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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
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接敵

長らくお待たせいたしまして、申し訳ございません

 東京都豊島区東池袋某所・巣鴨プリズン地下訓練場

 7月23日 木曜日 午前10時43分


 瘴気という名の目に見えない不快な澱みが、広い空間に徐々に広がって行く様を感じ、沙希は軽く身を震わせた。

 その瘴気を撒き散らしているであろう邪霊瘤と呼ばれた異形は、ズリズリと沙希達のいる部屋の中央へと這い寄ってくる。


『オオオオオオオ~』


 突如、異形から空気を震わせるように、低い怨嗟(えんさ)の声が発せられた。


(つっ、強い───)


 今までの相手とは比べ物にならない威圧感───、魂が揺さぶられたような感覚に、沙希は異形が自分よりも強い事を察した。


(みんなが着いてる! 大丈夫!)


 そう思う本人の気持ちとは裏腹に、構えた光刀の切先は細かく揺れ、額に浮かんだ汗がこめかみを伝って顎へと伝わって行く。


「あの類は危険ランクBにカテゴライズされてるけど、取り込んでる怨霊の量と霊格によってランクAにもSにもなりうる可能性があるわ。魔法を使ってくることは無いと思うけど、どんな攻撃を仕掛けて来るか解らないから、気は抜けないわよ!」


 やや大きめな声でそう言い放つ涼子の顔には、焦りの色は見えない。もちろん、発した言葉から解るように、余裕という訳でも無さそうだ。


「チッ、前にここへ潜ったときは、こんなやつ居なかったんだけどな……」


 涼子の声に呼応するように、宏也が苦虫を潰したかのような顔で、忌々(いまいま)しげにそう呟く。


「聖属性の攻撃魔法を極めた術者がいれば……」


 一行の後方で小さく身をかがめながら、悔しそうにそうこぼしたのは聡子だった。


 守護者(ガーディアン)が扱う魔力魔法・法術魔法・精霊魔法には、それぞれ属性というものが存在する。

 ランクや部門にも優劣があるように、属性にも下位・上位・特化という区別があり、下位属性が火・水・土・風の4種類、上位属性が聖・光・闇の3種類、特化属性が時・空間の2種類が存在する。

 ちなみに、無属性という属性も存在するのだが、これは下位・上位・特化のどれにもカテゴライズされていない。というのも、無属性は各人のもつ純粋な力そのものが魔法としての効果を及ぼす事に加え、属性のある魔法を扱う物であれば当然使えて当たり前という基礎的観点があるためだ。もちろん、力量によって使える魔法は異なって来るのだが……


 さらに魔法には、攻撃・防御・補助などの種類があり、それぞれ10属性のどこかに分類される。

 例えば、法術魔法の“光矢裂翔弾”、魔力魔法の“ライトバレット”などは光属性に分類されるし、“クリエイトウエポン”、“ジャンプ(簡易瞬間移動)”、“テレポート(瞬間移動)”などは、無属性に分類される。

 分類が少し難しいのは、氷結系魔法と雷撃系魔法だが、前者は水属性、後者は風属性に属される。もっとも理解する事が難しいのは、補助系の治癒魔法と浄化魔法である。それらは全て、聖属性に分類されると思われがちであるが、実はそうではない。治癒にしても浄化にしても、下級・中級の魔法に関しての分類については無属性の分類に属し、上級の魔法になると聖属性に属されるという変わった分類がされている。これは、下級・中級の治癒・浄化魔法は制御が比較的簡単で、そこそこの力があれば習得が出来てしまうからである。それなら、【聖属性を下位属性にすれば良いのでは?】と思うだろうが、それがそう簡単にはいかない。治癒・浄化の上級魔法に加え聖属性に属される攻撃魔法は、習得がかなり困難で使用できる術者も数が少なく、聖属性の補助系と攻撃系両方の魔法を極めた者は、無条件でSランクに昇格できると言われるほどだからだ。


 先程、『聖属性の攻撃魔法を極めた術者がいれば……』とこぼした治癒師(ヒーラー)の聡子も、治癒・浄化の上級魔法が使え得意属性は聖属性である事は確かだ。しかし、彼女のランクはSランクでは無くAランクであり、得手とする聖属性の攻撃魔法をほぼ使う事が出来ない。なぜこのような事が起こってしまうのかというと、それは一重に術者の心意的な要素が大いに関係している。

 良く考えてみて欲しい。そもそも“攻撃”というは、相手を傷つける・打ち負かすという行為であり、その時の心意は暴力的な方向へ傾くことが多い。それに対して治癒・浄化は、相手を癒すもしくは清めるといった行為であり、その心意は平穏や救済という方向へ傾く。理由は明らかにされていないのだが、聖属性の魔法を使用する時に限って、術者の心意という“こころ”の要素が魔法発動の是非に作用するようなのだ。したがって、攻撃という心意を持つ術者には、聖属性の治癒・浄化魔法を極める事が出来ず、その逆もまた然りという事になる。

 現に、治癒師(ヒーラー)の職に就いている者でSランクの地位にいる術者は、他の職種に比べて圧倒的に少ないと言われ、彼らにとって聖属性を極めるという事が、1つの大きな目標になっている事は確かである。

 もちろん、先にも上げた通り両者を極めた者もおり、どういった要素があっての極められたのかという事がたびたび議論されることがあるのだが、明確な方法が解明されるには至っていない。

 聡子が悔しそうにこぼしたのには、そういった訳があったのだ。


「無い物強請りしたってしょうがねえ! 涼子、紫苑と沙希ちゃんの武器にファイ()ヤー()エン()チャ()ント()を、邪霊瘤とはいえアンデットなんだから、基本火は苦手だろうからな!」


「そうね! 聡子も、極めてないっていっても多少の聖攻撃魔法は使えるでしょ?! 接敵する2人の援護をお願いね!」


 宏也と涼子の指示が飛び交い、一行の戦闘準備は着々と進められていく。

 一方で、邪霊瘤の放った大きな威圧感は、沙希の心に少しずつ恐怖心を植え付けていた。


(なっ、何で? 目が、目が霞む。体が、強張って震えてる……)


 植え付けられた恐怖心は、知らず知らずの間に沙希の心を蝕んでいった。それは、やがて身体へと影響を及ぼし、思考を混乱させる元となっていく。

 周りに視線を巡らせることはおろか、気配すら察する事が出来なくなり始めた沙希に、今の雰囲気にそぐわないのんびりとした声が届いた。


「沙希、そう緊張するなって。あんなの、術者相手に比べれば大した事ねえんだから。いざとなったら、ちゃーんと()()()用意してっからさ。それとも、まさかあんなのが怖いんじゃねえよな?」


 そう言った紫苑は、ニヤリと意地悪そうな笑みを沙希に向けている。


「そっ、そんな事、あるわけないじゃん! あっ、あんな気持ち悪いヤツ、あっという間に倒してやるんだから!!」


「その言葉、忘れんなよ~」


 どう見ても強がりと解る沙希の言葉に、紫苑は意地悪そうな笑みを崩すことなく煽るようにそう言いながら、改めて邪霊瘤の方へ視線を向け直した。


(こっ、怖くなんかないんだから!)


 沙希は、自分に言い聞かせるようにそう心で呟くと、自ら作り出した刀の柄を強く握りしめた。少し前まで感じていた目の霞や、強張った感じの震えはいつの間にか無くなっている。それに加え、気が付かないうちに刀身は、赤く揺らめく炎を纏っていた。紫苑とのやり取りの間に、涼子が付与してくれたものに違いない。


(みんながいる! いける!! 絶対勝つ!!!)


 それは、沙希にとって希望の光となるものであり、自分が1人ではないと実感するのに十分な効果を発揮していた。


「行くぞ!」


 そうパートナーである紫苑から声が掛かったのを合図に、沙希は素早く邪霊瘤の左側を駆け抜けながら、すれ違いざまに横薙ぎの一太刀をあびせる。


(くっ! 手応えが薄い!!)


 包丁でこんにゃくを切った時のような感触に、すぐさま相手へ与えたダメージが少ない事を悟った沙希は、魔法による追撃を行うために勢いよく振り返る。


(えっ!)


 沙希は、その目に映し出された光景にたじろぎ、発動させようとしていた魔法を放つことが出来なかった。


 振り返りざまに彼女が見たもの───


 それは、邪霊瘤から伸びた無数の青白い腕だった。


体調不良のため、不定期更新中です

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