるべく少女に警戒心を与えないようにマスクを外し手ぶらで近づいていく。見かけは天使のようだがダンジョンの中にいるような存在だ。普通の天使であるわけがない。

 そこまで考えて自嘲する。天使自体が普通の存在ではないのに何を言っているんだと。それで程よく肩の力が抜けた。


 改めて天使の少女を観察する。緩くウェーブした金髪に人間とは思えないほど整った容姿、背中に翼を生やしたその姿は10人が見れば10人とも天使だと言うだろう。しかしその表情は無く、全く身動きもしないため精巧な人形と言った方が……


「おっ!」


 俺の考えを読んだかのように天使がいきなり宙へと浮かび上がり天井にたどり着くとそこで何かをし始める。銃を向けそうになっている仲間に指示してやめさせ天使の動きをじっと見守った。


「もし相手が話し合おうとしてきたら攻撃はしないでほしい」


 その言葉が俺の中でよぎった。現状では天使は敵対行動をとったわけではない。人の姿をしているのだ。話し合う余地は残されていると心のどこかで信じたかった。少女の姿をした生き物を撃ちたくないという気持ちもなかったとは言えないが。

 しばらくして天使がゆっくりと地上へ降りてきた。俺たちの間で緊張が高まる。天使はその両手に持った白い物体を俺たちの方へと差し出しその口を開いた。


粗豆腐(そどうふ)ですが、どうぞ」


 俺は想定外の事態にどう反応すべきかわからなかった。

粗豆腐いりませんか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の日記念の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ