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どうしても自分で来た覚えはなくて、眠る前の記憶を頑張って掘り起こすと、私がまどろみの中に落ちたのは、あの薄暗い教室だった。
先輩が参考書を読んでて…
……そうだ、先輩。
わざわざ運んでくれたのかな。
「…咲ちゃーん?」
「なあに」
カーテン越しに、咲ちゃんの疲れた声が聞こえてくる。
「保健の先生は?」
「さあ、職員会議じゃない?」
「咲ちゃん」
「なによ」
「私、熱出てることになってたの?」
「そうよ、担任に頼まれて、やさしいやさしい咲ちゃんが、まどかを起こしに来てあげたのよ。このまま誰も起こしてくれなかったら、まどか夜中の学校に一人取り残されてたかもね」
「ありがとう」
「どういたしましてー」
カーテンを少し開いてみると、咲ちゃんはすぐ側に背中を向けて携帯をいじっていた。
「咲ちゃん、彼氏さん待ってるんじゃない?行っていいよ」
「そうねー。まどかもただの仮病だったみたいだし。心配して損した」
「ごめん」
「今度アイスね」
「……おごる」
ぱちん、と携帯を閉じて、咲ちゃんが振り返る。
「荷物ここに持ってきといたから。プリントも入れてる」
「うん。ありがとね」
「はいよ。じゃあまた明日ね」
ぽんぽん、と私の肩を叩いて、咲ちゃんは颯爽と保健室から出て行った。
後には、静けさだけが残る。