003 出発
寝る前にはなかった温かいものを感じ、オレは目を覚ました。
辺りはうっすらと明るくなっていて、一夜が明けようとしていることを告げていた。
日の光で温かく感じたのかとも思ったがどうやらそう言うわけでもないらしい。なにせまだ夜が明けて間もない。日の光がオレを照らすまでには幾分か時間がある。
それに、視界の隅でなにやらもぞもぞと動く謎の芋虫のような物体がいるのだ。十中八九こいつが原因だろう。
オレは温もりの原因。寝袋に入ったエレナリカを見る。
エレナリカは、寝袋に入ったままオレの腹の上に覆い被さっていた。木によりかかっているため、腹の上に覆い被っいられると、背中が痛い。
というか、どうやってここまできたんだか謎だ。
一つ聞かせるための溜め息を吐き、オレはエレナリカの頭をポフポフと叩く。意外と柔らかい髪に少しだけ感動しつつも、起きるまで繰り返す。
「おい、起きろ。おい」
「んぅ~~~ん?あれ?何してんの?」
「それはこっちの台詞だ。はよ降りろ」
オレがそう言うとエレナリカは素直にもぞもぞと移動を始める。
「おっかしいな~?確かにあそこで寝てたんだけどな~?」
不思議そうな顔でそう言うエレナリカ。いや、オレの方が不思議なんですが。
まあ、それは置いといてだ。
エレナリカが退くと、オレは立ち上がり伸びをする。長時間同じ体制で寝ていたからか背中がパキポキと小気味よい音を奏でる。
伸びが終わると、剣を腰に下げる。
「んじゃあ、オレはもう行くわ」
「おや?朝ご飯は?」
「いらん。じゃあな」
「ああ!待ってくれ!」
歩き始めるオレをエレナリカが引き止める。
一緒に行くから待ってくれとか言うのだろうか?
だが、オレお予想に反して、エレナリカはオレを引き止めることはなく、何かを渡してくるだけだった。
「これと、これを持って行くといい」
「なにこれ?」
片方は封のしてある手紙。片方は何か入っているのであろう包みだった。
「朝餉だ。お腹が空いたら食べると良い。それとこっちの手紙は気が向いたら開けて読んでみるといい。きっと役に立つ。あ、決して人前には出さないように」
手紙はどんな効力を持っているのかは不明であるが、朝ご飯は正直ありがたい。
「分かった。ありがとう」
「良いってことさ」
ニカッと気のよい笑顔になるエレナリカ。その笑顔に、オレは初めてエレナリカを魅力的だと感じた。
その笑顔は純粋で、今までのどこかふざけた笑顔ではなかったからだ。
オレもつられて笑顔になる。
「それじゃあ、また何か縁があったら」
「ああ。また。まあ、直ぐに会えるとは思うがな」
「?」
「こちらの話だ」
「そうか?それじゃあ」
「ああ、それじゃあ」
それを最後に今度は呼び止められることもなく歩き始める。だが、オレは思い出したように振り返り言う。
「今度は、あんたのお友達も一緒にな」
オレの一言に、エレナリカは驚いたような表情を見せる。オレはそれを見て満足すると、今度こそ振り返らずに歩みを進めた。
オレが、お友達も一緒にと言ったのにも実は理由がある。
実は、エレナリカに出会ってから、誰かに見られている感覚があったのだ。
距離としてはそう遠くはない、付かず離れずの位置を保った距離だ。人数は一人。敵意を感じなかったので今まで放置していたのだが、なぜ敵意を感じなかったのかその理由はエレナリカの手紙を見て分かった。
エレナリカの手紙には蝋で封がしてあった。その蝋には紋様印が押されており、どこかの貴族または王族であることが分かった。
であれば、エレナリカに付かず離れずの者が誰なのか説明が付く。
大方、貴族のお嬢様が一人旅をしたいとか言い出したから、その監視なのだろう。
そうであれば、付かず離れずで敵意のない者の説明が付く。
まあ、危害が無いから方っておいたが、ずっと監視されているというのも気分のいいものではなかった。そのため、エレナリカには悪いと思ったが起きて直ぐに離れようと思ったのだ。
そう言えば、朝ご飯なんて作る時間はなかったはずなのに、いつ作ったのだろうか?オレが寝ているときか?そうであれば、寝る間も惜しんで作ってくれたことになる。
と言うか、朝ご飯は起きたときに作ればいいのだから、もしかしたらエレナリカはオレが早々に発つのを予感していたのかもしれない。
寝る間を惜しませてしまったことに若干悪いことをしてしまったなと思う。
だが、今更戻ってお礼を言い直すのも恥ずかしいし手間だ。もうエレナリカが見えないところまで歩いてきてしまった。戻ってもいない可能性がある。それに、エレナリカはまた直ぐにでも会えると言っていた。ならば、その時に改めてお礼は言えばいいだろう。
そんなことを考えながら、オレは街道を歩いた。この先に、面倒事が待ち受けているとも知らずに。
コノハが歩いていった先をしばらく私は見つめる。
だが、見つめていたところでコノハが帰ってくるわけでも無し。そう考えると、私は朝食の準備を始めた。
と言っても、昨日の鍋の残りを暖めなおして食べるだけだ。そう時間は取らない。
「あんたも食べてく?」
「いいえ。私はまだ仕事がございますので」
私の問いかけに、ずっと私の近くにいた者が答える。ずっと、と言っても昨日の昼頃からいただけだ。
「彼、あんたのこと分かってたみたいよ?」
「そのようですね。何度か私の方を伺っていましたから」
「ん~今回の勇者もなかなかに優秀だ~」
温まった鍋の中身をお椀に移す。うん、やはり鍋は味の染み込んだ二日目に限る。
一人でパクパクと鍋を食していると付き人が口を開く。
「それはそうと、召集がかかっておりますよ?」
「だろうね。君が来る理由はそれくらいしか思い浮かばない」
基本的に一人旅が好きな私は自分の住む家はあれど、家には余り帰らない。だが、今回はそうもいかないみたいだ。
「面倒だね本当に」
そう口には出すが、まあいいかと言う思いもある。
何せ面白そうな子に出会えたのだから。
「コノハ…か…なんだか楽しくなりそうな予感」
私はそう言うと、鍋の中身をかき込んだ。
「うわっちいぃ!?」
温めたばかりなのを忘れてた。




