表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は勇者を見限りました(仮)  作者: 槻白倫
2 オレと獣耳少女とドラゴンと
15/18

001 おい誰だよあんた

 勇者達と決別して、数時間後。オレは夜の帳が降り始めた街道を一人、肩を落として歩いていた。


 数時間前の自分に対してかなりの自己嫌悪中なのである。


 流の言うとおり。何もあそこまでやらなくてもよかった。いくら裏切られたとは言え殺すことはなかったはずなのだ。


 それに、色々理由を付けて流に当たり散らしたりもしたが、流達を守りたいと思ったのは紛れもなく自分の意志だ。そも、守りたいと思ったのは自分に近しい者だけであって、そこに来栖は入っていなかった。だが、流が助けたいと言ったので守るべき対象に入ってしまったのだ。


 オレももっと自分の意志で守るべき者を定めれば、今回のようなことにならなくて済んだはずだ。


 なのにオレは来栖を殺して、挙げ句流に当たり散らした。


 ……最悪だ…。


「ぐおおおおぉぉぉおぉおおおっ。もっと冷静になってろよオレエェェェェ!!」


 そんな風に過去の自分に文句を付けても、すべては後の祭り。もうどうすることも出来はしない。


 自分の失態に気づき、皆の元へ戻りたいと思ったりもするのだが、あんな別れ方をしたのだ。もう戻れないだろう。戻っても罪人扱いで牢での生活を余儀なくされる。それは勘弁願いたかった。


 オレはまだ、日本に帰ることを諦めてはいないのだ。その方法を模索するのを邪魔して欲しくはなかった。


 今後の目標は帰還方法を見つけること。


 オレ達勇者は、勇者召還の儀式でばれたわけでは無いので、帰還方法があるのかは甚だ疑問ではあるのだが、それでもわずかな可能性にかけて探してみようと思う。


「そうと決まれば、どこに探しに行くかだよな…」


 探しに行く宛ては、実のところ二カ所ほどある。


 この世界には四つの国が存在する。人間国、クインカ王国。獣人国、ビストリア帝国。魔人国、ローキア王国。精霊国、スピトリアだ。


 その四つの国は、一つの広大な大陸に領土を持っていて、お互いに交流が可能だ。国境に関所があったりもするので入国の際には審査が必要ではあるのだが、海に阻まれていない分行き交いは楽だ。


 だが、行き交いは楽なのだが、実際に行き来出来るかと言われればそうでもない。   


 現在、クインカ、ビストリア、ローキアは三つ巴の交戦状態にあるのだ。なので、地形的な行き来は楽だが事情的にはほぼ不可能なのだ。


「どーすっかなぁ~」


 別に、どことどこが戦争をしようが一向に構わないのだ。それはオレの関知するところじゃないし、興味もない。だが、今はそれでは今は困るのだ。


 なんと、帰還方法を探すあてというのが、ビストリアとローキアにある国立図書館だからだ。


 ここを訪れるには国境を越えなくてはいけない。だが、戦争中のため、人間であるオレが通れるとも思えない。


 因みに、スピトリアを頭数に入れていないのは、彼らの国は現在鎖国状態なので交易が無いからだ。


「マジでどーしよ」  


 現状、国境を越えるのが難しいのであれば、近くの街を巡って図書館とかがあれば見て回るといった手しか使えない。


「お~い、そこの君~」


 だが、それだと懸念材料もいくつかある。


「お~い。君ってば~」


 一つは、オレが指名手配をされていた場合、オレはお尋ね者になっているわけで、むやみやたらに人前に姿を見せられない。


「無視は酷いんじゃないか~い?」


 二つ目は、勇者と遭遇した場合だ。向こうが、来栖と近しい間柄であればオレを殺しにくるかもしれない。撃退は出来ると思うが、その町に長居は出来ない。勇者の援軍が来るかもしれないからだ。


「こら~無視すんな~」


「だあぁぁあ!もう!うるさいな!今考え事してんだよ!!」


「おっ、やっとこっちを見たね」


 オレは思わずといった感じで文句を言ったが、冷静になって考えてみれば、まだ日の光があるとはいえ、夜の帳がおり始めている街道だ。そんなところに、なぜ人が一人でいるのだろうか?


 いや、まあオレも一人だが、そこは置いておこう。


「あんた。何者だ?」


「ううん?単なる旅の者さ~」


 警戒心丸出しのオレの質問に、されど謎の人物は飄々と答える。


 謎の人物は、徐に被っていたフードを脱ぐ。


 フードが外れると、夕日を浴びて光る綺麗な赤毛が姿を現した。長い赤毛は、少し癖っ毛なのか緩くウェーブしている。


 目にかかる程度の前髪の奥には、つり目がちな金色の鋭い眼孔。


 高すぎず、されども低すぎない鼻。


 上品で艶やかな唇。

 

 およそ、美形と呼ばれるであろう顔が、フードが外れることで露わになった。


 普通であれば、オレはその顔に見とれていただろう。その顔は、百人いれば、百人が全員美しいと答えるであろう容貌なのだから。


 だが、オレはそれを見た瞬間、さらに警戒を強めた。


 なぜかって?そんなの決まってる。


 奴が女だからだ!! 


 オレは男だからまだ一人でいるというのも分かる。この世界の常識にも当てはまる。だが、奴は女だ。女がこの時間帯に一人でいるというのは、よっぽどのバカか、それともよっぽどの自分の腕に自信があるかだ。


 そうしてこいつは、おそらくバカじゃない。


 その目からは強い意志が感じ取れ、その雰囲気からは、ただならぬ力が感じ取れる。


 それに、微かに香る血の匂い。


 見たところ彼女はどこも出血はしていない。であれば何かを襲った後と考えるのが自然だ。


 だからオレは警戒する。


 オレの警戒加減を見て彼女はふうっと肩をすくめる。


「そんなに警戒しないで欲しいな。こんな美人なんだから、もっと照れるとかしてくれないかい?」


「生憎だが、オレは見た目で絆されるだけのバカじゃない。それと自分で美人とか言うな。て言うか、そんなことより答えろ。お前は何者だ?」


「おお、賢い子は嫌いではないよ。何者か…そうだね。とびっきりの美人の旅人のお姉さん!っておもってくれればいいよ?」


「ぶっ殺すぞあんた。あと、自分で美人とか言うな」  


「二回目だよその注意」


「何度でも言ってやるよ」


「そうか。なるほど。そう言うのも良いかもしれないな」


 なぜだか一人でうんうん頷いて納得をする彼女。


 オレはその姿勢に苛立ちながらも問う。


「いいから、あんたは何者なんだ?」


 オレの苛立ちが伝わったのか、彼女はもう一度肩をすくめるとこたえた。


「ただの旅人だよ。今は一人旅の途中でね」


「……一人旅…ねぇ」


「そう胡散臭そうな目で見ないでくれよ。本当だって。嘘なんてついてないよ?」


「……はぁ…分かったよ。信じるよ」


「そうかい!それは嬉しいね!それで、君はこんなところで何をしているのかな?」


「オレも一人旅だよ」


「ほうほう。珍しいねこんなご時世に一人旅だなんて。何か理由でも?」


 珍しいとか言っておきながらお前だって一人旅だろうが。とは言わない。話がややこしくなりそうだし、はぐらかされそうだからだ。


「それを話すほどオレはあんたと親しくない。それじゃあな」


 このままここにいても時間を食うだけだと思い、オレは早足にその場を歩き出す。


「ああ。待っておくれよ!」


 だが、女は着いてくる。


「何で着いてくる?」


「行き先はどうやら同じ方向なんだ。別に一緒に行っても構わないだろう?」


「嫌だ。オレは一人旅をしてるんだ」


「いいじゃないかよぉ。旅は道連れ世は情けだよ?」


「オレはあんたにかける情けは持ってない」


「つれないこと言うなよ~」


 くねくね身をよじらせながら隣に並ぶ女は心底鬱陶しかった。


「な~。それにもう夜になるよ?夜になれば危ないよ?夜は暗いんだぜ?野宿した方が良いよ~」


「野宿したいなら勝手にしろ。オレは先に行く。それと、夜が暗いのは当たり前だ」


 生憎だが、オレは夜の中でも自由に動ける目を持っている。だからこんなところで止まる事なんてしなくてすむのだ。


 だが、彼女はオレの腕を取るとオレを引き留める。


「危ないよ~一緒に野宿しようよ~一人はつまんないし寂しいよ~」


 なら一人旅なんてするな!


「オレは一人でも平気なんでな。んじゃ」


「待ってよぉ~こんな可愛い女の子が誘ってるんだぜ?もっと食いつけよ~」


「何度も言うが。自分のことを可愛いとか言うな。無性に腹立つ」


 オレはナルシストは嫌いなんだ。


「女の子が一人で野宿するって言ってるんだぜ~?一緒に野宿する気概くらい見せろよ~」


「面倒だ」


「女の子は狙われちゃうんだぜ~?男という狼にさ~。一日くらい守ってくれよ~」


「お前何で一人旅なんてしてんの?」


 そんな危険があると分かっていてなぜにこいつは一人旅なんてしているのだろうか?謎である。


「なあ~頼むよ~」


 なんだか。だんだんと断る方が面倒になると感じてきた。


 こいつは多分、オレがうんと頷くまで引っ付いてくるに違いない。それくらいのうざさがある。


 オレは大きくため息をつくと歩みを止めた。


「分かったよ。野宿に付き合ってやる」


「おお!やった~!」


 ぴょんぴょんとその場で跳び、喜びを全身で表す彼女にオレは訊く。


「お前。名前は?」


 そう訊けば、彼女は跳ぶのを止めてオレに向き直る。


「私はエレナリカ・リンリカートン。そっちは?」


「コノハ・サクライだ。まあ、一日だけよろしく」


 本当はよろしくしたくは無いがな。    







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ