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勇者は勇者を見限りました(仮)  作者: 槻白倫
1 オレが見限るまで
5/18

004 気付けば目的地

この物語は最初から主人公が強めです。違和感があるかもしれませんが、なにとぞご容赦くださりませ。


 森を出た馬車の中は静かなものだった。


 馬車の総数は四台。クラスメートが十人ずつに別れて乗り込み、シンやレンは御者をやっている。


 静かな馬車の中、オレは周囲を警戒しながらも疲れた体を休める。


「木葉、大丈夫か?」


 外を眺めるオレに流が心配そうに声をかけてきた。オレはそれに少しだけ気怠げに答える。


「あぁ…ちょっと疲れたけど、問題無い」


「そうか…すまなかったな。お前にだけ任せてしまって」


「あの状況で動けるのがオレだけだったからな。仕方ないだろ」


「そうだ!こーくんさっきの何?矢をバシバシ叩いてたの!」


 オレと流の話を聞いていたのか、東も混ざってくる。と言うか、この距離で、この静けさで聞こえない方がおかしいだろう。


 東が聞いてきたことは、やはり他のクラスメートも同じなのか、興味津々な顔をしている。


 だが、クラスメートの期待に応えることはオレには出来そうになかった。


「知らん。適当にやったら出来た」


 なぜなら、オレもよく分かっていないからだ。いや、憶測なら立てているが、憶測は憶測だ。間違っていたら恥ずかしい。


「え~?そんな事無いでしょ~?ねえ、どうやったの?教えてよ~!」


「あ?どうやったのかってのが聞きたいのか?」


「うん!」


「あ~それなら答えられるわ」


 東の聞きたいことが矢を叩き落とした方法であれば答えられる。だが、矢を叩き落とした方法をどうやって手に入れた?それは何なのだ?という質問には答えを持ち合わせてはいない。


「え?本当!?」


「ああ、一応な」 


 オレの答えに、東は目をキラキラさせて身を乗り出してくる。よく見れば、他の連中も好奇心丸出しの目を更に強くしてオレを見ていた。


 オレは東の頭を鷲掴みにして席に着かせる。


「落ち着け」


「う~」


「…矢を叩き落とした方法だがな。あれは音で矢の場所を察知して叩き落としたんだ」


「音で?」


「ああ。矢が風を切る音を捉えてそれを頼りに矢の現在地とその到達点を割り出したんだ」


 こともなげに言うオレの説明に、彼等は口を開けて呆然とする。


「そ、そんな事できるのか?」


「目が覚める前には出来なかっただろうな。目が覚めてから、妙に五感の感覚が鋭いんだ。多分それのおかげだ」


「いや、それにしたってそんな事できるなんて…」


「まあ、オレにも出来た理由なんてそれだけだし、それ以上深くは分かんねえよ……て言うか、お前等はなんか違和感とか、前より鋭くなった感覚無いのか?」


 オレは少しばかりの期待を込めて皆に訊いてみた。だが、俺の期待に反して、皆は首を横に振るだけであった。


「そうか…」


 オレはその事に少しだけ肩を落とす。オレだけ変化してしまったことが少しとはいえ不安なのだ。 

 

 溜め息を吐きオレは背もたれに体を預ける。


「まあ、何にせよ、皆無事でよかったよ」


「そうだね!怪我はしたけど、皆生きてるもんね!」


「そのことだけど、何で俺達は狙われたのかな?」


「それを言ったらここがどこかも私達分かってないわよね」


「これからどこに行くかもね」


「結局、あの人達が何者なのかも分かってないーーーー」


 不安が消え、堰を切ったように彼等は話を始める。オレはそれをどこか遠くで聞こえて射るような錯覚に陥る。いや、確かにだが、段々と声が遠くなっていく。


 それと同時に薄ぼんやりしていく視界に何が起こっているのか悟る。


 ーーーああ。確かに、今日はよく動いたしな。疲れたのか。 


 そう言えばさっきから眠たくなってきているのを自覚すると、睡魔が待ってましたとばかりにオレを襲う。


 オレは睡魔にあらがうこともなく、周囲の警戒も忘れ眠りについた。 

 


 ○ ○ ○



 目を覚ますとオレがはじめに見たのは知らない天井だった。って、テンプレートはいらないか。


 だが、知らない天井と言うことは事実だ。


 オレは少しだけ怠い体を起こすと周囲を眺める。


 天井があるという事はここはどこかの一室なのだろう。灯りがついていないので

部屋の中は少々薄暗いはずなのだが、どうやら俺の目は夜目も効くようになったらしく部屋の中がはっきりと見える。


 オレが眠っていたのは柔らかなベッドの上だった。部屋の中にはベッドと簡単な応接セット。本棚に机と椅子が置いてあった。


 一体ここはどこなのだろうか?


 オレはとりあえずベッドから降りる。すると、部屋のドアがノックされる。


 急にノックされたことに身構える。目をよく凝らし耳を澄ませて臨戦態勢をとるとドアの向こうに声をかける。


「誰だ?」


「王宮に勤めるメイドのハンナと申します。ドアを開けてもよろしいですか?」


 王宮という単語に少しばかり思案してしまうが、ドアの向こうでメイドさんが待っているのを思い出し、急いで入室の許可を出す。


「………どうぞ」


 オレが許可を出すと、部屋のドアが開かれる。 

 

 ドアを開けて入ってきたのは古式奥ゆかしいメイド服に身を包んだ女性だった。先程名を名乗っていたので彼女の名前は分かる。


 ハンナは肩までの茶髪で口元にホクロがあり、とても色っぽいお姉さんといった感じであった。


「…灯りもつけずに何をなさっていたのですか?」


「いや、さっき起きたばかりなので」


「そうですか。暗がりの中一人で自分の息子と戯れているのかと思いました」


 何を言っているんだこの人は?その思いが思わず声に出る。


「は?」


「?意味が分かりませんでしたか?ご自分のチーーー」


「ああああああ!!待った!!言わなくて良い!言わなくて良いから!!」


 オレは焦って大声でハンナの言葉を遮る。オレの大声にハンナは顔をしかめる。


「王宮内ではお静かにお願いします」 


「え?す、すみません…」


 え?オレが悪いのか?今のオレが悪いのか?


 頭を下げて困惑するオレにハンナは溜め息を一つ吐く。ねえ、態度悪くない?さっきの言動といい、オレに対する態度があんまりじゃない?言葉遣いも所々崩れてるし。このぶんだと様付けとかされそうにないな。 


 だが、オレのハンナに対する疑念をハンナ自身は知るわけもなく、彼女は淡々と告げる。


「サクライ様。起きたのでしたら私に付いてきてください。皆様お待ちです」


「様はつけるんだ…って、皆って?」


「付いてくれば分かります。さっさとしてください」


「ねえ、やっぱりおかしくない?オレに対する扱い雑じゃない?ねえ、ハンナ?ハンナさ~ん?」


 オレはそそくさと部屋から出ていくハンナの後を追いそんな事を訊くが、ハンナは柳に風と流してしまう。


 図々しくて、下ネタも言って、不遜なメイド・ハンナ。手強そうな相手だなと思いながらも、オレはハンナの後を黙ってついて行った。





「ここでございます」


 ハンナに連れられやってきたのはとある大部屋の一室の扉の前だ。


 ここまでくる間に分かったことだが、この王宮はオレが予想していたよりも広いようだ。ここまでくるのに五分もようした。学校の移動教室くらい面倒だ。


「?どうなされました?さっさと入ってください」


「ハンナ言葉崩れてる…」


「あら、失礼しました。オホン。早くしろ」


「更に悪くなってるよ!」


 ハンナの口はどうなってるんだ?悪口とか言わなきゃ死んじゃうとかそんなんか?


 オレははあとため息を付くと、ハンナにこれ以上言うことは諦めて目の前の扉と向き直った。


 ふうと息を吐くと扉をノックしようと手を挙げる。


「はあとか、ふうとかうるさい方ですね。さっさとノックなさい」


 ハンナはそう言うとコンコンとノックをした。


 え?オレが手を挙げた意味ないじゃん。


 そんな事を考えている間も、扉の向こうから声がかけられる。


「誰だ?」


「ハンナでございます。お目覚めになったサクライ様をお連れしました」


「おお、そうか!早よう入れ!」


 中から上機嫌なおっさんの声が聞こえてきてオレに入室を促した。


 すると、オレの目の前の観音開きの扉が勝手に開かれた。早く入れと言う割には向こうが勝手に開けてくれるのね。


 扉が開くと部屋の中にはクラスメート達と上座に座っている偉そうなおっさんがいた。あと、部屋の脇にはメイドと執事と思われる人達が控えていた。


 クラスメート達は皆一様にオレのことを見ている。


 オレはノックをするために挙げた手持ち無沙汰になっていた手を振る。


「よ、よお。おはよう?」


 オレが挨拶をするも、皆から返事はない。


 あれ?オレなんか間違えた?


 困惑するオレにハンナが耳打ちをしてきた。


「上座にお座りになっている方はこの国の国王様です。まずは国王様に挨拶をするのが筋かと」


「それ先に言ってくんねぇかなぁ!?」


 オレとんだ不敬なやつじゃん。


 オレは慌てて上げっぱなしの手を下ろし、ぴしっと手を腿につける。いわゆる気をつけの姿勢である。


「不敬を働き申し訳ありませんでした国王様」


「あ、いや、ワシ宰相じゃけど…」


「おい、ハンナァ!!」


 上座に座って偉そうにしていたおっさんが宰相だという事を聞きオレはハンナの胸ぐらを思わずつかむ。


 対してハンナはホホホと余裕の笑みを浮かべている。


「お前とは一度きっちり話をしなくちゃいけないようだな…」


「あら、夜のお相手のお誘いですか?あらあら盛んなことですね」


「そんな事言ってんじゃねぇよ!?お前は何でそうすぐに下の方に持ってくんだよ!?」


 グワングワンと前後に思いっきりハンナを揺する。その間もハンナはホホホと笑っている。


 クソッ!こいつといるとペースを乱される!


 オレはハンナを放すと宰相と向き直った。


「えっと、重ねての無礼をお許しください」


「ハンナが犯人だって分かっておるから大丈夫じゃ。まあ、そんな事より、座った座った」


 宰相はそう言うと自身に近い席を勧める。と言うかそこしか空いてないのだからそこに座るしかない。


 オレは早足に席まで行くと直ぐに座る。ハンナはオレが入室すると自身も入室して扉を閉めてから部屋の脇まで移動した。


 移動する間の皆の視線が痛かったがオレは気にしない方向で行く。


「それで、ああ~どこまで話したかのう?」


「僕等がなぜここにいるのかです、宰相殿」


 宰相の言葉に、オレの対面に座る流が答える。


「おお、そうであったな。まあ、簡潔に言うとだな。お主等はソラリア神の意志に導かれてこちらに召還された勇者だということなのじゃよ」


 どうやら、宰相はオレ達がこちらに来た経緯を話していたらしい。


 だが、大抵の者は大方予想が付いていたらしく、差して驚いた様子もない。かく言うオレも宰相の言葉にやっぱりかと思っても、驚くことはない。 


「その、宰相様。オレ達は帰ることは出来るのでしょうか?」


 オレは、オレが一番懸念していたことを宰相に訊いてみる。


 オレだって向こうの世界に残してきた家族がいるのだ。戻れるか戻れないかは重大なことだ。できれば戻れればいいと思っている。


 だが、オレの思いとは裏腹に宰相の放った言葉は、オレ達にとっては聞きたくのない言葉であった。


「それは分からん。少なくともワシは聞いたことがない。先代も先々代の勇者もこちらの世界でその余生を過ごした」


 自身の願いに反した宰相の言葉に、しかし、皆も半ば予想はしていたのだろう。そこまで落胆をしたような表情の者はいなかった。


「宰相殿。分からないということは、可能性はあると言うことですか?」


「うむ、そうじゃ。前例は無いが、世界中を探せばあるやもしれぬ」


 宰相の言葉に、皆がにわかに活気付く。


 だが、オレは宰相の言葉に素直に喜べなかった。


 探せばあるかもしれぬ。つまり現状ではその方法は無いという意味だ。 


 それにーー


「そこで、勇者方に相談じゃ。帰還方法を探すのをワシらの伝手を使って手伝おう。その代わり、勇者方にはこの国を守って欲しいのじゃ」


 ほら、やっぱりそうだ。


 宰相は情報収集を餌にオレ達の力をこの国に留めようとしている。そして、恐らくは、この国は他の国と比べて大きな国なのだろう。そのため他の中小国にはない伝手も多くある。勇者に事前にその事をそれとなく話しておく。そうすることで勇者を釣りやすくする。


 現に、他のクラスメートも釣られ気味だ。 


「そうなのですか!?それであれば、俺達は喜んでクインカ王国に力を貸します」


 って、流、お前もかよ。 


 オレは単純な思考回路の悪友に少しばかり呆れてしまう。こいつは頭が良い割には、応用が利かないというか、素直というか…。まあ、素直なのは悪いことではないのだが、今はその素直さを引っ込めて欲しかった。


「お、俺も力を貸します!」「わ、私も!」「僕も!」 


 悪友に呆れていると他の面々も力を貸すことに賛同を示している。


「私も、魔王軍と戦います!」


 と、賛同を示す声の中に聞き捨てなら無い単語が聞こえてくる。


「は?魔王軍?」


 まさかといったニュアンスでそうこぼすと、宰相は左様と応用に頷いてみせた。


「この国は今、魔王軍と長きにわたる戦争の真っ最中なのだ」


 宰相の言葉に、オレの中で全てが繋った。


 にゃろうと悪態を付きたくなるのを堪える。


 この宰相は、オレが来る前にこの事も話していたのだ。そして先程のオレ達にとっての好条件。採算も合うし、無駄に正義感の強いこいつ等ならばそれに乗っかってこないはずがない。 

 

 恐らくは、その話をしている最中クラスメートの反応を見てこうなることを確信していたのだ。大した狸野郎だ。


 かくして、オレ達のクインカ王国への助力がオレにとって半ば強制的に決まってしまった。 


 この時、オレは気付かなかった。一人、暗い目で流を見る生徒に。その生徒が、およそ級友に向けて良い類の視線で無かったことも。


 オレの運命は確実にここから外れていった。   

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