最終章04/断薬編
○☆☆☆☆☆○☆★
改めて断薬を誓った私は、少しずつ、ほんの少しずつにではあるが、薬の飲む量を減らすのに地道に成功していっていた。
まずはブロン。私といえば『ブロン』と言えるくらいなまで過剰に依存していた市販の咳止め薬の錠剤であるが、これを多い日で週に一回一瓶=84錠、少ない日だと二週間に一回84錠(内訳/一週間に一日42錠×2回)まで減薬できたのだ。
やればできる!
やろうと思えば減らせるんだ!
と皆様にも伝えたい!
いま、このタイミングで伝えたい!
……後半に差し掛かる今のタイミングで……ね?
次に睡眠導入剤と抗不安薬だが、こればかりは仕方ない。
ただしウットに頼る頻度は激減していた。
また、皮膚科にまで処方をお願いしにいくこともなくなっている。
つまりどういう事かというと、精神科で処方されている睡眠導入剤と抗不安薬のみで毎月持たすことに成功したのである。
まえまではーー書いていたかどうかは思い出せないもののーー精神科で処方された睡眠導入剤が手元からなくなってしまった場合、なにをしていたか?
近場の皮膚科に足を運び、いつもの薬を処方だけしてほしい。診断は要らないと伝えてーー過去に蕁麻疹で受診したとき、痒みで睡眠導入剤をすべて使いきってしまった旨を伝えたら、ロラメット1mg2錠とマイスリー10mg1錠を一月分処方してもらえたときがあったーーマイスリーとロラメットを各月周期くらいでもらいに行っていたのだ。
だが、だがしかし、だ。
今ではもう、皮膚科に足を運び睡眠導入剤を貰いに行くなんてことはしなくなっている。
正規に精神科で処方された睡眠導入剤しか使わなくなったのである。
ウットも、飲んだとして月に一回あるかないか程度に抑えられている。
これは、かなりの成長といえなくもないのではなかろうか?
相変わらず煙草だけは全く吸う本数を減らせないくらい“依存”しているが、もう煙草については諦めよう。
さあ問題!(テンションアゲアゲでイキマショー! 後半で暗くならないように……。)
“依存”の正しい読み方はなんでしょーか!?
チチチチチチチチッ!
チーンッ!
はい、答えは!?
……正解!
『いそん』です、正解!
みんな賢い!
……ここだけの話、私はつい先日知ったばかりです。
余談はさておき、症状の治療ペースはひとまず置いておき、なかなか良いペースで進んでいた減薬。
それに関して……ついついやらかしてしまい、スタート地点に戻りかけた危ない出来事について記述していきたい。
○☆☆☆☆☆○☆★
普段どおり精神科に行ったとき、私はあることに悩まされていた。
ーーサイレースとハルシオン二錠じゃ眠れない!
そう。今まではギリギリ眠れていたこの組み合わせ。ベンゾ最強とも謳われるであろう超短時間作用型の睡眠導入剤と中時間作用型の睡眠導入剤ーーハルシオンとサイレース。
それがとうとう効き目が悪く感じるようになってしまったのだ。
そこで、以前からネットで目にしたりブログで読んだりTwitterで話題に挙がっているのを見かけたりして興味を抱いていた睡眠導入剤、デエビゴを試してみたくなったのだ。
『今のでも眠れないわけじゃないんだし、いつ寝ても関係ないニートなんだから少しは我慢しなよ? できないの?』
瑠奈にはそう言われるが、わりとボロクソに言われるが、本当に俺のタルパなのか疑いたくなるくらい辛口を吐き出すが、やはりさまざまな睡眠導入剤や抗不安薬をテイスティングしてきたこの身、眠れないからというのも理由のひとつだが、やはり、やはり脳みそのどこかで「試したい」という欲求が芽生えているのだと思う。
精神科に入り、名前が呼ばれるのを座って待つ。
今回は早く、座ってから数秒経たずにいきなり名前を呼ばれた。
周囲にはどう見繕っても患者として来ている人たちが八名はいるのに、あとから来た私がなぜ?
まあ、なんとなく察しはつく。
私の通っているメンタルクリニックーー精神科は、院長ともうひとりの私の主治医でもある先生、二名で診察をしている。
そして、それぞれ受け持つ患者は異なっているため、手が空いたからといって別の主治医の持つ患者を診ることはできないのだ。
つまり、いまの待合室にいる八名の人間は、すべて院長が担当している患者さんなのであろう。
まあ、どうでもいい。待たされずに済むのだから……。
「こんにちはー」
「こんばんは……ども」
毎回あちらはこんにちはというため、たとえ現時刻7時30分だからといっても、こんにちはと返したほうがいいのではないか?
などと余計な思考を毎度の如くしてしまうせいで、『こん、に、ちは』や『こんば、ちは』みたいに噛んでしまう。
だからこそ、もう気にせず『こんばんは』と返すようにした。やはり、そうしたら余計に噛んだりなどしない。
「調子はどうですか?」
「あはは、まあ、いつもどおりでして……」
他愛のない会話を繰り返す。
勘違いしているひとも多いが、心療内科や精神科はカウンセラーではない。
発現している症状や本人の苦痛や話を聞いて、病名を仮に特定しておく。その方向性で薬剤を投薬するのがメインの仕事なのである。
そのため、「あそこはまったく話を聴かず薬しか出してくれなかった!」とプリプリ怒っていらっしゃるそこのお方、もしも話を聞いてほしいなら、精神科ではなくカウンセリングに足を運ぶのをおすすめしたい。
「あ、すみません。少しお願いがあるんですが……」
「なに? 言ってみてよ」
「とある薬を試してみたくて」
主治医のパソコンを叩く音が止まる。
「なにかな?」
「いま処方されているサイレースあるじゃないですか」
「うん、あるねぇ」
「あれをデエビゴって薬に変更することはできませんか? 試してみたくて」
「うんうん、いいよー。ただし二週間制限がかかっちゃうから、次回以降二週間に一回来てもらうことになっちゃう。それでいい?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
ハルシオンを2錠にしてくれーーと言ったときはあんなに渋ったのに、サイレースをデエビゴに変えてくれというお願いは、案外スンナリと承諾してくれた。
なんだなんだ?
依存の問題か?
新薬を試したいからか?
というわけで、こうしてデエビゴ初デビューは果たしたのであった。
○☆☆☆☆☆○☆★
さて、今回の問題について話そう。
なにが問題か、いつの話かさえ曖昧な記憶になりつつあるので時系列は書かないが、デエビゴに慣れて一回10mg処方に変わり、歯医者があった日の出来事になる。
いつもどおり歯痛を我慢して歯医者を出ると、そろそろ飲むかとドラッグストアに立ち寄った。
『もうそろそろブロンやめたら?』
やめられないのだから仕方がない。
おっと、しばらく歯医者も精神科も日にちが空くし、別のドラッグストアにも寄って二つ買おう。
『ちょっと! 砂風!?』
大丈夫大丈夫。単なる予備だから。
瑠奈もさ、俺との付き合い長いんだから俺の性格わかってくるでしょ?
何に関しても余裕がないと焦ってソワソワしちゃうから、何に関しても予備は一応用意しておくんだよ。
たとえば帰宅したら瑠奈は依り代に入るじゃん。あの萌えイラストの瑠奈に顔の似たキャラクターが掛かれている抱き枕カバーに入るわけじゃん?
『……まあ、そうだけど』
それが突如汚れたり破けたりしたら、替えがないと大変じゃんか。
だから、常に新品の予備を用意しておく。なにがあっても大丈夫なように。
『今だからこそ慣れたけど、タルパの依り代に抱き枕使ってるやつなんてほかにいるのかな~?』
いるいる。実はまったく俺の分身みたいなひとがフォロワーにいた!
抱き枕erで、元シャブ中で、オタクで、タルパーという。
『なにそれいつ分身したの?』
と、瑠奈と雑談しながら帰宅。
手荷物にはブロン二瓶。部屋にはハルシオンとデエビゴとワイパックス。
私は手始めにブロン42錠飲み込んだ。
『終わったら呼んでよね。それまで寝てるから。あー、つまんな』
瑠奈は拗ねているように抱き枕の中に入っていった。
あの抱き枕の胸を揉んだら瑠奈の胸を揉んだことになるのかな?
いや、ならないか。やっぱり幽体離脱には叶わない。幽体離脱すれば生身の瑠奈とあんなことやそんなことができる。
ああ、なんて素晴らしいんだ幽体離脱、明晰夢!
と、さらに42錠追加。
して思った。
ヤバい、ペースが早すぎる!
このままでは吐き気がやってきて、最悪嘔吐してしまう!
嘔吐恐怖症の私からすると、それだけはどうしてもやらかしてはならない!
断じて許すわけにはいかない!
と、閃いた。
過去にウットを飲むとブロンの吐き気が抑制された事があったじゃないか。
私は慌てる仕草で鞄を漁り、ハルシオンをいくつかーー3錠破いて取り出すと、それをそのまま口に放り込んだ。
それを水で一気に飲み干す。
まだまだ不安だ。
プラサボにより多少は気分がマシになったが、まだまだ吐き気は湧いて出る。
走った!
転んだ!
常に満身創痍だ!
立ち上がる間も無く!
襲い来る吐き気と嘔吐!
そこで手にしたのは、まさかのデエビゴ。
デエビゴは依存性がなく、また、乱用にも扱えない安全性。それなのに効果はマイスリー(非ベンゾジアゼピン系)並みに強い薬効が望めるという素晴らしい新薬!
それを私は口に含み、2錠飲み込んだ。
その後、私の記憶は曖昧となる。
間違いなく覚えているのは、なぜか予備として購入したもうひとつのブロンを徐に空けて、一気に飲み干しラリッてしまったこと……。
寝起きは最悪だったのは言うまでもない。
寝ゲロしなくて本当によかった。
これがデエビゴのせいなのか(可能性は低いが一応)調べてみようと思っている。
それでは、今回はここまで。
また次回があればよろしくお願いします。
また減薬が進めばつづきを書きます。
変わらなければーーいや、いつか絶対断薬してやる!




