寄り道の途中で・・・
いつも読んでいただいてありがとうございます。
本日も雨が降っていて、じめっとした空気がすごいです。
お互い、体調には気を付けましょう\(^o^)/。
東京都千代田区神田神保町某所
7月1日 午後4時28分
神田神保町。数多くの書店・古書店が立ち並ぶ本の街であり、毎年10月に神田古本まつりが開催されている。
本日の授業が終わった沙希は、「ケーキショップでお茶して帰ろう」と言う真樹と啓太の誘いを断り、京王線に乗ってここ神田古書店街を1人歩いていた。
(フロンティーヌのケーキ食べたかったなぁ……)
帰宅途中の駅前に、最近出来たケーキショップを思い出しながら、沙希は深いため息をついた。甘い物に目がない沙希が、真樹たちの誘いを断ったのは、どうしても外せない用があったからだ。沙希が誘われている時、一緒に隣の席の紫苑を啓太が誘っていたが、彼も用事があったらしく誘いを断っていたようだった。
少し俯き加減でとぼとぼと歩いて行く沙希は、賑わいのある通りから人通りの少ない路地へ曲がった。その路地は、比較的マイナーな古書や、医学書等を扱う専門古書店が軒を連ねているエリアで、必要な人達しか来ないであろう通りに、人気はない。
(う~、やっぱりこの通りは、1人だとちょっと怖いなぁ~)
まだ周囲は明るいが、静かで淋しい通りを、何かに急かされたかのように沙希は歩を速める。目的地までは、あと5分足らずだ。
そんな時、自分以外の足音が後ろの方から聞こえて来るのを、沙希の耳は聞き逃さなかった。
(やだっ、誰か後ろにいる。どうしよう……)
振り向いて確認したい気持ちはあるが、妙な恐怖心があり振り返ることは出来ないし、近くの古書店は、女子高生の自分が制服で入るには違和感がありすぎる。走って目的地まで行こうかとも思ったが、急に走り出して相手を刺激した挙句、追いかけられるような事にでもなれば、無事に逃げきれる自信も無かった。
平常心を装いながら沙希は、どこか逃げ込める場所は無いか早足になりながら周囲を見回す。
そこへ、
「なにビビッてキョロキョロしてんだよ」
ポンッと肩を叩かれると、今日1日でそれなりに聴き慣れた声が、頭の上から降ってきた。
「へっ!」
ビクンと体を震わせ、素っ頓狂な声を上げながら足を止めた沙希は、声のした方を見上げる。
「よっ、月ヶ瀬さん。こんな所で奇遇だなぁ。(俺は、神保町駅で見かけてるけど)」
軽く手を挙げながら、笑みを浮かべているのは……久世紫苑その人である。
「くっ、久世君! どうしてここに? (まさか今日、初めて会って、いきなりストーカー!?)」
突然現れた紫苑に問い掛けつつ、やや警戒しながら、ドキドキする心臓を落ち着かせるように、沙希は自分の胸に手を当てた。
「別に、お前の跡をつけて来たわけじゃねえよ! 俺もこの先に用があるんだ」
「そ、そうなんだ。ビックリしたぁ~」
自意識過剰だった自分の考えを、完全否定した紫苑の言葉にほっと胸を撫で下ろす沙希は、ある事に気が付き、
「でも、この先に久世君が好んで行く様なお店無いと思うけど……」
4月初めから、この道を頻繁に使って目的地に通っている沙希は、この界隈の店舗が、どんな品物を扱っているかをある程度知っていたので、疑問に思ったのである。
「まあ、俺も今日初めて行く場所なんだけどさ。って言うか、勝手にどこかの店に行くって決めつけんなよ。誰かと待ち合わせかも知れねぇだろ?」
「そっか、それもそうだよね」
至極もっともな事を紫苑に言われ、沙希は納得して彼に頷くと、
「私、この辺ちょっと詳しいから、案内しようか?(1人で行くより安心だし……)」
1人で歩いて行くことの淋しさと怖さに、うんざりしていた沙希は、案内に託けて彼に提案すると、
「そう言ってくれるのはありがたいけど……。月ヶ瀬さん、急いでるんじゃないのか?」
「まだ、時間に余裕があるから、大丈夫だよ。それに、1人より2人の方が楽しいし。で、久世君はどこまで行くの?」
自分に気を使ってくれた紫苑に、(実は1人で淋しかった)と白状してしまっている事に気が付かず、沙希はスマホの時計を見ながらOKサインをする。
「大丈夫なら、俺は助かるけど……。月ヶ瀬さん、ホントは1人じゃ淋しいだけだったりして。それとも、実は、俺の事が気になる存在だったりする?」
紫苑に、1人歩きの淋しさを指摘され、尚且つ思ってもみない事を言われた沙希は、
「ちっ、違うもん。違わないけど、そうじゃなくてっ……。あ~、もう、からかわないでよね」
プチパニックを起こしながら、顔を真っ赤にして紫苑に抗議する。
「ぷっ、くっくっくっ。冗談、冗談だって。悪かったよ。(おもしれー、やつ)」
くつくつと笑いながら沙希に謝る紫苑に、沙希はちょっとムッとした顔をしながら、
「それで、私は、どこに久世君を案内すれは良い?。(って言うか、笑いすぎだよ!)」
両手を腰に当てて、頬を膨らませながら、紫苑を睨みつけた。
「そんな怒るなって。俺が行きたいのは、HydeAndSeekってアンティークショップなんだけど、知ってるか? そこで、知り合いと会う約束なんだ」
怒り顔の沙希に向かって、苦笑しながら紫苑が目的の場所を告げる。
「えっ、HydeAndSeek?! 知ってるもなにも、私もそのお店に用があって、行く途中だったんだ」
沙希は、からかわれて怒っていた事も忘れて、驚きに目を見開いた。
「なんだ、目的地が同じなら一緒に行けばいいんじゃん。じゃあ、早速行こうぜ」
「うん、そうだね。遅くなっちゃうし、行こうか」
さも当然といった感じの紫苑に、沙希は返事をすると、2人は連れ立って歩き始める。
沙希は、ふっとさっき彼が言っていた事を思い出し、
(久世君、大人っぽくてかっこいいし、待ち合わせの相手は彼女かな? お洒落なアンティークショップで待ち合わせなんて、ちょっと羨ましいな)
沙希は、そんなことを思いながら、浮かんだ疑問を解決すべく、
「知り合いって、女の人? もしかして、彼女? ねぇ、可愛い?」
「女性っていうのは合ってるけど、彼女じゃねぇよ。可愛い? そうだな、どちらかと言えば、綺麗って言った方がいいと思うけど……」
矢継ぎ早に質問してくる沙希に、待ち合わせ相手の容姿を思い出しながら紫苑が答えた。
そんな会話をしながら、並んで歩く2人の目の前に、ヨーロッパ調の外観をしたお店が現れたのは、それからすぐの事だった。
明日は、日曜日ですので更新はお休みの予定です。
また、月曜日に更新出来たらいいなぁと思っております。