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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
35/90

特訓と調査 7

朝晩、すっかり秋らしくなってきました。

窓を開けて寝ると、朝方とても寒い時があります。

油断していると、風邪ひきますね。

 東京都世田谷区某所・世田谷西警察署・正面玄関

 7月11日 金曜日 午後3時50分


 学園で、早くも期末考査の結果が返され始めたこの日、沙希と紫苑は、昼休みに届いた渡辺からのLIGNEリーニュに従って、渡辺の勤務する世田谷西警察署を訪れていた。


 世田谷西警察署は、その名が表す通り、世田谷区の西部全域を管轄する警察署である。

 今回の沙希達が受けた任務における調査対象事案は、《世田谷区未成年者連続行方不明事件》であり、世田谷東警察署に捜査本部が置かれていたのだが、先日の《世田谷区きぬた公園内女児殺人死体遺棄事件》も関連があると判断されたため、合同捜査本部となった。

 その、合同捜査本部の捜査指揮を執っているのが、先日2人が打ち合わせをした、警視庁・捜査一課・管理官の井上警視という訳である。

 本来であれば、捜査本部のある世田谷東警察署で待ち合わせのはずなのだが、渡辺警部補の事情で西警察署でということになったのである。


 2人が待つこと5分、黒のパンツに白いワイシャツ姿の渡辺が姿を現した。彼女は、これまで通り、そこそこ大きな鞄と黒い上着を手にしていた。


「お待たせしました。私の都合で、こちらまで来ていただいて、申し訳ありません」


 2人を前にした渡辺は、恐縮したように軽く頭を下げた。その様子を見た紫苑が、


「渡辺さん、お願いがあるのですが、俺達に、敬語を使うのは止めていただけませんか?」


 そう頼むと、


「いえ、お2人に、協力するようにとの指示ですし、久世さんに関しては、協会の中でも地位のあるお立場の方だと井上警視から伺っておりますので……」


 渡辺は真面目な表情のままで、そう返答した。紫苑は、彼女の対応に苦笑しながら、


「そんな事、気にしないで下さいよ。それに、協力してもらってるのは俺達ですし、渡辺さんの方が年上じゃないですか。お互いに敬語だと、なんだか堅苦しくて……。普通に、兄弟にでも話をする感じで良いですから。その代り、俺達も、ため口になるかもですけど、許して下さいね。それと、俺のことは、紫苑、彼女のことは、沙希でお願いしますね」


 そう言うと、自分と沙希の事を交互に指差した。隣で、紫苑の意見に同意した沙希が笑顔で、


「渡辺さん、私もその方が良いです」


 と、ダメ押しの一言を言うと、少し考え込んだ後、渡辺が、


「そう。そこまで言うなら、普通にしゃべらせてもらうわ。その方が、私も楽だし。それじゃあ、早速だけど、行きましょうか」


 そう言いながら軽くほほ笑むと、ポケットから車のキーを取り出し、そばに停めてあった車に向かって行った。

 彼女の、あまりの変わりように、2人が唖然としていると、運転席に乗り込みながら渡辺が、


「ほら、早く乗って、置いてくわよ」


 そう催促をして来た。その言葉に我に返った2人は、慌てて車の後部座席に乗り込んだ。

 程なく、3人を乗せたシルバーのセダン車は、夕暮れが迫る街中へ、勢いよく走り出して行った。


 車で移動すること約20分、3人は、沙希達が使っている、京王線桜上水駅の北東にある閑静な住宅街に辿り着いた。その一帯は、分譲住宅地だったのか、同じような住宅が軒を連ねているが、歩いている人はまばらで、どこか物悲しげに見えた。

 渡辺は、近くにあるコインパーキングに車を停めると、助手席に置いてあった鞄から、クリアファイルに入っている書類を2人に手渡し、


「これから聞き込みに行くのは、4月5日の木曜日に行方不明になった、浅野潤也あさのじゅんやくん・11歳の家よ。潤也くんは、近くにある、区立鈴北すずきた小学校の6年生。5日の夕方、学校からの帰宅途中に行方不明になっているわ。たまたま、近くのスーパーへ買い物に出た母親が、路地から黒い影が飛び出して来て、潤也くんをさらって行ったと証言してる。犯人と思われる人物からの脅迫電話は、現在まで無し。母親以外の目撃者も見つかっていないわ」


 と、資料の内容を説明した。それを聴いた沙希は、資料に目を通しながら、


「この潤也くんって子は、特別な何かがあったんですか? たとえば、私達みたいな力があったとか」


 そう尋ねると、渡辺は、手帳を取り出して、


「捜査にあたった東署の刑事に聴いた限りでは、成績は普通、スポーツに関してはあまり得意な方ではなかったみたいね。あなた達みたいな能力も無かったみたいだから、言ってみればごく普通の小学生って感じね」


 ペラペラと手帳をめくりながら答えると、バックミラー越しに2人を見て、


「とりあえず、個人的な内容に関しては、母親から話を聴くのが一番だと思うわ。潤也くんの家は、ここから歩いて5分位、アポは取ってあるから、とりあえず行ってみましょう」


 そう言って車を降りた。沙希と紫苑も、続けて車を降りると、渡辺の案内のもと、目的の家へ向けて歩き始めた。

 〈ASANO(浅野)〉という表札があるその家は、全ての窓が厚いカーテンによって閉ざされており、中の様子をうかがうことが出来なかった。辺りは、ひっそりと静まり返り、ややうす暗くなっているにも関わらず、玄関灯も点いてないその建物は、異様な重苦しさを感じさせた。


 渡辺は、門扉脇のインターホンを押すと、程なくスピーカーから、


『はい。どちら様ですか?』


 と、抑揚の無いか細い声が聴こえてきた。渡辺は、警察手帳をインターホンのカメラに向けながら、


「昨日、お電話いたしました、世田谷西署の渡辺です」


 そう答えると、インターホンの切れるプツッという音がした後、しばらくしてゆっくりと玄関が開き、体を半分だけ表に出した女性が、


「どうぞ、お上がり下さい」


 と言いながら、中に入るように促した。


 通されたリビングは、灯りが点いているものの、どこかうす暗く感じた。潤也の母親である浅野雅子あさのまさこは、身なりこそきちんとしているが、ここ3ヶ月、喪失感と悲壮感の中で生活して来たのだろう、疲れ切った表情をしていた。

 キッチンから麦茶の入ったグラスを持ってきながら、雅子は虚ろげな目で渡辺を見ると、


「お電話で、お話を伺いたいとのことでしたが、捜査に何か進展があったんですか?」


 期待の無い声でそう尋ねた。渡辺は、申し訳なさそうな顔で、


「力不足で、申し訳ありません。警察も、全力で捜査しておりますが、今だ有力な情報が無い状態でして……。本日お伺いしたのは、今回、私の所属する世田谷西署も捜査に加わる事になりまして、再度、詳しいお話を聴かせていただきたく、お伺いさせていただきました」


 そう答えると、雅子は肩を落としながら俯くと、


「そうですか。今までお見えになった刑事さんに、お話しさせていただいた事と変わらないかと思いますけど。それでよろしければ、構いませんが……」


 そう言いながら、青白い顔を少し上げてみせた。渡辺は手帳を取り出し、メモをする用意をする。それに習って、沙希もメモ帳を用意し、話を聴く体制を整えた。横目で、それを確認した渡辺は、


「それでは、潤也くんが居なくなった時の状況を教えていただけますか?」


 その問いに、雅子は頷くと、説明を始めた。


「あれは、4月5日の夕方4時半くらいでした。夕飯の支度をしていて、買い忘れた物があったので、近くのスーパーに行く途中でした。ここから、10メートル位行った交差点を右に曲がると、小さな公園のある通りに出るのですが、その公園沿いの道を進んで、ちょうど公園の入り口辺りに差し掛かった時に、向かいから息子が帰って来るのが見えたんです。私が、名前を呼びながら手を振ると、息子も手を振り返したんです。息子との距離は、15メートル位だったと思います。息子は、私の方へ駆け寄って来ようとしたのですが、2メートルほど走った所で、右手側の路地から、“黒い影”のようなものが飛び出して来たんです。私は一瞬、人が飛び出して来たのだと思いました。『危ない!』そう叫びましたが、息子は飛び出して来た“影”とぶつかったんだと思います……。次の瞬間には……、息子も……、飛び出して来た“影”も……、姿が無くて……」


 初めこそ淡々と話をしていたが、徐々に記憶が呼び戻されたのか、最後の方は涙声になりながら、そう話した。


「お辛い事を思い出させてしまい、申し訳ありません」


 渡辺が、頭を下げながらそう詫びると、雅子は近くにあったティッシュを取り、涙を拭うと、


「いえ、私こそ、取り乱してすみません。息子の姿が見えなくなった後、色々と探し回ったのですが、結局見つかりませんでした……」


 そう言って、視線を下に向けた。それを、黙って聴いていた紫苑が、


「浅野さん、少し質問させてもらっても良いですか?」


 そう尋ねると、紫苑の方を見た雅子が小さく頷いた。紫苑は、それを確認すると、彼女に質問を始めた。


「では、目撃した“影”ですが、どのくらいの大きさがありましたか?」

「そうですね。大人の男性くらいの大きさでしょうか……。大体、170cmセンチ位だったと思います」

「“影”が見えていた時間はどうですか?」

「時間ですか? 2、3秒位だと思います。一瞬って感じでした」

「そのくらいの時間だと、もちろん姿とか、恰好は分かりませんよね?」

「ええ……。でも、本当にブロック塀に映った“影”みたいな感じだったんです! 真っ黒で、色も恰好も分かりませんでした」

「大丈夫ですよ。浅野さんのお話を、疑っている訳ではありませんから。それから、潤也くんの生年月日と血液型を教えてもらえますか?」

「はい。浅野潤也、11歳、平成17年10月21日生まれ、血液型はオー型です」

「ありがとうございます。最後に、これを見ていただけますか?」


 紫苑は、幾つかの質問の後、胸ポケットからステータスコインを取り出すと、雅子の前にコインを置きながら、


「色とか、模様とかは違っているかもしれませんが、このコインと似通った物をお持ちになっている、ご家族とかご親戚はいらっしゃいませんか?」


 そう尋ねると、雅子は、コインを手に取り裏表をよく確認した後、


「いえ、こういうメダルというか、コインを持っている人は、主人も私も身内にはおりません」


 雅子が紫苑にコインを返しながらそう答えると、紫苑はそれを受け取りながら、


「そうですか、ありがとうございました。自分からは以上です」


 そう言うと、コインを胸ポケットに戻しながら、沙希の方を見た。沙希は頷くと、やや緊張した面持ちになりながら、雅子に質問をし始めた。


「では、今度は、私から良いですか? 潤也くんが行方不明になる前、潤也くんの周りで、いつもと変わった事はありませんでしたか?」

「変わったことですか? 特に、思い当たる事はありませんが……。そう言えば、潤也が居なくなる3、4日前の夜7時頃、息子は一人で、通りにあるコンビニに買い物へ行ったんですけど、その帰りに、女性に道を尋ねられたって言ってました。若い、綺麗な女性だったらしいんですけど、この辺では聴いた事のない苗字の家を探してるって言ってたらしくて……。

 この家は、息子が生まれる前に建てて、主人と生活してましたから、息子は生まれた時から、この家で生活してきました。ですから、この地区に住んでいる方の苗字は、ほとんど知っています。その息子が、聴いた事ない苗字なんて珍しいなって思ったんですけど……。その時は、違う地区と間違えたのだろうくらいにしか思いませんでした。この辺りは、住宅地が広がっていて、通りの向かい側も同じような住宅がありますから……。普段と違うことと言えば、その位でしょうか」

「そうですか。ちなみに、その珍しい苗字って言うのは、覚えていらっしゃいますか?」

「……すみません。覚えていません……」

「分かりました。あと、潤也くんが居なくなってから、お家の近くで、怪しい人とか同じような“影”を見かけた事はありませんか?」

「いえ、見かけるのは、近所にお住いの方ばかりですし、“影”もあれ以来、見た事はありません。息子が居なくなってから、自治会で、地区の見回りを始めていますが、不審者が出たという話は、聴いたことがありません」

「ありがとうございます。私もこれで大丈夫です」


 懸命に受け答えしてくれた雅子に、沙希は軽く頭を下げながら渡辺の方を見る。渡辺は、2人の聴いた内容を手帳で確認すると、


「浅野さん、お疲れの所、お時間をいただきありがとうございました。一通りお話を伺えましたので、今日はこれで失礼させていただきます」


 そう言いながら立ち上がると、雅子はつられて立ち上がりながら、


「いえ、お役に立てたかどうか……。刑事さん、潤也の事、よろしくお願いします」


 そう言うと、深々と頭を下げた。渡辺は、その姿を見ながら、


「はい。全力で捜査致します。必ず息子さんは、我々、警察が見つけてみせます」


 力の入った言葉で、雅子にそう答えた。その表情は、必ずこの事件を解決するといった決意の表れか、鬼気迫るものがあった。


 浅野宅から車に戻った3人は、今日の情報整理と、これからの予定について話し合うため、紫苑の知っている喫茶店へ向かうことになった。


 車窓から、もうすぐ夕日が沈みきる、そんな光景を目にしながら沙希は、


(少しずつ、情報を集めていけば、必ず犯人にたどり着くはずだよね。もう少し、上手に話が聴けるようにならなくちゃ)


 と、また一つ決意を新たにするのだった。


本編に戻ってきました。

しばらくは、特訓と調査の回になります。

次回更新は、来週火曜日の予定です。

※9/14 行方不明の男の子の、生まれ年と年齢を修正しました。

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