表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
71/90

予想を超えた特殊能力魔法

久々の更新になってしまいました。

ご覧いただいている方々、すみません。

まだ、続きますが、引続きよろしくお願いします。

 東京都港区白金台某所・久世家

 7月24日 金曜日 午前11時18分


『だって、沙希ちゃんはその魔法を見た事が無いからでしょ? だから、“真似”できなかったのよね』


 セリーヌという予期していなかった人物からもたらされた以外すぎるその一言は、賢斗を除く一同に大いなる衝撃を与える事となった。

 故に、一同の視線がセリーヌへ向けられる。

『次は何を語るのか?』そんな好奇心が充満したような空気感の中で、彼女は再びその愛らしい唇を開いた。


フロート(浮遊)は賢斗が見せたから真似できた。でも、沙希ちゃんはアブソリュート・ゼロ(絶対零度)を今まで見た事が無い。だから、真似できない。真似できないから発動も兆候も見られない、何も起こらなかったって現象が起きたんでしょ」


「いやっ、待って下さいよセリーヌさん。さっきから、真似する真似するって言ってますけど、見ただけの魔法を真似して発動させるなんて、いくら沙希ちゃんの魔力が驚くほどに跳ね上がったからっておいそれと出来る事じゃ無いですよ」


 柔和な笑みを浮かべながら良く通る澄んだ声で説明したセリーヌに、宏也が難しい表情を浮かべながら反論する。

 それに対しセリーヌは、表情を崩すことなく頷きながら宏也の反論を聴き終えると更に続けた。


「そうね、でも真似するって表現しないと説明できないのよ。だって沙希ちゃん、フロート(浮遊)の魔法を発動させるのに呪文(ルーンワード)を使ってないんですもの」


「確かにそうですけど、無詠唱とか詠唱省略なんてそんなに珍しい事でもないですよね?」


 そう小首を傾げながらセリーヌの話に意見を述べたのは、今まで聞き役に徹していた聡子であった。敵対する相手や同行している術者の実力・人数にもよるだろうが、戦闘状態の中で呪文(ルーンワード)をのんびり紡いでいる時間などさほど多くは無い。したがって、無詠唱や詠唱省略での魔法発動はポピュラーな事柄である。

 しかし協会が推奨しているのは、安定した発動や十分な威力を持った魔法を行使しようとするなら呪文(ルーンワード)を詠唱する事が望ましいとされる。それは、敵対する相手との実力差が拮抗している状況であれば、最終的にどちらが決定打を放てるかに勝敗が左右される確率が高くなるし、仮に協会に属する術者同士の模擬戦闘ならまだしも、協会の術者たちが相対するのは魔物であったり社会に仇をなすような組織の術者である事が多く、敗北=死という結果が待っているからである。だからこそ、術者たちはチームを組み、それぞれが任された行動を取る事によって攻撃役の詠唱時間を稼ぎ、上級魔法などの確実な一撃を相手に与えるといった流れがもっともオードドックスな戦闘スタイルとなっているのである。

 もちろん、そこまで備えをしても負傷者や死者は0にはならないし、紫苑のように協会から実力を認められ単独で任務にあたるものもいる。

 いずれにしても、聡子の意見は正論である。きっちり詠唱を紡ぐよりも、無詠唱・詠唱省略での魔法行使の方が断然多いのだから。


「まあ、慣れた魔法なら詠唱省略してもおかしくないけど、初めて使う魔法を詠唱省略して安定発動させるなんて、どんなに魔力が強くても出来ないわよ?」 


 聡子の意見に同意しながらも、涼子は抗いようのない矛盾点を示す。

 そこへ、全ての意見を根本から覆す事を紫苑が言い放った。


「いずれにしても、普通に考えれば今の沙希がフロート(浮遊)を発動させられるわけないはずなんだ」


「あぁ? 紫苑、そりゃあどういう理屈だ?」


 その意見が納得がいかないのか、イラついているのが丸分かりな言い方で宏也がすかさず問い詰める。

 彼を含め、ここにいる全員がつい何分か前に沙希がフロート(浮遊)を発動させるのを見ている。にもかかわらず、紫苑は発動させられるはずが無いと否定したのだ。他のメンバーに比べ、やや脳筋な宏也がイラつくのも無理もない話であった。


「根本的な事だ。だって、沙希はまだ法術師(ローソーサリー)Dランクのド新人なんだからさ!」


「「「あっ!!」」」


 苦笑いを浮かべながら答えた紫苑の言葉に、宏也・涼子・聡子の3人は何かを思い出したのかほぼ同時に大きな声を上げた。


「だから、沙希ちゃんの特殊魔法は、他の人が発動した魔法を見て真似する事が出来るんじゃないかなって私は思ったんだけど?」


 紅茶のカップを片手に、微笑みを浮かべながらそう言ったのはセリーヌである。


「うん。多分、真似すると言うよりコピーすると言った方が良いかもしれないね」


 そうセリーヌの言葉を補足する様に、賢斗が付け加えた。


 ────。


 一瞬、その場を沈黙が支配した。


「もし、それが本当なら、正に何でもありのとんでもない特殊能力魔法って事だよな……」


「そうね。凄いを通り越して、怖いくらいだわ」


 呟くように吐き出された宏也の言葉に、涼子が溜息のような相槌を打つ。


「取り敢えずさ、地下の訓練場に行こうぜ。どの位の事が、どの位出来るか確認しないとだろ? 沙希、このまま続けても大丈夫そうか?」


「うん。全然大丈夫だよ。却って今の方が調子が良いくらいだもん」


 紫苑の問いかけに、沙希は即答で返事を返した。

 画して、セリーヌと康子を覗くその場の全員が、地下の訓練場へ移動する事になった。


「沙希ちゃん凄いね!」


 聡子にそう促され、地下への階段を下りながらふっと沙希は思う。


(魔法をコピーする能力だって…… 何だか実感が湧かないなぁ……)


 この時、沙希を含め全員が、大きな認識違いをしている事に気が付かないでいた。

 そして、それはすぐにとんでもなく驚く結果をもたらす事になる。


 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 訓練場へ下りて来た一同は、沙希の能力を見極めようと様々な魔法を発動させて見せ、それを同じように発動させるを繰り返した。

 本来なら、魔力切れを起こしてもおかしくないほどの魔法を使っているのにも関わらず、沙希は特に変わった様子も無く淡々と促されるままに魔法を発動していった。


「Aランクの魔法も難なく発動させるとは…… この分なら、Sランクも余裕で発動できるかもしれない。本当にとんでもない能力だな」


 期待の籠った言葉を口に、どことなく嬉しそうな素振りを見せ次の準備を進める賢斗。

 そんな賢斗の姿を横目に見た沙希は、傍に立つ紫苑のシャツの裾を軽く引っ張った。


「うん? どうした沙希? しんどいくなって来たか?」


「ううん、大丈夫」


 すでに訓練場へ降りて来てから小1時間が経過している。

 心配そうな紫苑の言葉に沙希は、首を横に振りながらそう答えるが、表情はやや曇った感じだ。


「連発で疲れただろ? もう少しだから頑張れ」


 そう気遣いを見せる紫苑に、沙希はもう一度首を横に振ると切なそうに答えた。


「あのね、紫苑。何だか気持ちが、凄くもどかしいって言うかモヤモヤするの…… だから、一度だけ好きな魔法を使って気持ちをスッキリさせても良いかな?」 


 沙希の曇った表情と、普段あまり言わない我儘を言った事から、紫苑は彼女の切実さを汲み取り賢斗の方へ視線を飛ばす。同じくそれを聴いていた賢斗と視線が合い、お互い確認したように頷き合った。


「よし! じゃあ、好きな魔法ぶっ放して良いぞ! この際だから、思いっきり派手なのを頼むぜ。ここは、マスター(父さん)が張った強力な魔法結界があるから心配しなくて良いぞ」


「うん! 分かった!」


 紫苑からOKを貰った沙希は、意気揚々と少し前に進み出た。

 スッと正面に右腕を付きだし、目を閉じて意識を集中させる。


「飛べ、鳳凰!」


 カッと目を開き、力の籠った言葉が言い放たれる。

 次の瞬間、2mはあろうかという大きな羽を羽ばたかせ、深紅に燃える巨鳥が真っ直ぐに空間を猛スピードで飛んで行く。炎が発した爆音が空気を震わせ、まばゆい光と高温を撒き散らし、所々に点在していたライト(灯り)の魔法を消滅させながら、訓練場の端まであっという間に辿り着いた。


 《バリバリバリバリッ》


 炎の巨鳥が、魔法結界に接触したのであろう。つんざく様な音と共に、訓練場が微振動を起こし始める。沙希を除く一同は、事の行方を確認しようと腕で光と熱から頭を庇い、振動に翻弄されないようしっかりと踏ん張りながら訓練場の奥を注視し続けた。


 やがて───


 《パァンッ》


 というスターターピストルの音に似た甲高い音と共に場内が一瞬で暗くなり、次いで奥から熱を孕んだ風が勢いよく駆け抜けていくと、最後に静寂だけが残された。

 そんな無音の中、最初に行動し声を上げたのは、他の誰でもない事を起こした沙希である。


「あー、スッキリしたっ」


 クルリと一同の方へ振り返り、晴れやかな笑顔でそう言った彼女の目が捉えた物は、身構えた格好のまま硬直しポカンとした表情を浮かべる紫苑達の姿だった。


不定期更新中です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ