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勇者は勇者を見限りました(仮)  作者: 槻白倫
1 オレが見限るまで
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003 気付けば頼られてる

「さて、それじゃあ話し合うか」


 オレはその場にどっかりと座り込む。皆も座っているのだオレだけ立ってるとか恥ずかしい。


 胡座をかき頬杖をつきながら皆を見る。皆もオレを見る。ただ、見るだけで何も言おうとはしない。


 見られるだけなのがむず痒くなり、オレは口を開く。


「…なに?」


「い、いや、何って…」


 オレの問いにクラスメートの一人、佐久さくが答える。


「全部、桜井が決めればいいんじゃないか?」


「はあ?なんで?」


 イヤだよそんなの。面倒臭い。


 だが、オレがイヤがっているのを知ってか知らずか、他の連中もコクコクと頷いているのが多い。何名かは頷かないでただこちらを睨んでいたりもする。あらゆる意味でなぜだと言いたい。


「だ、だって、ここまで守ってくれたのって桜井だし…」


「それとこれとは関係ないだろ」


「いや、でも…」


「オレはお前たちの代表になったつもりも、リーダーになったつもりもない。それに、オレがお前達を助けたのだって、流と東を助けるついでだ。感謝されるいわれはない」


 実際、お礼の言葉なんて言われてないが、ここで釘を刺しておかなくては後々面倒だ。


「なあ、俺からもいいか?」


 オレの言葉に押し黙る佐久に変わって、流が話を始める。


「皆、木葉に全部任せようとするのはやめないか?…皆不安なのは分かる。不安で不安で仕方なくて、誰かに選択を任せたくなるのは分かるよ。でもさ、それで傷つく人もいたりするんだよ。皆の期待を一心に背負ってボロボロになる奴だっているんだ。幸い、木葉はそんなデリケートじゃないからそんな事にはならないよ」


「おい、それはオレががさつって言いたいのか?」


「木葉は黙っててくれ」


 へいへい、黙りますとも。あながち間違いじゃないし。


 つーんと一人拗ねるオレをそのままに、木葉は話を続ける。


「このまま皆が他力本願になってたら誰かが潰れちゃう。それは自分かもしれないし、隣にいる友人かもしれない。だから、考えることを放棄しないで皆で話し合おう」


 流の言葉に徐々に賛同の声があがる。


 流石は流だ。イニシアチブをとるのがとてもうまい。


 多分オレがさっきの言葉を言ったら「は?知らないし。そんなんお前が楽したいだけじゃね?」と言われるのが落ちだ。間違っていないから辛い。


 まあ、それはともかくとしてだ。どうやら皆話し合おうと言う気が出てきたらしい。流を中心に色々と意見を出し合っている。


 うんうん、良い流れだ。


 さっきの流の先導で皆は誰かに頼るのではなく自分でどうにかしようという意志が芽生えてきた。それも、自分本位に意見を押し付けるのではなく、他者を尊重した話し合いだ。皆が気持ちよくできる話し合いに、皆は苛立ちを覚えることはない。そんでもって、さっき流が言ったとおりオレに頼ろうという傾向は彼らの中にはない。つまり、オレは今楽が出来る!


 もともとオレは自分の意志は希薄な方だ。だから今回も決まった事に従えばいいと思っている。長いものに巻かれるのだオレは。


 ただ一つ気がかりがあるとすれば、怪我をした奴らまで真剣に話し合いをしているという事だ。時折痛みに呻いては周りの友人が心配して言葉を投げかける。それに良い笑顔で大丈夫と答える怪我人。なんだか寒い青春ドラマを見ている感じである。ほら、よくあるじゃん。膝に爆弾抱えた選手が頑張って試合出てますよ~それを仲間が心配しますよ~的なドラマ。あれ正直見てて寒いんだよね。そこまで体張る事かね?まあいいや。


 自分に酔いしれてる奴等はどうでもいいとして気になるのは後ろの連中どもだ。


 さっきから耳をそばだてとけば、やれ彼らをどうするか、どう運ぶか、馬車は足りるのかとか色々と相談してやがる。小声で話をしているがオレにはばっちり聞こえてる。小声で相談とは怪しいことこの上ない。


 だが、彼らがオレらを助けてくれ、また攻撃を仕掛けてこないのも一つの事実だ。攻撃を仕掛けてこない相手に攻撃をするのは良心が咎められるし、何より敵を作りかねない行動だ。それに、もし相手が本気で殺しにきたとしてオレが彼らを殺せる覚悟があるのかも微妙なところだ。正直殺せないだろうと言うのがオレの今の見解だ。


 さてどうしたものやらと考えるも、オレは彼らの決定事項に従うだけだ。余計なことは考えない方がいいかもしれない。


 色々考えたところで後ろの奴等の言ったとおり、選択肢は限られている。結局はついて行く方が得策なのだ。多分、皆もそれはわかっていると思う。


 オレが話し合いをしたいと言ったのも、単にオレが勝手に決めてこの後何か不幸なことがあってもオレだけが責められるという状況を作らないためだ。お前が勝手について行くって言ったからこうなったんだ!とか言われたくないしね。


 ただ、一つ気になるのは、彼らのコスプレのような格好と、彼らが言った馬車という単語だ。オレの考えているとおりであれば非常に厄介で危険なことになるのは目に見えている。だが、それも全て憶測でしかない。


 オレは考えることを放棄して、十中八九ついて行くという選択になることを確信しながらオレは話し合いの行方を見守る。


 その間も後ろの連中も小会議をしている。


 オレだけが周りから外れた時間。だから、オレだけが気づけた。いや、どんなタイミングでもオレしか気づけなかっただろう。


 オレは勢いよく立ち上がると木の枝を握りしめる。


 皆の視線がオレに集まる。だが、今はそんな事はどうでもいい。


「おい流。答えは?」


「は?なんだよいきなり」


「いいから!」


「ま、まあ、ついて行くって方針にはなったよ」


「そうか…」


 オレはそれだけ聞くと勢いよく振り返り、赤髪の青年を肉薄する。


「な!?」


 驚き、剣を抜こうとする赤髪の青年。周りの者も剣を抜こうとしたが遅い。


 オレは赤髪の青年を射程圏内に捉えると木の枝を振り上げた。


 バキッと言う木の枝を折るような音が森に響く。


 一瞬、ちらっと見えたが、白服の彼らは驚きに目を見開いていた。それはそうだ、オレだって驚く。なにせ、仲間に矢が迫っていたなんて普通であれば気づけるはずもないんだから。


 オレは赤髪の青年ではなく、赤髪の青年に迫り来る矢を弾いたのだ。


 赤髪の青年も驚愕していたが、今はそんな事はどうでもいい。問題は、まだ矢が来るということだ。


 オレは振り上げた肘を引きながら体を回転させると迫り来る矢を振り下ろした木の枝で打ち落とす。振り下ろした木の枝の軌道を無理やり上に上げて三本目の矢を弾き飛ばす。肩に担ぐようにして木の枝を構えると振り下ろし四本目を叩き落とす。振り下ろした木の枝をまた振り上げて矢を弾く。


 そうして、体に一連の動作だけを行わせて流れるように矢を次々といなしていく。


 全ての矢をいなし終わると、オレは叫ぶ。


「全員移動の準備をしろ!おいあんたら!馬車があるんならそこまで案内しろ!急げ!ぼさっとするな!」


 オレはそう言って彼らを急かす。


 オレは、自分の耳で拾っていた。ガシャガシャと鳴るうるさい金属音と、草を踏みしめる数十の足音。そして、ハアハアと荒く息を吐く獣の呼吸音も。


 おおよそ、ここにいる人数でどうにかなる相手じゃない新たな乱入者にオレは焦っていた。


 白服達もようやく動き出してオレ達は森の中を走った。


 オレ達が走り始めたことに気が付いたのか乱入者も移動を開始した。


 この森には木が生い茂っている。それこそ遠くを見ようとしてもだんだんと木々が邪魔をして、ある一定の距離以降は見えなくなるくらいに。


 と言うことはつまり、新しい乱入者はオレ達を木々の隙間からギリギリ捕捉できる距離にいるという事だ。そしてオレの聴覚もそれより少し先までくらいしか聞き取れないという事だ。


 その正確な距離は分からないが、おそらくそんなに広くはない。二十メートルか二十五メートルそこらだ。常人よりかは明らかにスペックは上だがそれでもやはりそれ以降は捉えきれないと言うのは明らかにネックだ。二十五メートルより先で移動をすればオレにはその動きは捉えられない。先回りをされたって気づけないのだ。


 だが、流石に走りながらの相手を木々の隙間を縫って矢で射るのは至難の技なのか、矢の追撃は無い。その代わり、こちらに向かって走ってくる獣の息遣いが聞こえてくる。数は九匹。聞こえる足音からサイズは大型犬くらいか。


 ただ、なんの足音かは分からない。犬かもしれないし、それ以外の動物かもしれない。


「おいお前」


 迫り来る次の脅威にどのようにして対処をするかを考えていると、不意に声をかけられた。


 声をかけてきたのは案内のため先頭を走っていた赤髪の青年であった。


 不機嫌そうな赤髪の青年は無言でオレに何かを付きだしてきた。


 青年が付きだしてきた物を見て思わず呟く。


「なにこれ?」


「なにって、見りゃあ分かるだろうが。剣だよ、剣!」


「んなこたぁ分かってるよ。そうじゃなくて、何でオレに渡すのかって聞いてんの!」


「そんな事俺に聞くなよ!ティラちゃんに聞けよ!」


 青年はそれだけ言うとオレに剣を押し付けて先頭に戻っていった。 


「剣なんか握ったことねえよ…」


 押しつけられた剣を見てオレは一人愚痴る。


「その割には、木の枝を振る姿は存外様になっていたぞ?」


 オレの愚痴を聞いていたのか、今度は青髪の青年が声をかけてきた。


「ああ、すまない。自己紹介がまだだったな。俺の名はレン。レン・クーベラだ。よろしく頼む」


「桜井木葉だ」


「先ほどはシンがすまなかったな。あいつは悪い奴ではないのだ。どうか許してやって欲しい」


 どうやらあの赤髪はシンと言うらしい。


 シンの代わりに謝罪を入れてきたレン。どうやらこいつは友達思いな奴のようだ。


「ああ、気にしてないから別にレンが謝る必要はない」  


「そうか。それは助かる」


「それよか、これどうやって振るんだ?さっき見たいのでいいのか?」


「ああ、先程のように振っても何も問題はない。もっとも、少し荒削りだから剣がすぐに悪くなってしまうと思うがな」


「でも、ここ切り抜けるまでは保つんだろ?」


「それは保証しよう」


「そか、ならいいや。サンキューな」


 オレはそう言うと、剣を鞘から引き抜く。銀色の刀身が木々の隙間から漏れる陽光を反射させる。大変な状況にも関わらず、オレは少しだけ見とれてしまう。


 剣に見とれているオレにレンはフッと笑いかける。


「どうだ?綺麗だろう」


「…ああ…思わず飲み込まれるほどな」


「気に入ってくれて何よりだ。それじゃあ、先頭は任せたよ」


「え?あ、おい!」


 レンはそう言うとスピードを緩め集団の中間位置まで下がっていった。レンはおそらくあそこを守るのだろう。


 ていうか、ちゃっかりオレもその守る側に回っているんだが何でだ?   


 まあいいや。守る手段が手には入ったと思えば御の字だ。それの副産物として守る側に回るのもまあいいだろう。


 ただ、先頭をシンと守ることになるのが億劫だ。シンは明らかにオレのことを敵視してる。その上敵視している相手に助けられたシンの今の心境はさぞ気に食わないと荒れ狂っているだろう。


 オレは少しだけ走る速度を上げてシンの横に並ぶ。


「レンに任された。オレとお前で先頭を守れだとよ」


「んなこたぁ知ってるよ。俺はお前よりも先に聞かされてんだからよ」


「ああそうかよ。まあ何でも良いけど、右側頼んだわ。獣が四匹行ってるわ」


「…チッ!分かったよ!お前しくじんじゃねえぞ!」


「分かってるよ」


 オレからの指示が気に食わないのか舌打ちをしたシンだが、それでも請け負ってくれるらしい。


 シンの返事を聞くとオレは左側へ寄る。


 そう言えば、生き物なんて傷つけたこと無いけどオレに動物が斬れるだろうか?斬らなければこちらがやられるとしても、どこかで躊躇いが生まれそうな気がする。オレの意志はそんなに強くない。一度無理だと思えば斬ることは出来ないだろう。


 だから、オレは思い込む。斬れる。斬れる。と。


 思い込む中、獣の足音が段々と近付いてくることに気付く。いや、オレ達が近付いて行ってるのだ。


 どうやら完全に先回りをされたらしい。オレ達の少し先を走る獣の息遣いが近付いてくる。そして、力強く地を蹴る音を捉える。


 ーーー来る!


 来ると確信すると、オレはある一点に剣を向ける。


 すると、茂みの中から獣が飛びかかってくる。


 だが、飛びかかってきた獣は知らない。そこはもうデッドゾーンで、本能のままに飛び込んだ獣にはもう回避する手段がないと言うことを。


 獣は吸い込まれるようにオレの突き出した剣に突き刺さる。血飛沫がオレにふりかかる。


 オレは生暖かい獣の血に顔をしかめる。嗅覚がよくなったせいで血のにおいがかなり鼻につく。


 制服の袖で顔にかかった血を拭いながら思う。


 どうやらオレは獣を斬っても何とも思わないらしい。多少見た目がオレの知っている奴とは違うからかもしれない。それとも、オレがもともとこうだったかだ。


 まあ、どちらにしろ斬れると分かったのならば良い。


 オレは剣を構える。  


 耳を澄ませ、嗅覚を研ぎ澄ます。   


 地を今までよりも強く蹴りつける音が聞こえる。数は四。どうやら一斉に攻撃してくるみたいだ。


 オレは先程のように、一番最初にくるところに剣を突き出す。   


「グルゥアアアアアアアアア!!」  


 獣が咆哮を上げて茂みから飛び出してくる。だが、それではさっきの奴の二の舞だ。    


 威勢良く咆哮をあげてオレに飛びかかってきた獣は、オレの突き出した剣に何の抵抗もなく突き刺さる。  

 

 オレは剣を横に振るい、獣を剣から抜き去る。 

 

 振った手を引き戻し飛び出してきた二匹目を突き刺す。突き刺した剣を振り下ろし刺さった獣の腹を裂く。


 今度は二匹同時に飛び出してくる。その二匹の間にわざと踏み込み、二匹の中間地点に入ると剣を振りながら一回転。獣二匹の横っ腹を裂く。    


 最後にオレは、後ろに剣を突き出す。 


 突き出した剣に感じる重たい衝撃。オレの予想通り、オレが剣を突き出した先に獣は飛び込んできたらしい。オレが軽く剣を振るうとズルリと獣の死体が剣から滑り落ちる。 


「おい、馬車が見えてきたぞ!後少しだ!頑張れ!」     


 シンの言葉を受けオレは前方を確認する。シンの言ったとおり、森は開けてきており目の前には馬車が見えてくる。  


 オレ達は見えてきた馬車に歓喜して走る速度を更に速める。

 

 今のところオレの関知できる範囲での追撃はない。

  

 その後も大した追撃もなくオレ達は無事馬車にたどり着くことが出来た。オレ達が馬車に乗りきると、馬車はすぐに森を離れた。


 徐々に小さくなっていく森を眺めながら、ホッと一息つく。


 どこに向かうとも分からない馬車の中で、オレは確信した。

 

 見たことのない動物。カラフルな髪の色。車ではなく馬車。そして、剣と弓。オレの変化。


 小説の中で夢見たシチュエーション。


 ここは、異世界なんだと。オレ達は転移者なのだと。

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