第四章01/違法ドラッグ(前編)ーイリーガルドラッグー
マイスリーという睡眠導入剤がある。
これを飲んで寝ないままでいると、脱抑制が現れ羞恥心が薄れたまま行動できるのだ。
この薬を、私は掛かり付けの整形外科で処方してもらい(「最近(ブロンの副作用で)眠れないんです」「わかった。睡眠薬を処方しよう」←マイスリーだけでなく、後にハルシオンなども処方してもらった。整形外科とは……うぬぬ)、ためしにブロンODと組み合わせて横浜まで行っていたときの話である。
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たしか、この辺りに脱法ハーブ店があった筈……。
そう考えながら、私は人気が薄いビル街を行ったり来たりしていた。
そんなとき、見知らぬ中年のおっさんに声をかけられた。
「電話返してくれないと居場所がわからないよ。はい、3ね」
そう言いながら、なにやら透明な結晶が入ったパケ(薄い透明なチャック付き袋)を手渡してきた。
「は、はあ?」
「あれ、あ、ごめんね、多分人違いだったよ」
そう言いながら、親父さんは取り出したパケをあわててしまう。
それを見てピンと来た。
ーーこの親父、薬の売人だ!
まさかの邂逅に心躍りながら、私は立ち去ろうとする親父さんを引き留めた。
「すみません、大麻とか覚醒剤に興味あるんですけど……売ってもらえませんか?」
バイクに股がりながら携帯を確認している親父に声をかけた。
「ええっと……連絡くれた人じゃないんだよね? 悪いけど、もし欲しいんなら待っていてもらわなきゃならない」
「そうですか……」
「ああ、でも、待ってるっても一時間くらいあればまた来れるから、待っててくれない? 少し安くしとくよ?」
「! お願いします!」
新規顧客を得るチャンスを手放したくはないらしく、今度は引き留められる自分。
まさかこんな裏社会に何の縁もない状態から売人と出会える等とは思っていなかった為、喜んで待つと告げた。
とりあえず連絡先を教えてから、着く10分まえに連絡を入れるからということになる。
「じゃあ、野菜2gと覚醒剤1gで45000円用意しといてね。それじゃまた後で」
「はい」
犯罪者になる目前というのにワクワク感は収まらず、街中を探索しながら私は予定より30分も遅れる一時間半後くらいまで横浜に留まるのであった。
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「遅れてごめんね。はい、チェックするならトイレでお願い」
「あっ、大丈夫です」
この確認という行為が初対面の売人と接する場合、必要不可欠だという事を当時は知らなかった。
だからこそ、後に詐欺られまくるのだが……。
「はい、どうぞ。気をつけて帰ってね。また欲しくなったらうちに連絡してよ」
金銭を手渡した私の手には、パケから臭いが漏れている大麻と、透明な結晶状の覚醒剤を受け取った。
「どうやって客と繋がりを持っているんですか?」
私は気になっていたことをひとつ聞いた。
「そりゃ掲示板とか……まっ、詐欺多いからうちと取引つづけてよ。値段も応相談で多少は下げるから」
そう言って売人ーーAとしようーーは、バイクに乗って立ち去っていった。
私は鞄に無造作に詰め込むと、爛々気分で帰宅するのであった。