大学生がただただご飯を食べる話
「――今年度の授業はここまで。皆さんテスト頑張ってください」
んあ~ようやく終わった。なかなか良い睡眠時間であった。
やれやれ、このクソつまらん講義はもう受ける必要などない。それだけで不思議と幸福感が生まれてくる。
……さて、お昼だし、ご飯でも行きますか。
残念なことに、この講義はお一人様で受けている。友達と駄弁ることもなし。気ままに美味しそうなお店でも探そう。孤独は自由である。
さてさて、お財布の残高は……う、しまった。500円ちょっとしかない。ATM行かなきゃ。
……まずい。
これは大ピンチ到来だ。
口座に2000円しか入っていない。
そーいや、飲み会に次ぐ飲み会で出費がかさんでたなぁ……。しかも後輩の分、出したりしてたし。交際費、侮れん。
バイトの給料はいるの、来週だし……今日はカップ麺で安く済まそう……。
いや、待て。
そんなことをして、私の胃は満足するだろうか、いやしない(反語)
第一今日はバイトだし、カップ麺では重労働に耐えられん。
が、下手に外食すれば……赤字は必至。魔法のカードに頼れるほどリッチではないのだ。
うーん、悩ましい。受験の時以上に悩んでしまう。
エンゲル係数が常人の二倍ある私にとって、食は何よりの幸福。最高のひと時。太らないよう運動していっぱい食べるほどには好きなことだ。
あ、そうか。学食があったな。コスパ最強、腹をすかせた学生の味方。高い学費を払っている甲斐がある。
まずC食堂は論外だ。あそこはオシャレさ全振りで味も量もいまひとつ。となるとA食堂かB食堂しかない。むしろ学食はここ以外に選択肢なぞない。
A食堂は一品料理の組み合わせで自分だけの定食を構築できる。あそこの揚げ出し豆腐、美味いんだよなぁ。名物の“伝統カツカレー”は売り切れ必至の人気メニュー。
対してB食堂は王道を攻めた学食。ラーメン、カレーはもちろん、日替わり定食やオリジナルの丼ものまで完備。規模も大きく入りやすさは一番だ。
いつもなら、迷わずAに行くが、金欠気味の私にとってはいささか足が遠のく。つい夢中になって料理を手に取り、野口さんが出動すること間違いなしなのだ。
うん、B食堂に決まり。
わかってはいたが、混んでいるなぁ……。次の授業が無い連中がテーブルで談笑をしている。頼むから他所でやってくれ、席が足りてないんだ。
ひとまず、食券を買ってしまおう。最悪、カウンターに行くのは空いてからでも問題はない。
列の最後尾に並び、ショーケースの確認。今日の日替わりは――――麻婆豆腐かって、げっ。値上がりしてる。最近来ていなかったせいか、思わぬ誤算だ。これはお財布にやさしくないぞ……。
こうなってくるとワンコインを越えた定食系は完全に予算オーバー。世知辛い世の中だ。かといって安い麺料理も渋い。ラーメン好きの私の胃袋が暴動を起こしてしまう。
残るは、カレーか丼か。今日はバイトもあるし、量の多いカレーで攻めよう。
私の胃は、何カレーを欲しているやら。シンプルにトッピングなしか、はたまたキーマカレーに手を伸ばしてもいい。が、サンプルを見た瞬間に心は決まった。
――カツカレー。
A食堂のものとは違い、カレーの上にやすっちいカツが乗ったものではあるが、それがたまらなく魅力的な一品だ。それに、値段。汁物を付けてもワンコイン以内で収まる。すばら、だ。
よし、カツカレーに……味噌汁にしよう。一見、邪道に見える組み合わせだが、それは浅はかというもの。食後の一杯が、とてもしみるのだ。
「はい、カツカレーと味噌汁ね。味噌はそこのお椀取ってってください」
サイドメニューは自分で。具材の入ったお椀に好きな出汁を注いでいくスタイル。今日のラインナップは――白味噌に貝汁、赤味噌……は売り切れか。ならば貝汁一択。
「はぁい、おまちどうさま」
福神漬けは好きなだけ乗せられるが、私は乗せない派。カレーはストレートに食すべし。
ちょうど、一人席が空いたようだし、食べるとしよう。
「……いただきます」
まずはルーを一口。
あぁ、これこれ。辛さ控えめ塩分多め。本場感ゼロの日本風、量産型のうまみ。これがたまらん。そしてこれを上書きするように白米を投入。塩気が中和され甘味が増大、これはたまらない快感だ。
そしてご飯の上のトンカツ。薄っぺらいが、不思議とパンチの効いているこいつをストレートに食す。
サクッとした衣に程よい弾力のお肉、安くてもトンカツだ。
続けて白米……おっと、いけない。このまま無限ループに突入したらルーが一人ぼっちだ。危ない危ない。ペースを考えなくては。
ならば、こういうのもアリだな。
スプーンに米、ルー、トンカツ。三種盛り、今にもこぼれそうだ。
んおぉ! これはナイスだ。程よい塩気がソース替わりで、トンカツご飯にベストマッチだ。カレーはストレートに食す私でも、これは病みつきになりそうだ。
難点があるとすれば、具が少ないこと。おうちのものとは違ってルー単体での勝負。が、それも魅力の一つ。飾らないうまさがそこにはある。
ふぅ……中々いい食事であった。
そして最後、しるのみそ。ミソスープ。これを一口。
「はぁ……」
たまらん。貝出汁の奥深い旨味が体に染みていく。私の中にある日本人のDNAが涙を流して喜んでおられる。魂に染みわたる味だ。
具のわかめと豆腐も名脇役。最後まで飽きさせない味だ。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
最後にお茶を飲んで口の中をリセット。余韻に浸りすぎないことが次もおいしく食べるコツだ。
お腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなってきた。
……よし、電車の中で寝るとしますか。
今日のバイト、頑張れる気がしてきた。
~本日の献立~
『学食のカツカレー』
・具のないルーに安っぽいトンカツが乗った学食らしい一品。量を追及する学生にとってはこの上なく愛されている。大盛はデブでも大満足。
『学食の味噌汁(貝汁)』
・白味噌を貝の出汁で溶いてある。具はわかめと豆腐。奥行きのある旨味は好きな人が多いはず。かつおだしとは違った趣がある一杯。