最後に立つ者
俺はただ眺めていた。そして俺の意識とは関係なく身体は剣を突き出していたことを視認した瞬間、俺の体は宙に舞っていた。
私はセシリーを私の部屋の衣装棚に隠した。昔村が山賊に襲われた時、ここに隠れてやり過ごした事もあり、子供1人分ならギリギリ入れるスペースだから。
「セシリー、狭いだろうけどここでじっとしていてね?きっと無事にやり過ごせるから……」
「お姉ちゃんはどこに隠れるの?」
「私は隠れられそうな所を探してみる。この家じゃ私が隠れる場所は無さそうだから……」
「そんな!お姉ちゃん一緒に居て、私を置いていかないで!」
涙を流しながら懇願する妹、きっと心細いのだろう。だけど妹と一緒に居るわけにはいかない。
「セシリー聞いて、今イツキさんが外で戦ってくれている。なんの利益にもならないのに逃げずにこの村のために戦ってくれているの。」
私は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ
「だからね、私達も戦わないと。イツキさんだけに戦わせるのは不義理だから…… だからセシリーは孤独と戦って、私は恐怖と戦うから……」
「お姉ちゃん…… 私頑張る。だからきっと助けに来てね?」
引き出し越しに話す妹の声は震えていた。小さな子供が不安を抱えながら待たなければならない。私は胸が張り裂けそうだった。
「良い子ね…… 必ず呼びに戻るからそれまでじっとしていてね。」
私は必要な物を用意するため台所に向かった。以前ナイフはだめになってしまったので包丁を念のために持ちだす。
私はセシリーに嘘を吐いた。酷い姉だと思う。でも私はイツキさんの後を追うことにした。
私にはきっと何もできないと思う。でも、せめてイツキさんの勇姿をこの目に焼き付けておきたかった。理由はわからないけど、きっと部屋に隠れているだけで助かったら私は自分を許さないと思う。
私は家を飛び出して悲鳴の聞こえる方へ走り出した。
私が走ってる最中に何かがぶつかる音がした。きっと戦い音だと思う。時折剣の音が響き渡る。
ギャイン
グレーターウルフの悲鳴が聞こえた。声はもう近い。私は近くの家の陰に身を隠し様子を伺う。グレーターウルフは後ろ足から血を流して銀色の毛を赤くしている。足を引きずっている様子はないけど少しフラついている。一方で背中を見せる剣を見せる男性はおそらくイツキさんかな…… 腕から血を流して服が真っ赤だ。それでも気丈に剣を構えているが焦っている様子が伺える。
私はそれを見て不安になってしまった。きっと一番不安に感じているのは彼なのに信じてあげられなかった自分に怒りを覚えた。
「ぼさっとしてんじゃねぇ!死にてえのか!」
リッパーさんの大声がこちらにも届いた。矢はグレーターウルフには当たらず、痛みのためかリッパーさんはズルズルと壁に背を預け膝をつけるとそのまま倒れてしまった。
私は声を上げそうになり思いとどまった。今声をあげたらきっと2人の邪魔になってしまう。自分の不甲斐なさに心が沈む。
「おっさん!しっかりしろ!」
イツキさんがリッパーさんに声をかける。リッパーさんの血が土に広がっていく。
イツキさんは少しふらついている、そしてグレーターウルフがリッパーさんをチラッと見て、今度はイツキさんに向かって走り出した。
イツキさんはグレーターウルフに剣を振るけどグレーターウルフはそのままイツキさんを押し込んでいた。あっという間に木にぶつかりイツキさんが苦しそうにしている。木の陰に入ってしまって状況がよく見えない。
すると突然イツキさんが倒れて込んでしまい私は絶望した。もうこの村はお終いなのだと諦めたその時
バキッバキッ
木の幹が割れる音がしてイツキさんはゆっくりと立ち上がった。私はそれを見て安堵した。目から涙が出た。きっと今は顔がクシャクシャになってると思う。でも、何よりイツキさんが無事でホッとした。
私はグレーターウルフに目を向ける。ここからだとグレーターウルフの後ろ足しか見えないけど何やら動く気配がない。そのためかイツキさんは剣を構えてグレーターウルフに向かって一心不乱に剣を振っていた。
それでもグレーターウルフは動かないようにしているのでイツキさんは一度距離をとった。
イツキさんが剣を構え直して少し間を置くとグレーターウルフに向かって走り出した。すると木の幹から音がした。
バキッバキッバキン
グレーターウルフがたたらを踏みながらイツキさんに身体を向けると直様大きく口を開いて噛み付いた。イツキさんは咄嗟に剣を突き出して応戦するがぶつかるや否や空高く吹き飛ばされた。たぶん大人2人分位の高さはある。
イツキさんはそのまま地面と衝突して動かなくなってしまった。イツキさんもリッパーさんも2人とも死んでしまったのだろう。私はただ何も感じずただ眺めていた。
グレーターウルフはイツキさんを空へ飛ばすとともに地に倒れ伏した。どれくらい時が経っただろうか一瞬かもしれないし長い間が空いたような気もする。
グレーターウルフは先ほどのイツキさんの攻撃で口から後頭部にかけて剣を生やしていた。
グレーターウルフはゆっくりと立ち上がりイツキさんの元へふらつきながらもゆっくりと一歩一歩を踏みしめるように歩いた。
グレーターウルフは唸りを上げながらイツキさんの身体を下の歯に引っ掛け子犬を運ぶように持ち上げ森の方向に向かって引きずり歩く。
私は思わず立ち上がり、グレーターウルフに向かって駆け出した。
「イツキさんを返せ!!!!その人は大切な人なんだ!!!!」
グレーターウルフは思わず振り返り歯から抜け落ちたイツキさんがその場に倒れ臥す。
私は動かないグレーターウルフに向かって包丁を高く振り上げ切りつけた。
グレーターウルフは噛み付こうと顔を横にして私の胴体に噛みついた。しかし、余り痛くない。歯が少しだけ肌に食い込むが私はそれを無視する。
噛む力が増えることはなく時折ピシッパキッとヒビが入るような音がする。私はグレーターウルフの首元の毛を鷲掴み、包丁を逆手に持って乱雑に突いた。




