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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
56/90

調査再開

時が過ぎるのは大変早いものです。

体調不良からぐずぐずしているうちに、予定よりも

大幅に投稿が遅れてしまいました。

謹んで、お詫び申し上げます。

 東京都杉並区永福某所・永福町駅南口

 7月20日 月曜日 午前10時19分


 前日、久世家に到着した沙希達一行は、用意された夕飯を済ませ、リビングでこれからの事を相談する事となった。

 任務の調査と特訓の兼ね合いがあるため、様々な意見が出たものの、とりあえず週の前半、月曜日から水曜日までを調査日とし、木曜日から土曜日までを特訓日にするという案で落ち着いた。

 それは、基本として、沙希と紫苑は学生の身分であるため、通常の生活リズムを崩す事を涼子と聡子が反対した事が日程を決める大きな要因であったが、それ以外に、2人が調査に出かけている間に、特訓に協力してくれる守護師(ガードナー)に当りを付けたいと涼子が言ったためだった。


 大まかな話がまとまった所で、沙希はLIGNE(リーニュ)で渡辺刑事に連絡をし、今までの経緯と、明日から調査を再開できる旨のメールを送った。

 渡辺からは、5分を待たずして返信があり、今日の10時半に永福町駅南口で待ち合わせとなったのである。


 沙希と紫苑は、到着時間の関係で、待ち合わせの時間よりやや早めに目的の駅へ到着していた。

 駅周辺は、賃貸アパートが多いのか歩いている人は多いものの、静かな雰囲気が漂っている。2人は、着いてすぐに自販機で買ったペットボトルのお茶を飲みつつ、行き交う人達をぼんやりと眺めながら、渡辺が到着するのを待っていた。


 渡辺が姿を現したのは、2人が到着してから10分ほど経ってからの事だった。今まで見てきた彼女とほぼ変わり映えしない、動きやすさを重視した格好である。


「久しぶりってほどじゃないけど、色々と大変だったみたいね。もう、問題は解決したの?」


 右手をすっと上げて合図をしながら、渡辺は真剣な表情で近づいてくると、そう話しかけてきた。


「調査がほったらかしになってごめんなさい。とりあえず、解決はまだですけど、落ち着きましたから大丈夫ですよ」


 それに対して沙希は、頭を少し下げながらそう答えた。


「調査がおざなりになってしまった事に関しては、私にも責任の一端はあるんだから、気にしなくていいわ。それに、2人が身動きできない時に、私だけで出来る限りの調査はしておいたから大丈夫よ」


 渡辺は笑顔を崩すことなくそう言うと、2人に向けてサムズアップをしてみせた。


「調査の時に、何か不審な事はありませんでしたか?」


 やや怪訝そうな表情を見せながら、紫苑は彼女にそう尋ねる。


「そうねぇ。これと言って危険な事も無かったし、黒い影も現れなかったわ。まあ、調査自体も大した成果は得られなかったけどね」


 少し考えるような顔をした後に、渡辺はそう答えた。調査がやや空振りに終わった事で、残念そうな表情も垣間見える。

 これから聴き取り調査を行う相手との待ち合わせ時間まで、20分ほど早い時間だったため、沙希と紫苑は先日、渡辺から渡された行方不明者の資料を見つつ、彼女が単独で調査した内容を掻い摘んで説明を受ける事にした。


「連絡のついた関係者からしらみつぶしに聞き込みをして来たんだけど、目新しい情報は無かったわ。目撃者はみんな一様に『“黒い影”が突然現れて、攫って行った』と証言している。共通しているは黒いって色だって事と、姿かたちがはっきりしないって事ね」


 鞄から取り出した手帳を見ながら、渡辺はそう説明をした。さらに付け加えて、


「行方不明者の共通点も全くと言っていいくらい無いのよね。年齢も、血液型も、性別もバラバラ。個人個人を比べると共通点も出て来るんだけどね……。ここまで来ると、無差別に攫ってる方向性も視野に入れて調査しないとダメかもしれないわね」


 そう自分に言い聞かせるように呟いた。


 渡辺は、沙希達が謹慎処分を受けている間に、調査してきたのは行方不明者10名と死者1名の内、5名だった。沙希と紫苑が渡辺と調査した3名と合わせると、8名の調査が終わっている事になる。


「うーん。確かに、共通点は見当たらないですよね。ただ、この事件が魔法絡みである以上、何かしらの法則とか規則性があると考えるのが一般的なんですよ」


 そう言ったのは紫苑であった。彼は、今までの経験則から、被害者同士の繋がりが全く無いというのは考えられなかったのある。


「今日の聴き取りが終わったら、もう一度、資料を見ながら検証してみない? 3人もいるんだから、何か気が付くことがあるかもしれないし……」


 紫苑の意見を聴いた沙希は、資料から目を放すと、彼にそう提案をした。


「そうね。何か見落としがあるかもしれないわね。じゃあ、今日の調査が終わったら、こもれびでゆっくり話し合ってみましょう。いつかの約束もまだだしね。良いわよね、紫苑?」


 沙希の意見に、すぐ同調したのは渡辺であった。彼女は刑事として、ただやみくもに調査しても結果が出ない事を感じ取っていたのかもしれない。もちろん、前に紫苑と約束したパスタセットの奢りも理由の1つにあるのは間違えないだろう。


「まあ、煮詰まってるのも事実だし……。良いんじゃないかな」


 やや渋い顔をしながら、紫苑は2人の意見に賛同する。


「じゃあ、予定も決まった事だし、早速聞き込みに行きましょうか」


 ランチの奢りが決まった事に気をよくしたのか、渡辺は普段あまり見せない笑顔を浮かべながら、目的の家に向けて2人を促した。


 駅から歩くこと10分ほど、今日聞き込みに来たのは、8番目の行方不明者である小山(こやま)すみれの自宅である。彼女が拉致されたのは、自宅の庭での出来事だった。庭の花壇に水やりをしている最中に攫われたらしく、その様子を仕事が休みだった両親が目撃していたとの事である。

 自宅の庭という閉鎖的な場所での拉致という事もあって、他の目撃情報とは違う何かを得られるのではないか? という期待が3人にはあった。

 しかし、訪れた小山家で両親に詳しい話を聴いた3人は、思っていた以上に少ない情報に肩を落とした。

 言ってしまえば、他の目撃情報とさほど変わり映えも無く、母親に至っては、父親が騒いだために気が付いたという感じで、黒い影すら見ていない事が分かったのだ。


 聞き込みが終わった3人は、重い足取りで来た道を駅の方へ戻り始めた。


「今回も、ほぼ収穫はゼロだったわね……」


 そう言った渡辺の表情には、悔しさが滲んでいる。その気持ちは、沙希と紫苑にも同様に訪れていた。


「とりあえず、無い物ねだりしてもしょうがないですよ。ここは、気持ちを切り替えて、こもれびでランチしましょう。今までの情報を検証すれば、何かヒントくらいはありますよ。きっと……」


 紫苑はそう言って、女性陣2人を勢いづけるかのように促した。

 いち早く、それに反応したのは、以外にも沙希だった。


「そうだよね! 今日のランチは紫苑の奢りだし、こうなったらケーキ自棄食いしてやるんだから!」


 沙希はそう言いながら、何か吹っ切れたかのようにズンズンと音がしそうなほど力強く歩き始めた。

 その後ろ姿を見ながら紫苑は、


「いや、別にケーキ自棄食いする必要は無いと思うんだけどな……」


 そう言いながら、溜息を付くと彼女の後を追いかけ始めた。


 東京都渋谷区代官山町某所・《かふぇ・こもれび》

 7月20日 月曜日 午前11時48分


 杉並から代官山に移動した沙希御一行様の姿は、いつもの《かふぇ・こもれび》にあった。

 それは、純粋にランチを楽しむためではなく、事件の整理をするという目的があったためであり、そんなきわどい話が出来る場所は、こもれびくらいしかないからである。

 3人は今回、いつも紫苑が座る席ではなく、テラスにある大きいテーブル席に陣取った。食事をしながら資料を広げて自由な意見を出し合おうという趣旨からである。


「それにしても、考えれば考える程、謎な事件よねぇ……」


 そう言ったのは、ジャガイモとベーコンのグラタンを美味しそうにほうばる渡辺である。


「そうっすね…… 年齢・性別・地域・血液型、どれも共通しないし、接点も見つからないんですよね。もしかして、無差別に攫ってるんですかね……。魔法絡みなら、あり得ないんだけどな」


 シメジとチーズのリゾットを冷ましながらそう答えたのは、紫苑である。


「そうだよね…… 共通点て、“黒い影”に攫われたって事しかないもんね。こうなったら、罠でも仕掛けて、“黒い影”捕まえちゃおうか? う~ん、エビ美味しい!」


 そう言いながら、エビドリアのエビのうまさに感動しているのは、もちろん『食いしん坊沙希』だ。


「捕まえるって、何を基準に攫ってるのか分からないのに、どうやって罠を仕掛けるつもりなんだよ? 第一、捕まえても自滅されるのが落ちだぜ?」


 リゾットを咀嚼し終えた紫苑が、訝しげな表情でそう意見をする。


「つまりは、現実的じゃないってわけね…… はー、なんかこう、新しい情報が降って来たりしないかしら……」


 器のジャガイモをフォークでぶっ刺しながら、渡辺は大きな溜息を付く。


 それにしても、8人がけの大きなテーブルには、『3人で全部食べるの?』と思わず尋ねたくなるような数の料理が並んでいる。

 そして、その後もそれぞれ好き勝手な意見を出し合いながら、どんどん料理を平らげていく。

 店の中からその様子を見ていたマスターの秀さんと娘の優子は、


「なにか、イライラする事でもあったのかね?」

「でも、3人で自棄食いって迫力が違うわね。ちょっと怖い……」


 そう言い合いながら、3人のあまりの凄まじさに笑顔が引きつらせていた。


 食事を始めて40分ほど、ドリンクとデザートの並んだテーブルに、沈んだ表情の3人がいた。

 色々な意見が飛び交うのだが、一向にこれはと言う発見も案も出て来ないのである。意気揚々とここまでやって来た3人は、完全に当てが外れてしまったのである。

 その落ち込みようは、沙希を見れば一目瞭然だ。何しろ、大好きなケーキを前に、5分以上手を付けずに置きっぱなしの状態なのだ。

 もちろん、諦めてしまったわけではない。そんな状況の中でも、資料を穴が開くほど見つめ、何度も読み返しては考えるを繰り返している。もはや、それは執念と言っても過言ではないだろう。


 そんなピリピリとした空気感の中、声を上げたのは沙希だった。


「あっ! ちょっと前から気になってた事があるんだけど、いいかな?」


 やや戸惑い気味にそう言うと、席から立ち上がってテーブルの真ん中に行方不明者リストを広げた。

 同じ様に、紫苑と渡辺も立ち上がると、身を乗り出すようにして沙希の広げたリストを見つめる。


「休み前に、真樹と啓太がファッション誌の占いコーナーで盛り上がってたの。その時の占いが、星座占いだったのね。その話を聴いてて、もしかして、行方不明者は星座で選ばれてるのかなって思ったんだけど、どうしてもダブっちゃう人がいて……」


 そう言った沙希の言葉に、紫苑と渡辺はリストをまじまじと見つめる。

 沙希は続けて、


「調べてみたら、これはって思ったの。でも、リストの4番目に載ってる下田美穂(しもだみほ)さんと、砧公園で見つかった田所朋子(たどころともこ)さんが、同じおうし座だったから、これは違うなって思って」


 リストを指差しながら、そう説明をした。


「うん。そうね。他の人はダブってないけど、この2人はダブってるわね」


 そう相槌を打ったのは渡辺だった。

 しばしの沈黙の後、説明の間も食い入るようにリストを見つめていた紫苑が、不意にドサッと椅子に座った。

 その行動に、沙希はビクッと体を震わせる。12星座を揃えるために人を攫っているなんて、沙希達のいる業界では、初歩中の初歩なのだ。


(やっぱり、ありきたり過ぎだし、こんな単純な事件じゃないよね……。あ~あ、また紫苑を怒らせちゃったかなぁ)


 沙希は、そんなことを考えながら、おずおずと紫苑の方を見ると、


「ダブってる人もいるし、こんな簡単な事件じゃないよね。紫苑、ごめんね」


 申し訳なさそうな顔で謝った。

 しかし、それを聴いた紫苑の顔は渋い表情を変えなかった。渡辺も、残念とばかりに、力なく椅子に腰を下ろす。

 居たたまれない空気感の中、沙希は一人俯いたまま、立ち尽くしていた。

 少し風が出て来たのか、テラスにそよりとした心地いい空気が流れてきた。それは、沙希の前髪を軽く揺らしていく。

 沈黙の中、沙希は泣きそうになるのを必死で堪えながら、絞り出すように声を出した。


「紫苑、あの……」


 そこまで言った沙希の言葉を、紫苑は手を上げて制すると、苦々しい表情で毒を吐くように呟いた。


「もしかして、要らなかったのか……?」


 苦しそうな、悔しそうな、怒っているような、そんなふうに見える紫苑の表情を見ながら、沙希は続いて出て来るであろう彼の言葉を待った。

 紫苑は沙希の方を見上げながら、


「沙希、もしかしたら、お前の言っている事は正しいかもしれない。でも、それはあまりにも残酷な結論だ。正しいか、間違っているかは後で意見を出し合うとして、とりあえず、俺の考えを説明するから、座ってくれるか?」


 表情を変えることなく、紫苑はそう沙希に促した。

 沙希は、紫苑の目を見ながらゆっくりと頷いた。彼の目は、いつになく鋭く光っていた。それは、彼の言う残酷な結論が、かなり的を得ていると彼自身が思っている証拠だと、沙希は思った。

 腰を下ろした沙希は、渡辺の方に視線を飛ばす。いつも冷静な渡辺も、そんな紫苑の表情と言葉に、刑事としてのカンのようなものが働いたのか、やや緊張した面持ちでアイスコーヒーを口にしている。

 そんな渡辺の様子を見た沙希も、少しずつ緊張感を増していった。気が付けば、喉はカラカラに乾いていた。沙希は、平静を保とうとゆっくりした動作でアイスティーのグラスを持つと、琥珀色の液体を口に含んだ。グラスを持つ手は小刻みに震え、口にしたアイスティーは渇きを潤しはしたものの、味がよく解らなかった。それほどまでに、紫苑の放った“残酷な結論”という言葉は、その場の空気を緊張感漂わせるものにしたのである。


 紫苑は、2人が話を聴く態勢になったのを見ると、自らもバナナジュースを一口飲み、姿勢を正す。


 テラスに吹き込む風は、先程よりも強くなってきたようだ。

 《かふぇ・こもれび》自慢のシンボルツリーも風に煽られてザワザワと音を立て始めた。


 そんなざわめきの中、紫苑はゆっくりと、いつもより低めの声で言葉を紡ぎ始めた。


長らくお待たせいたしまして申し訳ありません。

不定期とはなりますが、これからも少しずつ投稿してまいりますので

よろしくお願い致します。

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