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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第1章 出会い
15/90

帰り道

昨日は、忙しすぎて更新できませんでした。

なるべくテンポよくいきたいのですが、なかなかうまくいきません。

 東京都調布市・調布駅

 7月1日 午後7時50分


 沙希と紫苑の2人は、アンティークショップ・HydeAndSeekハイドアンドシークを出ると、神保町駅から地下鉄に乗り、40分の道のりを経て、沙希の自宅近くにあるここ調布駅に降り立った。

 駅構内から地上へ出た2人だが、沙希は、両手を高く上げながら気持ち良さそうに伸びをし、余裕そうな感じだが、それに対して紫苑は、げんなりとした表情で見るからに疲労困憊ひろうこんぱいな感じである。


 紫苑の疲労の原因は、乗車していた40分の間、約束通り沙希によるLIGNEリーニュの講義があり、登録から設定の仕方、果てはスタンプの使い方や購入の仕方まで徹底的に叩き込まれた事と、LIGNEリーニュを知らないイケメン高校生と言うことで、同年代や年上女性の好奇な目に晒されてしまったからである。


 ちなみに、LIGNEリーニュの設定が終わり、電話帳に登録されている人達のほとんどが、お友だちの一覧に並んでいたのだが、その中に、自分の父と母が入っていたの紫苑が見つけて、愕然がくぜんとしたのはここだけの話である。


 電車での事を早く忘れようと、頬を〈パンッパンッ〉と叩いた紫苑は、沙希と共に歩き始める。

 そのうち、並んで歩く沙希を見て、ふと思い出した紫苑は、


「ところで、沙希の家族って協会の関係者なのか?」


 電車で、個人的な内容の話を全くしておらず、月ヶ瀬家の事情を知らない紫苑が、沙希にそう尋ねると、


「えっ、私の家族? どうして?」


 沙希は、紫苑の質問に、質問で返すと、ちょっと不思議そうな顔で紫苑を見た。


「いや、変な意味じゃなくて、協会に入る人の中には、家族が知らないってヤツもいてさ。任務とか調査の過程で、チカラのある人物をスカウトするパターンもあるしな。沙希は、どうなのかなって……」


『一般人には、極力知られないようにする』という協会の規定は、例え家族でも知らないならその方が良いという概念が紫苑にはあった。


「そっか、そういう人もいるよね。私の家は、4人家族なんだけと、お母さんが元守護者ガーディアン法術師ロー・ソーサリー、お父さんは製作者メーカー金属技術士メタルマイスター、弟は中学生だから、まだ協会の適性検査を受けていないけど、協会の事は知ってるよ」


 沙希が、自分の家は、協会一家だと紫苑に説明すると、紫苑は、


「なるほど、それなら俺の素性とかがバレても、問題無いな。パートナーとか、チームを組んだ時、そういうの気にしないと、とんでもない事になりかねないからな。沙希も、覚えておいた方が良いぞ。ちなみに、俺んちは、どっぷり協会に浸かってるから、心配しなくていい」


 今までの経験からくる注意を、沙希に語る。それを聴いた沙希は、真剣な顔をすると、


「そうだね。気を付けないと、相手にすごい迷惑かけちゃうかもしれないよね。忘れないようにする」


 そう、紫苑の注意を、心に刻み込むように返事を返した。沙希の言葉に、紫苑は満足すると、


「そういえば、沙希は今回の任務が初めてだったよな。沙希の家が協会一家なら心配してるだろうし一応、挨拶していくか。丁度、ケーキ屋もあるし、さっきのお礼になんかおごるよ」


 紫苑の視線の先には、比較的大きめだか、外観の可愛らしい店があった。

 紫苑の言葉に、沙希は最初、きょとんとした表情になったが、すぐにその言葉を理解すると、


「ホントに?! フロンティーヌのケーキ、ご馳走してくれるの?! やったぁ! 今日は、真樹の誘い断っちゃって、食べられなかったから、嬉しい! あっ、早くしないとお店閉まっちゃうよ!」


 店に向かって駆け出し、あっという間に店の入り口に着いた沙希は、


「早く、早く!」


 のんびりしている紫苑に向けて、壊れた玩具おもちゃのように、激しく手招きをしている。そんな無邪気な沙希の姿を見ながら、


(そんなに急がなくても、店は逃げねぇし、入口に、人が立ってるのが中から見えてるから、店は閉まんねぇと思うけどな)


 紫苑は、そう心で呟くと苦笑いを浮かべながら、歩調を速めるのだった。



 店の入り口で待っていた沙希と連れ立って、紫苑が、ケーキショップ≪フロンティーヌ≫に入ると、明るい雰囲気の店内は、甘い洋菓子の香りが充満し、棚にはクッキーやマドレーヌなどの焼き菓子が、レジ横のショーケースには、細工を凝らした様々なケーキが並べられている。

 店の奥は、大きめの外観にたがわず、イートインスペースが広く取られており、それなりの人数が、ここで注文したお茶とお菓子を楽しむ事が出来るようだ。


 一方、沙希は入店すると、脇目も振らずにケーキのショーケースに近づいていき、


「いらしゃいませ。お決まりになりましたら、お声掛け下さい」


 と言う店員の声に、ほほ笑みながら、前屈まえかがみになってケーキを選び始めた。


「苺ショートと、モンブランは食べた事があるんだよね……。生チョコケーキ、美味しそうだなぁ……。でも、レアチーズも捨てがたいし……」


 心の声が、呟きとなってだだ漏れになっている沙希の後ろで、紫苑はクッ、クッ、クッ、と含み笑いをしながら、


「好きなだけ選んで良いけど、食べられるだけにしておけよ」


 そう沙希に向かって言うと、勢いよく振り返り、上目遣うわめづかいに目をキラキラさせた沙希が、


「一個じゃなくていいの?! ケーキ大好きだから、遠慮しないよ? ホントに食べられれば、何個でもいい?」


 満面の笑みを浮かべながら、沙希が確認すると、


「ああ、何個でもいいよ」


 そう言った紫苑の言葉に、沙希は姿勢を戻すと、店員に向かって、


「すみません。えっと、生チョコと、レアチーズと、苺のタルトと、シュークリームください」


 にこやかにそう告げると、ドリンクのメニューを見始める。その様子を後ろで見ていた紫苑が沙希の隣まで来ると、


「おい、沙希。お前、まさかここでってくつもりじゃないよな?」

「えっ、べてくんじゃないの?」


 驚いた表情で紫苑を見上げる沙希に、


「今、何時だかわかってるか? もう8時過ぎてるんだ、時間的に無理だろ? それに、お前の家に挨拶に行くって俺、言ったよな? 手ぶらじゃ悪いから、何か手土産でもって思うだろ、普通」


 呆れ顔をしながら紫苑は溜息を付く。店内の掛け時計を見た沙希は、


「ホントだ……。もう、こんな時間になるんだね。ちょっと残念」


 後半部分の話を、全てスルーした返事をする沙希を横目に、紫苑は店員に向かって、


「さっきの注文、全部2個ずつにしてください。あと、持ち帰りにしてください」

「はい。では少々お待ちください」


 そう注文し、持ち帰りの旨を告げる。店員の返事を聴いたあと、しゅんとしている沙希に向かって、


「今度、打ち合わせの時にでも、来ればいいだろ?」


 小声で耳打ちする紫苑に、沙希は、


「うん。そうだね。約束だよ」


 と、ちょっと赤くなりながら頷いた。


 しばらく店内のお菓子を見ながら待っていると、


「お待たせいたしました。よろしければ、保冷剤をお入れしますが、お帰りまでのお時間はどのくらいですか?」


 そう店員から声を掛けられた沙希は、レジの所まで行くと、


「大体、10分位です」


 悩むことなく、そう答えると、持ち帰りの用意をしながら店員が沙希にしか聴こえないように、


「かっこいいし、優しい彼氏さんですね」

「そっ、そんなんじゃないです。紫苑は、ただの友達で……」


 店員の言葉に、焦ったように答える沙希に、優しそうなほほ笑みを浮かべながら、


「そう、じゃあ、頑張らないとだね」


 店員は、沙希に小さな声でそう言うと、続けてクッキーの棚を見ている紫苑に向かって、


「お客様、お待たせいたしました。お会計、よろしいでしょうか?」


 と、声を掛けた。呼ばれた事に気が付いた紫苑は、クッキーの袋を2つ持つと、レジまで持って行き、


「これも一緒にお願いします。お会計は、一緒で」

「はい。ありがとうございます。では先に、お会計失礼します」


 店員はそう言うと、レジを打ち始めた。〈ピッ、ピッ、ピッ〉という電子音が続き、程なく、


「合計で、4,280円になります」

「はい、じゃあ、これで」


 紫苑は、財布から5千円札を取り出すと、店員に手渡す。


「5千円、お預かりいたします。720円とレシートのお返しです。お確かめ下さい」


 店員は、お釣りとレシートを紫苑に手渡すと、レジカウンターの上に、ケーキの箱とクッキーの入った紙袋を置いた。

 紫苑は、それらを受け取ると、ケーキの箱を沙希に差し出す。


「ありがとう、紫苑」


 沙希は、ケーキの箱を受け取ると、嬉しそうにほほ笑みながら紫苑に礼を言った。


「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」


 店の出口に向かいながら、背中に店員の声を聞くと、2人は沙希の家に向かって、帰路につくのだった。


帰り道の一コマでした。

もうすぐ、1章が終わる予定です。

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