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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
44/90

厄介な処分と賢斗の思惑

年の瀬も迫ってまいりましたが、何故か年末という感じがいたしません。

あれっ! もう12月なの!? って感じですが、みなさんはいかがですか?

今年も、あとわずかとなりましたが、体調に気を付けて頑張りたいと思います。

 東京都千代田区神田神保町某所・魂の守護者たち(ソウルガーディアンズ)神田支所事務所・会議室

 7月13日 日曜日 午前11時47分


(処分にあった、『パートナーを組んで任務の継続を命ずる』って、今の状態で任務を、続けるって事だよね。また、紫苑と一緒に調査できるんだ! 私、解雇(クビ)とかにならなくて良かったぁ)


 自分の処分が言い渡されてすぐ、沙希はそんなことを思い、胸がいっぱいになっていた。

 元々、処分される事より、紫苑と一緒にいられるような処分になるのかが気にかかっていた沙希は、現状維持での任務継続命令以外の処分について、あまり深く考えてなく、内容もほとんど聴いていなかったのである。

 バンザイをして喜びたいという気持ちを押さえつつ、神妙な面持ちを無理やり作った所へ、賢斗が、


「では、久世、月ヶ瀬、両名とも処分内容については異議無しという事で、処分決定とする。一同、よろしいかな?」


 全員を見渡しながら、そう確認をすると、未届け人の幹部たちは、お互いを確認し合うように頷き合い、添島の方へ視線を向けた。添島は、彼らに向かって軽く頷くと、


「未届け人一同、今回の処分決定について、異議はございません」


 そう賢斗に返答をした。それを聴いた賢斗は、


「では、久世、月ヶ瀬、2人とも自分のステータスコインを、机の上に置きなさい」


 そう指示を出した。沙希と紫苑は、それぞれポケットを探ると、コインをテーブルの上に置いた。すると、コインはひとりでに宙に浮き、スーッと賢斗の方へ飛んで行った。賢斗は、目の前にやって来た2枚のコインを左手で掴むと、右手に持った書類を沙希達の方へ押し出すように放す。書類は、コインと同様に宙を舞い2人の胸元まで来ると、宙に浮いたままの状態で静止した。

 沙希は、それを賞状を受け取るように両手で掴むと、そのまま書類に目を通した。そこには、先程の処分内容が書かれており、英語の筆記体で賢斗のサインもしてある。沙希は、ふとサインの下に手書きのコメントが書かれている事に気が付いた。

 そこには、


 〈沙希ちゃんの希望に沿った処分にしたつもりだけど、どうだったかな? もちろん、君の希望だけじゃなくて、私の希望も入ってるけどね。これから、ますます大変になるだろうけど、紫苑と一緒に頑張るんだよ〉


 と、沙希を応援するメッセージが書かれていた。沙希はそれを読むと、目に涙を浮かべながら、もう一度、賢斗の方を向いた。

 沙希と紫苑、2枚のコインを胸ポケットに収め、上からポンポンと叩きながら、こっちを向いてほほ笑みを浮かべている賢斗の姿が目に映った。沙希は、溢れそうになる涙を袖口で拭うと、心からの感謝を込めて、彼に微笑み返した。賢斗は、それを見て軽く頷くと、


「謹慎明けまで、ステータスコインは私の方で預からせてもらう。16日の午後、私の所に取りに来るように。では、これにて、処分の言い渡しを終了する。未届け人については、ご苦労だった。久世と月ヶ瀬は、この後、個人的に話があるから残ってくれ」


 そう終了を宣言した。それに伴って、未届け人の幹部たちは立ち上がり、雑談などをしながら、ぞろぞろと会議室を出て行った。最後の一人が部屋を出て、ドアが閉まるパタンという音を聴いた賢斗は、沙希と紫苑に向かって手招きをしながら、


「2人とも、ぼーっとしてないで、こっちに来なさい」


 そう言うと、もう一度、椅子に腰かけた。2人は、部屋をぐるりと半回りするようにして賢斗の前に並んで立った。彼は、2人の顔を見上げながら笑顔で話を始めた。


「2人とも、楽にしなさい。まずは、紫苑。お前の希望を叶えてやれなくてすまない。『任務を降りたい』と言うお前の気持ちより、『一緒にいたい』と言う沙希ちゃんの気持ちの方が強くてね……。沙希ちゃんの肩を持ってしまった」

「いえ、元老院(セニトゥ)のお考えであれば、異論はございません」

「ふふっ。紫苑、楽にしていいと言っただろう。ここは、協会の支所だが、かしこまった言い回しはしなくていい。それにしても、よくあの処分を受け入れたな?」


 きっちり、直立不動の状態を保っていた紫苑は、体の力を抜いてやや崩れた姿勢になると、賢斗の問いに、疲れたような声で答えた。


「あの状況で、どうやって文句付けろっていうんだよ……。沙希本人が、異論無しって言ってるんだし、特訓を任された俺が、『無理です! 再考して下さい!』って言えるわけないだろ? ホント、無茶振りもいい加減にしてくれって感じだよ」

「あはははは……。確かに、沙希ちゃんが言うならまだしも、お前が無理だとは言えないよな。それにしても沙希ちゃん、よくあの内容でOKしたね」

「えっ! 私ですか? 任務は紫苑と一緒に続けられるし、特に問題なかったと思いますけど……」


 賢斗に話を振られた沙希は、小首を傾げながら自分に課せられた処分の内容を思い出そうとしたものの、一番最初の内容以外、耳に入っていないため、頭の中に(ハテナ)マークが浮かぶばかりで、特に問題があるように思えていない。そんな様子の沙希を見た紫苑は、ため息交じりに話を続けた。


「はぁ~。沙希、お前もしかして、最初の処分以外、ほとんど話聴いてなかったんじゃないか?」

「そっ、そんな事ないよ! ちゃんと聴いてたもん。減俸でしょ、特訓はそのまま続けるでしょ、4日間の謹慎でしょ、ほら、ちゃんと聴いてたでしょ?」


 紫苑の問いに、指折り数えながら答えた沙希は、得意げな笑みを浮かべた。それを聴いた賢斗は声を上げて笑い、紫苑は呆れたような表情で、肩を落とした。賢斗は、やや笑いを堪えながら、


「くくくっ、沙希ちゃん、それ肝心なのが一つ抜けてるよ」


 そう答えた。沙希は、首を傾げながら、渡された書類を見ながら処分内容を(つぶや)き始めた。


「任務の継続でしょ、報酬の減俸でしょ……、こっ、この3番目のやつなんですか!?」


 勢いよく賢斗の方見ながら、沙希は賢斗に問い掛けた。それに対して、


「あははは、読んだ通りの内容だよ」


 と、賢斗は嬉しそうに笑いながら、そう答えた。沙希は焦った様子で、もう一度、書類に目を通す。


「本任務の完了時に、一定の成果を挙げてCランク以上に昇格しなければいけない……って、こんなの無理に決まってるじゃないですか!」

「うん。だから、よくOKしたねって言ったんだけどね……」

「沙希、お前やっぱり話聴いてなかったんじゃねぇか! それ、今回の処分の中で、一番厄介なやつだぞ!」

「……どっ、どうしよう……」

「どうしようったって、どうにもなんねぇよ。やるしかない!」

「で、でも、昇格なんて出来ないよ!」

「う~ん。沙希ちゃんが昇格出来ないと、2人とも再処分だからね……。次は、除名もあるかもしれないから、頑張ってもらわないとね」


 そう言った賢斗の顔を、〈これでもか!〉と言わんばかりに目を見開きながら、沙希は賢斗に尋ねた。


「えっ! 私が昇格できないと、私も紫苑も再処分なんですか? しかも、除名って……。洒落にならないじゃないですか! そんな話、してました?!」

「あれっ、聴いてなかったのかい? 言ったよな、紫苑?」


 賢斗は、沙希の強烈なつっこみで焦ったのか、再処分の話をしたことを、不安そうな表情で紫苑に確認した。


「ああ、確かに言ってたよ。だから、俺は異議無しの返事をためらったんだからな。父さんも、沙希のつっこみくらいで焦るなよ……」

「仕方ないだろう? 沙希ちゃんが、滅多に見せない勢いでつっこんで来たら、焦るし確認したくなるだろう?」

「まあ、わからない訳でもないけど。沙希は、怒らせると怖いからな……」


 紫苑はそう言いながら、横目でチラッと沙希を見た。彼女は、賢斗から紫苑の方へ向き直ると、必殺の『ハムちゃん顔』をしながら、


「もう、私、そんなに怒らないし、怖くないもん! 紫苑が、からかってくるから悪いんでしょ!」


 そう言うと、グーに握った右手で紫苑の左手をバシッと叩いた。紫苑はビックリしながら慌てて、


「わかった、わかったから。怖くない、怖くないって」


 そう弁解すると、両手でポカポカと猫パンチを繰り返す沙希を(なだ)め始めた。その様子をほほ笑みながら、目を細めて見ていた賢斗は、両手を上下に振りながら2人に声を掛けた。


「まあまあ、2人とも落ち着いて。痴話げんかそこまでにして、話を元に戻そう。とりあえず、今回の処分は結審しているし、沙希ちゃんが昇格しなきゃいけないのも、理解してもらえたね?」

「はい、大丈夫です。でも、今の任務が終わった時に、昇格するなんて出来るでしょうか?」

「そうだね……。限りなく低い可能性だけど、(ゼロ)じゃないと思うよ。その低い可能性を少しでも上げるために、紫苑がいるんだしね。それと、沙希ちゃんには、他の守護者(ガーディアン)に無い物を持っている気がするんだ。紫苑、お前だって気が付いてるんだろう?」

「ああ、俺もなんとなくだけど……。正直な話、中級クラスの魔法が使えるのに、制御がからっきしダメっていうのは、あり得ない事だと思う。普通だったら、初級魔法(プラス)初級制御が完璧にならないと、中級魔法は使えないはずだからな。それが、制御は全然ダメなのに、魔法が使いこなせるっていうのは、何か特殊な能力があるのかもって思ったんだ。その能力を引き出すきっかけが、魔法制御じゃないかと思ったし、任務を遂行するのに、制御は欠かせないっていうのもあって、特訓を始めたって訳さ」


 紫苑は、沙希の実力を確認した時の事を思い出しながら、沙希と賢斗に特訓を始めた経緯を説明した。


「えっ! そうなの?」


 あくまでも、『制御が出来ないと任務に支障がある』としか聴いていなかった沙希は、事の真相を知ると驚きの声をあげた。そんな沙希の様子を見た賢斗は、笑みを浮かべながら紫苑に尋ねる。


「それで、お前は沙希ちゃんの特殊能力についてどう考えてる?」

「う~ん。それが、そこそこ制御できるようになってきてるんだけど、それらしい変化が起こらないんだよな……。今の所、本当に特殊能力があるのかも含めて、検証中ってところかな」

「なるほど。まだ、半信半疑な所があるという訳だな。まあ、どんな条件で発現するのかも解らないしな。もしかすると、制御出来なくても魔法が使える能力って可能性もあるかもな」

「冗談でも、そんなこと言うのやめてくれよ! それじゃあ、まるで、今にも爆発しそうな時限爆弾が、服着て歩いてるみたいじゃないか! 万が一、街中(まちなか)で暴走でもしたら洒落にならないんだぞ! 父さんが、気軽に言った事は、意外と的を得てることが多いんだから、あんまり変な事言わないでくれよ!」


 紫苑は、あっけらかんとした顔で言った賢斗の言葉に、冗談じゃないとばかりに、声を荒げ捲し立てると、賢斗に詰め寄った。そんな紫苑を賢斗は、右手で押し止めながら、慌てた様子で、


「おい! 紫苑……」


 紫苑の右斜め後ろを左手で指差しながら、小声で合図をする。紫苑は、訝しげな顔をしながら、


「なんだよ!」


 そう言いながら振り返ると、そこには、両手を腰に当て、『ハムちゃん顔』をしながら、紫苑を睨む沙希の姿があった。その形相に、ひるんだ紫苑が少し後退(あとずさ)りすると、沙希は、


「ねえ、紫苑。『今にも爆発しそうな時限爆弾が、服着て歩いてる』って誰のことかしら?」


 にっこりとほほ笑みを浮かべ、ゆっくりと紫苑に近づきながら尋ねる。紫苑は、後退りしつつ、両手を沙希の方へ突き出すと、首を左右に振りながら、


「ちっ、違う。あ、あくまで、制御出来なくても、魔法が使えたらって話で、今の沙希のことじゃねぇって。それに、徐々に制御できるようになってるんだから、そんな変な能力の訳ないだろ。なっ、とりあえず落ち着けって」


 そう必死に説得するが、沙希の歩みは止まらない。顔は笑っているのに、目が笑っていない彼女の表情は、紫苑の頭の中で〈危険!〉というアラートが鳴り響くのに十分な威力を持っていた。紫苑は、さらに説得を続ける。


「そっ、それに、ちゃんと否定しただろう。そう言う事いうのは止めてくれって。それに、沙希の事を、『時限爆弾が、服着て歩いてる』なんて思ってねえよ」

「じゃあ! 紫苑は、私の事をどう思ってるわけ?!」


 強い口調で、唐突に出された沙希の質問に、紫苑は目を白黒させながら、


「そ、それは……」


 と言い淀んでいると、頭の中に賢斗の声が響いた。


 《紫苑! 可愛いとか、綺麗とか、なんでも良いから褒めるんだ!》


 彼は、息子の窮地にテレパス(遠隔感応魔法)を使い、慌ててアドバイスを送ったのだ。紫苑は、掌に汗を掻きながら、


「も、もちろん、いつも可愛いなって思ってるさ。けど、今日の私服はちょっと大人っぽい感じだし、うっすら化粧もしてるから、どちらかと言えば綺麗だよなって思ってたんだよ」


 そう答えた。それを聴いた沙希は、一瞬で『ハムちゃん顔』から、熟したリンゴのように真っ赤な顔になると、恥ずかしそうに少し俯き、


「や、やだな、紫苑は。可愛いって言われることはあるけど、綺麗だなんて真樹にも言われた事ないよ。もう、恥ずかしくなるようなこと言わないで……」


 そう言うと、両手で顔を覆いながら、いやいやをするように首を振った。それを見た紫苑と賢斗は同時に、


 《() was() helped(った)


 と、安堵の意思を送り合うのだった。


「とりあえず、私と紫苑は、沙希ちゃんに何かしらの特殊能力があると考えている。どんな条件で、それが発現されるか、今の時点では解らないが、少なくともそれが発現されれば、どんな能力にしろCランクへの昇格は間違いないはずだ。大変だと思うけど、頑張って」


 沙希と紫苑の騒動が落ち着いたを見計らい、賢斗は沙希にそう激励をした。沙希は、不安気(ふあんげ)な表情をしながらも、


「はい。精一杯、頑張ります」


 そう返事を返した。

 その後、処分についての細かい説明が5分程度あり、沙希と紫苑は帰宅する事を許された。


 帰り道、沙希は説明の中に出て来た事柄について、


「ねぇ、紫苑。謹慎中は、調査もダメだし、協会の施設も使えないのに、魔法を使うことは制約されてないなんて変だよね?」


 隣を歩く紫苑にそう尋ねた。それに対して紫苑は、当たり前のことのように、


「そりゃあ、魔法の使用を制限されたら、万が一また襲われたり、特訓で魔法が使えなかったら困るからだろう。それにランク昇格なんて難題が課せられてるんだから、そのくらいの融通は利かせてもらえないと不公平だ」


 そう答えながら、笑顔を見せた。沙希は、少し俯き加減になりながら、


「はあっ、うまく行くかな……」


 そう気落ちしたように呟く。紫苑は、俯いた沙希の頭に手を置くと、ゆっくりと撫でながら、


「そんなに気負わなくても、なんとかなるさ。そういえば、何だか腹減ったよな。時間もあるし、どこかでランチでもしながら、対策でも練ろうぜ」


 そう沙希に声をかけると、彼女は少し照れながら、


「うん。じゃあ、渡辺さんにはちょっと悪い気がするけど、〈かふぇ・こもれび〉がいいな」


 嬉しそうに答えた。紫苑は、それに軽く頷いて返事をする。

 2人は、どこか吹っ切れたかのような笑顔を浮かべながら、駅に向かって歩いて行った。


 その頃、会議室で2人を見送った賢斗は、


 〈さて、彼女の特殊能力とはいかがなモノか……。出来れば、Bランクくらいまで昇格して、紫苑の専属パートナーになってくれると、こちらも助かるんだけどね……〉


 そんなことを思案しながら、席を立った。


 そんな思惑が、予想だにしない結果を生み出すとは、協会屈指の実力者である賢斗にも、考えが及ばなかったのであった。


お待たせいたしました。

気が付けば、今月の26日で初投稿から半年を迎えることになりました。

ここまで、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございます。

年内にあと一回更新いたします。

今後とも、よろしくお願い致します。


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