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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第1章 出会い
16/90

月ヶ瀬家の夜(前編)

連日、猛暑日が続くこの地域は、本当にヤバいです。

エアコン・冷たい飲み物は必需品!。

皆様も熱中症にご注意を・・・。

 東京都調布市某所・月ヶ瀬家

 7月1日 午後8時25分


 ケーキ屋を出て、駅前の商店街からわき道に入った住宅地の一画に、沙希の家はあった。

 沙希の家は、近隣の住宅に比べて土地が広く、一般的な2階建ての隣に離れのような平屋の建物が付いており、全体的にモダンな造りは、紫苑に落ち着いた印象を与えた。


 2人が、玄関に辿り着くと、沙希は鍵をカチャカチャさせて開錠しドアを開けると、


「ただいまぁ~」


 と、家の中へ入りながら奥に向かって声を上げた。沙希に続けて紫苑も、玄関の三和土たたきまで入る。

 程なく、リビングに続くと思われるドアから百合子がやって来て、


「沙希、お帰り。あら、そちらの方は?」


 疑わしげな表情になった百合子が、沙希に尋ねると、すかさず紫苑が、


「夜分にお伺いして申し訳ありません。自分は、久世紫苑と申します。神田支所の添島支所長に、沙希さんを送りながら、遅くなってしまった事を、お詫びして来るように申し付けられまして……」


 頭を下げながら、紫苑がそう言うと、


「協会の方でしたか。沙希の母の百合子です。わざわざ遠い所、娘を送っていただいた上にお詫びまで、ご丁寧にありがとうございます」


 紫苑が協会の人間だと分かった百合子は、安堵の表情になると頭を下げながら紫苑に礼を言った。家に上がった沙希は、頭を下げる百合子にケーキの箱を見せながら、


「途中で、ケーキ買ってもらったの」


 嬉しそうに言いながら、ケーキの箱を百合子に手渡す沙希に、百合子は苦笑いをすると、


「もう、あなたって子は。久世さんでしたわね。お土産までいただいてしまって、かえって申し訳ありません。何のお構いも出来ませんが、お茶でもいかがですか?主人もおりますので」


 家に上がるように勧める百合子に、紫苑は、


「いえ、時間も遅いですし、こちらで失礼いたします。ご主人様によろしくお伝え下さい」


 と、百合子の申し出を辞退すると、隣にいた沙希が、


「えっ、久世くん帰っちゃうの? 上がっていけば良いじゃん。ケーキみんなで食べようよ」


 残念そうな表情になると、紫苑にそう提案する。

 どうやら、沙希は2人きりの時以外、紫苑の事を“久世くん”と呼ぶ事にしたようだ。


「娘もこう申しておりますし、このまま帰してしまっては、私が主人に叱られますから。さあ、どうぞお上がり下さい」


 百合子は、いなとは言わせないよう、スリッパラックから、来客用のスリッパを取り出して紫苑の前に並べると、笑顔を浮かべながら紫苑に上がるよう促した。


「では、お言葉に甘えて少しだけ。お邪魔いたします」


 紫苑は、丁寧に答え、家に上がると、脱いだ靴をきちんと揃え、案内をする沙希の後に続いて、リビングに入った。

 リビングに入ると、ゆったりとしたコの字型のソファーセットに、お洒落なガラステーブルが中央に置かれており、どの席からも見やすい位置に、大型の液晶テレビがあった。


 入り口に向かい合うようにソファーに座っていた耕一は、沙希と紫苑の姿を見ると、


「沙希、お帰り。今日は、遅かったね。うん? そちらの彼は?」


 そう言うと、ソファーから立ち上がりそう尋ねる。そこへ、後からリビングへ入って来た百合子が耕一に、


「こちら、協会の久世さん。遅くなったからって沙希の事、ここまで送って来てくれて、お土産までいただいたのよ。あなたからもお礼を言って下さいね」

「それは、遠い所を送っていただいた上に、お土産まで。お気遣いいただいて、申し訳ない。何も無い家だが、ゆっくりしていって下さい」


 百合子に、説明された耕一は、紫苑にほほ笑みながら深々と頭を下げた。それを見た紫苑は、


「そんな、とんでもない。早く頭をお上げ下さい。こちらこそ、遅くなってしまった挙句あげく、沙希さんと奥様のお言葉に甘えて、夜分にお邪魔してしまい申し訳ありません」


 頭を下げながらそう耕一に告げると、百合子が、


「あなたも、久世さんも、堅苦しい挨拶はそこまでにして、座って下さい。沙希、早く着替えてらっしゃい。降りて来る時に、瞬も呼んで来て」


 その場にいるそれぞれの人に、そう言いながらキッチンに向かって行った。沙希は、


「はーい」


 と、返事をしながら2階に上がって行き、頭を上げた耕一は、


「久世くんだったね。どうぞ、掛けて」


 同じく頭を上げた紫苑にソファーを勧めた。紫苑は、勧められた耕一の向かいのソファーに、


「ありがとうございます。失礼します」


 そう言いながら、腰を下ろした。耕一は、腰を下ろした紫苑に、


「久世くんは、沙希と同い年くらいかな?」

「はい、自分も沙希さんと同じ星流学園の1年生で、今日、編入して来たばかりなんです。偶然にも、沙希さんと同じクラスになりまして。その縁で、お宅まで送るように、添島支所長に申し付けられました」


 耕一の質問に、紫苑が自分の状況と、ここまでの経緯を説明すると、


「そう、こんな時期に、編入なんて珍しいね。以前はどこに通ってたの?」

「前は、京都の江陽大付属こうようだいふぞくに通ってました。東京には、両親の仕事の都合で……。一人暮らしも考えたのですが、うまく両親を説得出来ませんでした」


 紫苑が、そう言いながら苦笑いを浮かべると、話を聴いた耕一は、


「うん、高校生になったとはいえ、ついこの間まで中学生だったんだ、親御さんも一人にするのは心配だったんだろうね。それにしても、江陽大付属とは……。久世君は、優秀なんだな。若いのに丁寧な言葉遣いだし、しっかりしてるよ。うちの沙希にも見習わせたいくらいだ。なあ、百合子、そう思うだろう?」


 丁度、コーヒーを持って来た百合子に、耕一が話を振ると、


「本当に、沙希と同い年に見えないわ。挨拶もきちんと出来るし、沙希にも見習って欲しいくらいよね。あっ、コーヒーで良かったかしら?」

「はい、ありがとうございます。コーヒーで大丈夫です。でも、添島支所長に言わせると、目上の人に対する言葉遣いが、まだまだ成って無いと注意されてばかりで……。恐縮です。」


 耕一と百合子の2人から褒められ、少し照れた様子の紫苑は、


「すみません。いただきます」


 そう言うと、照れた顔を隠すように、出されたコーヒーを一口飲んだ。


 程なく、階段の辺りが騒がしくなり、私服に着替えた沙希と瞬が、キッチンに姿を現した。


「すげー! ケーキがこんなにある。ねぇ、俺、2個って良い?」


 ケーキの箱を覗きながら、瞬が元気の良い声で、リビングの百合子に尋ねる。耕一は、紫苑に苦笑いを見せると、


「瞬、お客さんがお見えになってるんだ。先に、こっちに来て挨拶をしなさい! ケーキもお客さんからの戴き物だぞ!」


 いつもより強い口調の父の言葉に瞬は、〈ビクッ〉っと体を震わせると、慌ててリビングまでやって来て、


「こんばんわ、月ヶ瀬瞬です。ケーキありがとうございます。いただきます」


 緊張した顔になった瞬は、紫苑に向かってそう言うと、軽く頭を下げた。紫苑は、ソファーから立ち上がると、


「沙希さんの友達で、久世紫苑と言います。こんな時間にお邪魔しちゃってごめんな」


 紫苑は、瞬にそう笑顔で返すと、再びソファーに腰を下ろした。耕一と百合子は、申し訳なさそうに、


「息子が、不作法者で申し訳ない」

「本当に。久世くん、ごめんなさいね」


 続けざまに2人が紫苑に謝ると、


「いえ、気にしてませんから。中学生は、あのくらい元気な方が良いですよ」


 キッチンで沙希とケーキの取り合いを始めた瞬の姿を見ながら、紫苑は、ほほ笑ましい光景に笑みを浮かべた。耕一は、紫苑の言葉に、


「そう言ってもらえると、ありがたいよ」


 耕一は、紫苑にそう礼を言うと、沙希と瞬が、ケーキを選び終わった頃合いを見計らって、


「2人とも、準備が出来たらこっちへ来なさい。少し、久世くんの事を聴かせてもらおう。久世くん、良いかな?」

「はい、自分は構いません」


 紫苑が、耕一の提案を了承すると、2人はお茶とケーキを持って、それぞれソファーに腰を下ろした。


 こうして、紫苑を加えた、月ヶ瀬家の団欒はゆっくりと続いていくのだった。


今回は、沙希のお家の様子です。

最初の方にちょこっとだけ出てきましたが、今回と次回でガッツリ出していきます。

多分、これからもちょくちょく出て来ると思います。

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