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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第2章 任務開始
32/90

息抜きと2人の距離(前編)

やっと、天気が回復してきた! っと思ったら、次の日は曇りだったり

なんだか、安定しない日が続いております。

暑いのは嫌だけど、すっきり晴れないのも嫌なものです。

 東京都港区白金台某所・久世家

 7月10日 木曜日 午前6時20分


 〈ピロリ~ン〉


 LIGNEリーニュの受信音がスマホから流れると、沙希は、やや腫れぼったいまぶたを開けた。目の前には、優しい温もりをたたえた、セリーヌの豊かな胸がある。

 昨晩、《太って悲鳴を上げちゃった事件》の後、泣いてしまった沙希は、セリーヌに、


「今日は、私の所で一緒に寝ましょうね」


 と優しく促され、部屋に連れてこられると、大きなベッドに寝かされた。セリーヌは、沙希を優しく抱き、眠りにつくまで背中を撫で続けてくれたため、沙希は、とても心地よく眠る事が出来た。


 沙希は、セリーヌを起こさないように、ネグリジェにおおわれた彼女のふくよかな胸に顔を寄せると、幼児おさなごが甘えるように、しばらくの間、その柔らかいぬくもりに浸る。

 程なく、ゆっくりとセリーヌから離れた沙希は、ヘッドボードに置いてあるスマホを手に取ると、LIGNEリーニュを起動させた。

 メールの送り主は、親友の榎本真樹えのもとまきである。その内容は、


『おはよう、沙希(^^)/。早い時間にゴメン。今日、期末考査が終わったら、どこか遊びに行かない? 私は、啓太を誘うから、沙希は、紫苑誘って。4人で遊ぼう(^^)v』


 との事だった。沙希は、


『えっ、今日! どうかな……。とりあえず、紫苑にLIGNEリーニュしてみるけど、ダメだったら、啓太君と2人で遊びに行きなよ?』


 そう返信すると、信じられない速さで、


「え~。沙希、この頃、付き合い悪いぞぉ~(T_T)。あっ、もしかして、私たちに内緒で、紫苑とデートしてるんじゃないでしょうね?」


 と、真樹から返信が来た。


「そんな事してません! とりあえず聴いてみるから、結果は学校でね」


 沙希は返信を済ませると、


「もう。真樹は、すぐに私の事からかうんだから……」


 そう独り言を呟くと、そっとセリーヌの部屋を出て、パジャマのまま紫苑の部屋へ向かって行った。


 久世家の2階は、屋敷の真ん中にある階段を上がって、右に女性たちの部屋が、左に男性たちの部屋がある。沙希は、右側の一番奥にあるセリーヌの部屋の隣に、部屋を借りていた。紫苑の部屋は、左側の一番奥、賢斗の向かい側の部屋である。

 ちなみに、階段を上がってすぐの所にも、大きなドアの部屋がある。沙希が、初めて2階を案内された時、その部屋について尋ねると、賢斗とセリーヌ夫婦の寝室だと、ちょっと頬を赤らめたセリーヌが、教えてくれた。


 沙希は、個人の家にしては長い廊下を歩き、階段の所までやって来ると、


「おはよう、沙希。今日は、ずいぶん早起きだな。何かあったか?」


 タイミングよく階段を上がって来た紫苑が、沙希の方を見上げながら声を掛けてきた。


「おはよう。ちょっと聴きたいことがあって。どこか行ってたの?」


 挨拶を返しながら、沙希は紫苑の姿を見てそう尋ねたのは、彼が、特訓の時によく着ているジャージ姿だったからだ。


「ああ、訓練所で軽い運動と、魔法の慣らし発動してきたんだ。朝の日課だからな。それで、聴きたいことって何だ?」


 階段を上がりきった紫苑は、そう言いながら持っていたタオルで首筋の汗を拭いている。沙希は表情にこそ出さなかったが、内心では、


(紫苑くらいの上位ランクになっても、毎日の訓練は欠かさないんだ。やっぱりすごいな……)


 少し驚きながら、改めて彼の真摯な姿勢に尊敬の念を持つと、その姿を見つめ続けた。紫苑は無言で自分を見つめる彼女に、


「沙希?」


 と声を掛けた。ぼーっとしたかように紫苑を見つめていた沙希は、その声ではっと我に返ると、


「あっ、ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった。あのね、真樹が今日の午後、4人で遊びに行かないかってLIGNEリーニュが来たんだけど、調査も特訓もあるし、どうしようかなって」


 少し顔を赤くしながら、ちょっと焦ってそう話した。それを聴いた紫苑は、ポケットからスマホを出し、しばらく何か操作をした後、画面を見ながら、


「良いんじゃね? 渡辺さんも、準備が終わってないから、調査は明日からって連絡来てるしな。俺は、パスだけど、沙希は2人と遊びに行って来いよ。思った以上に特訓も進んでるしな」


 そう言うと、顔を上げて笑みを浮かべた。それに対して沙希は、


「紫苑は一緒に行かないの?」


 淋しそうな顔をしながら、改めて尋ねる。


「ああ、ちょっと行きたい所もあるしな。どうした? あんまり嬉しそうじゃないな」


 紫苑はそう言うと、浮かない顔をしている沙希に尋ね返す。すると、沙希は少し俯きながら、


「遊びに行くのは嬉しいけど、紫苑が行かないんじゃ、つまんないよ……」


 そう呟くように答えた。紫苑はそれを聴くと、少し笑った後で、


「2人とも、中等部からの親友なんだし、俺が編入するまでは、3人でよく遊んでたんだろ? 大丈夫、きっと楽しいって」


 そうさとすと、俯いたままの沙希が、


「でも、今は紫苑がいるじゃん。3人よりも、4人の方が絶対に楽しいもん。それに、紫苑は気付いてないかもしれないけど、最近、真樹と啓太君って、なんか良い雰囲気の時があって……。啓太君は、私と知り合う前から、真樹の事が好きみたいだし、邪魔しちゃ悪い気がするんだよね」


 初めは比較的大きかった声が、徐々に尻窄しりすぼみになりながらそう答えた。紫苑は、


(なんだよ、啓太のやつ。真樹の事が好きなのモロバレじゃねぇか! もうちょっと、うまく隠せねぇのかよ。でも、2人が、付き合ってるのは、まだバレてないんだな)

「そっかぁ……」


 ここに居ない啓太に、腹の中で悪態を付きながら、相槌を打った。沙希は続けて、


「もちろん、2人と遊びたい気持ちもあるし、紫苑の言ってる事も解ってるよ。だけど、3人でっていうのは、ちょっと抵抗があって……。真樹には、紫苑がダメだったら、2人で遊んできてってLIGNEリーニュしたら、『最近、付き合い悪い』って返信があったし、どうしようかな……」


 独り言のように呟く。沙希はそのまま何か考え始めてしまい、少しの間、2人の間に無言の空気が流れた。

 やがて、沙希が、少し迷ったような口調で、


「ねえ、紫苑の行きたい所って、今日じゃなきゃダメなの?」


 少し顔を上げて上目遣いに紫苑を見上げると、そう尋ねた。


「いや、別に急ぎってわけじゃないし、土日でも構わないんだけどな。ただ、最近、俺と一緒に行動する事が多いし、これからも調査とかで一緒にいる事が増えるから、たまには別行動も悪くないかなって思っただけだよ」


 紫苑は無表情で、沙希を見下ろしながらそう答えると、沙希は見る間に涙目になり、辛そうに顔を歪めると、


「紫苑は、私と一緒にいるのイヤなの? 私の事、嫌い?」


 小さな涙声なみだごえでそう問い掛けると、両手を胸の前で組みながら俯き、細かく肩を震わせ始めた。それを見た紫苑は、慌てた様子で、


「べっ、別に、沙希の事を一緒にいてイヤだとか、嫌いだとか思ってねえよ。でも、2人と遊びに行くのに、俺が一緒だと、特訓とか調査の事を思い出して、思いっきり楽しめなかったり、窮屈きゅうくつに感じるんじゃねえかなって思って……」


 紫苑が、思っていた事を口にすると、それを聴いた沙希は、紫苑のジャージの袖口を掴みながら、


「そんな事、無いもん。一緒にいるのが紫苑なら、変な気兼ねしなくても良いし、ホントに楽しいもん。ねえ、紫苑の行きたい所は、今度、私も一緒に行くから、今日は、私と一緒に4人で遊びに行こうよぉ」


 甘えるような口調になると、駄々をこねる幼女のように、体を左右に振る。袖口を掴まれた紫苑の右腕も、その動きに釣られて右へ左へ揺れ始めた。そんな沙希の姿をみて、紫苑は軽く溜息を付くと、沙希の頭をポンポンしながら、


「わかったよ。今日は、一緒に遊びに行く。その代り、俺の時も、一緒に行って貰うからな。あと、“甘い物は控えめに”だぞ!」


 笑みを浮かべそう答えると、沙希はパッと顔を上げ、袖口を放すと、


「ホント!? すっごく嬉しい。約束する、甘い物はなるべく我慢するよ! ありがと、紫苑」


 そう言いながら、飛び跳ねるように勢いよく紫苑に抱き着くと、満面の笑みを浮かべた。

 紫苑は、あまりにも唐突な沙希の行動に、一瞬、唖然とした表情になったが、すぐに優しげな笑みを浮かべると、自分の胸元にある彼女の頭を愛おしそうに撫でながら、


「まったく、甘ったれの、我儘わがままだな……」


 そう呟いた。その言葉を聴いて、沙希はふっと我に返ると、


(う、うわ~。嬉しすぎて、思わず抱きついちゃったよ! ど、ど、ど、どうしよう、紫苑が頭ナデナデしてるよ。寝起きだから、髪がボサボサなのにぃ~) 


 今の自分の状況を理解すると、緊張と焦りで体を強張らせる。さらに、


(そう言えば、セリーヌさんの所から、パジャマ姿でここまで来ちゃったよ……。うわっ、恥ずかしい)


 ここに至って、自分の恰好かっこうに気が付いた沙希は、少し頬を赤らめた。次の瞬間、


(……ちょっと待って……。寝起きで、パジャマのままって事は……。わっ、私、ブラしてないよぉ~!!)


 普段の習慣で、寝る時はブラをしないため、ノーブラ状態の、標準よりやや小ぶりな胸を、パジャマ越しに紫苑に押し付けてしまっている状況に気が付き、沙希は、あっという間に全身が真っ赤になった。

 とはいえ、自ら彼に抱き着いてしまったため、無下に紫苑を突っぱねる事も出来ず、


(あわわわわっ。どうやって離れたら良いか、解んないよぉ~)


 置かれている状況に思考が追い付かず、沙希は目を白黒させながら、パニック状態に陥った。

 すると、頭を撫でていた手が離れ、代わりに、両肩へ手が置かれると、沙希の体がすっと紫苑から離された。


 沙希が、赤い顔のままきょとんとした表情で紫苑を見上げると、少し顔を赤くした紫苑が、明後日の方を見ながら、


「嬉しいのは解るけど、犬じゃないんだから、いきなり抱き着いてきたらビックリするだろ。そろそろ、準備しないと、遅刻しちまうぞ」


 両手を肩から放し、そう言った。沙希は、落ち着きを取り戻せず、焦った感じで、


「そ、そうだよね。いきなりはダメだよね。ビックリさせて、ごめんね。じゃ、じゃあ、私、支度して来るね。また、後で」


 そう言うと、ぎこちない動作で、自分の部屋へ戻り始めた。


「ああ、また後でな」


 紫苑は、そう返事を返すと同じように、自らの部屋に向かって歩き出した。


 部屋に着いた紫苑は、


(びびったぁ。いきなり抱き着いてくるから、思わず、頭撫でちまったよ。でも、今の沙希、結構、可愛かったな……)


 そう思い出し、撫でていた右手を見ながら、自然と笑みを浮かべた。


 一方、沙希は部屋に入ると、


(紫苑、私がノーブラだったの、気が付いたかな? それにしても、すっごく、恥ずかしかった。でも、さっきの紫苑の手、温かくて、凄く優しかったな)


 そう思い出し、火照りを冷ますように、手で顔を仰ぎながら、学校の準備を始めた。


 その頃、隣のセリーヌの部屋では、ドアに寄り掛かったセリーヌが、嬉しそうなほほ笑みを浮かべていた。沙希が出て行ったあと、すぐに目を覚ましたセリーヌは、部屋を出ようとしたところで、2人の姿を見つけ、部屋の入り口から一部始終を覗いていたのである。


(ふふふっ。あの2人、ちょっとの間にかなり仲良くなったみたいね。もしかしたら、沙希ちゃん、家のお嫁さんになっちゃったりして!)


 2人が聴いたら、卒倒しそうな事を妄想する、セリーヌはとても幸せそうだった。


特訓と調査がメインなのですが、沙希達の私生活も書きたくなり

ちょっと、横道にそれてみました。

メインには、ちゃんと戻りますので、ご心配なく。

少しの間、2人の様子をお楽しみください。

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