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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第三巻・ワンダーランド オオサカ
57/100

 7 ジュノン・アカディアン

  

  

 次の日――。

 シルバーウイークのど真ん中であーる。


「ねえ。おにいちゃーん。ネコさん来たの?」

 ロケット柄のワンピースをバタバタはためきながらキヨ子どのではなく、キヨコちゃんが北野家の食堂に飛び込んできた。


「あれ? おにいちゃんは?」

「まだ寝ておるのではないか?」

「あ。ゴアのおじちゃんだー。ねえ、あそぼ」

 テーブルに残された我輩をモミジみたいな手で掴むキヨ子。


「あ、あのね。キヨコちゃん。おじさんはあまり遊びたくないな。きみはムチャクチャするでしょ」

 まずったなーっ。

 キヨコが来るのならスマホから出ておけばよかった。今さら舌打ちをしても手遅れであるな。


「あのね。キヨコね、たっきゅのせんしゅになるのよ」

 関係ない話すんなよ。とも言ってられない。なにしろノーマルキヨコであるからな。


「卓球? 競馬のジョッキーはやめたのかな? それより卓球の選手になるなら今から猛練習しなければいけないよ。いやもう遅いかな。みんな三歳ぐらいからラケット握ってるからね」


「らけっとぉ?」


「あわわわわ………ちょっとキヨコちゃん。スマホをラケット代わりにするのはやめましょうね」

 キヨコが聞く耳を持たないのは今に始まったわけではない。さっと食卓の上にあった我輩の入るスマホをひったくると、

「はい。いち、にぃ、いち、にぃ」

 可愛らしく腰を捻ってスマホを振るが……。

 卓球のラケットと根本的に似た部分は平たいところだけ、グリップが無い分かなり危険である。


「えい、えい。えい、えい」


 片手の親指と四本指で挟まれたスマホは今にも滑りそう。もう一方の腕を腰に当て、食卓をコートに見立ててブンブン振り回すキヨコ。


「だ、ダメだって。あぶ、危ないから」

 台の高さだってキヨコの身長に合っていない。目の前をテーブルの角が音を上げて繰り返し通り過ぎる。


「はいっ、すまっしゅよ!」


 ぶっ、ぅ~~ん。


「あっ!」


 ゴッ! ガッン、ドンッ、ドガガガガガ、ドガーン、ダンッ!


「痛つつつつつつつ。だからやめろって言ったんだ。まともにテーブルの角がディスプレイの表面に当たったぞ!」


「ネコが来たわよーー」

 玄関から渡るNAOMIさんの声に、

「ネコさんだぁ。きゃっほー」

 キヨコはつむじ風のようにその場から消えた。


「こ、こらキヨコ! 我輩を何とかしろ! バカーーーー。キヨコぉー。カンバーック」



 ウ゛―――――――――――――ン。



 緩い振動とモーター音だけの世界が広がっていた。

「とっても寂しいのであーる」



「おまはん。冷蔵庫の下で何してまんの? 年末の大掃除やったらちょっと早過ぎまっせ」

 薄暗闇の向こうでバギーのゴツゴツしたタイヤが止まるのを見た。


「ギアか? 助けてくれ」


「物好きなやっちゃなー。おまはん狭いとこ好きなんか? ようおるやんか。段ボール箱があったら入りたなる奴。おまはんもそうゆう性分なんか?」

「冗談はよせ。誰が好き好んでこんな埃だらけのところに入るか! キヨコに投げ込まれたのだ。スーパーキヨ子の相手も大変だが、ノーマルキヨコはもっとムチャクチャなのだ。まったく聞く耳を持たんから困る」


「どっちのキヨコはんでも言うことなんか聞くかいな。ワガママの極致やで、実際」

 と言い残してタイヤを回そうとするので、

「おい、ギア! 我輩を見捨てて行くな!」


 あ――。

 行っちまいやがった。あいつ、後で殺す。



 数分して。

「あれ? 僕のスマホは?」

 アキラの声である。どうやら起きたようだ。


「アキラ! 助けてくれ!」

「ゴア? え? どこなの?

「冷蔵庫の下だ!」

「えー。汚いなぁ。ゴアって変な趣味があるんだね?」

「だから無いって。あんたもギアと同じことを言うんだな」


 ホコリが盛り上がったモハモハした向こうに、アキラの白っぽい顔が覗くのが見えた。


「ここだ。早く助けるのだ」


「なんでそんなに偉そうなんだよ。あ~あ。えらい奥に入って……手が届かないよ」

 立ち去ろうとするので、

「ま、待て。アキラにまで見捨てられると、我輩は地球で生きていく術を失うのだ」


「おおげさだなぁ。でもどうやってそこまで入ったの?」


「キヨコに卓球のラケット代わりにされて、手から滑り落ちて一旦テーブルの角でしこたま頭を打った後、床を転がって最終的にここに落ち着いたのだ」


「そこに住む気なの?」

「馬鹿者ぉぉぉぉー! ご、ごめん。助けてください、お願いです」


 アキラは「しょうがないな」とこぼしながら、一旦退却。すぐに30センチの物差しを挿しこみ、ゴソゴソ。

「ゴア。もうちょいこっちに動けない? 届かないや」


「こ、こうか……」


 バイブを使ってゴミやらホコリなどの山を掻き分けて進む。言いようによっては雪原を疾走するラッセル車のよう……には見えないよな。



 物差しによるサポートのおかげで無事救出完了。途中、(アキラ)の手でホコリを払われると言う屈辱を受けたが、無事定位置。上着の胸ポケットに収まった。


「感謝する、アキラ」

「どっちにしても。キヨコのヤツ、無茶するからなぁ」

「そうだ。我輩は数々のイジメを受けておるぞ、金魚すくいのポイ代わりにされかけたり、トイレの中でキヨコのパズドラの相手をされかけた時は、いきなりスーパーキヨ子に変身されて、罵声とともに外に投げ捨てられたり、足蹴にされたり、散々だった。にしても地球製のスマホは頑丈だな」


「おかげでキズだらけじゃないか。あのさぁ、ギアみたいに自立したら? やっぱ好きに動けないのはキツイっしょ?」

「うむ。確かにそうなのだが、何でもできるスマホの機能はとても魅力的なのだ。ようするに。問題なのはキヨコだ」

 そう、ノーマルキヨ子然り、スーパーキヨ子然り、どちらも苦手なのである。


「みんなは?」とアキラ。

「クララとイレッサがネコを連れて来たと言ってそっちへ行ってしまったが………あ。戻って来た」


「なにそれー!?」

 アキラが息を詰めた。


 それもそのはず。リードを付けた巨大な動物に引き摺られて入室するイレッサ。続いて見慣れぬ少女。その後をゾロゾロといつもの面々が沈黙の行進をしてきた。



「……………………?」

 しんがりをついて来たバギーのモーター音が疑問形に聞こえる。


「ネコってゆうてまへんでした?」

 ギアは尋ね先不明の言葉を漏らしていた。


「えっ! 昨日言ってたペットってこの子?」

 アキラの正面で静かに尻を落とした四肢(よつあし)の生命体は凛とした態度で胸を張り、ビビったアキラはキヨコを前に差し出しつつ後退りする。


「こ、こわーい」

 怯えたキヨコは、アキラの手から逃れるとクララの背に飛び込み、陰から「ぱるるチャンよー」と目だけを覗かせた。


「パルルとは何か?」とクララ。

 キヨコは丸い目を金髪の美女へと向け、

「メルルちゃんが飼ってるネコなの」

 急いであいだに入るギア。

「ネコちゃうねん。豹や。女豹(めひょう)。メルルちゃんの仲間でな。危機になると必ず助けてくれる心強いメスの豹でな、『パルル』ちゅう名前なんや」

 魔法少女メルルちゃん大好き宇宙人だけのことはある。さすがに詳しいな。


「大きさがね。この子ぐらいあるんだよ」

 役に立たない情報ありがとう、アキラ。

 メルルちゃんの話はこの際、横に置いといて……。


「しかしゴールデンレトリバー以上の体格をしておるではないか」

 我輩も言わずにおられない。

「ほんまでんな。鼻の先から尻までで1メートルをゆうに超えてまっせ。尻尾の先まで入れたらタイガーやがな」

 しかし凛然とした態度で、背筋を伸ばしてお座りをする姿は神々しくもある。


「そうかも知れぬが、これはどこからどう見てもネコだぞ」

 腑に落ちなさげのクララと、二人の会話を心配そうに見つめるイレッサ。


「ネコさんですか?」

 後ろから恐々声を掛けるキヨコに、半身を捻るクララ。

「ああ、まちがいない…………」

「こんな大きなのはネコと言わないわ。地球では豹か虎って言うのよ」

 あんたは、イヌともオンナとも言えないのだ。


「噛みつかない?」

 さっきからビビり過ぎだぞアキラ。


「この子はジュノン・アカディアン種で、とてもおとなしいんだぜ」

 声は可愛らしいのだが、男っぽい口調で語りだしたのは、クララたちと一緒に入って来た深い緑色のショートヘアの少女。


 身長は小柄で、アキラの肩ほどだが、そのまぶしいまでの成長ぶりは息を飲むのである。

 中でも吊り上った目から放たれる清澄な眼光が鋭く、魅せられてしまいそうだった。

 事実、アキラはとうに射貫かれており、只今、茫然自失中である。


「ふむ……。この子が昨日言った、筆頭責任者、アヴィリル・ドルベッティだ」

 固唾を飲んで固まる気配に気付いたクララが、半歩前に出て少女を紹介した。


 すると、黙したまま少女はあり得ない鋭い眼光を一瞬で消し去り、輝く微笑みと変えて頭を下げた。

「よろしく」

 さすがキャザーンの娘子軍である。美しさと厳しさを兼ね備えておる。


「ま、マジでドルベッティや……」と囁いてバギーを後退させるギアの挙動が解せないが――今はネコのほうが重要である。


「こわいよぉ……」

 微妙に震えたキヨコの声が、初めてこの子が幼女だったことを思い出させてくれた。

 NAOMIさんが、今ここでスーパーキヨ子に変身させないのは正解だな。おそらく有無を言わさず、即行でクララたちを追い出していたと思われる。


「だいじょうぶよ、キヨコちゃん」と言ったのはイレッサ。赤っぽいポニーテールがよく似合うこちらも負けず劣らずのナイスボディである。

 それからキャザーン健在時、この子は射撃管制主任でフェイズキャノンの砲舵手でもあったが、現在はKTNのセンターでファンの心を射ておる。

 うまい。誰か座布団をよこすのだ。



「この子のカラダは大きいけど、ちゃんとしたネコちゃんなのよ」

 イレッサは首のリードを緩く振って、

「ほぉら。キヨコちゃんに挨拶しなさい」

 凛々しい態度で胸を張っていた大型犬をはるかにしのぐ体格をしたネコが、穏やかに半身を折るとキヨ子のほっぺたをペロリとひと舐めした。


「うきゃきゃ。ザラザラしてるー。ミケとおんなじだー」

 キヨコんちもネコを飼っておるので免疫があるらしく。同じ部分を見つけると後はなだれ落ちるのであって。

「ねえねえ、おネエちゃん。この子なんてナマエ?」

 ノーマルキヨコは人怖じしない。海水浴ツアーでは『A』から『Z』の婆ぁさんと平気で会話をしていたほどである。安全と分かれば手を出すのが子供だ。


「あわぁ。フカフカだぁ。きもちいいよー」


 ネコは銀白に黒い波を打った健康そうな毛色をしており、よく手入れが行き届いた艶のある毛並はまるで豪華なロングコートだ。そして首の周りに集中する柔らかげで美しい毛は本当に銀のマフラーを巻いているように見えた。


「可愛いのは写真のとおりだけど……こんなに大きいとはね」

 とNAOMIさんは犬のくせに目を剥き、キヨコから何をされても態度を変えないネコを窺って、幾分弛緩したアキラが手を出した。


「ほんとにおとなしいんだね。ほらほら……」


「ニャ…ЖдХцМжё」


「え? 鳴いたのかな?」

 鳴き声と言うよりも、独り言でも喋ったのかと思った。


 急いで説明を加えるクララ。

「あ……あぁ。これがジュノン・アカディアンの特徴だ。地球のネコには詳しくないが、鳴き声は少し変わっておるかもしれん」

 だいぶ変わっておる。


「これだけ大きいから、もっと低い鳴き声かと思ったけど意外と可愛らしいじゃない」

 と言い。ネコの前でお座りをするNAOMIさん。まるで巨大な銀狼と対峙した小さなビーグル犬である。


「こんにちは。アタシはこの家に住んでるNAOMIです。よろしくね」

「ナァЭЮыъぁ~」

 ひと鳴きして、NAOMIさんの横頬をぺっろりと舐め上げた。


「あははは。可愛い。まるで言葉が通じるみたい」

 そう、我輩も初めてあなたと出会った時は驚いたぞ。何しろ言葉が通じる犬だけでなく、ロボットだったからな。


 満面の笑みをクララに向けたNAOMIさんだったが、

「この子。地球のネコじゃないわね。昨日の説明では何も言わなかったじゃない」

 持っていた疑念をぶつけるように訊いた。


「そうだったかな? だが部下が可愛がっていたと説明したぞ。『宇宙船で』と言う言葉が抜けておったのか? 日本語は難しいな。なに、決して凶暴なことは無いから安心してくれ。それだけは……保証する」


 それだけ?

 いま何かごまかしたような気がしたが……。


 ここでスーパーキヨ子がいたなら、必ず突っ込んでおったハズである。だが今はアッパラパーのキヨコだ。ネコと並んでウンコ座りをしておった。


 なんだかしこりを残したクララの言葉だったが……温厚な態度でおとなしく辺りを窺っている態度はよく飼いならされた、あるいはちょっとのことでは動じない威厳みたいな空気を醸し出していた。


「この子のおナマエは?」とヌイグルミのネコに抱き付くみたいに両手を広げて胸から飛び込むキヨコに、

「ラビラスメルデュウスさ。ほら喉の下を摩っておやり。喜ぶんだぜ」

「ミケとおなじだぁ」

「そうかい? 仲よくしておくれよ」

「うん」

 ボーイッシュではあるが、ドルベッティの立ち居振る舞いは優しげだった。


「長い名前でしょ。なので、できたら地球の名前を付けてあげたいのよ」と言うのはイレッサ。

「ほんとに長いね。どういう意味なの?」


 尋ねるアキラにクララは尊大に言う。

「よくぞ聞いてくれた。この名前は何を隠そうNANAが付けたのだ。『真実の双子』という意味だ」


「双子?」


「あ、いや。我々の星にある神話に出てくる話で、お前らには関係ない」

 慌てて取り繕うクララ。やっぱり怪しい……。


「ねーねー。この子の名前なんだけどさ、ブルマにしようよ」

「何かの権利侵害になりそうだから注意してくれよ、アキラ」


「なんで? 体操着のブルマだよ?」


 いきなりギアが色めき立った。

「おおぉ。さすがや!」

「なにがだ?」

「なにって。さすがは北野博士の孫だけのことはあるっちゅ話や。ネコの名前を付けるだけやのに、そこへ持って行く辺りが尋常でないスケベさが滲み出てまんな」


「むむむむ。お前もそれ以上アキラを挑発するな。別のところからお叱りを受け、明日からこの話が打ち切りになるぞ」


「そんなつもりはないねんけどな……。ほな、無難なとこで『おでん』はどないや。オデンちゃん、って、なんや可愛いらしい響きやんか」


 どんな感性をしておるのだ、こいつは……。



「おでんなんてダメ~」と言うのはもちろんこの子で、

「キヨコねー。『プリンちゃん』がいいと思うの」

 言うと思った。なんだか互いに好物を言い合っておるに過ぎんぞ。


 余計な補足かも知らぬが―――。

 我々電磁生命体は電子の揺らぎと、水分の含有率から変化する電荷の消耗度などから食べ物を判別しておるので、好き嫌いは主張できるのである。もちろん食することは永遠に不可能だがな。それはそれでよいのだ。


「あたしにも名前を付けさせてよ」

「NAOMIはんなら、何ちゅうのをつけるんでっか?」

「そうねぇ…………『スタックオーバーフロー』かな」


 なんだか今すぐ暴走しそうな名前だな。


「ろくなのが思いつかないな」などとクララが言うもんだから、

「しかたないなぁ……」

 息を吐くみたいに返事をしたNAOMIさんの尻尾がユララと動き、この人が口を出す。


「――それでは、アインシュタインでどうです?」


「なんでキヨ子を点けるんだよぉ」

 不服感満載のアキラのふくれっ面に、NAOMIさんが答える。


「だってあたしたちの頭脳って、やっぱ何かに偏ってて、同じのしか出てこないでしょ」


 ついでに、スーパーキヨ子に変身した幼女がアキラに吠えた。

「点けるって……私は白熱電球ではないと何度も言ってるでしょ。またセッカンの時間にしますか?」


「い……いやだよー」


「しかしキヨ子どの。アインシュタインとはベタではないのか?」と我輩が言うと、

「ほんまや。それやとデロリアンに乗って未来と過去を行き来しそうな名前やで」

 ギアがネコの前脚にまでバギーを進めて見上げた。

「ほんまに大きいネコやな。あ……せやけど優しそうな目ぇしとるワ」

 再びバックして離れたギアだが、銀白の動物は不可思議なモノを見るように小首を傾けるだけ。さすがに宇宙猫、堂々としておるのだ。


 普通はこいう人工物が音を上げるだけで、毛を逆立てて逃げ惑うのがネコなのだが、まったく動じていない。

 かなり知的なのだと思う。その半面、野性味が抜けているのかもしれない。長年宇宙船の中で飼われていたら、機械慣れしてこうなるのであろうか?


「命名権をワテにくれまへんか。エエのつけまっせ」

「ダメです。関西電力が付けるとコテコテしたものになります」

「ワテは電気屋とちゃいまっせ」


「なら我輩に任せろ。新しい風を吹き込んでやるのだ」


「あなたの口調のどこが新しいのです。昭和初期としか思えません。名前なら私が付けます」

「あかんて。キヨ子はんとNAOMIはんが付けると必ず難しそうな専門用語になるねん。何やねん『スタックオーバーフロー』って?」

「あらま。なかなかセンスのいいことで。私なら……そうですね……『メソッドオーバーライド』あるいは漢字を混ぜて『ヌルポ例外処理』はどうです?」

「あら。いいじゃない」

「あかんあかん。誰も意味解らへんやんか」


「ねえ。マイボ。キヨ子消してよ。ややこしいんだよ」

「はいはい。わかったわよ」




「……キヨコねー。ぱるるちゃんがいいの」


 それぞれに主張し合って、ムチャクチャである。


「さて。アタイはもう行くわ……」

 呆れたのか、ドルベッティが立ち上がった。


「じゃ、イレッサ、後を頼んだぜ。それと夜になったら出すなよ。いいな?」

「わかってるって。あなたもいつ会いに来てもいいからね。こっちは大歓迎だから」

「うれしいぜ。じゃあ、ラビラス、メルデュウス。またな」

 今、なぜ区切ったのだ?


「……クララお姉さま。アヴィリル・ドルベッティ、チーフパイロット。帰還します!」

 男勝りな口調は同僚の前だけのようで、途中で口調を変えると、クララと向き合った深碧(しんぺき)のショートヘアの少女は、踵を打ち鳴らし、背筋を伸ばして挙手をした。


「うむ。後日連絡する。それまで待機せよ」

「はっ!」

 くるりと体を旋回させ、毅然とした態度で部屋を出て行くドルベッティ。いつまで経っても娘子軍のクセが抜けないKTNの連中であった。




「どうして夜は出したらいけないの?」

 ネコの頭をひと撫でしていたイレッサにアキラが尋ね返したところで、やっと名付け親争奪戦が治まり、

「どういうこと?」

 NAOMIさんが濡れた黒い鼻先をもたげ、キヨ子のつぶらな瞳がパッカリと見開かれる。


 クララとイレッサはほんの短い時間だけ視線を交わした後、

「そ、それはだな。これだけの体格の動物だ。リード無しで外をうろついて住民が騒ぎだしたら困るだろ?」


 そうそう。ただでさえ北野家は町内を驚愕の坩堝に化するだけの爆発物を持っておるからな。世界初の実用型量子コンピューター、ラブマシーンや、スーパーキヨ子を作り出しているスピリチュアルインターフェース搭載のロボット犬。そして我々電磁生命体。さらには宇宙を震撼させていた暗黒軍団キャザーンを地球の、いや日本のテレビ業界に送り込むきっかけを作った張本人がスーパーキヨ子である。正直言ってこれは宇宙的にマジヤバなのだ。


 クララとイレッサの狼狽(うろた)えは、我輩の目にしか映らなかったようである。なんだか、あ~めん的な気分だ。


 ちなみにネコの名前は、察しのとおりパルルちゃんとなった。そうメルルちゃんの相棒、女豹のパルルである。

 つまりノーマルキヨコが泣き叫べば、誰の主張であってしても通らないのである。



 よく解らないが――まだ続くぞ。

  

  

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