表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫  作者:
8/37


 だけど今日は、先輩は体をいつもより少しこちらに傾けていて、前よりちょっと、私に興味を示し始めたように感じる。

 なんだか、野良猫になつかれてるみたい。


 そこまで考えて、ふと、夢に出てきた黒猫のことを思い出す。


 思い出せば思い出すほど、今目の前にいる先輩はあの夢の中の黒猫にそっくりで、先輩はもしかしたら猫が化けたのかもしれない、と思う。

 思って、その古臭い発想に一人で笑ってしまった。


 するとぴた、と先輩の指が止まる。


「くすぐったい?」


「あ、いえ、なんともないです」


 どうぞ続けてください、という意味で目を閉じると、小さく、衣擦れの音がした。


 けれどもいつまで経っても体に触れる感触がやって来なくて、その後しばらく、音が止む。


 あれ、と思ってうっすらと目を開けると、


「……どうしたんですか」


 また数分前のように、目の前に真っ黒な両目が覗き込んでいる。

 聞いても、答えが返ってこない。


 ただ、いつもあまり変化のない先輩の表情が、眉がほんの少しだけ、ひそめられているような気が、する。

 確信はないけど。


「まどか」


「はい」


「なにも感じない?」


「は…?」


「ほんとに?」


「はあ」


 それが先輩にとってそれほど重要な問題なのかと思うけれど、先輩の価値観はおそらく私の価値観とちょっと次元が違う気がするから、気にすまい。


 私が曖昧に肯定すると、先輩は私の両脇に両手を差し込んだ。

 そして、ひょい、と抱えあげて、机の上に座らせる。


 されるがままに力を抜いていると、先輩はさっきのチョコレートの残りをまた手に取る。


 そして、パッケージから取り出して、綺麗に包んだ銀紙をまた器用にはがして、チョコレートをぱきん、とひとかけら、一口大に割る。


 残りのチョコレートをまた器用にしまいだすところで、私は声をかけた。


「いや、先輩。もうチョコはいいです」


「うん」


 いやに潔く言われた先輩の「うん」に、ほんとにわかっているのか、と問いたくなる。


 自分で食べるの? さっきそんなに好きじゃないみたいなこと、言ってたくせに。

まあ食べるなら、快く差し上げますけど。


 綺麗にまたパッケージの中にしまって、机の端にそれを置いた先輩は、

手に持ったかけらを少しの間眺めてから、おもむろに口を開く。


「――ねぇ、キスしてみよっか」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ