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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第四巻・反乱VR
93/100

20 タスクキラー・戦慄のキャザーン である

  

  

「あっ、痛てててて。何すんだよキヨ子ぉ」

 半パンから伸ばした足のすね毛をキヨ子に引っ張られ、アキラは後ろに下がり、キヨ子はクララへ忠告めいたことを言う。

「宇宙人のつもりだか何だか知りませんが。もっとSF映画を見ておきなさい。これでは安物のアニメだと言われてしまいますよ」

「ワタシの想像力が陳腐だと言いたいのか?」とクララ。

 二人の会話を聞いて最初は解らなかったのだが、少し考えて納得した。ようするにこの世界はクララが具現化したもの。彼女の思考行為からできておるのだ。


 ところがクララはビューワーに映る少女を指差して反論した。

「確かにキャザーンの復活を願いこの世界を創造した。だが、このオンナはワタシの考えたモノではない」

「あら、ま。となると。もうご登場ですか。ちょっと早計過ぎませんか?」


 ぱーっと光が広がり、

『あはははは。ユーザープロセスの分際でよく見破ったわね。褒めてあげようかしら。でも早まったわけでもないのよ。キヨ子さんにご挨拶でもしておこうと思ってね』


「出るわよ、キヨ子さん。カーネルプロセスよ」

 小声で伝えるNAOMIさんの前、ビューワーの中で胸のでかい宇宙人が指をパチンと鳴らすと、間髪入れずに、我々がいる司令デッキの中央で光球が弾け、閃光と共にリョウコくんが現れた。


 先ほどまでの宇宙人ぽい服装は一変して、桜園田東高の制服姿に変わっていた。

 その子が丁寧に膝を折り、

「こんちはキヨ子さん」

「ようこそNANAへ。カーネルさん」

 リョウコくんの正面へと体の向きを変えたキヨ子どのが、平然と挨拶をする。


「センタッキーのカーネルジイさんでっか?」

 ギアの一言はキヨ子の睨みだけで黙殺。我輩は首を捻る。

「カーネルとは何である? この子はリョウコと名乗っておったぞ」

 キヨ子どのはフンと鼻息も荒く股を拡げて仁王立ち。


「人の名を語ろうが、語るまいが、しょせんラブマシンが起動させたハーレムクラスオブジェクトのカーネルにすぎませんわ」


 キヨ子も傲然とするが、向こうだって負けずに尊大にでっかい胸を張る。初めて会った時と同じ制服のブラウスがはち切れそうだ。

 アキラは猛烈に目を輝かせて、

「恭子ちゃんといい勝負だ。すっごいおっぱいが大きいや」

 そう、ここはアキラのために作られたシミュレーター。当然だが現れた少女はアキラの理想像なのだ。そりゃあもう。立派にボン、ボインである。


「オマはん、言うことが古いな」

「でも、あんな女子は東高にはいないよ」

 言い切るアキラにクララは仏頂面で、

「高校の女子は大勢いるのだ。知らない子だっていて当然だ」

 我輩は指をメトロノームのように左右にチッチッと振る。

「アキラは全学年、全クラスの女子の名前と容姿体形を記憶しておるのだ」

「せやでクララはん。コイツ、ごっつい記憶力しとるんやけど女子専門の脳や、男子になると数名しか覚えられへんねん。アホやろ」


 クララの表情がみるみる憐憫にかげり、

「北野博士の天才的な部分が歪んだところに隔世遺伝したんだな。勿体ない」

 言うとおりである。少しずれていれば北野博士の二世となり、物理学の道を歩んだのに、残念な青年なのだ。


「ねぇ、キミ。東高の転校生だろ? バストいくつ?」

 博士と同じ挨拶の仕方をするのは、同じ遺伝子のなせる技なのだ。


 キヨ子はアキラを引き摺り倒して、グイッと迫る。

「カーネル自らがお出ましとは、えらく仰々しくありませんか?」


「あたしを舐めないでね。何を考えてるのかすでにお見通しよ。数人の人間がどんな思考的行為を起こそうが、常に瞬間的に把握できるわ。あんたたちはしょせんユーザープロセスなのよ。あたしはカーネル。この世界すべての動きをそのバックで監視してんのよ」

 我々とは異なる路線を突っ走る双方の視線がバチバチと火花を散らしておった。


「あかん、熱すぎる。この二人には付いて行けんデ」

 ギアは降参と両手を振るが、クララの目の色は相変わらずギラギラと燃えていた。


「しっかり見ておけ。こんなに度胸が据わった6才児など。宇宙広しと言えどもキヨ子が初めてだ」


 我輩はクララの嬉しげな表情を窺った。キャザーンのクイーンがキヨ子を認めたのだ。もしかすると自分の後継者として選んだのかもしれない。そうなるとすごいことになるのである。


「せやけど、何をゆうてんのか難しすぎてさっぱりわからへんがな」


 キヨ子どのはギンっとリョウコくんの姿を睨み付け、会話だけは我々に語る。

「これは難しいのではありません。専門的すぎるだけです」

 と言ってから、リョウコくんを正面から指差し、

「ユーザープロセスからでもカーネルを牛耳れることを証明してさしあげます」


「よく言うよキヨ子さん。じゃあさ。量子軍(りょうしぐん)娘子軍(じょうしぐん)を戦わせてみる? するまでもないけどさ」

「なんだとっ!」

 憤然といきり立ったのは、もちろんクララ。

「たかがマシンごときにワタシが怯むとでも思っておるのか! 我がキャザーンを舐めるなよ。受けて立ってやる!」


「あははは。宇宙の詐欺集団なんか目じゃないわ」


「ぬのヤロウ……」

 奥歯をギリッと軋ませたクララの前を腕を出して遮ったキヨ子どのは、居丈高にNAOMIさんへ命じる。

「システムサービスディスパッチャを切りなさい。こんな鬱陶しい乳牛は見たくありません」

 いやー。乳牛のほうは見たくないが、このリョウコくんならずっと見ていたいな。

 とは、アキラの考えであるからな。そんな目でじっと見つめておる。


「バイバイ、またねー」

 NAOMIさんが手を振ると、瞬間にリョウコくんが消えた。


「どうやって消したのだ?」

「描画プロセスを担う部分を混乱させただけです」

「混乱?」

 胡乱げにキヨ子を見るクララ。それには答えず。

「どうですかNAOMIさん? 敵は今スキャンしていそうですか?」


 お人形さんはちょっと考えるような振る舞いをして、

「たぶん相当驚いてると思うから、しばらく大丈夫そうよ」


「そうですか……」


 再びキヨ子どのの難解な説明が始まった。

「先ほども説明しましたが、ハーレムクラスオブジェクトにはいくつかのライフサイクルがあり……」

「キヨ子。講義は易しく頼む。我々は専門家ではない」

 と言い返すクララにうなずき。


「ようは、量子コンピューターであってしても隙があると言うことです。割り込みハンドラに制御が移る時など必ずスタックへデータが積まれます。そして元のプロセスに戻る時にその積まれたデータに従って行動を取っています。そのデータを潰すとどうなると思います?」


「戻れなくなる……な」とクララ。

 キヨ子はこくりとうなずき、

「スタックをいじって狂わすと、ラブマシンのカーネルは混乱を避けるためにマルチスタックから実行経路を逆に戻り処理を最初に戻そうとします。その間にロスタイムが生じて、カーネルの思考処理だけが少しのあいだ停止します」


 後をNAOMIさんが補足する。

「そ。マルチスレッドにマルチタスクなので他には影響は出ないけど、確実にカーネルの思考ルーチンだけがループに入るの。それをうまく利用して、ハーレムクラスオブジェクトの内部からカーネル制御の部分だけを潰してしまおうと言うのが、今回の作戦よ。もちろんこれには人の手がたくさん必要なので、クララさんを呼んだわけ」


「アニメの原作を練るにはちょうど良いと思ってな。しかもキヨ子の作ったタスクキラーという武器は使えると直感したので参加させてもらった」


「タスクキラー?」

「現実世界に戻された時にNAOMIさんと拵えて、すでにセッティング中です」

「それがあると内部から破壊工作ができるのか?」

 よく解らないモノは疑問ばかりを増殖させるのだ。


「世間一般で言うタスクキラーとは、スマホの常駐アプリを消すモノですが、ここでは少しニアンスが違います。まぁ簡単に言えばデバッガーです」

「む――。ちっとも簡単になってないな」


「目には見えないプログラムの流れを追い掛ける物ですわ」

「目に見えまへんの?」


「もうよい。キヨ子。こんなバカは放っておけ」

「クララどのは理解しておるのか?」

「さっきも言っただろう。直感したと。それだけでじゅぶんだ」

 なるほど。透明な脳ミソをお持ちのようだ。


「よし。後は実行のみだ」

 クララは堂々と胸を張り、我々の前で毅然と命じた。

「もう隠れている必要は無い。全員姿を現せ!!」


「はい、お姉さま」

 奥から小気味の良い返事がしたかと思うと、司令室へ次々と人が入ってきた。


「この世に怖いモノは無し。リリー・ベルナード参上!」


「いつも爽快、軽快、スカッと爽やかニーナ・ケンドリックでーす」


深碧(しんぺき)の妖精、アヴィリル・ドルベッティだ」


「こんにちはー。深海の蒼い目。キャロラインでーす。愛称はキャロちゃんと呼んでね」


「シャインズ・イレッサよ。赤いヘアーが特徴なの」

 舞台で使う簡易的な自己紹介と共に現れた5人の少女。もちろん娘子軍のトップである。


「うほぉ~。豪華な面々やセンターからサブまで全員集合やがな」

「うはぁぁ……」

 アキラは言葉も無い。テレビでおなじみのKTNの面々である。それがまだ地球人には見せたこともない戦闘コスチューム姿で勢揃いしたのだ。

 粒ぞろいの至高の美少女たち。映像の中で見る姿とは異なる勇ましく厳しい目付きがそのコスチュームに映えて、我輩は鳥肌が走るのを覚えた。

  

  

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