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黒猫  作者:
9/37


「え?」


 聞き間違いだろうか。

 なんだか私たちにはすごく場違いな問いが聞こえたような。


 けれども先輩はもう一度、今度は向き直って、私を見る。


 その目はどこか納得しているようだった。

 「うん、そうしよう」とでも言っているような。


「キスしよう」


「……遠慮します」


「なんで?」


「いや、なんでって…」


 意味がわからないですから。だって今までの私たちの空気って、そんなのじゃなかったでしょう。


 それとも、私が勝手に勘違いしてただけだろうか。


「………」


 そう思った途端、すう、と自分の中のどこかが冷めていく気がした。

 なんだろう。


 先輩は好きだけど、好きだから私はこの薄暗い教室に通っていたわけだけど。

だけど、先輩は、


「……彼女さんが、いるでしょう?」


 そう言っても、先輩の瞳は微塵も揺らがなかった。

 少しも、動揺なんかしていなかった。


 彼女がいると、私が知っていたのを、まるで最初からわかってたみたいに。

 別にそれを知られていようがいまいが、私としてはどっちでもいいことだけど。


「……いるね」


 一拍だけ間を空けて、先輩はいつもの調子で答える。


 私はそこまで聞いて、少しだけ、無意識のうちに張り詰めていた息を吐き出した。


 そうしてやんわりと、距離をとる。


「じゃあ他の女の子にそんなこと言っちゃだめですよ、先輩」


 なんとなく、髪の毛で自分の表情を隠しながらそう言えば、視界の端で、影が揺れる。


 衣擦れの音がして、それから、ぱきり。チョコレートの砕ける音がした。


「………甘い」


「…チョコレートですから」


「うん、久々に食べたら甘い」


「そうですか」


「明日も来る?」


 そしてなんでもないことのように、かけられた疑問符。


 先輩は、マイペースだと思う。


「……来ます」


「そっか」


「はい」



 甘ったるいチョコレートの香りが、鼻を抜けていく。



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