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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第四巻・反乱VR
94/100

21 KTN48劇場

  

  

 クララは紺のレディーススーツとタイトスカート。まるで教壇に立つ女教師みたいな出で立ちではあるが、凛然とした大人の色気が漂った姿でメンバの前に立った。

「レナ・デュラットの姿が見えんが?」

「レナちゃんはヨシザワさんの衣装合わせで少し遅れています」

「ああ。アニメ化キャンペーンのヤツだな。今回も派手になりそうだ」


 垣間見せたプロダクションの社長面をさっと消し去り、クイーンに戻したクララが我輩たちへ自慢げに紹介する。

「この子たちはワタシが具現したのではない。正真正銘の娘子軍の幹部クラスだ。ワタシと一緒にシミュレートされて、今まで隠れておったのだ。主役級のメンバーは後から登場するのが定石だからな」


 クララはニタリと不敵な笑みをキヨ子に注ぐと、くるっと金髪を翻した。

「よいか。打ち合わせ通りに行動するのはテレビと同じだが、今回は最高の舞台を用意した。ハリボテではない本物の宇宙、念願の大宇宙である。場所は故郷の第四銀河星域。恒星キャルパに侵攻して来た敵艦隊の最前線だ」


「恒星キャルパ……ならば。惑星ジーラですね!」

 リリーの赤い唇が、興奮気味に震えるのにはわけがある。

「そうだ! 我々キャザーンの故郷、砂の星、ジーラだ!」

「そこへ侵攻して来たこのバカな戦艦を殲滅させるのが今回の任務ですね」

 とリリーが尋ね返し、

「念願の宇宙で暴れさせてやるのだ。今日は思い切り楽しめ!」


「「「「「はいっ!」」」」」

 切れの良い返事と同時に全員がコスチュームを翻いして一歩前へ出た。


 裾が腰辺りまで縦に裂けた布が巻きつけてあるだけのフレアーコスチュームが大きく翻って、横からしなやかな肢体が覗いた。

「た……楽しむって。何しに来たのだこのメンバーは?」

「おほぉぉ……」

「うはあぁ……」

 我輩は懐疑的に、アキラとギアは邪念にまみれた溜め息を吐き、キヨ子は鋭い目でNANAの装備に視線を巡らせ、NAOMIさんはコントロールパネルの後ろから上半身を出して意味もなく左右にピョコピョコしているだけ。


 それにしてもこれは……タマラぬ。

 煌びやかでいて胸の大きく空いた上着から垣間見える豊かな谷間に、視線が誘導されて仕方がない。さっきから外せなくて難儀しておるのだ。



 そこへまた一人少女が飛び込んできた。

「遅れてすまない。レナ・デュラットだ。舞台の衣装合わせが少々長引いた」


「か……カマキリだ」

「そこ、ゴア! バタバタするな。レナ・デュラットを忘れたのか。ワタシと同じデュノビラ人だ」

 言われなくても知っておる。


「そーや目を患ってワテを食い殺そうとしたデュノビラ人のレナ・デュラットでんがな」

「ふんっ! こっちだって電磁生命体が相手だと分かっていたら、誰が手を出すか」


「昔話などどうでもいい。レナも所定位置につけ。衣装の話はこの作戦が終わってからでよい」

 プロダクションの社長も忘れていないのだな。



「それでは最終確認をする!」

 クララはビューワーに映し出された銀河の星々を背景にして、ぽっかり浮かび上がった深緑の巨艦を睨みつけながら言う。

「リリー・ベルナード、作戦名(タイトル)を言ってみろ!」


「はい! 『タスクキラー・戦慄のキャザーン』です」


「サブタイトルは何だ。イレッサ?」

「あ、はい。『常駐アプリなんかぶっ潰せ!』です」


「出演は?」

「キャザーン48です!」


「よし。配役を申し渡す。NANAのパイロットは、」

「ちょ……ちょっとクララどの待ってくれ。この子らはハーレムクラスオブジェクトを内部から潰すために来たのではないのか?」

「ゴアよ。そんなことは百も承知しておるワ。だがなこっちもアニメの原作を考えなければならんだ。これを利用して何が悪い。アニメ化より先に実写版にできるんだ。こんなチャンスはめったにない」

 原作の推敲が即実写。これこそドキュメンタリではないか。その推敲中に我々が巻き込まれるのか?


 え――そんなのは嫌だ。



「作戦についてキヨ子提督から申し渡しがある。よく聴くように」

 ビューワーから振り返ったクララが胸を張り、背中で腕を組んだキヨ子どのが前に一歩出た。

 提督って……。


 キヨ子はロケット柄のワンピースを着た小さな体を反らして、堂々たる態度で、

「では説明します。これより敵艦のスキャンを避けながらNANAを彗星の後ろに隠して移動し、敵艦の真ん前に躍り出ます。量子軍は必ず攻撃プロセスを起動するはずですので、こちらはタスクキラープロセスで応戦します。その時ですが、混乱を助長させるためになるべく派手な行動をお願いします」

 クララが口を挟み込む。

「リリー。オマエの大好きな回転スクリュー撃ちを許可するぞ。敵陣のど真ん中でNANAを螺旋状に回転させて、360度隙間なく光子魚雷を撃ちまくれ」


「お姉さま。NANAのチーフパイロットはアタイだろ?」

「ドルベッティは別の任務がある」

 さっとクララが引き、キヨ子が出る。


「アヴィリル・ドルベッティ、チーフパイロットは、小型シャトルで敵艦にドッキング。システムサービスディスパッチャの内部に侵入して、その中で鎮座するカーネルプロセスを叩いていただきます」

 と小さな体をドルベッティへ合わせ、

「連邦軍に追い詰められてディープレイゾンの磁場嵐の中を単独横断したと言う功績を評価した結果。もっとも重要でかつ危険な任務を遂行(すいこう)できるのは、あなたしかいないと思っています」


「いえーいっ! やったぜ」

 深い緑色の髪を舞い回してドルベッティはガッツポーズ。


「シャトルクラフトは2号機を使わせてほしい」

 と懇願するドルベッティから、クララは赤っぽいポニテのイレッサへ視線を移し、

「どうなんだイレッサ? ヤツとシンクロ率の高いシャトルは?」

 ちょっとその言葉はまずくないか?


 イレッサはそれに答えた。

「ドルちゃんと相性が最も良いのは前回同様、弐号機です」

 その漢字を使う?

 まーた版権問題に発展するぞ。せっかくこちらに版権が移って有利なのに、大切にするべきだ。


「それより前回同様とは?」

「知らんのかいな。キヨ子どのが評価した連邦軍に追い詰めらた話の事や」

「そもそもなぜにドルベッティは連邦軍に追われていたのだ?」


「その昔。異星人からの侵略を受けそうになったとある惑星から、キャザーンが救助の依頼を受けて、まあ、いつものように敵を殲滅したんやけどな。その攻撃方法があまりにもひどいと倫理評議会からクレームが出て、取り調べをするためにNANAへ向かった連邦軍をドルベッティが蹴散らしたんや。せやけど連邦軍もプライドがあるやろ。350機の戦闘機を発進させてクララを追い掛けたんや。でもそんなもんに負けるドルベッティやおまへん。連邦軍を引寄せてNANAを逃がした上に、ディープレイゾンの磁場嵐の中を単独横断したんや。あの磁場嵐やで。近寄るだけで計器が狂うんや。そこを横断するやなんて普通やない。350機の連邦軍が全員尻尾を巻いて逃げたんでっせ」


「そ、そのシャトルに我々が乗せられるのか?」

「すごいじゃない。超人的パイロットの腕前を見れるのよ」

 って。お人形さんは黙っててほしい。

「楽しみですわ。さぁ、ドルベッティさん。2号機とはどれですか?」

 えぇぇ――っ!?

 キヨ子どの。我輩は強く拒否したのだぁ!


「これさ。神経インターフェースで操縦する2号機。アタイの愛機で、レイチェル・ショーマンリュートってんだ。レイチェルって呼んでくれ。見ろよ綺麗だろ?」

 司令デッキのディスプレイに映し出された格納庫の風景。何機かの戦闘機に混ざってひときわ美しい流線形の機体がターンテーブルの回転に合わせて、こちらに向きを変えた。


『ドル。またあなたと作戦に出れて嬉しいわ』


「シャトルが喋っとるで」

「電磁生命体でさえ言葉を話せるのです。シャトルが喋っても問題ありませんわ」

 まあな。ここまでムチャクチャな話なんだからどうでもよいな。



 クララは毅然と胸を張った。

「よし。総員、第一種戦闘配置だ。戦闘機パイロットは格納庫へ急行しろ。ドルは準備ができ次第、彗星の裏で本艦から離脱」

 くるりと翻り、

「ジュン大岡! オマエがNANAを操縦して彗星の裏へ隠れるんだ。すぐに掛かれ!」

「はい。お任せください。お姉さま」


「それから朝比奈(あさひな)がナビゲーターに回れ」


 気付くと知らないメンバーが混ざっておった。

「おいおい。キャザーンの船に地球人が乗っておったか?」


「朝比奈はんは未来に帰ってなかったんや」

 こら、火に油を注ぐな。版権が……と言うより。

「ちょ、ちょっと待て。何だか別のアニメが混ざっていないか?」

 ちらりと辺りを窺った我輩は息を飲んだ。


「のぁぁぁぁぁ。あ、アキラが寝ておる」

 静かだと思ったら……。

 キヨ子の小難しい説明に嫌気がさしたのだろう、チャッカリ艦長席に腰掛けて高いびきである。


「ま、まずいがな。クララの具現化とアキラの夢世界の合体や」

「ご、ゴア。アキラを起こせ」


「だめよ。アキラさんは一度寝ると、揺らしたぐらいでは起きないわ」

 最悪なのだ。星間協議会史上最大の騒動を起こしたパイロットが率いる作戦に、最悪の監督がバックについてしまったのだ。

 なんとか版権問題に発展しないように気を遣わなくてはいけないのである。

  

  

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