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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第三巻・ワンダーランド オオサカ
72/100

18 クライマックスは映画のように

【改稿理由】

修正勧告が入りました。色々とお見苦しい次第ですが、お上の命令には従わなくてはなりません。

関係各所の皆様申し訳ありませんでした、訂正してお詫び申し上げます。

  

  

 電源が途絶えそうだからと言って、ここで白旗を揚げるのは電磁生命体として、いかがなもんだと思う。

「しょうがない。我輩の電荷を使用すればよい。我輩が自ら操縦し、その燃料をも補給する。無敵だろギア。さあ。電力を供給してやる。充電端子はどこだ?」

「ポケラジの後ろや。せやけど電圧設定が、」

 ギアの言葉途中で激しいスパークがして火花が飛び散った。一拍おいて、プロペラが全部止まった。

「ドアホっ! 電圧設定をしろっちゅうたやろ!」

「まだ言う前だったぞ……ごめん」

「ワテらの電圧は地球の機器に使うには高すぎるんや……どぁぁぁぁぁぁぁ」

 失速したドローンはただのゴミである。そのまま英国風魔法の村へと落ちた。


「こ……壊れたかな?」


 アメーバーの触手みたいな手を出して、散らばったパーツをかき集め、制御基板とバッテリー接続部分を摘み上げてギアは胸を撫で下ろす。

「大丈夫や、ポリスイッチが働いて回路を保護しとる。ええか再起動させるからな。電圧は12ボルトまで下げるんやで」

「わ、解った。すまんな。我輩はこういうメカニカルなモノにはテンで弱いのだ」

「よっしゃ、ドローンを立て直すわな。くそ、この右手が上手いこと動かんし、左足と右足が絡みついて……」

 いったいどんな体勢になってんだ、オマエ?


「ま、まだか? メルデュウスが来るぞ」


 モタモタしたのが功を奏した。メルデュウスの跳躍は力強い。勢い余ってドローンの遥か上を飛び越えて行った。


「どぁぁぁぁぁぁーー! なんちゅうバネや!」

 メルデュウスは再び宙で二回転ほどすると、両足で着地、次のジャンプの体勢に入る。


「今度はヤバおまっせ。もっと上がらな捕まるデ!」


「まかせろ。それぇぇぇぇ」

 再起動したドローンは風に乗り急速上昇。見上げるメルデュウスの遥か上へと飛び上がり、真下にはUFJの人工的な入り江が広がった。水しぶきが上がり、鮫が大きな口を開けて飛び出す例のアトラクションが見える。

「ひとまずこれで再起動を果たしたわけだな?」

 人工的な鮫をぼんやり見つめつつ、ギアが漏らした。

「ラグーンとかに飛び込まれたら……巨大化すんのかな?」


 何を考えておるのだろう、この関西系電磁生命体は……。


 ジュノン・アカディアン……何のことか忘れた人のためにもう一度説明しよう。眼下のメルデュウスはジュノン・アカディアンと呼ばれる宇宙猫の一種、月夜になると分体する。二人の少女にな。その状態で水に浸かると巨大化するという噂が宇宙にはあるが、誰もその瞬間を見たことが無いのである。しかもそれを吹聴していたのがギアなのだ。


「巨大化したらどうなるんやろ。衣服は弾けとび、丸裸やろナ……なあ?」

「くだらん妄想を湧かすな! 巨大化なんかするか! あれはガセネタに決まっておる。お前の情報なんかあてになるか」

「ワテもそう思うワ」

 自分で言っていれば世話がない。


 しかし万が一それが真実だった場合、もう取り返しがつかない。いかにUFJがやり過ぎ遊園地だとしても、『進撃の巨大人』の本物をラグーンで執り行うワケが無い。そうなったらおしまいである。危ない橋は渡らないほうがいいのである。再び『英国風魔法少年』のアトラクションへ誘い込むことにした。あそこなら、何とかなりそうな気がして……。



「見てみい。メルデュウスのヤツ城壁を掛け上がってきよるで」


 メルデュウスは二本の尖塔のあいだを飛び移りつつ高度を上げ、ふいにドローンを襲ってくる。

 セスナとの距離も取り、オロオロする幽霊化したギアの掩護と青白い光のビームからドローンを逃がす。目の回る忙しさである。

 そうそう、『心を亡くす』と書いて『忙しい』であるぞ。どうだ? 一つ勉強になったろ、青年。


 にしたって――。

 塔の天辺。針の先のような先端で腕を組んで直立したメルデュウス。空中を浮かぶドローンを睨み倒す姿は、何だか威厳すら感じるのに対してこっちはアメーバーの亡霊が風でユラユラした状況。まるで恥ずい姿である。



「来たぞ、ギア……セスナだ」

 魔法屋敷の尖った屋根に両翼を当てないように機体を左右に振りながら猛烈な速度で突っ込んでくる。『スペースヲォーズ』の名シーンを地で行くドルベッティ。連邦軍を一人で翻弄したという腕前は本物だった。


『ゴア。噴霧の準備をしろ。お前の真上を通過する!』

 心強いクララの声がするが、塔の天辺にはメルデュウスも待機している。


「ギア。気をつけろ! 尖塔の上からメルデュウスがこちらを狙っておるぞ」

「よ、よっしゃ。電磁フィールドを最大にしたる。みとれ! 波動砲出力120パーセント! 発射ぁぁぁや!」

 色々な方面にご迷惑をかける言葉を放って、ドローンが瞬時にして無彩色の雲に包まれた。ギアが踏ん張ってフィールドを広げたのだが、

「ぎ、ギア。ドローンを包み込むな! 前が見えない」

「あかんねんて。地球の重力に勝てんのや」

「仕方が無い高度を下げる。クララどの。悪いが城壁近くまでいったん降りるぞ」


『こっちのことは気にするな。宇宙一のパイロットがいるんだ』


 ドローンが降下するとまるで凧だった。風に煽られてぶわっと広がる灰褐色の雲。そこへメルデュウスがジャンプ。セーバーが撃ち下ろされる。


 雲と言っても水蒸気でできていない。電子の雲である。セーバーが触れると派手にスパークがほとばしる。それをメルデュウスは振り回したもんだから、激烈な稲光が走り、その中をセスナが突っ込んだ。


 魔法の国が震撼させられるアクションの開始である。そうKTNの握手券を拾いあっていた観客が今度は魔法の国で次のイベントが始まったぞ、とばかりに続々と押し寄せて来た。

 慌てたのはメルデュウスに切り刻まれた半裸の闇の魔道士たち。急いで控え室に逃げ込んだ。ゲストにこの姿を見られては今後の職務に支障が出る。イメージダウン確実なのだ。


 ギアはギアで想定外のショックに喚き、ふためく。

「うっわぁ――っ。ちょっと待ってえな。ワテの電荷がショックで散り散りになって消えていくがな。エライ損やデ」

「損とかで済むのなら、もう少し辛抱してくれ。足りなくなったら我輩の電荷を補充してやるから。それと聞いてくれ、クララどの」


『なんだ?』


「セスナでは早過ぎて噴霧するタイミングがつかめないのだ。もう少しゆっくり飛べぬのか?」

『バカモノ! これ以上速度を落とすと失速して城に突っ込むぞ。マジで魔王の国は大騒ぎだ。そんなことよりゴアよ。お主、生ぬるい日本に慣れ過ぎたな』


「どういう意味である?」


『お前は電磁生命体だ。電子の目で物事を見られるはずだ。それを忘れておるぞ!』


 あ。

 そうだった。電子の目なら迫ってくるセスナなど止まって見えるはずだ。すっかり忘れておった。

「それがあかん。実体化したら視力が落ちるんや」

「なら、我輩が合図を出す。それならいいだろ?」

「せやな。ほな背中を押してくれ」


「…………………………」


 アメーバーのどこが背中なのか解らぬ。

「どこでもええワ! 失礼な奴やで」


「クララどの。サンキューなのだ。こちらの準備はできた。もう一度チャンスをくれ」

『ふっ。任せておけ。ドル。旋回してもう一度だ』

 セスナは集まった観客の頭上を飛び越え、遠くで旋回。


「ギア。頑張れ。次の接近がたぶん最後だ!」

「おまはんのタイミング次第や。せやけどな。電荷の補充の話、たのんまっせ」


「ああ。任せろ。下宿に帰って北野博士の研究室から吸い()ればいい」

「ははは。おまはんもワテとたいして変わらんやんけ」


「ギア。左の壁の後ろにメルデュウスが潜んでおる。逃げるぞ!」

「よっしゃ。電子煙幕放出!」


 ババババババババッ!


 電子雲とセーバーがクロスして派手にスパークが上がった。


 集まって来たゲスト目線から見上げると、ライト剣を振りかざした少女が悪魔城をバックに魔王の出した暗黒雲と対峙しておるのだ。その光景はリアルに映画を再現したのだから拍手喝采だった。新しい衣装に着替えた闇の魔法使いが控え室から出て来て、一緒になって手を叩くってのは、ちょっとおかしかろう。


 連中もすぐに我に返り、急いで職務に就いた。瞠目めいた表情を振り払い、恐ろしい顔つきに戻してゲストを脅しにかかる。空では暗雲と稲光。家屋の屋根からは炎が打ち上げられ、実体化したギアの雲を赤く染めた。さらにスモークが焚かれ雰囲気は最高潮に達する。


 空からはドローンとセスナ。地上は魔描が宙を舞い、闇の魔法使いがワンドバトル。『英国風魔法少年』と『魔宮のトレージャーハンター』と、それからドローンを自転車と見立てたら、『地球外生物のアルファベット2文字』である――ふう。長いな。



 そしてクライマックスだ。

 二本の尖塔の狭い隙間を横向きにくぐろうと突進して来るセスナが登場。興奮した観客が息を飲んで仰ぎ見る空間を引き千切る速度ですり抜けると、城郭の手前で暗雲化しているギアの根元。そう我輩が操縦するドローン目掛けて一直線に向かって来た。



 突然、我輩の入ったスマホが喚いた。

『ゴア。これだけの観客の前だ。失敗は許されんぞ!』

「く、クララどの。余計にプレッシャーである」

『ばかもの! ワタシが付いておるだろ。我々はキャザーンだ。キャザーンに不可能は無い! 言ってみろ』


「わ、我々はキャザーンだ。抵抗は無意味だ」

「アホ。セリフが違うやろ!」


「はは、間違えた。“我々はキャザーンだ。キャザーンに不可能は無い!”」


『そうだ。KTNはこれを唱えてから全員が舞台に立っておる。もう一度でかい声で言ってみろ』


「我々はキャザーンだ! キャザーンに不可能は無い!」

 はぁーすっきりした。何か力が甦るようだ。というより我輩は電磁生命体である。キャザーンの一味になる気は無いのだが。


「来たデ……」


 右横の城壁の天辺からメルデュウスの鋭い視線を感じながら、正面から横倒しになったセスナが迫り、地上からは大勢の視線がそれに追従する。

 電子の目に切り替えるタイミングだった。


 瞬後、セスナのプロペラが止まった。いや、先ほど見た光景が静止画となった。メルデュウスが壁を蹴って宙に舞った瞬間で停止していた。その姿はまるで悶える女神である。


 そう。すっかり忘れておったが、我輩には光の速度に匹敵する動体視力があることを。十億分の一秒になると光でさえ30センチしか進まぬ世界なのだ。すべてが静止して見えて当然。この目で物を見ると、時速200キロでセスナがドローンの真横を通過したとしてもあくびが出てしまう。もう少し調整して、ミミズの散歩程度にする。


「我々はキャザーンだ。キャザーンに不可能は無い。キャザーンに不可能は無い……」

 祈るように何度も唱える我輩の前で驚愕する光景が展開されて行った。


 ドルベッティはドローンの真横でセスナの腹が曝け出るように、我々から見て右方向から反時計回りに旋回して来る。しかも機体を横倒しに捻らせて狭い尖塔の隙間を突っ込んできた。原液をボディに吹き付けるには最適の姿勢であると共に、飛び込んでくるメルデュウスを機体の背中で(さえぎ)る考えだ。


 縦になったセスナの両翼が微塵もブレていない。

 なんと精度の高い操縦だ。

 ドルベッティくん。称賛させていただく。キミは噂どおり素晴らしいパイロットである。


 しかしメルデュウスの野生の勘も(あなど)れないのだ。ドローン目掛けて飛びついたまん前を横向きになったセスナが通過するのにもかかわらず、衝突の一歩手前で姿勢を反転、セスナのボディをひと蹴りして元の壁に飛び戻った。


「ギア。今だ! 濃縮液射出!!」


 セスナの腹に向かって原液散布する。車輪に撒けとクララの指示が出ていたが、目をつむったギアが撒くのだから少々大サービスになった。エンジン部分から尾翼までに大量にぶちまけてしまったが、人間にとっては無色無臭の水みたいなものだから――ま、いいだろ。


「よし成功だ。クララどの」


『了解した。オマエらは引け。今度はコチラがメルデュウスを捕まえる番だ』


 暗雲と稲光、青白いスパーク。そして屋根から噴き上げる炎。その中から飛び出したセスナと尖塔の先端に飛び移るメルデュウス。地上からは感嘆のどよめきが広がる。


「うぉぉぉぉぉ」

 またまた大受けである。拍手喝采の嵐であった。

 今年のUFJは一味違うと。リアリティ溢れているぞと。観客全員がそう感じたに違いない。



 最後は簡単だった。塔の先端にぶら下がったメルデュウスは自ら匂いに誘われて、再突進して来たセスナに飛びついた。


『よーし捕まえたぞ。ドル、大至急、キヨ子のいる舞嶋へ戻れ!』


 舞嶋まではほんの目と鼻の先。

 セスナの車輪にぶら下がったメルデュウスを機体から身を乗り出したクララが落ちないように掴まえ、前衛画家が落書きをしたみたいなゴミ焼却場近くの広場へ急行。我々も最高速度でドローンを一路西へと飛ばした。

 割れんばかりの拍手の渦を背に受けてな。


 これだけ派手な演出をした――観客はそう思っておる――KTNの握手会が大盛況だったのは言うまでもないだろう。

 一見無駄に思わられた握手券のバラまき行為だったが、カミタニさんはクララを絶賛したのである。

 さすがキャザーンの女王なのだ。悪運も強いのである。

  

  


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