塔へ
塔の調査依頼を受ける事にしたカズキ。
「さて、これからどうすればいいのかな」
カズキはユウナに問いかける。
「案内役として、巫女を一人おつけします。あと騎士団から数名お供させていただけると思います。カズキ様さえよろしければ、夜明けとともに出発していただければ、午前中には塔に着けるかと思います」
ユウナは答える。
そうだ、今は夜中だ。
何もわからない状態で無闇に動く訳にもいかない。
夜明けまでにはまだ、3~4時間はあるだろう。
塔に入る前に確認したい事もある。
「この付近で、魔法をつかっても大丈夫な所ってある?」
カズキはユウナに尋ねる。
さいわい、まだ眠気や疲労感が無い。
自分がどの程度、ゲームの時と同じように行動出来るか知っておく必要がある。
「それでしたら、この神殿の北側に魔法の練習をするための場所がございます。そちらでしたら、ある程度の魔法をお使いになっても大丈夫です。今から行かれるのであれば、ご案内いたします」
「はい、おねがいします」
カズキはユウナについて神殿の北側に向かった。
そこは20メートル程の切り立った崖になっており、所々に焦げた様な跡がある。
どうやら元々、攻撃性の魔法などを練習するための場所らしい。
「少し下がっていて」
カズキはユウナにそう声をかけると、マントの裏に着けてあるスクロールを一枚出した。
「リフレッシュ」
カズキがそう唱えると、スクロールは青い炎につつまれ燃え尽きた。
MPを使わない、スクロールによる魔法だ。
「スクロールはそのまま使えるみたいだな」
カズキは呟くと、右手を崖に向けて魔法を唱える。
「ライトニング」
カズキの右手から電撃が走り崖を焦がす。
「ファイアエクスプローション」
今度は、暴煙が崖に炸裂する。
「うん。魔法も大丈夫そうだ、後は」
カズキは呟きながら背中の片手剣を抜く。
「バーニングブレード」
その片手剣は炎に包まれる。
「ウエポンバッシュ」
カズキは近場にあった3メートル程の岩に斬りつけると、その岩は粉々に砕け散った。
「よし、剣スキルも大丈夫だな。体もゲームの時と同じく動くし、後はアイテムか」
カズキは腰に付けている小物入れから、小瓶を一本取り出して中身を飲んだ。
ヒーリング用のポーションだ。
飲むと体の内側から力が、湧いてくるのがわかる。
「アイテムも大丈夫っと」
カズキは呟き片手剣の炎が消えるのを待って鞘に収める。
「さてと、とりあえずこっちの確認したかった事は終わったけど、後はどうすればいいかな?」
「明け方まで神殿でお休みください。明朝、塔にご案内させていただきますので」
ユウナはそう言い神殿に向かいカズキもついていった。
神殿に戻ると一人の巫女が待っていた。
「姫様、お待ちしておりました」
巫女がユウナに頭を下げる。
「レン。ちょうど良いところに。こちら冒険者のカズキ様です」
ユウナは巫女にそう紹介する。
「カズキ様。こちらは風の巫女、レンと言います。今回、カズキ様を塔にご案内させていただきます」
「お初にお目にかかります。私は風の巫女、レンと申します。カズキ様の足手まといにならないよう、務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
レンはカズキに深々と頭を下げた。
「あっ、こちらこそ、よろしくお願いします」
少し照れながら答えるカズキ。
「それで、レン。呪符はいくつ作れましたか?」
ユウナがレンに尋ねる。
「2つが限界でした……」
「そうですか……」
レンの答えにユウナが目線を落とした。
「と、言う事は?」
カズキがユウナに問いかける。
「前回の調査では、戻れた者は一人だけと聞いております。その方を含め、騎士団からは3人が参加していただけると思います」
「今回は5人って事か」
「姫様。少し無茶なのではありませんか。もう少し準備を整えた方がよろしいと思います」
レンが口を挟む。
「それは、わかっております。しかし塔の中の魔力が日に日に大きくなっていくのを感じます。何より塔に囚われていると思われる、冒険者の方々のマナの気配が少なくなっているのも感じるのです。それにシオンの安否も心配です」
「シオンさん?」
カズキが口を挟む。
「シオンは、このロウナ神殿に仕える火の巫女です。前回の調査に加わりました」
「と言う事は、彼女は戻れなかったと」
「はい。前回の調査では、第7層までたどり着けたのですが、シオンと冒険者様4人、騎士団員5人が戻れなかったと聞いております」
「なるほど」
カズキは呟きながら考える。
前回の調査では、11人中10人が帰還出来なかった。
しかし第7層まではたどり着けているので、そこまでの情報には困らないだろう。
ただ今回は、約半数の戦力で挑まなくてはならず、ユウナの話からすると、時間的な余裕も少なそうだ。
とりあえず上層を目差しつつ、フィオナとシオンの捜索にあたるべきかと、考えを巡らせる。
「塔は何層ぐらいあるのかなぁ」
「騎士団の見立てでは10層ぐらいと聞いております」
「あと3層を、何とかしなきゃいけない訳か」
「そうです。かなり無理をおかけしてしまいますが、よろしくお願いいたします」
「まあ、やれるだけやってみるよ。ダメそうなら逃げ帰ってくるけどね」
カズキはユウナに笑顔で答えた。
「それでは姫様、カズキ様。私は出発の準備を整えたいと思いますので、いったん失礼します」
レンは一礼をして、神殿の奥の方に消えていった。
「カズキ様は、出発まで少しお休みください。時間がまいりましたら、お声をかけさせていただきます」
ユウナはそう言うと、カズキを個室に案内した。
個室には簡単なベットと机に椅子がある、一時的に休息をとるためのような部屋だった。
とりあえずカズキはベットに横になり出発の時を待っていた。
2時間ほど経っただろうか。
部屋の扉がノックされる。
「カズキ様、ご用意が整いました」
ユウナが迎えに来た。
そのまま神殿の南門まで来るとレンが馬を用意して待っていた。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。ご武運を、お祈りしております」
ユウナは両手を胸の前に組んで祈るように言った。
「まあ出来るだけの事はしてくるよ」
カズキとレンは馬に乗り歩きだした。
レンの話しによると、塔までの道のりは山道を2時間ほど下り、草原を2時間ほど走り、途中に休憩を入れて5時間ほどで着けるらしい。
その間、レンは色々な事を語ってくれた。
巫女姫ユウナはロウナ神殿の責任者で、国の祭事や神殿の管理、巫女の育成など様々な仕事をしている事。
巫女姫の呪符は、ユウナの血から作られており短期間では、大量に作れないと言う事。
火・水・風・土の四つの精霊を司る巫女がそれぞれ居て、自分は風の巫女として修練を積んでいるので、普通の人間よりマナの量が多いため、塔の内部でも動いたり魔法が使えるだろうとの事。
これまでの調査では、なかなか結果が出なかったので、前回の調査に初めて火の巫女が同伴した事。
火の巫女、シオンは親友であり無事なら助け出したいと。
そんな話を聞きながら馬を走らせていると、やっと塔が見えだした。
「あちらです」
レンは塔を指さす。
そのまま少し馬を走らせると、塔の手前に大きなテントがいくつか見えだす。
「あのテントに騎士団の方々が居ます。まずはそちらに向かいましょう」
レンとカズキはテントに向け馬を走らせた。
テントの前に着くと3人の騎士が待っていた。
「よくおいで下さいました、冒険者殿。自分はこの分隊を任されているオスムと言います」
一番手前に立っていた騎士はそう言った。
「自分はカズキと言います。よろしくお願いします」
「私は風の巫女、レンです」
カズキとレンは馬を降りてそう答えた。
「お二人ともお疲れでしょう。立ち話もなんですから、テントの中で少しお休みになりながら話をしましょう」
オスムは二人をテントに招き入れた。
テントに入ると、中にはテーブルと椅子があり、座るように勧められる。
カズキとレンが座ると対面にオスムが座り、その後ろに二人の騎士が立ち、これまでの経緯を話し出した。
前回の調査で第7層まで到達出来た事。
第1~3層までは、近場に生息しているゴブリンやオークの巣と化していたが今は全て排除して、外に待機している騎士団が新たな進入をくい止めているため、ほぼ無人だという事。
問題は第4層からで、ここからのモンスター達は定期的に召還されているらしく、倒しても数日経つとまた復活するらしい。
前回の調査から5日経っているので、多分復活しているだろうと。
第4層はスケルトンの集団がいて、やっかいなのがスケルトンオーガが一匹まじっている事。
第5層にはスケルトンドラゴン、第6層にはケルベロスが上層に登る階段を守っている事。
そして第7層には白金色のドラゴンが居て、前回はこのドラゴンに敗走してオスムだけが逃げ延びれた事。
「それで今回は、巫女姫の呪符はいくつ、ご用意出来たのでしょうか?」
オスムはレンに尋ねる。
「2つだけです」
レンの答えに顔を曇らせるオスム。
「2つだけですか。仕方がないですね。アスタ、マイト、今回はお前達にも一緒に来てもらうぞ」
と、オスムは後ろに立つ騎士に声をかける。
「わかりました」
アスタとマイトと呼ばれた二人の騎士は、そう答えた。
「分隊長が、自ら来られるのですか?」
カズキはオスムに尋ねる。
通常、現場指揮官は残って、後方から全体的な状況判断をすべきだ。
「分隊長とは言え、前任者が先のオークとの戦いで重傷を負ってしまい、引き継いだばかりで、まだ半人前の分隊長です。残る部下にも優秀な者が居ますので、塔の周辺の警備には問題ありません」
オスムは一度、息を飲み話を続ける。
「自分は前回の調査で唯一の生き残りで、塔の内部を知っています。それに何より、自分をかばってくれたサトマル殿に、報いてやらねばと思っているのです」
オスムの言葉にカズキは驚く。
「サトマルさんも、この世界に来ていたのですか?」
「ええ、前回の調査で冒険者として参加していただきました。お知り合いの方でしたか」
オスムは目線を落としながら答えた。
カズキは考えを巡らせる。
前回は4人の冒険者がいて、その内2人はフィオナとサトマルだ。
この二人の実力は知っている。
しかも前回敗走したという第7層のドラゴンは、たぶんバハムートだ。
今の戦力で、どうにかなるだろうか。
さらに悪い事に黒幕には、このモンスター達を召還出来るほど、強力な力を持つ魔導士が待っている事になる。
その者と対峙した時に、自分は何が出来るのかと。
「今更、色々考えても無駄かな」
カズキは呟き決断する。
「それでも行ってみるしか無いか。オスムさん、案内をよろしくお願いいたします」
これから、塔の調査が始まるのであった。




