第5話 ヒント
はは、そんなはずはない。
女神様と直接話した俺が魔法の才能が全くないなんてことはありえない!
二流悪役のようなことを考えながら魔術のコツのページを隈なく見る。
あの後は結局、幼児の集中力を使い果たしたのかご飯を食べてから寝てしまったので訓練はできていない。
そして発見した。
『序盤の魔力を感じ取る訓練では、魔力操作の卓越したものの魔力に触れることで飛躍的に速く感じ取ることができるようになる。』
これだ!
その下には自力で感じ取ろうとすると個人差はあるものの、1ヶ月から半年かかる場合は珍しくないと書かれている。そしてコツが掴めなければ、1年以上かかってしまうこともあるらしい。
世知辛い世の中だ。
それにしても1ヶ月から半年かあ…。
魔術を使うのはまだまだ先になりそうだ。
ハイネに魔術について聞いてみるか?
いや、俺は今3歳児だ。文字も読めないはずなのに、魔術について親に聞くというのは異常ではなかろうか。
それにハイネは結構過保護だ。
魔術は危ないだなんだと言い出すかもしれない。
それで魔術書を隠されでもしたら元も子もない。
ギルバートについては日中家にいないことが多い。
八方ふさがりだ…。
自力でやるしかないのか?
とりあえずやれることをやるしかない。
昨日と同じように座禅を組んで、瞑想する。
魔術書によればこの世界の全てには多少なりとも魔力が宿っているそうだ。
つまりこの体にも魔力が宿っており、感知できないだけで巡っているはずなのだ。
そこでだ。
前世での物語には、血を使って薬を使ったり陣を書いたりという描写があった。
つまり血には魔力があるということではないだろうか。
その線はこの世界においても必ずしも遠くない気がする。
ものは試しだ。やってみるしかない!
血管のように体中に無数に枝分かれする管をイメージする。そこから一旦体の中心に魔力を集め、再び体中に循環していく様子をイメージする。
1時間経過…。
じわっ。
!!
非常に微かだが確かに反応があった。
これが魔力なのだろうか?
よし、今の感覚を忘れないうちに繰り返そう。
再び1時間経過…。
繰り返しているうちに、だいぶ魔力を感じ取れるようになってきた。
しかし感じることができても動かすことができない。何やらものすごく粘着性のある物体のように、ほんの少し動くだけでそれ以上動く気配がない。
こればかりは練習でどうにかなるレベルを超えているような気がする。
やはり他の人の魔力に触れてみるのが一番早いか?
しかし肝心の魔力に触れる機会がない……。
5歳になるまで待つ他ないのか…。
いや、まてよ?
あるじゃないか魔力に触れる機会。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日が落ちて、月が姿を現す頃。
母さんが夕食の支度を終わらせ、父さんを呼んでくるように言われる。
「デルちゃん、そろそろギルを呼んできてちょうだい。」
「うん、わかった!」
よっしゃ!いきますか!
外に出て父さんを探す。
いた。
上段に掲げた大剣を袈裟斬りに振り下ろしたかと思うと、横薙ぎに払ってバックステップ。
片足を下げて目にも止まらぬ連続突きを放つ。
相変わらず凄まじい鍛錬だ。
しかし、そんなことに臆している今日の俺ではない!!
全ては魔法のために!!
「父さん!ご飯だよ!」
「おお!今いくぞ!」
ギルバートが締めの乱舞に入る。
ここまではいつも通り。
ギルバートから死角に入るところに移動する。
最後の一振りを終えたところでこっそり近づいていく。
きた。
背を向けているギルバートが、汗を流すために水球を纏い始める。
そこへダイブした。
!?!?