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黒猫  作者:
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 静けさに包まれれば、あの薄暗い教室を思い出す。

 この保健室も静かだけど、日の光が入って、薬品の匂いがして、何よりも清潔。

 あの教室とは正反対だ。


 けれども足を運んでしまうのは、なんでだろう。



 ***


 その日の夜に、メールが来た。

 携帯に登録されていない、知らないアドレス。


 誰かのアドレス変更のお知らせかな、と思って、何気なく開いて、かたまった。



『あした 昼休み』


 それだけ書かれた、本文。


「……なんでカタコト」


 だけど直感的に、送信者がわかってしまった。


 ちょっとだけ躊躇ってから、返信ボタンを押す。


『なんでアドレス、知ってるんですか?』


 先輩に私のアドレスを教えた覚えなんて、ない。

 送信ボタンを押した後、意外とすぐに返事が来る。


『見たから』


『どこで?』


『ブレザーの内ポケットから見た。ごめん』


 ブレザーの内ポケット。私の携帯の住処だ。

 私が寝てるときに、勝手に盗んで見たってことか。…はあ。


「……別にいいけどさ」


 これが知らない人だったら犯罪だよ。個人情報の盗難だよ。


 携帯をベッドに放り投げて、枕につっぷす。

 だけど昼寝をしたせいで、眠気なんて全然来なかった。


 ――先輩は、気まぐれだ。猫みたいだ。

 時々あの教室にいて、ときどき制服を着た私に触る。


 私たちの関係はそれ以上もそれ以上もなく、「ただそれだけ」だ。



 来ない眠気を無理やり呼び起こして、やっとまどろみがやってきた頃、思い出したようにまた、携帯が鳴った。


 送信者名、なし。


『明日 昼休み』



「……わかってますよーって」


 携帯の中では甘えたなのか、この先輩。


 携帯の明かりがまぶしくて、私はすぐにそれを閉じる。

 やがて気だるい眠気が襲ってきた。


 ――その日は珍しく、夢を見た。


 黒猫の夢。


 いや、たぶん、猫になった先輩の夢。

 気まぐれに私の足に擦り寄って、「なあ」と一声だけ鳴いて、町の角に消えていった。



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