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地に沈む者、宙に舞う者

 俺は内心ほくそ笑みながら畳みかけようと集中しようとして異変に気付いた。

 あれ?集中しても何も変わらないぞ…… 俺は不安にかられ第三者視点も発動させた。こちらは無事発動したが直ぐにまた元の視点に戻ってしまった。


「な?!スキルが上手く発動しない?!?」


 動揺している俺をよそにおっさんは弓を引きグレーターウルフを狙う。


「ぼさっとしてんじゃねぇ!死にてえのか!」


 おっさんは怒声を放ちながらも矢を射る。しかし、矢はグレーターウルフの顔を(かす)める。


「ぐっ……」


 おっさんは壁にもたれながらズルズルと膝を折り、ついには地に倒れこんだ。壁には血がべっとりと付着し身体の軌跡を作る。


「おっさん!しっかりしろ!」


 グレーターウルフの様子を伺いつつおっさんに声をかける。

 おっさんの血は止まっておらず脇腹からの出血が酷い。血が少しずつ地を染める。このままでは長くはないだろう。


 おっさんのことも心配だが俺の方も体が重く、頭がクラクラする。


 グレーターウルフは倒れたおっさんを一瞥し、こちらに振り返った。俺は剣を持ち直して剣先をグレーターウルフに向ける。


 グレーターウルフがこちらに向かって駆け出す。俺は向かってきたグレーターウルフに剣を横薙ぎする。

 グレーターウルフはそれを噛みつくことで受け止め、そのまま剣を押し込んできた。


 俺はとっさに剣とグレーターウルフの鼻先を手で掴み押し込みに対抗するが、体重差のせいで押し込まれ続ける。やがて俺は木の幹に体を押し込まれる。


 踏ん張り続ける俺だが、徐々に剣が腹に押し当たる。俺はグレーターウルフの胸に蹴りを入れると今度はグレーターウルフが素早く剣を離し俺の顔めがけて噛み付いてきた。


「っ!?」


 俺はこれをスウェーの様に横に背を反らせることで回避に成功したが勢い余り倒れる。

 グレーターウルフは勢い良く噛み付いた結果木に噛み付いた。


          バキッバキッ


 木の幹がひしゃげ樹皮が悲鳴をあげる。


「こ、こぇぇぇ…… 木の幹噛み砕くとか無いわ〜」


 俺はふらつきながら身体を持ち上げて立ち上がる。もしも、噛み付かれていたら、俺の頭が砕けていただろう。よく俺の腕は噛み砕かれなかったなと思う。ステータスの影響だろうか?


 グレーターウルフは木の幹に未だ噛み付いたまま離れない。


「ほー、ひょっとして外れないのか?」


 俺は剣を構えてグレーターウルフに突撃した。剣を縦に横にとグレーターウルフの身体の側面に叩き込む。が、相変わらず刃は多少毛を切る程度で刃は肉には届いていない。


「やっぱり刃が通らないか。なら……」


 グレーターウルフは未だ歯が抜けずにいる。ダメージは通らないが不快感はあるのだろう。唸りながら身体を強張らせる。


 俺は息を切らしながら一度距離を取る。俺の攻撃は通常の手段ではまず通らない。しかし、俺はグレーターウルフに痛撃を与えている部位がある。俺はそこに狙いを定める。

 恐らくグレーターウルフの歯が抜けたら満身創痍の身体では俺は負ける。俺は次の一撃で決着をつけるべく剣の柄を右脇に持っていき突きの体勢になる。


 俺はグレーターウルフに向かってもう一度突撃した。グレーターウルフも何か察したのだろうか前足に力を込めて木から抜け出そうとする。


        バキッバキッバキン


 グレーターウルフは木から力技で抜け出した。その結果虎の様な巨体が慣性の影響でふらつきながら大きく後ろに下がる。


 俺は焦りを覚え身体が強張る。トラックに跳ねられる時の様な死の恐怖が蘇る。息はあがり脂汗が背を伝う。それでも俺は突撃をやめなかった。


 俺とグレーターウルフの距離は詰まりお互い射程圏内だ。グレーターウルフは距離が詰まると同時に体勢を整え、怒りをぶつけるかの如く再び大きく顎を開いた。


 俺は相手の不意な動作に完全に頭が真っ白になった。トラックに跳ねられる時の様に再び時間が緩慢になる。


 これはスキルだろうか?ただの走馬灯だろうか?


 そんな意味のないことが頭をよぎる。戦いのことなんか頭になんか無かった。只々(ただただ)時間が緩慢に流れすぎる。


無理に引き抜いたからだろう口からは抜け落ちた(まば)らな歯、血に染まる顎、跳ねる唾液、怒りに燃える眼。


 俺はただ眺めていた。そして俺の意識とは関係なく身体は剣を突き出していたことを視認した瞬間、俺の体は宙に舞っていた。

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