表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界支配は赤目様の気まぐれ  作者: ひよこ丼
第一章 全ての始まり
5/38

第一章4 『覚めない夢』

「ん………………ここは」


 ありきたりなセリフとともに意識が覚醒する。

 だが、体中が感じる心地よさに再び意識を奪われそうになった。元々あまり目覚めの良い方ではないタツキは二度寝を欠かさないタイプだ。寝具が床以外の今、その特性は最大限に発揮されている。

  

 ――ただ、状況を一切理解できていない今は例外だった。

 垂れてくる瞼に抵抗し、意識を活性化させるべく必死に頭を回した。

 しかし、脳は浅い睡眠では満足しないらしく、二度目の睡眠を渇望して目覚めを邪魔してくる。

 思考回路が眠気に乱されていた。


 

 …もー正直このまま何も考えずに寝ていたい。


 背中にひんやりとした感触、瞼にどこまでも広がる澄み切った青空。開放的な空間の中、最終的に希望がその一点に統一した。

 怠惰な自分の願いを叶えるべく、寝返りを数回うってベストポジションを定め、もう一度睡眠モードに入った。我慢は健康に悪い。

 

 そんなタツキの二度目の睡眠を妨害したのが、鼻をくすぐる超破壊力の所持者―――


「ってただの草かよ!?」


 ――Lv1程度の草だった。

 あまりのむずがゆさに跳ね起き、犯人を見て脱力。些細なことに過剰反応をする自分が嫌になる。

 ため息をつきながら立ち上がり、ズボンについた土や草をはら――


「―――?」


 ――突如正体不明の違和感がタツキを襲った。


  …何かが違う。何が違う?


 『違う』ことは分かるのにその原因が分からない。

 ここまで出かかってるのに肝心のアレが思い出せない!の数歩先を行った気持ち悪さだ。正体を暴かない限りこの胸のしこりはとれない。瞬時に瞳を曇らせたタツキだったが、鬱憤とした空気はすぐに拭い取られた。


「まぶし―――!!?」


 がんがんに見開いた目を、光が容赦なく貫いたからだ。  

 長年光の差さない部屋に閉じ込められていたタツキには、久々に浴びる日光が何倍にも眩しく感じる。


 眩しさに目を細め、手をかざすだけで先程の違和感はすっかり記憶から零れ落ちていた。


 頭上で存在を主張する円球の物体が、分厚い雲さえ突っ切っるぐらい張り切って光を振りまいている。

 その姿を見ているだけで、タツキの腹の奥からふつふつと感情が込み上げてくる。

   

 嬉しいような、悲しいような―――形容しがたい気持ちを太陽に笑いかけることで腹に返す。


「まじで目が痛ぇ……。これじゃどっかのム○カ状態じゃねーか…」


 満足気だったタツキを再び鋭い光が貫く。しばらく悶えたあとで、大きく伸びをした。昔から気持ちのスイッチを切り替える時には、この動作が必要だった。


 続けて深呼吸。自分を落ち着かせるためにやったことだ。

 澄み切った空気を贅沢に思いつつも口内に吸い込む。空気が今までのものより格段に美味しく感じた。汚い肺を綺麗に洗い去ってくれるのを感じる。


「さー、心機一転しますか! 俺成瀬他月は、ここから始め……いや、まずここどこだ」


 お決まりのパターンだが、やっぱり口に出てしまうものは仕方がない。

 人は常日頃自分の状況について知っていないと落ち着かないらしい。安全な場所か把握する必要がある。

 それに、状況が理解できない時ほど一人騒いでみたくなるものだ。


 あまり口を開かない日常だったことも手伝って、タツキの口からは頻繁に言葉が出てくる。


「あ…そーいや俺、死んだんだっけ…」


 現在地より遥かに大切なことに突き当たって、続けざまに衝撃が走った。

 一瞬息ができなくなり、言葉が続かなくなる。

 衝撃の過去に思い当たったことで、冷静さはすっかり抜け落ちていた。慌てて自身の体中をべたべた触りまくる。不快な気持ちがしただけで特に異常がないのを確認した。


  異常がない?


 それはそれでおかしい。もしタツキが落ちた先に奇跡的にトランポリンでもあって助かったとしても、この状況は説明がつかない。タツキは瀕死の重症だったのだから。常人が片足を銃で撃たれて、止血もせずに無事でいられるだろうか?あの時嗅いだ血の香りを思い出し、胃にある全てがこみ上がってくるを感じる。


 ――撃たれたはずの足は綺麗さっぱり元通りになっている。傷口は完璧に塞がれていて跡は残っていない。

  

  ―――白昼夢。


 その可能性が頭をよぎる。

 あまりの非現実さにまともな思考回路では追いつかなかった。

    

 だとしたら何が白昼夢なのか?

 どれが白昼夢なのか? 

 どこまでが白昼夢なのか?


「今いる俺が夢ん中の俺…?いや、こんなリアルな夢あるわけないか。ならあの悪夢が夢…?いや、それこそ考えるだけ馬鹿馬鹿しいだろ。――どんだけ希望に縋ってんだ」


 足を撃ちぬかれた時の痛みは本物だった。味わったことのない激痛が終わらない苦しみとなって襲い掛かってきたのだ。少なくとも死を覚悟させるものだったのは確かだ。何より体が覚えている。拒絶反応を示すぐらいなのだから。


「まさかまさかのもう死んでましたパターンはねーよな?…ねーな、足あるし。んじゃ俺ってばついに妄想の中に入っちゃった?そんな狂った輩にはなりたくねーけど、ありっちゃありだよね」


 ツッコミ不在だと永遠と喋り続けるタイプのタツキである。足を確認したり独り言を呟いたり、一人芸を見事に繰り広げた。


 昔は明るい性格で元気さだけが取り柄だったが、隔離生活を強いられてからは思考が守備型になっていた。

 それも叔母の支配下から解放された今、タツキ本来の"ウザイ"性格も解き放たれている。


「まぁまずは状況確認が先だよな。とにかく快刀乱麻の道を開くぜタツキ!!」


 以前述べた通り、知識の教養は祖父(の買った本)から受けていたため、打開策を考えるだけの頭は備わっている。


 ついでに付け足すと、中学から高校までのほとんどをあの部屋で過ごしていたタツキにやれることといえば、寝るか読書か筋トレぐらいしかなかった。ゲームやケータイといった、年齢に見合った娯楽は与えられていなかったのだ。(旧作のゲームなら持っている)


「んー、ここは見たとこ草原ど真ん中ってとこか…?」


 周りをアホみたいに何度も見回してみるが、視線の先には何もない。 遥か彼方に薄ぼんやりと、何か分からない形が浮かんでいるのがわかるぐらいだ。


 視界のすべてを埋め尽くすのは、緑。緑緑緑の、緑一色。

 タツキの座る草の絨毯は、水平線の彼方まで見事に四方に伸びていた。


 目に映る世界があまりにも広く、ここがどこなのか判断出来るだけの材料は現在はないと、早々に見切りをつけた。


「つーわけで、行動あるのみだな。どこの誰だかしらねーが、俺をこんなとこに置き去りにした罪で訴えてやるから待ってろよ!」


 ふと、自分で口にした言葉に疑問を感じる。

 ――――ここに"置き去り"にした。

 それは違う。その"誰か"は、自分を叔母の魔の手から救い出してくれたのだ。治療までサービスしてくれて。現代の医療技術じゃ到底追いつかないほどの力を持っている。


 それにタツキにはこの不思議な状況の原因に思い当たる節がある。  ――懐かしいような、温かく冷たい声。 

 その矛盾だらけの"謎の声の主"が、助けてくれたんじゃないかと。

 細かい問答は覚えていないが、何か言い合っていたことは記憶に新しい。それ以外は特に思いついたことはなかった。


「…前言撤回。グッジョブ罪で訴えることにします」


 死にかける間際。生きたいという頑固たる意志に恐怖が勝り、意識を失った。

 いや、強すぎる光に目をつぶらずにいられなくて、そのまま意識をなくしたのかもしれない。

 が、それは些細な問題に過ぎず、もっと大きな問題はその後何があったのか、だ。


「まぁ生きてるんだから結果オーライ!…生きてるよな?やっぱり天国ですってオチじゃないよね? ―――周りにそうだって肯定してくれる人がいないと不安になるもんなのかね、俺ってやつは」


 二度目の現在死亡済疑惑も、天国には天使、地獄には悪魔がいるものだという勝手な想像で打ち消す。

 タツキは幽霊には足がないと信じているぐらいに思い込みが激しい。

 それに誰もいない場所が死後行き着く場所なんて、虚しすぎる上に寂しすぎる。


「それにしても…方角も分からないってんじゃ、進みようがねーな…」


 といってもタツキはかなりの方向音痴で、東西南北は言葉でしか知らない。

 方角が分かったとしても、それが何?で終わってしまうのだ。


「いやいやしっかりしろタツキ。何事も粉骨砕身が基本。例え歩き抜いた先が壁だったとしても甘んじて受け入れる覚悟で行こうぜ」


 自分で自分を奮い立たせ、とりあえず太陽の昇る方向へと歩くことにしたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ