罠、そして‥‥
「さて、いよいよ第8層なわけですが」
カズキが話しだす。
「ここから先は未知の領域です。何があるかわかりません。危ない状況になったら、即時撤退でかまいませんか?」
「今の戦力ではやむをえませんな」
オスムが答える。
「なるべく情報を集めて、カズキ様が危険と判断された場合は、その指示にしたがいます」
レンも同意してくれた。
「では、行きましょう」
カズキ、レン、オスムの三人は第8層への階段を登った。
第8層に着くと、そこは今までの層とは異なっていた。
幅が20メートル程の通路のような造りになっていて、途中に十字路のように左右に分かれる通路が見える。
そして正面には、やはり第9層への階段が見え、その前には大きな黒い固まりのような物が見える。
「何だろう?」
カズキを先頭に十字路の所まで歩いた所で、黒い固まりの正体がわかる。
ダークネスドラゴンだ。
10メートルはあろうかと思われる巨体だ。
ダークネスドラゴンはカズキ達に気づくと、その巨体をゆっくり起こしカズキ達の方へ歩き出す。
「ここで、やるしかないか」
カズキは片手剣を抜き走り出し、ダークネスドラゴンの足下へ斬りつけるがはじかれてしまう。
なんて硬さだ。
ダークネスドラゴンは、カズキに向けて左手を振り下ろす。
カズキはそれを後ろに飛んでかわす。
巨体がゆえにスピードは無いので、攻撃をかわす事はたやすかった。
正面に立ち向かうカズキに、ダークネスドラゴンはブレスを吹き出す。
「シールドウインド!!」
カズキは魔法で防ぐが、あまりの威力に後方へ飛ばされる。
「なんて威力だ」
すぐに立ち上がり、体勢を整えるカズキ。
「レンさん、オスムさん、固まっていてはダメだ。あのブレスはそうそう防ぎ切れない」
「わかりました」
レンは左側の通路、オスムは右側の通路、カズキが正面という布陣で迎え撃つ。
「ファイアエクスプローション!!」
カズキの爆裂魔法が、ダークネスドラゴンに炸裂する。
「エアースラッシュ!!」
レンの風魔法が、ダークネスドラゴンの右脇腹に当たる。
「うおおおぉー」
オスムがダークネスドラゴンの、左脇腹に切りつける。
しかし、それぞれの攻撃があまり効果が無いように、はじき返されてしまう。
「くっ、どうする」
カズキは身構え考える。
動きは鈍いが、予想以上の防御力だ。
「カズキ殿、ここは一時撤退しましょう」
「そうです、ここはいったん引いて体勢を立て直しましょう」
オスムとレンがそう言った瞬間、左右の通路に鉄格子が落ちてきた。
「えっ?」
「なにっ?」
オスムとレンが通路に閉じこめられた形になる。
「レンさん!!オスムさん!!」
カズキはダークネスドラゴンをかわし、レンのもとへ走り寄る。
次の瞬間、天井に浮かび上がった魔法陣から雷撃が飛び出しレンとオスムを襲う。
「キャァァー」
「ウォォーー」
両者の叫び声が通路に響き渡る。
そして、倒れる二人。
「レンさん、しっかりして」
カズキは鉄格子越しに声をかける。
「カズキ様……逃げて……下さい……」
レンは呟くように言うと気を失った。
そこへダークネスドラゴンのブレスが襲いかかる。
「シールドウインド!!」
カズキは全開で魔法を唱える。
後ろにレンが居るために、逃げられないのだ。
「くっ、どうする」
カズキが呟くと同時に、倒れたレンの下に魔法陣が浮かび上がる。
「何だ?」
するとレンの体は青色の光に包まれて消えた。
テレポートの魔法だ。
オスムの方を見ると、やはり姿が消えていた。
「くっ、早く何とかしないと」
カズキは呟く。
しかし、その前方にはダークネスドラゴンが立ちはだかる。
通常の攻撃では、ほとんど効果が無い。
多少危険だが、MPに余裕があるうちに大技で倒すしかない。
「ファイアエクスプローション!!」
カズキの爆裂魔法がダークネスドラゴンに炸裂するが、あまり効果があるようには見えない。
ダメージを期待したのではなく、爆煙で視界を悪くするために放ったのだ。
その隙にカズキは、ダークネスドラゴンの懐に飛び込む。
ダークネスドラゴンは、右手を振り下ろしてカズキを迎え撃つ。
「ブレイカーブレイド!!」
カズキはダークネスドラゴンの右手を切り落とした。
「行くぞ!!」
カズキは片手剣を両手で握ると、力を溜めるようにかまえた。
「セブンストライク!!」
カズキの7連撃が、ダークネスドラゴンの頭、首、胴体に決まるが、まだ倒れない。
「まだだ!!」
カズキは左手をかざして魔法を唱える。
「我が友イーフリートよ、血の盟約に従いその力をここに示せ……」
「メガフレア!!」
カズキの左手から膨大な炎が吹き出し、ダークネスドラゴンの体を焼き尽くす。
ダークネスドラゴンが倒れるのとほぼ同時に、カズキも倒れた。
MPを使いすぎたのだ。
「やったか……」
カズキは呟き、腰に着けている小物入れからポーション取り出し飲んだ。
しばらく倒れながら体力を回復し、考えを巡らせるカズキ。
二人はどこへテレポートさせられたのか。
今まで通ってきた階層には、それらしい部屋は無かった。
体力が回復したカズキは、レンが消えた魔法陣へと向かう。
「ディスペル」
カズキは魔法を唱え天井の魔法陣を消す。
今、雷撃を受けたらただではすまない。
次に床の魔法陣に向けて魔法を唱える。
「エクサマインスペル」
魔法や罠の効果を調べる魔法だ。
やはりテレポートの魔法が仕掛けられていたが、自動的に発動するのではなく誰かが、他の場所から遠隔操作で発動するタイプだった。
しかし、テレポートの先まではわからない。
「サーチ」
今度はフロア全体を調べる魔法を唱える。
レンとオスムの反応も無ければ、他に伏兵なども居る反応も無く、罠も魔法陣だけだ。
隠し扉や、隠し部屋などの反応も無い。
「そうなると上層が怪しいな。行くしか無いか」
カズキは一人、第9層への階段を登った。
第9層に登るとそこは第8層とは違い今までの階層と同じように、およそ50メートル四方ぐらいの広さに天井までは10メートルぐらい、それに円柱が何本か立っている造りだった。
そして正面にはやはり、第10層へと通じていると思われる階段が見え、その前には黒色のプレートメイルに片手剣と盾を装備した騎士が立っている。
「よくぞここまでたどり着いた冒険者殿」
黒色の騎士が言う。
「お前は何者だ」
カズキは問いかける。
「まあ、今は黒騎士とでも名乗っておこう。色々聞きたいこともあるだろうが、我はこの階層を守護する者なり。聞きたい事は我を倒してからにするがいい」
「剣で語れと言うわけか」
カズキは右手に片手剣、左手に小型剣を抜いた。
「行くぞ!!」
黒騎士は一瞬で間合いをつめて、カズキに剣を打ち込んでくる。
「早い!!」
カズキは何とか十字受けで黒騎士の一撃を受け止める。
黒騎士の剣をはじき返したカズキは、二刀で2連撃を繰り出すが、黒騎士の盾と剣で簡単にはじき返される。
体勢を崩したカズキに、黒騎士の剣が襲いかかる。
何とか小型剣で防ぐが、それでも黒騎士の剣はカズキの左肩をかすめる。
「くっ」
カズキはいったん後ろに飛び間合いを広げるが、黒騎士も同じ早さで飛び込んでくる。
黒騎士の猛攻を何とかしのぐカズキ。
しかし捌ききれずに、左足、右脇腹、頬と傷は浅いが斬りつけられる。
一方、カズキの攻撃は黒騎士の見事な盾捌きで阻まれる。
剣と剣、剣と盾がぶつかる音が響き渡る部屋。
じりじりと押され出すカズキ。
しかし、なんて早さだ。
ゲーム内でも、これほどの手練れに会った事が無い。
「まさか」
カズキは呟く。
黒騎士もゲーム”フリーダムファンタジアン”から来た冒険者ではないのかと。
このまま防戦一方では、いつかはやられてしまう。
魔法も多分当たらないだろうし、その隙を狙われてしまう方が危険だ。
「イチかバチか、やるしかないか」
カズキは防戦に徹しながらタイミングを伺う。
黒騎士が大振りをしたのを小型剣で受けるが、いなしきれずカズキの左肩に剣が浅くだが食い込む。
一瞬、動きを止めた黒騎士にカズキは片手剣を打ち込む。
盾で受け止めようとする黒騎士。
「ウエポンバッシュ!!」
カズキは黒騎士の盾に剣スキルを打ち込むと、盾は砕け散った。
「武器破壊か、やるねぇ」
黒騎士は言う。
「でも、私の本気はこれからだよ」
黒騎士の剣捌きは、ますます早くなる。
だが、カズキの攻撃も剣で捌かなければならず、自然と攻撃回数が減ってきた。
これなら互角以上の戦いが出来る。
カズキがそう思った瞬間、左腕に鈍痛が走り左腕の部分プレートの鎧が砕け散った。
「なっ、何が起きた」
カズキが呟くと次の瞬間、今度は左胸に鈍痛が走り胸の部分プレートの鎧が砕け散った。
「ううっ」
カズキは、よろめいて後ずさりをする。
「少し浅かったかな?」
黒騎士は何もない左手で突きをするポーズを取っている。
「まさか、インビジブルソードか」
「ご名答。良く知っているね。私も元々は二刀使いなのさ。どちらの二刀流が上か、決着をつけようか」
黒騎士が斬りかかってくる。
ただし、インビジブルソードの剣先は当然見えない。
特に突きに対しては、間合いがまったくわからない。
それを何とかカズキは防いでいるが、また一つまた一つと傷が増えていく。
このままでは、じり貧になっていくのは、わかっている。
今、やるしか無いか。
カズキは反撃に転じるため踏み込んだ。
しかし黒騎士は、その隙を見逃さずインビジブルソードをカズキの右太ももに突き刺す。
その瞬間、黒騎士の動きが止まる。
「ウエポンラング!!」
カズキは黒騎士の胸元に片手剣を突き上げる。
のけぞる形で何とか、かわす黒騎士。
しかし、かすったプレートメールの胸元とヘルムは砕け散った。
素顔をあらわにした黒騎士に驚きを隠せないカズキ。
「オスムさん、何で……」
そう、黒騎士はオスムだったのだ。
「その名前は正確ではないな」
黒騎士は話しだす。
「少し昔話をしようか。私の名前は高崎俊。君と同じ日本人だ」
そう言って黒騎士は自分の過去を話し出した。
高崎俊は、小学校の頃から剣術に魅了され、日々の鍛錬で強くなれる自分が好きだった。
ある道場に通い詰めていて大学を卒業したら、その道場の目録になれる事が決まっていた事。
しかし、卒業を目前にして交通事故にあい左膝を痛めてしまった事。
道場で剣術の鍛錬は続けてはいたが、左膝が思うように動かせず試合には出られなくなった。
そんな時、FISと”フリーダムファンタジアン”を知り、仮想世界では現実より、剣技を磨くことが出来た。
ただ、ゲームの中で自己を磨くことが出来ても、本気で相手をしてくれる相手は現れなかった。
自分の力を本気で試してみたいと思っていた時、この世界に召還され戦う場を与えられた事。
「今まで何人も相手にしてきたが、カズキ殿、きみが一番手強いよ。まだまだ私を楽しませてくれるのだろう?」
黒騎士はカズキに問いかける。
「それって、何人も殺したって事か!!」
「殺しはしない。冒険者には別の使い道があるからね。まあ、その過程で死んだ者が居るかもしれないがね」
「それは、人殺しの手伝いをしてるって事じゃ無いのか」
「私はね、今この場にて戦う事で生を感じているのだよ。今まで磨いてきた剣技を使う事でね。他の事には興味が無いのだよ。だから実際は人殺しの手伝いをしている事に対して、何も感じないよ」
「お前は狂っている」
「まあ、そうかもしれない。だが絶望を知った後に希望が見えれば、それにすがるのも人間じゃないのかな」
「もう、話は通じないみたいだな」
「そうだよ。だからこそ剣で語ろうじゃないか!!」
黒騎士はカズキに斬りかかってくる。
右足に傷を負っているカズキは、その場でしのぐしかない。
「ファランクス!!」
カズキは防御の魔法を唱えた。
一定量のダメージを相殺する魔法だが、黒騎士の攻撃にはそんなにもたないだろう。
「悪あがきのつもりかい。逃げるのではなく生きるために戦いなさい」
黒騎士は攻撃の手をゆるめない。
カズキがよろめいた一瞬の隙をついて、黒騎士が胴体を薙ぎ払いに来る。
「ウエポンバッシュ!!」
黒騎士の剣スキルがカズキをとらえる前に、カズキは小型剣を逆手に持ち替えて受ける。
しかし小型剣は折れ、カズキは数メートルはじき飛ばされ、左脇腹に激痛が走る。
「うぐっ」
カズキは何とか立ち上がる。
そんなカズキに向かって黒騎士は、ゆっくりと歩み寄る。
「ファイアエクスプローション!!」
カズキの爆裂魔法が黒騎士を襲うが、剣で薙ぎ払われる。
「そんな攻撃は無駄だよ」
爆煙に気を取られている黒騎士に対し、カズキは片手剣を両手で握り力を溜めていた。
「セブンストライク!!」
カズキの7連撃が黒騎士に襲いかかる。
黒騎士は4連撃までは剣で防いだが、2撃は左肩と右脇腹をかすめ、最後の1撃で喉元を狙う。
喉元はかわされたが、頸動脈の辺りは切れた。
失血死はするかもしれないが、今すぐに倒れる傷ではない。
「おわりだ」
黒騎士はカズキの首もとに剣を振り下ろす。
「お前がな!!」
カズキは、最後の一撃を右手で突き出すのと同時に、左手で腰の短剣を抜いて黒騎士の腹部に突き刺していた。
「ぐおっ」
崩れ落ちる黒騎士。
「最後にカズキ殿の力を見誤ってしまったか。完敗だよ……」
黒騎士は倒れながらも笑顔だった。
「ヒーリング」
カズキは黒騎士に回復の魔法を唱える。
「な、何を」
「人殺しになるのは嫌ですから」
黒騎士は青色の光に包まれ、出血は止まり始めていた。
「回復したら、また襲いかかるかもしれないぞ」
「そのときは、また倒しますよ」
カズキと黒騎士の死闘に幕が下りた。




