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我輩はゴアである  作者: 雲黒斎草菜
第二巻・ワテがギアでんがな
36/100

 1 ワテがギアでおま

お待たせしました。第二巻の始まりです。今回は短めです。サクサク行きましょう。

  

  

 我輩はゴアである。電磁生命体なのだ。

 異世界へ落ちてきたお茶目な宇宙人であるからして、巷にあふれる『我輩モノ』ではないので勘違いしないでくれ──。


 あそうか。これは以前使っておったな。



 やっぱ新しい文章を考え出さなければ読者はついてこんよな。よく言うだろ。書物は読者、編者、著者の共同作業だと、な。独りよがりはいかんぞ。


 そのためにはしっかりしたコンセプトを練り上げることだな。プロットも最後まで書き、説得力のあるモノを完成させないと、話が途中からぶれるぞ。オープニングが閃めいたからといって、いきなり書き出してはいかんな。そうすっと必ず途中で方向を誤り失速し、やがてぽしゃるぞ。


 なー。経験があるだろ?

 最初は冒険物だったのに、いつのまにか格闘技物になり、毎回格闘試合の描写ばかり、最後は冒険の『ぼ』の字も出なくなり……。

 そうとも。冒険物はとても難しいのだ。誰もが見たことも聞いたことも無いシチュエーションが泉の如く湧き出てくるような天才ならまだしも、ちょっとSF物をかじったぐらいの薄っぺらい頭では、必ず今までに使用され尽くしたネタになっていくのである。いやほんと。


 冒険とは誰も経験したことのない緊急的事態を知恵と力と勇気をもって乗り越えていくものだろ。一千年の未来から時の流れを越えてやって来るのと違うのか?

 一つや二つのシチュエーションでは読者は飽きるぞ。

 だからといって物理学者でないと理解できないような難解な話で濁すのもよくないな。テクニカルタームを並べたくって、パソコンの専門書ではないのだ。


 誰のことだ?

 ふむ。身近にいるような気がしたが……。まあいい。




 最近思うよな……。

 テレビが──うんざりだ。


 話が変わったぞー。ついて来るのだぞ、青年。


 なんで朝から晩まで食べ物ネタを流すかな。そんなに地球人は飢えておるのか?

 皿からはみ出んばかりの食べ物や山積みの料理。あれって高さを競うものか? ちがうだろ。

 グルメとはそんなものに使う言葉ではないぞ。

 宇宙人の我輩が言うのも何だが……。


 ひどいのになると、ビールに伊勢海老を突っ込んでおったぞ。別々にして食すのなら何も言わぬが、ビールジョッキに伊勢海老を突っ込むなんて──海原雄山先生が激怒するぞ、ったく。



 それとな──。


 全チャンネルが一斉に食べ物の話題を放映しておる時があるのはどういうワケだ?

 現地の青空の下で地元の食材を紹介するのは一局だけでよかろう。土曜日の夕刻になるとそんなのバッカじゃないか。まだ子供向けのアニメを見ていたほうがほっこりするぞ。


 これはあれだな……。


 作家さんがせっせと斬新な企画を考えてきても、そこそこ数字が取れれば安心だよねー。とか放送局側が無難な話しか採用しないからではないのか。そんなことだから全チャンネル同じ番組になってしまうのだ。


 よいか、地球人。数字が取れるのではないぞ。見る番組が無いから、仕方なしにそのチャンネルを室内の背景画にしているだけに過ぎんのだ。ディスプレイの大型化が進み、テレビが動く絵画の額縁的に使われる時代になってきておる。それだったら開き直るのだ。思いきって焚き火の映像か、澄明な小川のせせらぎだけを流しておけばよい。お前らがいつも唱えておる、『そこそこ』の視聴率が取れるぞ。


「──おまはん。さっきから何の話しをしてまんの? テレビ局批判やったらよそでやりぃな」


「なんだギアか……立ち聞きとは悪趣味だな」

「アホか。ワケの分からんことをブツブツゆうとったら、誰でも聴き耳を立てまっせ」


「我輩たちに耳など無い。電磁生命体である」

 ギアは大仰に溜め息を吐き──ていうか、我輩たちは呼吸などはしてないのだが。


「何が我輩や。酎ハイみたいな顔して」

 電磁生命体に顔など無い。


「おまはんなぁ。地球に来て長いんや。ええかげん慣れたらどないや。で? 何の話しをしてまんの?」

「いや。毎日何もせずに、こうして、ほれ北野家の居候ではまずいと思ってな。色々と考え事を……」

「せやけどなー。ホンマ、地球人ってのんびりしとるよな」

 人の話を聞かんヤツだな。関西人め。


「いやほんま。そう思いまへんか? とくに日本人や。ワテら電磁生命体が潜りこんどるのに気ぃついとらへんし、このあいだなんか暗黒軍団キャザーンの宇宙船が暴走して太陽に突っ込んだり、娘子軍(じょうしぐん)がアキバに緊急避難したんやデ。せやのにだーれも騒がへん。どないなってまんねん。日本人は危機管理が無いってほんまやな。アホちゃうか。感心するワ」


「まぁ。連中のカモフラージュ技術は秀でておるから、気がつかなくても仕方なかろう。我輩もテレビに出てるなんて全然気づかなかったぞ」


「アホ。カモフラージュなんかしとるかい。素ぅや、す。素っピンや」

「なんと! すっぴんであの美貌、あの可愛らしさであるか。さすが宇宙一可愛いと言われる娘子軍であるな。その彼女らをこうして拝顔できるとは。道に迷ったとはいえ、地球に寄った甲斐があったな」


「なんやおまはん。ええカッコすんなや」

「なにが?」

「おまはん、『道に迷った』んちゃうやろ。鼻の下伸ばして、立ち入り禁止区域の地球を覗いとったら、カミナリに落とされて出られへんようになっただけやんけ」

「うるさいな、鼻の下って、我輩には鼻など無いぞ」


 我輩はゴアである。電磁生命体なのだ。身体など無い。電気である。


「ふん。ワテかて電磁生命体や。奇跡の生命体と呼ばれとったんや」

「見世物小屋でな──」

「お、なんや。職業差別をすんのか。遅れたやっちゃな」


「そんなつもりはないが。お前はそこが嫌で逃げ出したんであろうが」

「はーっ! 嫌とちゃうわ。ギャラが安いからや」


「どんな理由でも変わらんな。結局逃げ出して、偶然地球に漂流して来ただけだろう。我輩は違うぞ。自らここへやって来たのだ」


「それがエエカッコしーやっ、ちゅうねん。地球に落ちてからしばらく電柱暮らしやったんやろが、それが寂しなって友達を探しとったら、北野博士の隣に住んどった緑川家のママさんにメロメロになって、キヨ子ちゅう娘はんのスマホに隠れていたところをその子に捕まったんや」


「しっかし、よくそれだけ捲し立ててくれるな。ていうかそんな細かい説明はいい。とにかく我輩は自らの意思でここへ来たのだ、お前にとやかく言われる筋合いは無い」


「なにエラそうにしとんねん。ワテのほうが地球に長いことおるんや。言わば、我輩が、先輩や」

「しかし何と言われようと、我輩はゴアなのだから致し方なかろう」


「ほな、ワテがギアでんがな!」


「その関西弁ではしっくりこんな。『ワテ』って、なんなんだ? やっぱ、『我輩』だろう。そもそもなぜに電磁生命体が大阪弁なのだ。おかしかろう?」

「しゃーないやんけ。語学を学習した場所が船場の呉服問屋やったんや。誰でもこうなるワ。おまはんかって何や、その古式ゆかしい口調ワ。なんやねん『我輩』って、おかしカルカルや」


「我輩は7900光年彼方のシャーマン∀アカデミーで習ったのだ。太陽系観光が夢でな……」


「ワテかって大阪で言語を覚えてから渡米したんや。エエで大阪弁は。だいたいのアメリカ人に通じまっせ」

「大阪人特有のゴリ押しって言うヤツだろ。通じたのではなくビックリされただけだ」


「それでもええがな。ほんでビッグビジネスを始めかけたときに、北野博士の電送ケーブルに吸い込まれて、気ぃついたら、この家に軟禁や。エライ迷惑な話しやで」


「何がビッグビジネスだ。NASAの機密情報を横流ししようとスーパーコンピューターに近づいたら北野博士のセキュリティクローラーに取っ捕まっただけであろう」


 ギアは少々黙り混んだ後、観念したのか、それともこの非生産的な会話に愛想を尽かしたのか、

「へぇ~、へ。あんたはエライ。そうゆうことにしときまひょ。北野家の居候、ゴアさまやで」

 それから溜め息と共にこう言ったのだ。

「せやけどおまはん、そろそろ下宿代払(はろ)たらどうやねん。ワテは借りを作るんがイヤやからきっちりさせてもろてまっせ」


「我輩はまだ体力が完全に復帰していないので……」

 そう。もうひとつ説明が必要だな。付け加えておこう。


 アキバに散ったキャザーンは、実の話、ギアが呼び寄せたのだ。

「なんや、おっさん。ワテだけが悪いみたいやんけ。おまはんもこれで宇宙に帰れるちゅうて喜んどったは、どこのドイツ人や!」

「そ、そうだったかな。なにしろほら。記憶があいまいで……」


「ふん。都合悪なったらそれや。せやけどびっくりコイタよな。連中も地球を探していたとはなー。ワテのおかげで早く発見できたっちゅうて感謝しとったがな」

「お前こそ、良いように言うんじゃない。あいつらはもともと地球侵略が目的だったんだ。それをお前が誘導したようなもんだ」

「知らんかったんやからしゃーないやんけ」


「そうなれば我々電磁生命体はアンドロイドの電力パワーにされ、地球人はクララに牛耳られるところだぞ。それを阻止したのがキヨ子どのとNAOMI(ナオミ)さんではないか」


「ワテも地球に来て長いけど、あの二人には尻子玉抜かれましたデ」

「人類にもない臓器をお前が持っているはずないだろ」


「それぐらい驚いたちゅう比喩やがな」

「まぁそれは我輩も同じである」


 なにしろこの地球、いや、桜園田地区限定だが。すでにシンギュラリティを迎えておったのだ。つまり技術的特異点を突破した存在、それがNAOMIさんだ。そしてそのNAOMIさんの能力を凌駕するのが、ポストヒューマンとして登場したキヨ子どのだ。


「おまはんなー。難しい言葉を並べたくるほどにアホが露呈してまっせ。意味解らんとゆうてるやろ?」

「アホな。あ……いや。バカなことを言うな。我輩はだな……こほん。うむ、もういいや」

 意外にもギアの指摘は的を射ておる。そのとおりだ。ネットに転がっていた言葉を並べてみただけなのだ。あまり深追いしないほうが無難である。


 とりあえずだ。

「キヨ子どのの頭脳には尊敬の念を抱く、のひとことだな」

「せやな。ワテも吃驚仰天や。あの子は小学校一年生のくせして、キャザーンのシステムを見抜いただけやのうて、宇宙船のコンピューターを論破して言い負かしたんでっせ。ほんまにスゴおまっせ」


「にしても……メンタルの弱いコンピュータであったな。それが自暴自棄になり自爆装置が起動。キヨ子どのらと、キャザーンの娘子軍はいち早く脱出ポッドで避難できたが、我輩だけが逃げ遅れ、居候にしていたスマホと共に吹っ飛んだのだ」


 だがしかし、これもひとえに我輩の人徳のなせる業であろうな。スマホの中に使われていたコンデンサーと呼ばれる電子部品の中に、電磁生命体の命の源である電荷がかろうじて残っておるコトに恭子ちゃんが気づいてくれて……あ、恭子ちゃんと言うのはアキラの同級生でな、これがなかなかの美少女でボインなのだ。


「アホ。ボインって……もう死語や。いまは巨乳ちゅうまんねん」

「は? 巨乳って、なんだか(なま)めかしくないか?」


「ほな、デカ(ちち)でっか?」


「なんかな~。もちっとかわいく言えんかなぁ」

「せやったら、豊乳(ほうにゅう)、それか満乳(まんにゅう)でどないや」

「なんだか乳製品(にゅうせいひん)に近づいてないか?」



「そこのバカ、その一とその二!!」

「は?」

「へ?」


「真っ昼間から公序良俗に反する会話を大声でするなんて、宇宙人も男子高校生もたいして変わりませんわね!」


「あ、キヨコはん……こいつが言い出したんでっせ」

「どっちが言いだしたにせよ。北野家でそのような破廉恥な会話は禁止します」


「へ、へぇ……そやけど。ゴアのことをアホちゅうんはしゃぁない。実際アホやし。でもワテはちゃいまっせ。こうみえて結構かしこいで」

「ほぉ。ならリーマンゼータ関数の零点の分布に関する予想を述べてみなさい」


「ひぇ?」

「ほらごらんなさい。あなたはバカその二です」


「な……なんやねん、リーマンゼータって?」

「知らん……」


 この6才児に関しては互いに何も言えないのである。そう相手は小学一年生なのにだ。

 その理由であるか?

 うむ。一見(いちげん)の青年には理解できぬかもしれぬな。


 では、なぜこんなクソガキにエラそうにされるのかという疑問を目の前で解き明かしてやるので、まあ見ていてほしいのだ。


「あの? キヨ子どの?」

「なんですか?」

「技術的特異点とは具体的にどういうことであるか?」

「ほれみてみい。よう知らんくせに口に出しとったんや」

「なんかカッコいいから使ってみたくなるんだ」


 キヨ子どのは冷やっこい目で我輩が入るスマホと、ギアが忍び込んだポケラジを見つめ、

「なんでワテだけ『忍び込む』やねん! これは恭子ちゃんからのプレゼントや。ワテに住居が無いのは可愛そうやゆうて、外が見れるカメラと音が拾えるマイクをつけてくれたんやデ。ほんま、親切なメカ女子や。頼もしいワ」


 長々と我輩に向かって食ってかかるポケラジをキヨ子どのはぎろりと一睨み、

「簡単に申しますと、」

「無視でっか?」

 そう、完全無視で続けた。

「技術的特異点とはAi機器の能力が人知を超える時を言うのです」

「実はですね。ネットを調べるとそこまでは書かれておるのだが、その……いまいちピンと来なくて」


 キヨ子どのは、すんっと鼻を鳴らし、

「アニメのサイト以外にも目を通すことがあるのですね」

「ほんまやな」とギアに口を挟まれつつ、

「簡単に言うと、速度の違いと正確性です」

「速度……?」

「そうです。人間の感知できる速度はせいぜい数ミリセックどまりです。だがしかし、ちっぽけな組み込み用のワンチップコンピュータですらナノセックの速度で演算しております。その差は100万倍。しかもただの一度も間違うこともなく、かつ迷うこともない超正確な処理を行います。これが次世代コンピューターになるとさらに大きく膨れ上がるのです」


「もはや何を言ってるのか解らんぞ」

「それだけごっついんやろ」


「その速度でディープラーニングを続けるといずれは人類の知力を超え……」

「キヨ子どの。ご講義中まことに申しわけないですが、もちっと簡単に説明してもらえないでしょうか?」


 キヨ子は我輩をまたもやギロッと睨み。

「だからネットには簡素に書かれているのです。素人が読んだけで理解できるような世界ではありません」

「ようは。NAOMIさんみたいなものでっしゃろ? あの人もAiの塊や」


 小一幼女は、こくりと小さな顎を落とし。

「あの方は技術的特異点をはるか過去のものにしてしまう量子ビットを使用した次々世代コンピューターです。すなわち北野博士の手によってシンギュラリティはすでに訪れているのですが、ある事情があって世間に告知できないこの歯がゆさ! あなたたちにお解りですかっ!」


「あわわわ。キヨ子はん、そう興奮せんといてぇな」

「そ、そうである。我輩はたんに質問しただけであって、キヨ子どのの機嫌を損ねることはしてないのであって……」

「あのスケベヘンタイジジイはコンピューター界の進歩よりも女体に重きを置いた大馬鹿者なのです」


「うひゃ~。世界の北野博士をそこまで言う?」


「まだあります! ポストヒューマンの切り札として完成さたスピリチュアルインターフェースでNAOMIさんをも凌駕したワタクシを小学校に通わせるなど、言語道断(ごんごどうだん)もっか横断中! 愚かな人類。バカおっしゃい!」


「や、ヤバイのだ。キヨ子どのが暴走しそうだぞ。ギアなんとかしろ」

「アホな。誘導したんはオマはんやろ責任持てや」


「キヨ子どの。我輩たちはNAOMIさんともども、あなた様を尊敬、いや、もはや崇拝の域であるな。そう、神様と同じレベルで日々拝謁(ひびはいえつ)(たまわ)る次第でございます。ぜひここは穏便にお願い申しあげます」


 キヨ子はがらりと顔色が変わり、

「それは、よござんした。では話は簡単です」

「はぁ?」

「へ?」


「このあいだバカその一の電力計を見ましたら、まもなく400ギガワットに達します。これだけの発電量があるのならそろそろ下宿代を払いなさい」

「我輩はゴアである。バカではない」

「ではディープラーニングの概要だけでも述べますか?」


「あ……すみません……」



 な? 解ったろ? あー言えばこう言う。挙句の果てには難解な言葉でやりこめられる。すべての原因はこの子が世界初のポストヒューマンであることに尽きるのである。

 なに? また知らないクセに難しい言葉使っておるとな?

 うむ。そこは目をつむって各自がネットで調べるのが最善である。頼むぞ、青年。


「うだうだ言い訳していないで、とっととあなたの正式な発電量をゲロりなさい」

「うううう。なんだか取り調べを受けてる気分だ」

 クワバラクワバラ。仕方がない。暴露しよう。


「我輩は405ギガワットである」


「ウソやろ。ワテの403ギガワットより2ギガも上や。くやしおまんなー」

「なら、下宿代を請求します。私の黄色いスマホを破壊したあげく、今度はアキラさんのスマホに居候しているのですから当然です」



「でもさぁ……」

 やっと出てきた北野家の長男、高校二年生、『北野晃きたの・あきら』17才。


「何でキヨ子が我が家を仕切ってるのさ?」


 片手に麦茶のグラス、片手に(しずく)を滴らせたボトルを持って、近くの椅子にどすりと座った。

「あっ」

 キヨ子どのはアキラの手から麦茶を奪い取り、ひと口ごくりと飲んでから再び返し、切れ長の目をさらに鋭くさせる。


「なぜですって?」

「そ……そうさ」

 おいおいアキラ。高二にもなって小一にビビらされてどーするのだ。


「ならばご説明いたしましょう」

 キヨ子どのはさらに半歩アキラに迫り、平ったい胸を張る。椅子に腰掛けたアキラのほうがまだ身長がある。

「私は近い将来この北野家に嫁ぐ身です。今からこの家の経済を管理するのは当たり前なのです」


「もぉ。僕が持って来た麦茶を……」

 キヨ子どのの口が付いたグラスを迷惑げに一瞥してからテーブルに置くアキラ。

「お前はそんなこと考えなくていいの。まだ小学校一年生なんだからね」


 小一幼女の攻撃はまだまだ続くのである。

「これはアキラさん、(いな)ことを。私の学歴が足りないとでも? なんなら特進級で東京大学工学部電子情報工学科でも卒業してさしあげましょうか?」



「キヨ子さん………。残念だけど日本では特別進級制度は無いのよ。地道に小学校から行くしかないわ」


 我輩に指と額と言うものがあれば、今、重くなる頭を支えたハズである。

 奥の部屋から扉を開けて入って来たのが、この家の長老。量子物理学界で世界的に権威のある北野源次郎博士が開発した量子コンピュータ弐号機なのだ。

 名前をマイボと言うが、キヨ子どのはNAOMIと呼んでおり、自分もNAOMIだと言い張っておって、いろいろややこしいのである。

 ちなみにキヨ子どのがこの弐号機にNAOMIという名をつけたのは、彼女がゲーセンマニアでもあるからである。


 このNAOMIさん。もともとは超ダイナマイトボディのガイノイド(女性型アンドロイド)であったが、世界の北野博士がダッチワイフを作った、と世間から笑われるのを懸念したアキラの両親が猛反発して、システムは女性のままでビーグル犬に似たボディに据え替えられた、ある意味かわいそうなロボットなのだ。


 あ。いけない。ロボットとか犬とか言うと怒られる。この人は自分を女だと信じて疑わないから、そのつもりでいてほしい。


 な。これで我輩に頭があれば抱え込みたくなる理由がわかろう?


 ついでに地球人にひと言添えておくぞ──。

 キヨ子さんやNAOMIさんに驚いていては、この先とってもついてこれない。まだまだ平気で宇宙人が登場するので、肝を冷やさないことを切に願うな。我輩としては……。


 ───続くのだ。

  

  

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