012 勇者は勇者を見限る
すみません!待たせてしまった割に短く纏めてしまいました!
実にくだらない話だ。
オレが守ろうとしたものが、オレの命を狙っていたなんて、実にくだらない話だ。
「な……木葉、お前…何を…」
驚きのあまり言葉のでない流をオレは冷たい目で見つめる。
「くだらない…」
「この…」
「なんでオレはお前等を守ろうと躍起になっていたんだろうな。こんなすぐ裏切るような奴らを、なんで守ろうと思ったんだろうな」
「違う木葉…俺は裏切ってなんか…」
「いいや裏切ったさ。お前が信じるものを守ろうとしたら、お前が信じるものから刃を向けられた。十分な裏切りだ」
オレはそう言うと、足下に転がる来栖だったものを踏みつける。
「……オレはもうお前等を守りたいなんて思わないし、お前等と一緒にいたいとも思わない。それにこの国にいても言いように使い潰されるだけだ」
踏みつけた来栖だったものを軽く蹴飛ばし、オレは剣を血払いすると鞘に収める。
「オレは国もお前等も見限るよ。じゃあな」
最後にそれだけ言うと、踵を返して歩く。
もうここには用がない。だから去るんだ。
これらかの事なんていっさい考えてはいないが、どうせならば一人で旅でもしよう。幸い、地図と必要な情報は頭に入っている。金も、ポケットに少しばかり入っている。
そうだ。冒険者にでもなろうかな?そうすれば旅をしながら金を稼げる。うん。我ながら良いアイデアだ。
あっ、でも。冒険者ギルド出入り禁止になってたらどうするか。まあ、その時は魔物の死骸から部位をはぎ取って売ればいいか。
そんな、これからのことを考えていた。
だが、そんな簡単にことが終わるわけがなかった。
「待てよ……待てよ木葉あぁッ!!」
怒号。そして次の瞬間には熱気を感じる。
オレは加護を使用しそれを十分よけられる距離から察知していたので、慌てることなく回避した。
オレの立っていたところには炎弾が降り注ぎ、地面を焦がしていった。
焦げた地面に目をやった後、オレは魔法を行使した者に目を向ける。
「なにすんだよ。流」
「…この際…見限ることは良い。それはお前の自由だ。だけどッ!!」
流は右手をかざして能力を行使する。
「友春を殺すことは無かったはずだッ!!」
流が、珍しくオレに怒気を向けている。そのことに若干珍しいと感じつつも、オレは流が繰り出す多種多様の魔法を危なげなく避ける。
「何で殺したッ!あいつはまだやり直せたかもしれないのにッ!!」
やり直し。その言葉を聞いて急速に感情が冷めていく。
「やり直しなんてきくかよ。あいつはオレ達を殺そうとしたんだぞ?その事実は一生消えることはない」
「殺してなかった!まだ殺してなかったんだよ!誰も死んでない!だったらやり直せたはずだ!」
「殺してないからってあいつがやったことは消えねえんだよ!オレがあいつを殺した事実が消えないようにな!」
迫り来る魔法を回避しながら肉薄する。
本当ならば、無駄口を叩かずに回避し続けてこの場から去れば良いだけだ。なのにオレは流に肉薄する。
オレは流の理想でしかない言葉に腹を立てたのだ。理想しか見ていない流に苛立ったのだ。
だから流に迫る。流い怒りをぶつけるために。
「そんな甘ったれた理想をたれ流す前に現実見ろよ!お前は!お前等は!オレは!裏切られたんだよ!あいつは変われない!変わる気もなかったんだよ!」
あいつは嘘を付いていなかった。自分の感情の赴くままにオレ達を殺そうとしたんだ。そんな奴が変われるはずがない。
「お前が!お前が友春の可能性を否定するんじゃない!友春は変われたかもしれないんだ!未来は変えられたかもしれないんだぞ?!」
「だからてめえのそれは甘ったれた理想なんだよ!お前が信じたいだけだ!お前が傷つきたくないだけなんだよ!その理想はただの自己防衛本能にすぎないんだよ!」
徐々に徐々に離れていた流との距離が詰められる。その事実に流は焦りを感じているのか、攻撃が乱雑になっていく。ただ、乱雑になっていっているものの、また焦りからなのか行使する魔法の量が多くなっている。
弾幕が厚くなっているゆえに、避けるのもそれなりに難しくなっていた。
ただ、それなりにというだけだ。避けられないわけじゃない。
「それにな!お前は理想を掲げる割に、自分で動こうとしないだろうが!動けよ!自分には無理とか言ってんじゃねえよ!無理だと思ってんなら理想なんて掲げてんじゃねえよ!」
「ーーーーーっ!?」
「分不相応なんだよぉ!お前は!」
またさらに荒くなった攻撃は、オレにとっては避けるのは容易かった。
一気に流の懐まで跳び込む。
「ーーーーーくたばれ」
オレは冷徹にそう言うと、流の腹に捻りを入れた拳をたたき込む。
「ぐふぅっ!!」
肺から空気が抜けたのか、あえぐように呼吸をする流は、膝から崩れ落ちる。
オレはそれを冷たい目で眺める。
そして、流に対して何を言うでもなく踵を返して歩き始める。もう言うことは言った。これ以上は話すこともない。
「こ、木葉くん!!」
そんなオレを引き止めようという声が響く。
オレは首だけ振り返り声の主を見る。声の主は香山だ。
目だけで用件は何かと訪ねる。だが、香山は言葉に詰まって何も話さない。引き留めたは良いが、何を言っていいか分からなかったんだろう。
オレは時間を取られるのも惜しいので前を向いて再び歩き始める。それを止めようと言うものは、もう現れなかった。
○ ○ ○
「おお~。一人消えたね~」
荒野からそれなりに遠く離れたところで木葉達の様子を眺める黒い陰。それは、来栖に使いっぱしりと呼ばれている黒衣の人物であった。
「それと、一人は離脱、か……うんうん。いい具合に仲間割れしてくれたね~」
それなりにとはいえ、普通の人間であれば遠くにいる木葉達の動きなんて見えるはずがない。だか、黒衣の人間にはそれが鮮明に見えていた。
「となると彼はどこへ向かうのかな?うう~ん、気になるな~。あわよくば引き抜きたいよ~」
そう言いながら黒衣の人物は被っていた黒衣のフードを脱ぐ。
脱いだ黒衣のフードからはキラキラと輝くような綺麗な金髪がたなびく。
「ふ~、フードってあんまり好きじゃなかったんだよね~」
フードの下にあった相貌は、ビスクドールのように整っており。およそこの世のものではないように錯覚させるほど美しかった。
「おっ?来たね」
そう言うと彼女は後ろを振り向く。
後ろには、先ほどまではいなかった彼女と同じようなデザインの黒衣を着た人物が立っていた。
「第二魔王様。お迎えにあがりました」
「ふ~い。りょ~かい」
彼女はそう言うと、黒衣の人物の跡を着いていく。
一度だけ後ろを振り返ると、獲物を狙う猛禽類のように目を鋭くして舌なめずりをする。
「サクライ・コノハくんね。覚えたよ♥」