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勇者は勇者を見限りました(仮)  作者: 槻白倫
1 オレが見限るまで
2/18

001 気付いたら見知らぬ地

本日三話投稿します

 オレの名前は桜井木葉。オールフツーな男子校生。あれ、普通って英語でどう言うんだっけ?ノーマル?オールノーマル?まあなんでもいいや。


 取り合えずオレの近況報告を簡潔にさせてくれ。今オレは森の中に立っている。


 唐突に何だという感じだが、オレとしても唐突なのだ。


 なにがって?そりゃあ、気付いたら森にいるこの状況がだ。


 いや、自分でも何言ってんだとは思う。だがこれは紛れもない事実なのだ。


 最初はリアルな夢なのかなとも思ったがどうやら違うらしい。試しに手頃なところにある木の枝を触ってみると、夢とは思えないきちんとした木の触感が伝わってくる。


「どうなってんだこりゃ…」


 何でこんな事になっているのか皆目見当も付かないので思わず呟くが、呟いたとて答えが出るわけでも無し。


「まあ、今はとりあえず…」


 考えることを放棄してそう言うと、オレは歩き始める。少し行くとしゃがみこむ。


「おーい、起きろー。おーい」


 声をかけながら地面に横たわる人の体を揺する。え?誰かって?クラスメートだよ。


 それならそれで考える前に助け起こせと思った諸君。その考えはナンセンスだ。最初の可能性としては今オレが居るところは夢の世界という課程だったのだ。その中で横たわるクラスメートを起こすなんてことするわけない。面倒だし。


 まあ、そんな事はどうでも言い。


「うぅっ…」


 暫く揺すると、揺すられていた奴は呻き声を上げた。


 よし、コイツはこれで起きるだろう。


 横たわるクラスメートが起きる仕草を見せると、オレは次の横たわるクラスメートのところへと向かう。


 え?クラスメートは一人だけじゃなかったのかって?んなわけあるか。一クラスまるまる居るわ。さすがにオレも横たわる人が一人だったら速攻で起こしてるわ。


 え?普通逆だろって?んなこと一々気にするな。


 ともかく、オレはクラスメート達を起こして回る。あーめんどい。


 最後の一人を起こすと、オレは周りを見渡す。


 起きたクラスメートが困惑の表情であたりを見渡している。一人ぐらい起こすの手伝ってくれよ…。


 思わず愚痴りたくなるが、まあ仕方ないだろう。オレだって起き抜けは混乱したのだ。それくらい寛大な心で許してやろう。そもそも、オレも手伝ってくれとか声かけなかったわけだしね。うんうん。


「な、なあ桜井…ここがどこだか分かるか?」


 一人腕を組みながら納得の表情をして頷いていると近くにいたクラスメートの一人に声をかけられた。


 納得顔をしていたからオレがここについて知っているとでも思ったのだろう。ふっ、浅はかな奴め。


「いや、知らん」


 オレがキッパリ答えると、そいつは微妙そうな顔をした。 


「え、いやでも、さっき納得顔で頷いてたよな?」


「ああ、頷いてた」


「じゃ、じゃあ、何に対して頷いてたんだ?」


「皆起きたのに誰一人として起こすの手伝ってくれなかった状況について」


「あ、ああ、そう…」


 そいつはまた微妙そうな顔をすると、他のクラスメートの所へと行ってしまった。


 おい、質問は終わりかい?オレはまだまだ答えられるよ?知らないって答えだけだけど。


「なあ木葉」


 くだらないことを考えていると、不意に声をかけられる。


「ん?ああ、流か」


 オレに声をかけたのはオレの小学校の頃からの悪友、天海流だ。


 オールフツーなオレとは対極のいわゆるオール…オール…………まあとにかく、イケメンだしスポーツできるし勉強できるしだ。うん。


 とにかく、そんなオレと釣り合いそうにもない悪友流くんがオレに話しかけてきたのだ。うん。    


「木葉はここがどこだか分かるか?」


 流は先程の奴と同じような、と言うか全く同じ質問をしてくる。何回質問されたって答えは同じさ。


「いんや全然分からんよ?」


「だよなー」


 オレの答えに落胆する様子もなく、流は何でもないと言った風にいつもの調子でそう答える。


「なんだか落ち着いてるな、流は」


「そうか?そんな事無いだろ?どっちかって言うと木葉の方が落ち着いてるし」


「オレは皆より早く起きたからな。それなりに落ち着いてんだよ。流は、起きてからそう時間がたってないのに随分と落ち着いてるなって思ってさ」


「周りが慌ててると逆に落ち着くっていうか…そんな感じだな」


「あ~なるほどな~」


 流に言われ、オレは周りを見渡す。確かに、クラスメート達はオロオロと落ち着きのない様子で周りの者とさして多くはないだろう情報を交換していた。


「今情報交換なんてしてもさして意味ないだろうにな」


「皆不安なんだよ。だから落ち着きたくて皆と不安を共有するんだ。皆知ってる情報は同じだ。同じ状態という共有感を得たいんだよ」


「は~?そんなもんかね~?」


「そんなもんさ。それと、誰かが何か知ってたら縋りたいってとこかな」


「そっちの方がまだ納得できるな、オレは」


「こ、こーくん!なーくん!」


 二人でいつものように話しているとまたもや声をかけられる。聞き覚えのある声だ。と言うかほぼ毎日聞いてる。忘れようもない声だ。


 声の方に振り向くとそこにはやはりオレの予想通りの人物が立っていた。


「お~あづま~。どったの?」  


 彼女の名前は西東にし あづま。流と同じく小学校の頃からの付き合いだ。そして流と同じく容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群のこれまたパーフェクトなやつだ。オレの周りにはパーフェクトな奴しかいないのか?まあ、いないわけじゃないがいつも一緒にいるのがこいつらってだけなのだ。二人と出かけるとオレだけ場違い感が半端じゃない。とてもつらい。


「ど、どうしたのじゃないよ~。ここ何なの~?どこなの~?何でこんな所にいるの~?」


「はいはい落ち着け落ち着け」


 目に涙をためて詰め寄ってくる東を慣れた様子で宥める流。オレは面倒だと思って流に一任する。


 流が東にもろもろ言い聞かせている間に、オレは周りを観察する。


 近くの木まで歩いていき木の幹に手を当てる。この木に特に何かあるわけではない。だが何となくの行動ではない。


 オレは目が覚めてから感覚がやけに鋭くなっていることに気付いた。目は今までより遠くを見ることができ。鼻はどれからどの匂いがでているのかも判別でき。耳は遠くの音までよく聞こえてきて、手や足は小さな凹凸も区別が付くようになり、味覚は風に味が感じるようになった。


 どうなってるんだ?


 明らかに起きる前より上がっているスペックに困惑する。


「木葉、どうした?」


「ん?ああ、いや、なんでも」


 木を触りながら考え込んでいるオレを不思議に思ったのか、流が声をかけてくる。それに、オレは当たり障り無く答えると木から手を離す。


 流がこちらに気を向けてきたという事は東はもう大丈夫なのだろう。その証拠に東も少し落ち着いた様子でオレの方を見ていた。    


「こーくんどうしたの?」


「いや、本当になんでもないって」


「そう?」


「そうそう」


 心配そうにこちらを見上げる東。身長差で自然と上目遣いになる。可愛いはずの東に上目遣いで見られても何故か一ミリもドキッとしない。これが幼馴染み効果と言う奴だろうか?ほら、しょっちゅう近くにいる奴は異性じゃなく兄弟に近い、みたいな?え?ない?そっすか…。


 まあ、今はそんな事はどうでも言いのだ。オレが感じている違和感をこいつらも感じているかどうかを確認せねばいかん。


「なあ二人とも。自分の体になんか違和感とか無いか?」


「違和感?………特には無いな」


「ん~ワタシも無いかな?」


「そうか…」 


 と言うことは、オレだけスペックが向上したと言うことなのだろうか?それだとしたら何故オレだけ?


「なあ、本当に大丈夫なのか?」


 一人無言で考え込むオレを心配してか、流がもう一度確認してくる。そんな流にオレは苦笑しながら答える。


「大丈夫だって、問題ないよ」 


「…なら、いいけど」


 オレの言葉にとりあえずは納得したといった姿勢を見せる流。


 本当に感覚が鋭くなったと言うこと以外、問題もないのだから流の心配は杞憂なのだが…まあ、落ち着いたらこのことを流にも説明しようと思う。


 と、話している内に、どうやら他のクラスメート達で話し合って、周りを調査することに決まったらしい。


 確かに、ここにいたままだと何も分からないしな。日が真上に昇っていることから今が昼間だと言うことは分かる。だが、今が昼間だとすると日没までそう時間もない事になる。行動に移すなら早い方がいいだろう。


 ゾロゾロと移動をし始めるクラスメート達。その後ろにオレ達三人も加わる。


 皆は、見知らぬ場所を歩く恐怖故か言葉の数も少なく、怖々とあたりを窺いながら歩いていた。


 そんな皆とは対照的に、オレは怖々のこの字もなく鼻歌を歌いながら暢気に歩く。


「ね、ねえ、こーくん。こーくんは不安じゃないの?」


 暢気に鼻歌なんぞを歌っていたからか、東がそんな事を聞いてくる。


 まあ、それに対するオレの答えは至ってシンプルなもんだ。音と匂いから周りに誰もいないのが分かるのだ。理論は分からないが、いないと脳が勝手に判断している。だが、実際にオレ達以外の足音は聞こえてこないのでオレの判断は間違ってはいないのだろう。 


 だからオレは特に気負うことなく東に返す。


「今は不安じゃないな~。この森にはまだ(・・)オレ達しかいないみたいだし」


「なんでそんな事分かるの?」


「聞こえるし匂うんだよ」


「?どう言うこと?」


 オレの言葉に頭にハテナマークを浮かべる東。


 そんな東に流が言う。


「木葉が大丈夫だって言ってるんだ。だから大丈夫だろ」


「うわ、信頼が重い」


「お前は昔から勘だけは鋭かったからな」


「勘だけってなんだよ。他にももっと鋭いところあるだろ?」


「ああそうだな。目が鋭い。何人か殺してそうだ」


「殺してねえよ!?そうじゃない!もっとこう、なんだ?誉めるところあるだろ?」


 オレの言い方が悪かったのだ。鋭いところなんて言われたらオレの親譲りで悪い目つきくらいしか言うところがない。


「良いところ?はて、どこがあったかね」


「なんかあるだろ!なんか………あるか?」


 しまった。言ってて自分でもあるかどうか分からなくなってきた。


「無いかもな」


「無い…のかね?」


 結局自分でも思い浮かばなかった。

 

「ぷっ…ふ、ふふふ」


 そんな漫才のようなやり取りをしていると、東が、堪えきれなくなったと言った感じで噴き出す。


 オレと流は顔を見合わせると、どこかホッとしたような顔をした。詰まるところ、元気のない東を元気づけたいがためにさっきのような茶番を繰り広げたのだ。それが成功して一安心と言ったところだ。


「あっ、でも、お前の良いとこが見つからなかったのは本心だぞ?」


「それ今言う必要あったか!?」


 オレの本心&渾身のツッコミに、東は今度こそお腹を抱えて笑う。東よ、今のは笑うところではないぞ。


 だが、ふと周りを見てみれば、オレ達のやり取りに少しでも気を紛らわすことができたのか、クラスメート達も少しだけ安心したような顔をしていた。


 そのことに、オレも少なからずホッとする。


 このまま皆が不安に刈られ、冷静な判断が出来なくなるのが一番問題だからだ。そうなれば、危機的状況に追い詰められるのは冷静な判断が出来なくなった奴だけじゃない。団体行動をしているオレ達も危険にさらされるのだ。


 とりあえず、ここがどこだか分からない以上、軽率な行動は慎むべきだ。なので、流が意図してやったオレをイジると言う行為は成功と言っていいだろう。ダシにされたのは気にくわないがな。


「まあ、俺はお前が居るだけで助かってるからな。そこがお前の居いところだな」


「それ都合のいいって意味か?」


「そうじゃない。真面目に言ってるんだ。俺の進む先にお前が一緒に居ることがどれだけ心強いか」


「はあ?逆だろ?オレの進む先にいっつもお前が居るんだよ。オレはお前の後を負ってるだけだよ。決して一緒なわけじゃないだろ」


 現に、流は何においてもオレの先を行っている。オレはそんな流に置いて行かれないようにするので精一杯だ。


 そんな考えのもと、オレがそう言うと、流は「分かっていないか」と呟いた。誰にともなく呟いたその言葉は以前なら聞き逃していたであろう音量だったが、今のオレには容易に聞き取ることが出来た。 


「なあ、流。一体なにがーーーっ!?」


 なにを分かっていないのか流に訊こうとした直後。オレの耳が何かが風を切る音を捉える。恐ろしく早いそれに、オレは警告を発する事を諦めすぐさま行動に移す。


「木葉!?」


 流が驚いているが今は流に説明している暇はない。


 オレは前列の方にいるクラスメートまで近付くと思い切り押し倒した。


「ちょっ!?桜井くん!?」


 顔を赤くして驚くクラスメートの女子。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「全員動くな!!」


 オレの切羽詰まった怒号に、皆が一瞬ピタリと止まる。すると、タイミング良く誰もいない空間を何かが通る。


 ヒュンっと風切り音を鳴らしながらそれは木に突き刺さった。皆の視線がそれに集まる。


 オレに押し倒されている女子生徒も先ほどまで自分が居たところを通過したそれを青い顔で見ていた。


 それは、アニメや漫画などでよく見たことのある、いわゆる“矢”と言うものであった。


 何故そんな物が飛んできたのかは分からない。ひとまず、誰も怪我人がいなかったことに安堵するが、オレの耳はすぐに別の音を拾う。


 先程と同じ風切り音。だが、先程よりも数が多い。数にしてみれば三本だ。だが、オレの体は一つしかない。矢が向かう先の全員を庇うことなど不可能だ。


「村島!木田!笹野!しゃがめ!」


 オレの急な言葉にすぐに反応できない三人。オレは内心舌打ちをしながらも、三人に怒声をあげる。


「早くしゃがめ!!もう来るぞ!!」


 オレの来るぞと言う言葉に、三人とも何が来るのかを理解したのかしゃがみこむ。だが、一番最初に放たれたであろう矢は、標的である木田の腕に突き刺さる。


「きゃあぁっ!」


 矢の勢いに押され、木田は倒れ込む。


「木田さん!」


「美紀!」


 すぐに他のクラスメートが駆け寄ろうとする。その中には東もいた。心配でつい駆けだしてしまったのだろう。だが、それは悪手だ。


「馬鹿!死にたいのか!?全員しゃがんで茂みの陰に隠れろ!」


 そう叫ぶが、混乱したクラスメートはオレの声が耳に入らないのか木田に駆け寄っていく。オレの声に反応してすぐに隠れたやつもいたが、ごく少数だ。


 そして、オレの耳はまた矢の風切り音を捉えた。


 数は増えて六本。的は東を含めた今木田の所に集まっている奴らだ。


「クッソ!!」


 オレは悪態を付くと、近くにあった太めの木の枝を掴み走り出した。 


     



 

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