序章
もし生まれ変わったなら。…今度は何がしたい?
…人には一人一人、お気に入りのものが存在する。
お気に入りのスポット、お気に入りのアプリ、お気に入りのぬいぐるみ。
けれど、お気に入りがあるという事はその逆もしかりで…
「あんたの何もかも気に入らないのよ…」
気に入らないという事も、この世の中には存在してしまったりするらしい…。
羽屋 真澄24歳、独身。職業、OL。私は今、勤務先の部署の御局様から刃物を向けられている…。
御局様の私イジメが始まったのは3カ月程前からだ。
…入った当初は仲良くとまではいかなくても、それなりの関係性を保っていたはずだった。
それが何故か彼女がピリピリする日が増えた。職業の空気が悪くなり、私に仕事を押し付けたりミスを押し付け、手柄だけは横からかすめ取る事が頻発して…。そして、私は今。彼女から刃物を向けられている。
「…な、ぜ?」
「…なぜって、貴女が悪いのよ?営業課の崎元くんは私が狙ってたんだから!!」
「.…さ、き、もと?」
…って、誰だよ?
「しらばっくれないでよ!飲み会の時隣にたまたま座ってた彼と親しげに話してたのを私、見てたんだからね!!」
その言葉とともに、明るい茶髪と柔らかい笑顔が脳裏をかすめた。
『…総務課の羽屋さん、だよね?初めまして、営業の崎元です』
あっ…あの人かと思ったのと同時に、私の脇腹にはナイフが刺さった。
「なん、で…」
…その先を口にすることもできずに、私は意識を手放した。
暗い意識の深い奥で、ぐるぐると解けないままに問答を繰り返す。
…彼とはその飲み会以来会っていない。
『今度、宜しければお食事でも?』
その約束は、結局は約束のままになってしまった。
その後から始まった彼女の嫌がらせのせいで、私は休み時間を削り、帰宅時間も終電ギリギリにしなければならなくなったから。人と食事に行くのなんて、当然無理な事だった。
飲み会で彼と会話することは、彼女からこんなに意地悪を受けなければいけない事だったのか。
…頑張ればいつか打ち解けられるなんて、いつかは頑張りを認めて貰えるなんて思って、私…馬鹿みたいだ。
…結局は、こうして殺されるのに。
頬を涙が伝い落ちるのと同時に、私は命を散らせた。
私を刺した後の彼女がどうなったのかは、わからない。
覚えているのは狂気じみた彼女のその瞳の光だ。
…以上が、前世の壮絶な記憶の一部だ…。
クレメンス・ソールズベリー。公爵家の三男で、男ざかりの23歳。…それが、今の俺だったりする。
わかるだろ?…なぁ、わかるだろ?
繰り返し見る、女に刺される夢。
…だってさぁ、隣に座ってた人と場を和ませるために会話しただけで普通は刺す?いや、刺さないだろ?
どんな思考回路してんだよ?本当に怖い。…どこが爆弾なのかわからない。
今の俺は、前世の影響で完全に女性不信だ…。
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書き方がイマイチわからないので、スロー更新になると思います。