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魔術師と法術師  作者: 柏木 冬霧
第1章 出会い
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執行者

今日も無事更新できました。

九州地方の降雨災害、尋常で無い様子に胸が痛みます。

災害に見舞われた方のご無事を、お祈りしております。

 東京都千代田区神田神保町・魂の守護者たちソウルガーディアン神田支所事務所

 7月1日 午後4時55分


 小夜子に伴われ、紫苑が事務所に着いたのは、沙希が所長室に入ってから10分ほど経った頃だった。


「こちらが、神田支所の事務所になります」


 そう小夜子に案内され、紫苑が事務所を見回すと、事務所の人間が好奇と警戒の目つきで自分を見ている事に気が付く。


(まあ、どこの事務所でもそうだけど、記録者レコーダーの人達は、ホント堅物な人が多いよな……。見知らぬ人物が来れば、この反応が当然といえば当然なんだけどね)


 すでに、同じ扱いを何度となく経験している紫苑にとって、この状況は慣れっこなのだが、あまり気分の良いものではない。

 そんなことを思っていながら、所長室のドアを見つめる紫苑を余所よそに、先ほど沙希の受付をしていた女性がカウンター越しに、


「小夜子さん、お疲れ様です。こちらの方は?」

洋子ようこさん、お疲れ様です。こちらは久世さん。ここで、待ち合わせをしている人がいるそうなの。悪いんだけどチェックお願いしますね」


 小夜子が、紫苑を紹介しながら、洋子に入所のチェックを依頼する。そして、


「久世さん、彼女は関谷せきや洋子。2年目の記録者レコーダーで、入所チェックと管理を担当しています」


 ドアを見つめていた紫苑に、洋子を紹介すると、


「関谷さんね。じゃあ、これで入所チェック頼めるかな?。あっ、来客ゲスト扱いで良いからね」


 紫苑は、ほほ笑みながら、自分のステータスコインを洋子に手渡す。


(なんで小夜子さんは、私を紹介したのかしら……。新入所の人が来るなんて、連絡来てないし……。それに、小夜子さんがここまで案内して来るなんて、滅多に無い事だし……。そもそも、この子何者?)


 洋子は、今の自分では理解出来ない状況に、いぶかしげな表情をすると、手渡されたステータスコインのチェックをしようと、左手に視線を落とす。


「えっ!?」


 コインを見た洋子が、驚きの声と共にパッと頭を上げ、持ち主である紫苑の顔を、目を見開いて食い入るように見つめる。


「うん? 何か問題でもあった? (これも、いつもの事だよな)」

「はっ。しっ、失礼いたしました。少々、お待ち下さい」


 紫苑に声を掛けられると、驚きのあまり一瞬ほうけてしまっていた事に気が付いた洋子は、青ざめた顔になりながら、慌ててコインのチェックを始めるが、緊張で手が震えてしまい思うようにチェックが進まない。


「洋子ちゃん、落ち着いて。ゆっくりで大丈夫だから」


 含み笑いを始めた紫苑の隣で、小夜子が小声で洋子を落ち着かせようする。洋子の後ろで仕事をしていた他の記録者レコーダー達も、急に挙動不審になった洋子の後姿を、不思議顔で見ている。


「お待たせいたしました。チェックOKです」


 程なく、チェックを終えた洋子が、震える手で紫苑にコインを返しながら申し訳なさそうに、


「大変申し上げにくいのですが、協会の方が入所する際は、所属・部門・ランク・氏名を口頭申告する決まりになっておりまして……」


 洋子が行ったステータスコインのチェックと、その後に求めた口頭申告は、協会のどの施設でも必須事項として定められている。

 故に、口頭申告を促すのは職務上当然の事なのだが、目の前の紫苑相手に、口頭申告それを求めてはいけないのではないかと迷った洋子は、促す言葉が尻窄しりすぼみになっていた。

 紫苑は、洋子の発言に同意しながら頷くと、


「確かに。口頭申告はしないとダメだよね。では、……」


 軽く咳払いをした後、姿勢を正した紫苑は、その空間にいる全ての人に聴こえるように、


「世界本部所属・フリーライセンス持ちホルダー執行者エクスキューショナーSランク・永久の魔術師エターナルウィザード、久世紫苑」


 紫苑の口頭申告を聴いた直後、仕事をしていた記録者レコーダー達は、驚きと共に立ち上がろうとするも、いち早くそれを右手で制した紫苑は、


「あ~、そのまま仕事続けて。俺の事は構わなくていいから」


 と仕事を止めた所員に言うと、


「なんか、騒がせちゃったみたいでごめんね」


 洋子に謝りながら頭を下げる。洋子は、


「いえっ、大丈夫です。ああっ、頭を上げて下さい」


 アワアワしながらそう言う洋子に、頭を上げた紫苑が、


「ありがとう、洋子さん」


 お礼を言いながら軽くウインクすると、


「はいっ、これで、入所チェックは終了です。ごゆっくり」


 頬を赤らめながらペコッと頭を下げた洋子は、入所チェックを待っている所員の方へ向かって行った。いつの間にか事務所にやって来た所員が、チェック待ちをしていたようだ。


「さてと……」


 紫苑は、案内の続きをお願いしようと小夜子に声を掛けようすると、後ろからポンッと肩を叩かれ、


「紫苑・・・。アンタいい加減、その年上キラー何とかしなさいよ~」


 その言葉に紫苑が振り返ると、見知った女性がしかめっ面で立っている。


「俺はそんなつもり全く無いけど?。って言うか翔子姉しょうこねぇ、迎えに来るの遅くねぇ?」


 全く身に覚えの無い事で文句を言われた紫苑は、翔子姉と呼んだ女性に向かって不機嫌そうに言葉を返すと、


「アンタが、1時間も早く来すぎてるんでしょうが! 『そんなつもり無い』って? じゃあ、あれはなんなのよ!」


 紫苑の言葉に怒り顔の翔子は、親指で紫苑の後ろのカウンターを指差す。

 いぶかしげにその方向を紫苑が見ると、洋子が所員の入所チェックをしながら、時折こちらをチラチラと見ている。そして、洋子は紫苑と目が合うと、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにうつむいてしまった。


「……なっ、なんで?……」


 〈ギギギギッ〉という音がしそうな感じで、翔子の方へ向き直った紫苑が虚ろな目で翔子に尋ねると、


「いつも言ってるでしょ?。イケメンが、無駄に気のあるような行動すると、相手の女性が勘違いするから気をつけろって。アンタ、神田支所ここからいなくなる時にまた揉めるわね」


 そう翔子に言われた紫苑は、ガックリと肩を落とし、項垂うなだれてしまった。隣では、小夜子が前かがみになりながら、肩を震わせ含み笑いをしている。


「はぁ~(無意識・無自覚もここまでくれば犯罪よね……)」


 溜息ためいきを付きながら、項垂れた紫苑を見つめる翔子と呼ばれるこの女性こそ、紫苑の待ち合わせの相手であり、神田支所、支所次長の“早乙女さおとめ翔子”であった。


いよいよ、紫苑の正体が明かされてきました。

詳細は、次回で明らかにしようと思っております。

ご覧いただいている方、いつもありがとうございます。

次回をお楽しみに・・・m(__)m。

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