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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第四巻・反乱VR
91/100

18 またまた版権的にやばいのだ

  

  

 案の定、アキラに刺激の強い物を見せるとこの世界で具現化してしまう。しかも予告なくいきなりに起きるから、こっちは身構える暇もない。


「ギア。気を付けるのだぞ。くれぐれも版権的な問題を起こすなよ」

 我輩は戦々恐々の気持ちでアキラの後ろを付くのに、

「なぁ。アダルトコーナーへ連れて行かへんか?」

 コイツは相変わらず能天気だった。そんなことをしたら版権だけでなく、もう一つ別の犯罪を犯すことになる。


 我輩はギアに言ってやる。

「アキラは17才なのだ。行ってはいかん」

「しゃあないな。来年まで待つか」

 ば、馬鹿者……なのだ。



 そんな矢先。

「……なんだか外が騒がしくないか?」


 店舗の裏にある駐車場周辺で人の大声が渡って来るのである。続いて入口に出入りする人々の動きが慌ただしく、にわかに騒がしくなってきた。


 何が始まったのであろうかと、本棚のあいだにある大きい窓から外を覗いたギアが叫んだ。

「どぁぁ! 巨大キヨ子や!」

「うごっ! こっ、怖い!」


 我輩も息を飲んだ。

 あの子は背が低いから、居丈高に接して来てもまだ可愛らしいのだ。それが5階建てのマンションの上から覗きこんできたら恐怖以外何ものでも無い。

「ど、どこかに避難せんかったら踏み潰されるデ」


 突然かつ唐突に一人の老人が光と共に現れてこう言った。

「今から百年前、我々以外の人類は……皆、巨大なキヨコに食い尽くされた」

「うわあー。なんやねん横からいきなり。このジイさん誰や?」

「今から百年前、我々以外の人類は……みな、緑川キヨコに食い尽くされたのだ」

「やから、何やちゅうねん?」


「皆、キヨコと言う巨人に食い尽くされたのだぞ!」


「わかった。版権の都合でそれ以上言えないのであるな?」

 ジイさんはコクコクと首を縦に振ると、その場から立ち去った。


「うおぉ。巨大キヨコが! あ。あー。マンションの給水塔をへし折ったぞ」

「原因はアキラが読んどるマンガや! 『大男に侵攻されて人類は滅亡しそうになるが、巨壁を築いて何とかしていたのに、再びヤバくなったぜ』やんか」

 ギアは長ったらしいタイトルのアニメを噛みもせずに読み上げ、

「そんなん見るんやったら『進撃の巨乳』にせんかいな、アキラ」


 我輩が何だそれと、想像するよりも早く。

「どわぁぁ。地面からおっぱいが突き出て来て、トラックが追突してぽよーんと、気持ちのいい衝撃を起こしておる」

 アキラの想像力は単純ではあるが、光の速度に迫る勢いがあるのだ。


「ぎ……ギア! 余計なことは言わずにさっさと本を取り上げるんだ」

 ぱっと取り上げられて、アキラはキョトン。


「あっ? もう。何でぇ? 今見てるのにさ」


 口を尖らせるアキラではあるが、その瞬間、外で閃光が放出し、進撃の巨乳と巨大キヨ子が消えた。


「ひぃ。あのマンションどないなったんや?」

 まるで夢から覚めるかように、崩れたマンションは元に戻っておった。


「どあぁ、ギア! アキラを追え。最新アニメコーナーへ向かっとるぞ!」

「あわわ。こりゃやばいデ。ああぁ!」

 ギアは慌てて足を滑らし、本棚を倒した。雪崩の如く崩れた本がジャマをして我々の行く手を塞ぐ。


「だめだ! 収拾がつかない!」


 突如として現れる怪現象。いや数々の具現化である。全部言葉で説明しておったら、著作権侵害になってしまう。かと言ってここで黙って、

「……………………」

 と三点リーダーを長々と綴っていたら、手を抜くなと感想欄に書かれるかもしれぬ。


 でも言いたいことをはっきり文字にしたら、腕に輪っかが掛かるのだ。ただでさえ白衣の下は真っ裸である。片足ぐらいはムショ暮らしをしてもいいかもしれない。


 さてこの状況をどうするか。

 ここは意を決して、ダイジェスト版と超絶ごまかし作戦で行くしかない。


「どぁぁー急に腹の調子がー!」

 いきなりギアが腹を抱くようにして屈みこんだ。

「ど、どこかにトイレはおまへんか?」

「奥の角にあるぞ」

 我輩が指差す先へ駆け込んだギア。しばらくして出てきたが、顔つきがゲッソリ。しかしすぐに、

「どぁぁあ。またや。何でや。タコヤキと安物のスイーツしか食うてへんやんか」


「アキラの読んでいる本があれだからではないか?」

「なに読んどるんや?」

「見てみろ、『新世界、おばんゲリやん』だ」

「なんちゅうモンを見とるんや」


 本を取り上げった途端、ギアの下痢が収まったのは言うまでもない。



 続いてアタフタする我々の前に、店内になだれ込んで来た六人の青年たち。それがギアを襲った。

「あだだだ。な、なんや?」


「俺の名前は松田だ」

「それがどないしてん?」


「オレは松川」

「痛い! 殴るなや!」


「ワタシは松山!」

「松岡だぜ」

「あだだだ。なんでワテが襲われなあかんねん」


「あっしは松井である!」

「松本だ!」

「痛いってぇ! オマはんら誰や?」


「オレたち、頭に『松』が付く6人衆。人呼んで……」


「人呼んで、何やねん!」

 5人衆でもいいのに、あえて6人にする理由(わけ)は――。


「オレたちは『襲う松さん』だ!」


「なるほど今アキラがそれを読んでおる」

「取り上げてくれー。あだだだ。ダレや今蹴ったやつ。松川か!」



 次は――。

 窓ガラスの向こうに大きな振動と影が差し、目を転じて仰天する。

「い……いま戦車が店の前を通ったぞ」

「女子が操縦してへんかったか?」

「し、知らん」


「せやけどあれやな。あれって突っ込みどころ満載やけど、地方活性化のかなめにもなった一作やからな。ある意味スゴいもんやで」

「しかし我輩は思うぞ。軍艦や最終電車を擬人化したり、いったい日本のアニメや漫画はどこへ向かおうとしておるのだ?」


「やっぱあれやろ。もうアイデアが出尽くして、何を書いてもすでに発表された物ばかりで、使い古しのフレーズに、似たような登場人物や。1ページ目を通しただけで、どこかで読んだ気がするものばかりや。こうなったら何でもかんでも美少女に擬人化してまえって『雪隠(せっちん)の火事』になったんとちゃうか?」


「何だ? 『雪隠の火事』って?」

「雪隠ちゅうたら便所のことや。つまり『焼け糞』やがな」

「…………」



「うっわぁー! 駐車場が乗馬クラブのコンテスト会場になっとるデ!」

「乗馬? 馬術を競い合うのか?」

「なんで駐車場でこんな催しが始まらなあかんねん。あわわ! 駐車してるクルマの上を飛び越えとるでぇ。けっこうあの騎手、腕あるがな。どこの乗馬クラブ出身や?」

「騎手が片手に持つのは禁じられた書物……なるほど『とある馬術の禁書云々』であるか」

「なんやそれ。無理やりも、(はなは)だしいでんな」


 馬術の話はさておいて。

 最近のフィクションは少々こっち系に偏り過ぎる気がするのは、我輩だけであろうか。

 思うが、みんなはそんなに超科学的なモノが好きなのか?

 その割に『超』を消して、マジで科学的な話になった途端、誰からも見向きもされない。

 ……誰だ?

 愚痴を言うな、とな?

 うむ。だよな。

 で? ここだって超科学物だと言いたいのか?

 ノンノン。違うぞ。ここは超ITモノである。


 さて無駄に文字数をだらだら羅列する理由を解説したいところではあるが、それをした途端、くだらないことをやるなとお叱りを受けるので、やめておこう。



 それではアキラが本を手に取って見る順にサクサクいくぞ――。


 "緑川キヨ子の憂鬱"

 ああ。ほんとうに憂鬱そう。小うるさくてたまらないだろう。



 "甲殻機動隊"

「ザリガニの話でっか?」

「たぶん、甲殻類がたくさん集まって戦うんだと思う」

「最強昆虫王決定戦みたいに、ザリガニと伊勢海老を戦わせるんかな? どっちも茹でたら美味いで」

「そうとうに腹が減ってんだな、オマエ」

「はいなー」



 "ご注文はうなぎですか?"

「なんで、あないに高こうなったんや? あー腹減った」



 "鋼の板金術師"

「鉄板叩いて二十数年。板金屋を営むオヤジの半生であるな」

「その話、どこがおもろいねん?」



 "起動戦士マンダム"

「ニヒルな男の化粧品」

「知っとったら、年がばれまっせ」



 "名探偵コーナン"

「関西人しか通じんぞ」

「それなら『未来少年コーナン』も仲間に入れたってぇや」

「あわわわ。急いでフォローを入れなくてはいかん」

 え――。

 コーナンとは関西を拠点にした超巨大なホームセンターで、およそ無いモノは無いと言うほどに売り場は充実しており、プロの人にもウケの良い商品が目白押しである。一度覗いてみたらいいのだ。それから本題の方も長い歴史のあるアニメで、常に視聴者を飽きさせないトリックが面白のだ。



 "金多摩"

「銀から(きん)にしたら、著作権だけでなく放送事故にもなるがな」



 "カレーだれっすかー"

「これって、元タイトル解る人いるのか?」

「ヒントはエンターテイメントやデ」



 "これはソフビですか?"

「材質の話なんでっか?」

「あまりにも意味不明で、これなら版権問題も起きそうにもないな」



「だめだ。アキラここを出よう。支離滅裂になって来た」

「なんで?」

「これ以上ここに長居すると、我々だけでなく、いろいろと疲れる人がいるのだ。とにかく出るぞ」


「ちぇぇ。まだ読み足りないのに……」




 外はどっぷり暮れた午後7時。古本屋兼古DVD屋さんからアキラを引き摺り出した我々は、歩道を数歩進んでぶるっと震えた。初冬の夜は結構冷えるのである。

「どうするのだ、ギア? いよいよ新聞紙に(くる)まるのか?」

「アホ。こっちにはアキラがおるやろ」


 てなことを言い合うところへ、髪が長くてスタイル抜群、かつ色気満載の女性が街灯の下に立った。

「どうした? お前ら?」


「あー。クララさんだぁー」


 駆け寄るアキラがをしゅるりとかわし、

「珍しいな。アキラと三人で」

 クララは薄ら寒くなった夜風に金色の髪をなびかせ、抱きつこうとするアキラの頭を片手で押さえた。


「なんでワテらがアキラの関係者やと分かるんでっか?」

「おかしな大阪弁と古臭い口調。ギアとゴアであろう?」

 キヨコと同じことを言うところをみると……。


「この人も外から来たクララであるのか?」


「ああ。キヨ子から聞いておる。量子コンピューターのシミュレートされた世界でオマエらが遊んでおることを。だからほら、こうしてワタシも参加したのだ」


「参加って……。町内の運動会とは違うのだぞ」

「ほんでキヨ子はんとNAOMIはんは、どないしてまんねん?」


「一緒に来たが、どこかに消えたようだ」

 キョロキョロするクララ。


「クララはんはどこ行きまんねん?」

「ワタシはキャザーンのアニメ化の勉強にと思って、そこの古本屋さんへ行こうとしたら、キヨ子がもっといいものがあると言って誘ってくれたのだ……。だがなんだ、ここは? その古本屋ではないか」


「たった今、シミュレーターの話をしていたのは忘れたのであるか?」

「まさかこれがシミュレートされた世界だと言いたいのか?」


 クララは古本屋の店舗から駐車場、はたまた市道を通る車へ視線を巡らせた後、

「キャザーンのクイーンをからかうのではないぞ。これは現実の世界だ」

 ハイヒールの先で、歩道の上に散らばったイチョウの枯葉をつつきながら顎をしゃくった。

「それとも何か? この道端の砂利から雑草の根元に絡まる枯れ葉まで、これらすべてが再現された物だと言うのか?」


 クララは鼻で笑い。

「ふはははは。あり得んあり得ん。NANAのシステムでさえ投影範囲が限定されたホロデッキぐらいが関の山だぞ。はははは、こんな宇宙の片田舎の地球に、そんな技術が……ばかばかしい」

 金髪を翻すと、クララは笑いながら古本屋の店内へ消えて行った。


 まるで信じていない様子だった。

「どうする?」

「ほっとけ、ほっとけ」

 ギアはぞんざいに返事をし、クララの放つ芳しい残り香を吸い込み続けるアキラの腕を引いた。

「さぁ、家に帰んデ」


 我輩もその後を続く。

「仕方が無い。今日のところはアキラの部屋でくつろぐとしよう」


 アキラの家はこの古本屋さんから、ほど近いところにあり、イチョウ並木の大通りを数分歩いた先、路地へ折れて数十メートル行くと石積みの屋敷がある。そこが北野家なのだ。

 もちろんここはシミュレートされた世界だが、実世界と寸分違わない。黄色く色付いた枯葉が風に踊らされて乾いた音を上げ、それを踏みしめる感触から、白く光る夜道に庭木の影が長く伸びる光景。すべてが実物だと言い切れる。


 石造りの階段を上がり、門扉を開けて中に入ると、待っているのは広い庭。敷き詰められた玉石を踏みつつ母屋の横手へと向かうアキラ。

 正玄関ではなく横から入ろうとするのにはわけがある。そこには下宿人が使用する離れの玄関があるからだ。


 この行動は北野博士の隔世遺伝のせいである。早い話が、クララたちが下宿する部屋が並んだ建物から自室へ向かうまでのあいだに、女子専用の風呂がある。な? 言わずもがなだろ? 運が良ければ娘子軍の誰かが風呂に入っている可能性があるのだ。


 アキラはスタスタと風呂場を目指す。我輩は下駄箱にずらっと並んだビーサンを横目で睨んでから後を追った。

 風呂は無人で、わずかな期待をした我輩らも何だが、アキラと一緒に期待外れの苦笑いを確認し合って奥へと進んだ。

 ふと見たら廊下の照明に映し出されたステテコと白衣の影。いわゆる、これが警察ざたになる容姿だ、と言えるいい例がそこにあった。


 アキラは明かりが灯る居間に顔だけを突っ込み、両親へ帰宅の挨拶。こいつは坊ちゃんなのでこの辺りはちゃんとしている。テレビを見ていた親と一言二言会話をするあいだを縫って、足音を忍ばせた我輩たちが通過。まるで不法侵入者そのもの。言い訳の余地なしである。


 ともあれ無事アキラの部屋の前に到着し、ノブを回して安住の地へ入った我輩たちは、

「んげげっ!」と叫んだのであった。

  

  

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