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異世界支配は赤目様の気まぐれ  作者: ひよこ丼
第一章 全ての始まり
1/38

『プロローグ』




 目が映しているのはありえない情景だった。

 焼かれ、焦げきり、黒い塊と化した木。

 立ち込める煙。

 その中に佇む人影。

 ――――まだ常識を逸するものはない。

 ただ、その光景を目にする者は確信していた。

 

「これって異世界転生ってやつ――!!?」


 とある少年の声が草原中に響き渡る。驚きと確信を含んだものだった。少なくとも発言の根は疑問ではない。

 彼の名は成瀬他月(なるせたつき)。特にこれといった能力を持たない、ごく普通の男子高校生だ。そんな平々凡々なタツキが、今は膝を付いて状況理解を試みている。

 その瞳に宿るのは、好奇心と、感謝と、迷いだ。


 彼の眼前にあるのは、焼き焦がされた巨木。付け足せば、数分前までは自らの意思で喋り動いていた木、だ。

   

 ――マンションから落ちて死んだはずの自分が、なぜこんな非日常的な状況に陥っているのか。

 アニメ脳のタツキが、この不可解な謎を『異世界転生』と結論付けるのは早かった。むしろそれ以外ないだろうと思っていた。肯定してくれる者はいないが。


「もしくは異世界転移もあり得るな。魔界天界のいかにもなところは避けたいところだ」


 先刻死の間際に見た紅蓮の光と木の怪物、そして魔法。異世界モノに有りがちの要素を、既に身を持って体験しているタツキだ。ここを異世界だと証明するものは十分に揃っていると考えていた。

   

 先の見えない世界で、タツキは独り笑みを零す。邪悪とも微笑みともとれる笑い方だった。


 "異世界"はタツキの憧れだ。

 剣と魔法の世界。

 主人公が転んだり起きたりしながら人を救い、自らを強化し、時にはウフフも経験して英雄(ヒーロー)となる世界。あくまで漫画内での知識を、自らの未来に重ね合わせる。


「―――!」


 そのまま疲労を訴える身体を労りもせず、新しい世界への希望を胸に焼野原を駆けて行った。顔面に狂気的な祈りを貼り付けながら。


  


 ――――そしてナルセ・タツキは、念願の異世界の中で何度も"死"に近い体験をしながら、無我夢中で己と戦っていくことになる。



   

ーーーーーーーーーーーーーーーーー✽―――✽――――




「―――まさか、君が…?」


 恐る恐る彼女に問いかける。

 先程から歯の芯が合わず、格好悪くかちかちと音を立てていた。

 答えがほしい訳じゃない。―――むしろ、答えなんか聞きたくない。


 幸せが、終わる。

 今まで積み上げてきた関係も、信頼も、全て。


 彼女が何を言おうが受け入れられる余裕が今の自分にはない。

 体が言葉を拒絶している。彼女の言葉なら、例え平凡な挨拶でも、日常的な会話でも、全部が全部特別で―――聞き逃すことなどなかったのに。宝物だと、そう思っていたのに。


  そんな辛そうな顔をしないで。

  そんな悲しそうな顔をしないで。

  お願いだから、そんな泣きそうな顔を見せないでくれ――――。

 真実を知る前なら真正面から受け止めようとしたはずだ。笑って、ふざけて、冗談でも混ぜて相手を笑わせて―――

 大好きで大好きで大好きで……仕方なかったから。あふれる気持ちを止めることなどできなかったから。


「――――」


「やめ……」


 反射的に止めようと手を伸ばす。

 だが、彼女は涙とともに、綺麗な形をしたその口をゆっくりと開いた。

 ――――人はこんな時でも綺麗だと思うことができるのか。常識を逸した美しさに魅入られ、伸ばした手は意味無く滑り落ちた。思わず諦念を抱く。

 耳を塞ぐが、開閉される彼女の口は逃げることを許さない。


 やめてくれ!分かりたくない!

 楽しさや嬉しさから始まる『幸せ』が身体中から染み出し、足元から崩れていくのがわかった。

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