再会
「その様子だと問題はなさそうですね。」
俺が質問するとオッサンは笑みを消した。オッサンは暗い顔で長い沈黙が続く。しばらくしてオッサンは口を開いた。
「そうだな……健康という意味では元気だ。そして、兄ちゃんの今後についてだが……」
オッサンは深刻な顔でそう言うので俺は不安になったがおっさんは御構い無しに続ける。
「兄ちゃんにはまず村長の家に行ってもらう。」
オッサンが告げるが俺には何故かわからなかった。
「事情聴取…… ですか…… 」
俺は呼び出しに対し不安を覚えた。もちろん全く落ち目はないのだが事情聴取と思うとどうも緊張してしまう。
「兄ちゃんとシシリーの関係や何故あの場所に居たのか、それから兄ちゃんは何をしに来たのか…… 」
「まぁ、1度に聞いても困るだろうがその辺は村長も聞いてくるだろうから考えを纏めておいてくれよ。」
おっさんはそう言うとふらっと立ち上がった。
「俺はちょっくらシシリーの様子を見てくるから部屋で大人しくしてろよ? まぁ、物色しても大したもんは無いがな! 」
がはははは、とおっさんは一笑いすると家を出ていった。
「ほんと豪快なおっさんだったな。」
そういえばおっさんの名前を聞くの忘れたな…… 後で自己紹介しないとな。そう思いつつ俺は部屋に戻って考えをまとめることにした。
部屋に戻った俺は縦開き式の木の窓を開けて外の様子を見てみた。辺りは暗く小雨が降り、雨の音がするだけだ。
俺はふと戦闘後にレベルアップ音がしたことを思い出した。頭の中でステータス画面と念じると画面が現れた。
名前 梅野樹 LV12
性別 男
年齢 24歳
称号 救いし者
体力 147
精神力 704
攻撃 142
防御 147
魔法 842
素早さ 142
基本スキル 体術(小)
特殊スキル 集中力強化
五感強化
三人称視点
ステータスを確認するとレベルが12になっていたことと
新しいスキルの体術(小)が追加されていた。改めて見てみるとちぐはぐなステータスとスキルだよな…… 接近戦をするにはステータスがいまいちだし、高ステータスの精神力と魔法は使い方がわからない上に魔法関連のスキルも無い。
とりあえず楽にゴブリンを倒せる程度には強くならないと今後が苦しい。レベル上げが当面の課題になりそうだな。
画面を消して村長の事情聴取に備えて今日の出来事をまとめておかないとな。
それから、しばらく今日の出来事について振り返っているとおっさんが戻って来たようだ。階段を上がる足音が聞こえる。
「兄ちゃん、そろそろ村長の家に向かうぞ。支度が整ったら降りてこい。」
おっさんが扉越しに声をかけてきた。
「わかりました。少しお待ちください。」
俺が返答するとおっさんは自分の支度をするのか下の階に降りていった。支度と言っても俺は対してすることがないので直ぐに部屋を出て行った。下に降りるとおっさんは使い込まれてる外套
と予備であろう外套を用意していた。
「おし、来たな!そんじゃ村長の家に向かうぞ兄ちゃん」
おっさんが予備の外套を俺に渡すと外套を着たおっさんはそそくさと歩き出した。
「今更なんですが自己紹介させていただきます。俺の名前は梅野樹と云います。よろしくお願いします。」
俺が自己紹介をするとおっさんは振り返った。
「そうか、俺はリッパーっだ!よろしくな兄ちゃん!」
あくまで兄ちゃん呼称を止める気はないらしいことに俺は少し驚きつつ、外套を着込み村長の家に向かった。日本の夜と違い村の夜は真っ暗で足下も見えずリッパーのおっさんも下手したら見失いかねなかった。
「これだけ暗いと歩きにくいけど大丈夫何ですか?」
訪ねた俺は全然大丈夫じゃないわけだがおっさんは余裕綽々と行った感じで歩き続ける。
「これくらい屁でもねえよ。俺は猟師だから夜間でも歩ける程度には暗視スキルもあるしな。」
おっさんは自信満々に答えた。この世界の猟師は夜間にも狩りをするのだろうか?素人考えでも危なそうなんだが……
「なに不安そうな顔してんだ?村長に会うくらいでびびってんじゃねえよ!男だろ!」
あらぬ勘違いをされてしまったが暗視スキルはこの暗さでも表情を識別できるらしい。
そうこうしてるうちに村長の家に着いた。村長の家は大きく立派な家で、二階建てのログハウスのようだ。暗いためあまり細かいところが分からないが小綺麗な感じがする。
「連れてきたぜ村長!入るぞ!」
おっさんはずかずかと家のなかに入っていった。そんなおっさんとは対照的に俺は緊張して家に入りづらかった。
「お邪魔します。」
俺は中に入り部屋を観察する。中は外観の通り広くなっておりさっぱりした印象を受けた。テーブル席に目をやるとシシリーが席についておりこちらに微笑んできた。シシリーが無事でほっとすると俺も席に向かった。
村長と思われる初老の男性も同じく席についていた。白髪混じりの薄い茶髪に顔には少し皺が出てきており、頬には古い火傷の後があった。リッパーのおっさんほどではないが畑仕事の影響か少しがっちりしている。
「まずは挨拶を、この村の村長をしているダリスと申します。この度はシシリーとセシリーを助けて頂いたようで誠に感謝しております。」
村長は若者の俺にとても礼儀正しく挨拶をしてくれた。とても感じの良さそうな人で良かったと内心安堵する。
「ご丁寧にありがとうございます。私は梅野樹といいます。今回運悪く魔物に襲われてしまい危ないところを救っていただきありがとうございます。」
俺も当たり障り無いように挨拶をし、軽く会釈した。
「いえいえ、お互い持ちつ持たれつということで、今後ともよろしくお願いします。」
「それでは、本題に入らせて頂きます。話の概要はシシリーとリッパーから聞いていますが、細かな点はイツキ殿が詳しいでしょうからお話を聞かせては頂きいのですが…… 」
村長がこちらに話を投げかけてきたので答えることにする。
「そうですか…… 聞いてはおりましたがやはりグレーターウルフが現れましたか…… 」
村長のダリスさんは深くため息をつくと真剣な顔つきでこちらに顔を向けた。
「そこまで深刻な相手なのですか?」
実際に戦い苦戦して追い払った俺が言うのもおかしな話ではあるが、この世界には冒険者がいるのだからプロに依頼すればあっという間に解決しそうな問題だと思い質問したのだ。
村長はそんな俺を見て苦笑いをし丁寧に答えてくれた。
「そういえばイツキ殿は冒険者見習いだそうで?グレーターウルフはランクDの魔物です。普通は冒険者の方でも駆け出しならパーティーを組んでても撤退、ベテランクラスの方でも苦戦するものです。」
村長の発言に俺は嫌な汗をかいた。
「そういった意味ではあの凶暴なグレーターウルフを単独でかつ素手で追い払ったイツキ殿には驚きを隠せません。」
村長は賛辞を送ってくれるが、俺は一歩間違えれば死んでいただろう。よくよく考えれば俺はシシリーに対して「俺を残して先に行け!」みたいな死亡フラグ全開なことをしていたわけだがよく生き残れたなとしみじみ思う。
「あの時は流石に死を覚悟しましたよ。」
俺は思ったことをそのまま言った。
「それはそうでしょうな、つきましてはその驚異的な実力を鑑みて御願いがあるのですがあります。」
ダリスさんの発言でおっさんとシシリーが席から勢いよく立ち上がった。