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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第1章 出会い
17/90

月ヶ瀬家の夜(中編)

本日2回目です。

一昨日更新できなかった分を挽回できてうれしいです。

 東京都調布市某所・月ヶ瀬家

 7月1日 午後8時50分


 月ヶ瀬家の家族が、リビングに揃ったところで、百合子がふと気が付いて立ち上がると、


「久世くん、コーヒーのお替り持って来るわね」


 紫苑のカップを下げながら、キッチンへ向かうと、しばらくパタパタと動いていた百合子が、皿とフォークを持ってリビングに戻って来ると、


「沙希、ケーキの箱、持って来て」

「うん、わかった」


 沙希にそう頼むと、紫苑の前に、新しく淹れたコーヒーを置いた。

 ケーキの箱を手に、沙希がリビングに戻って来ると、箱を受け取った百合子は、テーブルの真ん中にそれを置くと、


「久世くん。子供たちが、先に戴いてしまってごめんなさい。どれが良いかしら?」


 百合子は謝りながら、紫苑にそう尋ねた。紫苑が箱を覗くと、まだ買って来たケーキの種類はすべて残っており、沙希の皿には苺のタルトが、瞬の皿にはシュークリームが乗っていた。

 少し悩んだ後、


「では、レアチーズを戴いても、よろしいですか?」


 紫苑がそう答えると、


「レアチーズね。はい、どうぞ。折角だから、あなたも戴いたら?」


 ケーキを取り分け、フォークと共にケーキの乗った皿を紫苑に手渡しながら、耕一に尋ねると、


「そうだな。久世くん、遠慮なく戴くよ。俺は、そのチョコのやつを貰おうかな」


 耕一が、生チョコケーキを指差すと、百合子は、紫苑の時と同じように取り分け、耕一の前に皿を置き、フォークを手渡した。自分以外の全員にケーキが行き渡ったのを確認した百合子は、


「じゃあ、私も遠慮なく。どれも美味しそうね」


 そう言いながら、目移りした様子の百合子は、結局、苺のタルトを手にすると、自分の皿に乗せた。


 各自がケーキを食べ始めると、コーヒーを一口飲んだ耕一が、


「ところで、久世くんは協会のメンバーなんだよね。じゃあ、久世くんの家族も、協会の関係者なのかい?」


 紫苑の両親について尋ねると、紫苑は、手にしていたフォークを皿に置くと、


「はい。父は魔術師ウィザード、母は元、治癒師ヒーラーです。自分も父と同じ魔術師ウィザードです。兄弟は、一人っ子なのでいません」

「そう、私も元は、沙希と同じ、法術師ロー・ソーサリー、主人は、現役の製作者メーカーなのよ」


 紫苑の答えに、百合子はそう話すと、紫苑は頷きながら、


「はい。帰り道で、沙希さんから伺いました」


 と、先ほど沙希に聴いた事を話した。

 その話を聴いていた瞬は、紫苑の方を見ると興奮したように、


「久世さん、コイン持ってるよね? ちょっとだけ、見せてくれない?」


 紫苑にそう頼むと、


「瞬!、失礼ですよ。久世くん、ごめんなさい。瞬は、家に尋ねてくる協会の人のコインを見るのが好きで……」


 百合子が、瞬をたしなめながら紫苑に詫びると、紫苑は胸ポケットからコインを取り出し、


「別に構いませんよ。減る物でもないですし」


 そう言いながら、瞬にコインを手渡した。それを見た瞬は、


「うわっ、なんだこれ! 今まで見たコインと全然違う! 超かっこいい!」


 感嘆かんたんの声を上げる瞬に、耕一と百合子は、同時に瞬の方を見ると、


「瞬。父さん達にも見せてくれ。久世くん、良いかな?」

「ええ、どうぞ」


 紫苑に確認をする耕一に、紫苑が軽く了承すると、耕一は、瞬からコインを受け取り、百合子にも見えるように、右の手のひらに乗せた。コインを見た耕一と百合子は、大きく目を見開くと、緊張した声で百合子が、


「久世くん、いえ、久世さん。あなたはもしかして……」


 続ける言葉に迷う百合子に、紫苑は苦笑いしながら、


「隠すつもりはなかったんです。なんだか、言いそびれてしまって」


 申し訳なさそうに言いながら、座った状態で姿勢を正すと、


「お伝えするのが遅くなり、申し訳ありません。自分は、世界本部所属、フリーライセンス持ちホルダー執行者エクスキューショナー、Sランク、永久の魔術師エターナルウィザード、久世紫苑と申します」


 紫苑が、自らの口頭申告すると、同じく姿勢を正した耕一と百合子は、


「日本支部所属、製作者メーカー、Aランク、金属技術士メタルマイスター、月ヶ瀬耕一です」

「元日本支部所属、守護者ガーディアン、Bランク、法術師ロー・ソーサリー、月ヶ瀬百合子です」


 それぞれの、口頭申告をすると、頭を下げた。それを見た瞬は、


「えっ、どういう事?」


 ケーキを食べる手が自然に止まり、耕一と百合子の方を凝視する。事情を知っている沙希は、2個目の生チョコケーキに手を出して食べ始めようとしていた。

 頭を上げた、耕一と百合子は、自分たちをまじまじと見る瞬に向かって、


「久世さんは、協会のメンバーでは、今のお父さんより上の立場の人なのよ」


 そう説明する百合子に、瞬が、


「マジで!!」


 今度は紫苑を見つめると、耕一が、


「本当だ。久世さんは、父さんよりずっと偉いの立場の人なんだ。久世さん、知らなかったとはいえ、大変失礼いたしました。先に、確認すべきでした。申し訳ありません」


 もう一度頭を下げながら、紫苑に謝ると、それを見た紫苑は、


「お二人とも止めて下さい。俺は、所属とか、立場とかで余所余所しくされるのは好きじゃないんです。お願いですから、今までと同じように、いや、もっと砕けた感じの話し方にして下さい。全然、気にしませんから」


 慌てて耕一をなだめると、困ったように沙希の方を見る。ケーキに夢中になっていた沙希は、紫苑の視線に気が付くと、


「久世くんが良いって言ってるんだから、2人ともそうしてあげて。今日も、初めて会う人に挨拶するたび、『堅苦しいのは好きじゃない』とか『名前で呼んで欲しい』って言ってたよ」


 紫苑の言葉に、やや困惑気味の2人は沙希の後押しを受けると、耕一は、


「久世くん、本当に良いのかい? その方が、俺も百合子も親しみやすくてありがたいが……」


 恐る恐るといった感じで、紫苑に確認すると。


「本当に、気を遣わないで下さい。呼ぶ時も、苗字じゃなくて名前の方が嬉しいです。その方が、俺も気を遣わなくて楽ですし……」


 ほほ笑みながらそう答えた紫苑に、耕一と百合子は、なごんだ表情になると、


「そうか、じゃあここからは、気を遣わないでいこう。君の事は、沙希の友達として考えるよ。紫苑くん、君も俺に気を遣わないで、耕一って名前で呼んでくれよ?」

「ええ、私もそうさせてもらうわ。紫苑くん、私の事は百合子って呼んでね」


 2人はにこやかに笑みを浮かべると、紫苑にそれぞれの呼び方を教える。


「はい。耕一さんと百合子さんですね。わかりました。あっ、君の事は、瞬って呼び捨てにするけど良いよな?」


 紫苑は、耕一と百合子に呼び方の確認をすると、ポカンとしている瞬にそう言った。

 我に返った瞬は、


「も、もちろんだよ。じゃ、じゃあ、俺も紫苑くんって呼んでで良い?」


 そう言った瞬に紫苑は、大きく頷く。


 その光景をじっと見ていた沙希は、自分の家族と、紫苑との間の垣根が一つ取り払われた事を嬉しく思うのであった。


沙希のお家編が長くなってしまいました・・・。

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