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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第三巻・ワンダーランド オオサカ
67/100

15 UFJへ行こう

おことわり……。

これより物語中に実在の土地や団体、設備、会社等によく似た名称が登場しますが、すべて空想のものです。混同しないよう、切にお願い申し上げます。


  

  

 通過中の電車を輪切りにし、通天乃閣へ向かったであろうメルデュウスを追って、堺ノ筋をドローンで南下するギア。その報告を待つ北野家では、一部の人間を除き緊迫した空気が流れていた。


「もぐもぐもぐ……」

 一部の人間はまだ反芻中である。

「ねえ。お新香まだある?」

「アキラさんも好きね。水ナスのお漬け物」

 テーブルに掛けていた前両肢をとんと床に落とし、追加の漬物を取りに行こうとするNAOMIさんを鼻息も荒く止めるのはキヨ子どの。

「放っておきなさい。ホイホイ言うことを聞いていると、つけ上がるだけです」


「なんでー。いいじゃんか。ナス食べたいもん」

 恭子ちゃんの視線も気にしながら文句だけは垂れるアキラ。その面前に傲然と胸を張りキヨ子どのが吠える。

「いつまで食べてんですか! さっさと片して、」

『おったで、キヨ子はん! やっぱし通天乃閣で正解や。テレビの台本どおりに移動しとるワ』

 いきなりギアの声がテレビから轟き、キヨ子どのの怒り声を遮った。

 ところが、

『あ! あ~~~!』

 途中から雄叫びに変わった。


「どうしたのです? 関西電力!」

 ギアと呼んでやってくれ。


『や、ヤバおまっせ……。通天乃閣ゆうたら大阪のシンボル……ほれ、例のタワーあるやろ。あの鉄柱を伝わってメルデュウスが登って行くんや。どないしょ。わわわわっ。まるでおサルはんやデ』


「運動神経はネコだからな」ぽつりとクララ。


『あかんで。目立つがな。人があのタワーをよじ登ったら、絶対に警察呼びよる』

「何とかしなさい。関西電力!」


『――あのな。ワテにはギアちゅう名前があるんや。それにその言い方、人に物を頼む態度ちゃうやろ』


「四の五の言わずに……仕方ありません。イリドミルメシンを滲み込ませた木クズを投げてみなさい」


『了解や~』


 十数秒ほど会話は途切れた後。


『食いついた、食いついた。ワテを捕まえようと手を伸ばしてきよるワ。なんや昔、こんな映画おましたな。超高層ビルからヘリを掴み落ちそうとする怪物の話』


「『超巨大なゴリラの王様』ね」とNAOMIさん。

『そう、それそれ。その気分や』


「悠長に感想を述べている場合ではありません。何とかタワーから引き離せますか?」


『とりあえず地面に下りたワ。せやけどぜんぜんマタタビが足りへんがな。補充できまへんのか?』


「まだ発注品が届かないのです。届けば何とかなります。それまで何とかごまかしなさい」

『アホな。ごまかせるもんとちゃうやろ……ま、まぁ何とかついて来とるから、誘導してみるけどな。せやけど今度はワテがめっちゃ目立つがな』


「大丈夫。テレビ局の撮影だと思われるでしょう」


『うぉっほ~っ! ビルの壁からビルの壁に飛び移るデ、この子。すごい身体能力してまんな』

「気をつけてね。キャザーンの文房具は電車も真っ二つにするからね」と怖いことを告げるNAOMIさん。


『うそやろ~~~!』

 とギアの雄叫び。

 しばらく愚痴のような報告が数分続き。

 結局、薬局、放送局、などと古いことを言う気は無いが……。

『あか~ん。見失った』

 ギアの虚しげな声がテレビから流れ、さらに残念な知らせが。

『キヨ子はん。バッテリーが無くなってきたワ。いったん帰還しまっせ』

「致し方ありません。充電させましょう。戻りなさい」

「どうするのだ? 見失ったのだぞ」

「おそらく、最終目的地のUFJへ向かうはず。勝負はそこからです………」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「アフアフ……ろうしれ……ハフハフ……台本ろうりに移動してんのはな?」

「ひょっと、アひラはん。食べなはら……アヒアヒ……みっともなひぃ」

 こいつら、コロコロ、ハフハフさせながら頬張って……溶岩でも食っておるのか?

 我輩の置かれた位置からではよく見えないのでバイブを強めに震わせて近寄ると、木の船に載ったタコ焼きを喰っていた。


 ちゅうか!

「お前ら、この緊急時に、よくタコ焼きを食っていられるな!」


 ちゅーか!

「ギアもバッテリーが少ないとか言っておきながら、よくまあ、タコ焼きを買って帰る余裕があったな」

 もうひとつ、

 ちゅう――かっ!!

「ドローンでタコ焼きが買えんのかよ!?」

「買えたからあるんやないかい」


「そら。こんな熱々のタコ焼きが落ちていることは無いだろうな」

 そう言うと、クララも横から爪楊枝(つまようじ)を一本摘まみ上げると、ピンと(とん)がった先端を訝しげに見つめ、

「何だ、これは? え? これで食べるのか?」


 すぐに――あひゃぁぁ。と叫びつつも、

「それにしても……ハヒハヒ……はひゃぁ」

 クララは朱唇をすぼめて口の中に空気を送り込んでおるが、タコ焼きを食べる美人という絵もなかなか色っぽいのだ。

「あふあふ……美味いな」

 ウマイんかい。

 ひとまず突っ込んでおく。



「せやけどいやほんま。さすが浪花の商人(あきんど)やな。お金さえ払えばタコ焼き屋の前に浮かんでるドローンでさえも商売してくれましたデ」

「そんなバカな。何か問題にされただろうが?」

「べっちょおまへん」

「なんだそれは? 日本語か?」

「日本語やがな。知らんのかい。別に問題ありません、ちゅうてまんねん」

「ならそう言えばいいだろ?」

「アホ、大阪の言葉は省略が基本や。『そうですね』やのうて、『せや』や。これ以上省略できひんとこまで省略されとんのや」

「無理しなくてもいいだろ。ケチなんだな」

「アホ、ケチとちゃう、節約や。大阪のおばちゃんはな、ネギの根っこを家のどこか日当たりのエエ場所で育てるもんや」

「何かの(まじな)ではないのか?」

 と我輩が言ったもんだから、さらにギアはムキになった。


「ちゃうわ! 大阪人はな、ネギ()うてきても1回で終わらせへんねん。根っこを残しておいて、軒下で土をかぶしておいたらまた生えてくるんや。ほなならもう1回、なんならもう2、3回は食べられるんや」

「しみったれてるな」

「アホ、ガーデニングや! 全国どこのベランダでもプチトマトぐらい育ててるやろ。ほな、ネギ育てて何が悪いねん。ガーデニングやんけ」

「だけど、魚屋さんでもらってきたような発泡スチロールの箱でガーデニングって……」

「ええやんけ。それこそ再利用や。節約の極意やんけ」

「さいですか……」

 関西人には口で勝てないのだ。


「しかしドローン相手に商売をするとは……」

 キヨ子どのも呆れ気味だ。

「そりゃ世の中は銭やからな。これが無ければ右も左も真っ暗闇や」

「………………………」

 電磁生命体を捨てたな、こいつ。


 あまり熱い物を好まないキヨ子どのは、タコ焼きを一つで終えると、NAOMIさんに振り返る。

「それで、ネット上の監視カメラはいかかがです?」

「だめだわ。顔認証に引っかからなくなった。あの子、知能高いわよ。カメラがあるところには顔を出さなくなっているもの。源ちゃんが言っていたとおり言葉ぐらい話せそうね」


「ということは……アフハフ」

 恭子ちゃんも桜色の頬の片方をポッコリ膨らまし、

「こっちのラビラスがおっとりなのは……アフゥィ……知能の大半をメルデュウスが持って、アヒュ……行ってリュから……ですね」

 キヨ子は恭子ちゃんを爪楊枝で差し示し、

「あなた。事情を知らないでよく参加していられますね。説明を受けているのですか?」


「え?」

 キュートな目を丸めた恭子ちゃん。

「あ、はい。NAOMIさんからさっき詳しく聞きました。ジュノン・アカディアンと呼ばれる宇宙系のネコの話も。でもちょっと驚いちゃいました」

 何が驚いちゃったであるか―――。

 この子もすっかり宇宙慣れしているので、その口調はちっとも驚いていない。そりゃあ、NAOMIさんだろ、スーパーキヨ子だろ、それに我輩たちやキャザーンを相手にしていれば、ここで宇宙人が何人出てきても眉一つ歪めないのは当然である。


「ねぇ、これどこのタコ焼き? 美味しいね」

 こいつはそれ以上に慣れ切っておる。いや、この騒動に何も感じていないようだ。案外、大物になるかもしれない。


「台本通りに動くということは、字も読める……ですか?」

「いや、違う」

 クララはキヨ子の推測を否定する。

「たぶん。ドルベッティとキャロが読み合わせていたのを横から聞いてのコトだと思う。興味を持って、分体のチャンスを待って飛び出したのだろう」


「ふ~ん。好奇心旺盛でそこそこ知能もある……」

 キヨ子は小さな顎をこくりと引き、

「いっそそのほうが、思うつぼですわ」

「どういうことだ。UFJとは遊園地だぞ。アソコは世間と隔離された空間だ。しばらく出て来なくなる」

「なら結構。注文品の準備ができるまでの時間稼ぎができますわ」


「せやけど。どうやって人気(ひとけ)のないとこへ誘い出しまんのや。UFJは繁華街の人通りの比やおまへんで」


「ギアの言うとおりだ。して、オマエの言う注文品とは何だ?」

 一旦疑問を打ち明けておきながら、

「ああ。そうか、先ほど出したネコをかどわかす、あの薬品だな」

 クララは自ら答えを出し、キヨ子どのは当然のようにうなずいてちらりと時計を見た。


「注文したのは、抽出液体を生薬にして濃縮したマタタビエキス20リットルです」


「それをドローンで散布するつもりか?」

「問題はそこです」

 大仰に吐息を落とし、

「最初は人気のない舞嶋(まいしま)の埋め立て地辺りに誘い出し、その場所から逃げないように拘束するために使うつもりでしたので、20リットルもあればじゅうぶんだろうと踏んでいたのですが、あの広いUFJから誘い出すには逆に足りないかも」


「いい方法があります」と恭子ちゃん。

「言ってみなさい」

 まるで教師か部隊長面のキヨ子どのである。


「紙に滲みこませて撒けば少ない量で広範囲に散らばると思うんです。上手く誘い出せたら、人気のない場所で残りのエキスをドローンで霧状にして集中的に撒けばそこへやって来ると思います」

「ちょ、ちょう待ってえな。なんぼアクティブでアグレッシブがポリシーのワテでもそんだけの大仕事、このちっぽけなドローン一台では無理でっせ」

「じゃあさ。みんなでUFJへ行って撒こうよ」

「あなたは撒かずに遊びだすからダメです」

 はは、6才児に言い切られてやんの。

「しかもただの紙ではゴミを散らしていると思われて係員に追い出されるのがオチです」


「しかしその作戦は有効だぞ。紙に滲み込んでいても我々には何の効果もないが、メルデュウスには絶大だ……」

 クララは組んでいた腕を解いて、溜め息混じりに腰に当てた。

「ま……こうなったのもキャザーンに少しは責任がある」

 少しではない。全部あんたの責任である。


「しかたない、ひと肌脱ぐか」

「うほぉ。クララはんのハダカや。豪華絢爛やデ」

「え? ハダカになんのクララさん?」

 おいおい、アキラ。目が爛々としておるぞ。


 クララはバカたちを見る目で、

「誰がオマエらの前で衣服を脱ぐ話をしておる」

「だってひと肌脱ぐって……」

「次のDVDに入れる握手券がある。来週パッケージングするために2千枚を部屋に置いてあるのだが、そのうち半分にエキスを滲みこませて空からばら撒こう」


「え――っ。そんなもったいないこと……僕にも1枚ちょうだい」

「アキラさんっ!」

 キヨ子が一喝。

「握手なら私がいくらでもしてあげます」

「やなこったー」

 アキラは一蹴。

「プロデューサーの許可なくそれは無理でしょ」とはNAOMIさん。


 しかしクララの出した案は何も問題が起きない。何しろUFJとも提携しているKTN48であるから、いきなり空からチラシを巻かれてもUFJ側はすぐに文句は言わないだろうし、遊園地だからお客は気にしない。ましてやKTNのファンがいれば大喜びするはずである。


「DVDを買った人は怒らない?」

 NAOMIさんは細かい配慮ができるサイバー犬なのだ。

「そっちはKTNの主要メンバーと個室で握手だ。どうだ、すごかろう」


「こ、こ、個室でっか………」

 慌てるなギア。

「安易に決めてはいけない案件であるぞ、クララどの」

 我輩は慎重に尋ねた。

「昨今危ない事件が多発しておる。個室だぞ。どこか一本切れたファンから何をされるか……あ!」

 途中で気が付いた。相手はKTN主力メンバー。となればキャザーン娘子軍のトップクラス。

「そ……それではファンのほうが危ない」

 思わず言葉を入れ換えた。


「ああ。あいつらの戦闘能力は半端ないからな。動き出したらワタシでも止められぬ。ここはひとつ、アイドルの暴走を防ぐために警備員にフェーザー銃を持たせたほうがいいのかもな」


 少女アイドルが暴れて警備員に止められるって……。

「猛獣のオリの中にファンを入れるつもりなのだ。ああ……クワバラクワバラ」

  

  

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