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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
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予想外の決断

先日、友人の結婚式に出席しました。(新郎、新婦とも関東在住なのに沖縄での式でした)

昔からの悪友が、いよいよということで喜び勇んで出席しましたが、お相手の新婦さんは、なんと15歳も年下でした!。

その前の友人も、13歳下でしたし、年の差婚が流行ってるんでしょうか(笑)

なにはともあれ、幸せになってくれることを、切に願うばかりです。

 東京都千代田区神田神保町某所・魂の守護者たちソウルガーディアンズ・神田支所事務所・所長室

 7月12日 土曜日 午後6時35分


 事務所までの道中で、号泣してしまった沙希を、紫苑は懸命に宥め、落ち着かせると、事務所の所長室までやって来た。

 アポを取った時間より、5分ほど遅れてしまったものの、支所長の添島は、特に、気にする様子も無く、2人を迎え入れてくれた。


「それで、報告というのは、今回、街中で魔法を使用した事の内容で良いのかな?」


 添島は、応接セットのソファーに腰を下ろしながら、今回の任務の責任者である沙希に、問い掛けた。

 通常の任務の場合、上位部門でランクが上の紫苑が責任者となるのだが、今回、彼は、あくまでも沙希のサポートというスタンスで考えているようで、責任者は沙希ということになっている。


「はい。それもありますけど、今回の任務について、重要な情報が得られましたので、それも合わせて、報告に来ました」


 泣きすぎて、真っ赤になった目を気にしながらも、沙希は添島の目を見て、はっきりとそう答えた。そこへ、唐突に紫苑が、話に割って入って来た。


かずにぃ、いや、添島支所長。早乙女次長と、戸川さんは、事務所にいらっしゃるんですか?」

「なんだ、急に改まって。早乙女さんなら、戸川さんとさっき担当案件の報告に来たから、まだ事務所内にいるはずだが……」

「すみませんが、お2人を呼んでいただけませんか? お話したいことが、ありますので……」


 そう言った紫苑の顔が真剣だったのを見た添島は、ソファーから立ち上がり、自分のデスクにある電話で内線を掛けると、


「添島です。早乙女さん、今から所長室まで来られるかな? うん、戸川さんと一緒に来てください。はい、よろしく」


 そう話すと、再びソファーに腰を下ろし、何か言いたそうな表情で、紫苑の顔を見た。紫苑は、その視線を真っ直ぐに受け止めながらも、口を開こうとしない。恐らく、全員が揃ったところで、話をするつもりなのだろう。沙希は、そんな彼の様子に、嫌な予感しか浮かばなかった。


 添島の内線から5分ほど、不意に部屋のドアがノックされ、早乙女と戸川が室内に入って来た。沙希と紫苑が、2人に軽く頭を下げると、添島が、2人に座るように勧めた。それにしたがって、早乙女は腰を下しながら、添島に尋ねた。


「支所長、お話っていうのは?」

「時間を取らせて悪いね。実は、紫苑が、2人に話があるそうなんだ。私も、内容は聴いてないんだけど……。たぶん、沙希ちゃんに担当してもらってる案件の報告についてだと思うんだ」

「そうですか。分かりました」

「それじゃあ、沙希ちゃん。報告を聴かせてもらおうかな。紫苑の話は、その後、聴くことにしよう」


 添島は、早乙女に呼び出した旨の話をすると、沙希に、案件の報告をするように話を振った。沙希は頷くと、身を固くしながら、報告を始めた。


「今回の、連続行方不明ときぬた公園の殺人死体遺棄事件は、いずれも、妖魔または魔獣の召喚を行うことが出来る魔法使いが関与している事が解りました。

 本日、世田谷区経堂にて、行方不明事件の目撃者への聴き取り、現場調査を行いました。調査終了後、目撃者を自宅へ送り届けた後、人狼ワーウルフと思われる魔獣一体と遭遇、魔獣は紫苑の魔法にて消滅しました。行方不明事件の目撃証言にある“黒い影”の正体は、この人狼ワーウルフかと思われます。

 魔法戦闘の一般人目撃者は無し、私と紫苑に負傷等はありませんでしたが、本案件の情報提供者である諜報者エージェントの代理で、捜査協力のため随行していた、警視庁・世田谷西警察署・刑事課・渡辺清美巡査部長が、右肩甲骨から右鎖骨下を貫通系魔法により負傷。渡辺巡査部長は、白金台にある久世邸にて治療・経過観察中ですが、命に別状はありません。急遽、治療に対応していただいた、Sランク治癒師ヒーラーのセリーヌ女史のお話では、2・3日中には回復するとの事でした。

 調査と渡辺巡査部長の件は、情報提供者の諜報者エージェント、警視庁・捜査一課・管理官・井上義治警視に、大まかな概要は報告済み、明日、久世邸に来られるとのことですので、その時に詳しい経緯を説明する予定です。

 私からの報告は、以上です」


 沙希の報告を一通り聴き終えた添島は、沙希の方を見ながらほほ笑むと、口を開いた。


「初めてにしては、なかなかまとまってて、いい報告だったよ。少し、確認したいことがあるんだが、良いかな?」

「はい、大丈夫です」

「うん。では、目撃証言のあった“黒い影”(イコール)人狼ワーウルフとした根拠は?」

「はい。本日、聞き取りをした目撃者の情報と、私たちが遭遇した人狼ワーウルフの特徴が一致しました。もちろん、召喚されているのが、今回、遭遇した人狼ワーウルフだけとは限りませんので、引続き調査は行います」

「なるほど。ちなみに、召喚主の魔法使いに関しての情報は、何か得られたのかい?」

「いえ、私の方では、今のところ召喚主については、何も解っていません。紫苑、人狼ワーウルフとの戦闘で何か掴めてる?」

「そうだな……。今、解っていることって言ったら、召喚主は闇の魔法に長けていて、召喚した魔獣にも瘴気を含んだ魔法を使わせる事が出来るって事と、こっちは、相手の正体が解っていないのに対して、今回の件で、協会と警察が合同で調査している事と、沙希と俺、渡辺さんがメインで動いてるって事を、相手が知っていた可能性があるって事かな。

 憶測の域ではあるけど、俺達もしくは、渡辺さんの近くにいる人物の中に、召喚主本人か、その協力者か、操られている人物がいて、俺達の情報が洩れてるのかもしれない。もちろん、事件を起こした場所に、魔獣を配置していて、調査に来た俺達の事を相手なりに調査したのかもしれないけどな」

「そうか。いずれにせよ、憶測でしかなく、確証を得られていないのであれば、現状のまま調査を続けるしかないな。とりあえず、情報管理を徹底するよう、井上君には私からも連絡しておくよ。2人も、十分に気を付けて行動するようにな」


 添島の言葉で、一連の報告を終えた沙希は、緊張から力が入っていた体を、少し緩めると、ほっとした表情を浮かべた。それには、調査協力をしていた刑事とはいえ、任務中に一般人を怪我させてしまった責任について、添島から追及があるものだと思っていたからである。しかし、添島からは、渡辺の怪我に関して、そう言った話が無かったため、渡辺には申し訳なさがあるものの、安堵してしまったという訳である。

 そこへ、紫苑がその場の全員を見渡しながら話し始めた。


「添島支所長、それから、早乙女次長、戸川さん、沙希、みんなに聴いてもらいたい事がある」

「何よ。改まって」


 翔子は、いつもなら翔子姉しょうこねぇと自分を呼ぶ紫苑が、自分の事を、早乙女次長と、かしこまった言い方をしたことに、怪訝そうな表情を浮かべた。それを真剣な眼差しで見つめていた紫苑は、ゆっくりと話を始める。


「ここにいる人は、沙希が、今の案件を初任務として受けた時に居合わせたメンバーだ。だから、全員に聴いてもらいたい。

 今回の一件で、警察の協力者とはいえ、一般人に怪我人が出た。任務の責任者は、沙希だけど、実際の総責任は、俺が負わなければいけない立場である事は、みんな解っている事だと思う」

「そうね。でも、協会の規定には、協力者の被害については、ある程度、責任の免除があるはずだけど」

「確かに、早乙女次長が言う通り、規定には、〈協力者に関する責任の免除〉が認められているけど、それは、あくまでも、通常部門の守護者ガーディアンか、諜報者エージェントに協力者が同行している場合に限っての話だと思う。添島支所長なら、俺が言ってる意味は解るはずだけど……」


 紫苑が、添島の方を見ながら、そう話しを振る。添島は、頷きながらそれに答えた。


「早乙女さんが言う通り、免除の規定は確かにある。ただ、それは、あくまでも通常部門の所属の、ランクがAランクまでという、暗黙の了解が存在する。上位部門もしくは、Sランクに昇格するには、世界本部の承認を得なければならないが、その審査はとても厳しいと聴いたことがある。それだけ厳しい審査を受けて、昇格となるのだから、当然、その人物の言動に、相応の責任が生じるのは当たり前ということだ。そして、その責任を全うする事が出来るからこそ、Sランクの人物には、フリーライセンスが与えらているのだろうな」


 添島の言葉に、紫苑は頷くと話を続けた。


「支所長が言った通り、俺には、〈自由に伴う責任〉がある。任務の責任者が誰とか、状況が困難だったとかは関係なく、全てを円滑に対処する事が出来る実力があるからこそのランクであり、ライセンスなんだ。もちろん、俺を含めて、Sランクの人間だって万能じゃない。時には、怪我人や犠牲者が出る事だってある。だけど、今回の件は、間違いなく、俺の認識不足と判断ミスが招いたことだ」


 紫苑がそこまで話したところで、相変わらず、怪訝そうな表情の翔子が、話に割って入ると、彼に尋ねた。


「どういうことよ? 協力者が怪我をした経緯が解らないから、判断のしようがないわ。詳しく、説明しなさいよ」

「そうだな。俺達が、“黒い影”の目撃された場所を調査していると、何かに見られているような感覚があって、周囲を警戒し始めた。初任務だった沙希は、いつ、何が起こるか解らない状況の中で、怖くて緊張していた。結局、目撃者の子を自宅に送り届けてしばらくすると、見られてた感覚がなくなったんだ。そこで、俺は、呟いたんだよ。『取り越し苦労だったかもしれない』って。沙希が初任務で、戦闘になるかもしれない状況も初めてで、怖くて緊張している事を、俺が、しっかりと認識出来てれば、そんなこと言ったあとに、沙希が警戒を解くことくらい予想出来ただろうし、不用意に、警戒を解かせるような事も言わなかったはずだ。俺が、認識不足だったために、沙希は警戒を解き、次の瞬間、人狼ワーウルフが魔法を使ってきた。

 そして、魔法が飛んできた瞬間の、判断も甘かった。俺の認識不足は、〈沙希は中級魔法程度なら、警戒してなくても、即座に対応出来るだろう〉っていう、判断ミスを招いた。警戒の段階で、怖くて緊張していた沙希が、初の魔法戦で、警戒を解いた後に、即時対応できるって考える方が、間違ってる。沙希に実力が無いって言ってるんじゃない。経験の無い守護者ガーディアンが、そんな状態で、冷静に行動できるはずが無いんだ。そして、その判断ミスが、さらに判断ミスを起こさせた。敵からの奇襲なら、使われた魔法の威力をある程度、予測して、全員を守れる《マジック(魔法)プロテクション(障壁)》なり、《マジック(魔法)リフレクション(反射)》なりの防御魔法を使うのがセオリーだ。けど、俺は、貴重な情報源を逃がすまいと、攻撃魔法を使った。戦闘になったら、どう動くのかも打ち合わせてないのに、防御を沙希に任せてしまったんだ。結果、渡辺さんは、咄嗟の状況判断が出来なかった沙希を庇って怪我を負ったんだ」


 そこまでの説明を終えた紫苑は、軽く溜息を付くと、俯き加減になった。それを黙って聴いていた翔子は、厳しい表情をしながら、


「なるほどね。確かに、経緯を聴いた限りでは、紫苑の認識不足と判断ミスだったことは、否めないわね。でも、どうして? あなたが、そんなミスをするなんて、珍しいって言うか、あり得ないんじゃない? 何があったのよ?」


 聴いた内容に対する考えと、率直な疑問を紫苑にぶつけた。紫苑は、再び顔を上げて、全員を見ると、


「俺が、バカなだけだよ。任務の調査、魔法制御の特訓、学校での生活。最近、沙希と一緒に行動する事が、ほぼ当たり前になってた。まだ、知り合って10日(とおか)くらいしか経ってないのに、ずっと前から知ってる仲間みたいな感覚になってたんだ。和兄かずにいとか、翔子姉しょうこねぇに感じてるのと同じようにね。それが、戦闘になった時にも、そのままの感覚で行動してしまった。2人なら、状況に応じて、俺がどう動くか解るよね? 俺も2人がどう動くか解るよ。それだけ、いろんな任務を一緒にこなしてきたんだから。だけど、沙希は違う。任務も、俺と組むのも初めてだ。2人と同じ感覚で、沙希と一緒に戦闘したら、うまく行かないに決まってる。今回の件は、慣れた感覚に甘んじて、余裕ぶってた俺が悪いんだ」


 と、今までになく、はっきりとそう断言した。


(もともと、誰かと組んで任務をこなすよりも、1人で動くことが多いし、難易度の高い任務が多いから、組む相手も、それなりに実力と経験値が高く、融通の利く人物が多い。阿吽の呼吸で、危機を乗り越えられる感覚が染み付いちゃってるのよね)


 “慣れた感覚”という言葉を口にした彼の発言に対して、翔子はそんなふうに考えていた。少なからず、自分にも、隣に座る添島にも、その感覚を持っているし、ランクが上位になるほど、ランクの低い新人と任務をこなす機会はほとんどない。彼が、認識を誤るのも理解できない事ではなかった。

 頷きながらも真剣な表情で、紫苑の話を聴いていた添島は、この場にいる全員が気になっている事を、紫苑に尋ねた。


「言いたいことは、解った。それで、これからどうするつもりなんだ?」

「この状態で、今の任務を続ければ、また同じミスをする可能性があるし、相手は、街中でも平気で魔法を使ってくるような奴らだ。今度は、関係のない一般人に被害が出るかもしれない。俺も、中途半端は好きじゃないし、やると言った以上は、最後まで、やり遂げたいと思う。でも、これ以上、周りや、沙希を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 だから、俺は、この任務から降りようと思う。沙希にも、みんなにも、迷惑を掛ける事は、解ってる。けど、これが一番いいと思うんだ」


 そう言って、悔しさを滲ませた表情を見せた紫苑に、添島と翔子は、一瞬、予想通りといった顔になり、黙って聴いていた戸川は驚愕の表情を、沙希は、あまりの驚きに思考が付いていかず、唖然とした表情になった。


(なに? 降りるって、紫苑が任務から外れるってこと? どうして? 悪いのは、紫苑だけじゃないのに。紫苑がいなくなったら、私、どうすればいいの……)


 ぐるぐると、疑問ばかりが浮かぶ思考の中、沙希は、徐々に不安と喪失感に襲われた。次第に、彼女の赤く腫れぼったい目には、本人も気が付かないうちに、涙がたまり始める。

 沙希は、涙が溢れそうになっている目で、隣に座る紫苑を見つめた。涙で滲んで見える彼の表情は、揺るがない決意を表すかのように厳しく、その眼差しは、強い意志を持ったものだった。


 張りつめた空気の中、それぞれが、彼の発言に、思う所があるのか、誰も口を開こうとしない。

 時が止まってしまったかのような静寂さの中で、壁に掛けられた時計の、チッ、チッ、チッという小さな音だけが、部屋の中で規則正しく響き渡っていた。


更新がなかなか出来なくて申し訳ありません。

予告に、間に合ってほっとしております。

次回は、10/27(金)の予定です。

よろしくお願い致します。


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